刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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誰か出席簿の返し方のバリエーションを教えてください。
その内オーバーヘッドキックで返しそう。

そして序盤に唐突にぶち込まれる安いラブコメシーン。


4.甘えられたり甘えたりで準備中

「そんなわけで、オルコットと決闘する事になった。あとついでにデータ取り目的で一夏とも」

 

学生寮の自分の部屋に帰って、相変わらず暗い部屋の中、自らのベッドの上で足を崩して“打鉄弐式”のプログラミングをしていた簪に事の顛末を説明する。

部屋の電気は点けてある。このままだと本当に簪の目が悪くなってしまいかねない。

 

「……そう、なんだ」

 

話を聞いた簪の顔はちょっと赤らんでいた。

俺がオルコットに怒った理由を話した辺りから顔が赤くなり始めたから、多分“打鉄弐式”――自分の事を考えていてくれたのが嬉しかったのだろう。

 

(乙女とは些細な事で一喜一憂してしまうものです。乙女心は複雑である事は今までの経験から十分に理解している筈ですが)

 

鈴音の事を言っているに違いない。俺とほぼ同時期に転入してきた女の子だ。

一夏の事が大好きな女の子で、俺は彼女の恋を応援していた。

おかげで俺と鈴音は親友と呼べるような間柄になっていた。彼女は中学二年生の終わりに中国へ帰ってしまったが、元気にしているだろうか。

 

「“黒雷”では戦えないのは分かるけど……どうやって“打鉄”で勝つの?」

 

簪がそう心配してくるのも無理はない。

向こうは専用機を持っている。確か、名前は“ブルー=ティアーズ”。

それ以外はこれから調べる。名前さえ分かってれば幾らでも調べようがあるからな。

現に今、相棒が情報を集めてくれている。流石にISのコア間でのネットワークを使うのは卑怯だから、一般的な方法に限っているが。

 

「確かに、“打鉄”と“ブルー=ティアーズ”の間には、少なくないスペックの差がある。詳しい事はまだ分からないけど、それは間違いないだろうな」

 

だからこそ、俺だって何も対策をしていないわけではなかった。

俺の右手の中指に光る指輪は、既に通常の“打鉄”とは違っている。

 

「貰ったその日に改造したの?」

 

「軽い改造だけだったからな。千冬さんが呼んでくれた三年の整備科の先輩も手伝ってくれたし、直ぐだったよ」

 

一人でも出来たのだが、それはそれで経歴を疑われるので大人しく甘えておいた。

まぁ、千冬さんの表情を見るに相当疑われてはいるけど。三年の先輩も俺の改造の要求を見て、『え? こいつマジで?』みたいな顔をしていたし。

 

「カタログスペック上は昨日見せてもらった“打鉄弐式”のグレードダウンした形にしておいたから、反映させやすい有効なデータも取れると思う。期待しててくれ」

 

「そこまで……あ、ありがとう」

 

そう言ってはにかんでくれる簪の顔を見れば、こっちもそうした甲斐があった。

元が第二世代型なので、そこから逸した性能を得る事は不可能だったが、力になれてよかった。

 

『マスター。一般権限で得られるブルー=ティアーズの情報の収集が完了しました。今からデータを展開します』

 

『SOUND ONLY』の画面を空中に投影しながら、相棒が会話に参加してきた。

新たに投影された画面に、次々と画像と映像が映し出されていく。

映っているのは青い機体を纏ったセシリア=オルコット。

合同演習や、デモンストレーションの映像を集めてきたのだろう。

オルコットがターゲットカーソルを撃ち抜く様が映っていた。

 

「やっぱり目を引くのはスナイパーライフルだな。実弾じゃなくてレーザー型か」

 

「うん……それに」

 

『射撃の間隔も短く、狙いも正確です。ターゲットカーソルがランダム回避で動いていようがお構いなしの腕前を見せています』

 

代表候補生の簪と、ISそのものの相棒が感心しているのだから相当な腕前だろう。事実、俺もこの狙撃は見事だと思う。学年トップは伊達ではないらしい。

映像に映っているどや顔も、実力に裏打ちされているどや顔だった。

 

『残念ながら機体スペックの詳細は得られませんでした。武器もライフルと近接用武器を確認したのみです』

 

「第三世代兵器は分からないか。当然だな」

 

『しかし、検討は付いています。背部に展開されているサイドバインダー。恐らくこれが第三世代兵器です』

 

「あぁ。そして機体コンセプトとイギリスの開発傾向から言って、射撃武器なのも間違いない」

 

相棒と意見交換をしていれば、簪の視線を感じた。

 

「どうした?」

 

そう問えば、簪は慌てたように「ううん」と首を横に振った。

 

「私もそこが怪しいと思ってたから……。楯無と“黒雷”も同じ事思っていて、驚いただけ」

 

『マスターと私の間には積み上げられてきた時間と経験が存在します。それに簪さんの意見が重なったなれば、これは確定事項としてよいでしょう』

 

「簪もそこが気になったのなら、尚の事間違いないな。本番はそれに注意していこうぜ、相棒」

 

一先ず相手の分析としてはこれでいいだろう。高速かつ正確な狙撃がオルコットの持ち味。そしてそれとは別に、射撃兵器として存在しているであろう第三世代兵器。

この組み合わせにどう立ち向かうかは、これから詰めていけばいい。

ふと時計を見ればもうそろそろ夕食の時間だった。まだ数回しか食べてないが、IS学園の食堂の飯は美味い。これは毎日の楽しみになるぜ。

 

「ま、そういうわけだからさ。飯でも食いに行こうぜ。腹減ったよ」

 

「そうだね。行こう」

 

そうしてお互いにベッドから立ち上がろうとするが――――。

 

「ぁ――――」

 

簪の体勢が崩れ、俺のベッドに倒れそうになる。

 

「おっと」

 

このままでは俺のベッドの角に顔面ダイブしてしまう。そっと簪の身体を支えてやる。

簪の身体は軽く、一体どこに肉が付いてるのか不思議なぐらいだった。

おかげで全然力を入れなくても支えてやれた。

だがしかし、どうした事だろう。さっきより簪の顔が赤くなってしまっている。熱でもあるのか。

 

「どうした、具合でも悪いのか?」

 

「う、ううん。足が痺れただけ……」

 

「成程。長い間座ってたもんな。痺れが取れるまで足を伸ばして座ってるか」

 

そう提案すれば、簪は俺の服をぎゅっと掴む。

本当にどうしたのだろう。当たり前の提案しているつもりだが、どこか薄情な事を言ってしまっただろうか。

 

(相棒。俺やらかしたかな)

 

(マスター。やらかしたのは今ではありません。遥か昔です)

 

(言っている意味が分からないんだが。……これはあれなのか? 支え続けた方がいいのか?)

 

相棒の返答はない。これ以上は俺が考えろという事か。

さて、相棒をこれ以上頼れないとするならば、自分で考えるしかない。

俺は座っているかと提案した。すると簪は俺の制服を掴んだ。

……うん、とりあえず行き当たりばったりで。

 

「それとも、もう暫く支えていた方がいいか?」

 

「…………うん」

 

一発で当たりを引いたらしい。大分長い沈黙の後、そう答えが返ってきた。

あぁ、そうだったんだ。そういう事ね。俺は何となく理解した。

肩肘張って生活してたら疲れるもんな。偶には誰かに甘えたくもなる。

小学校以降の簪の事はよく知らないが、きっと苦労をしてきたのだろう。

最後に交わしたあの言葉と、再会した時の簪が置かれていた状況。そこから考えれば想像に難くない。

 

「俺はいいよ。簪は軽いから、全然苦じゃない。何なら背負って食堂に連れてってやろうか」

 

「そ、それは大丈夫……! 恥ずかし過ぎる……!」

 

また顔が赤くなった。となれば、さっきのは恥ずかしかったのか。

簪の恥ずかしさは今の所これぐらいが限界のようだ。

簪が真っ赤になった顔のまま、俺の服を掴み続ける。

 

「と、とにかく。もうちょっとだけ、このままで」

 

「分かった。痺れが取れたら飯を食いに行こうぜ」

 

「うん」

 

「また気疲れしちまったら、甘えてくれ。胸ぐらいなら何時でも貸すから」

 

簪は大きく目を開けて驚いた後、また赤くなって縮こまりながらも小さく頷いた。

 

 

          ◇

 

 

食堂で夕食をとり、寮の部屋でシャワーを浴びる。

簪は寮の大浴場に入浴に行っていた。やはり女子というものは風呂が好きなのだろう。某国民的青狸のヒロインもそんな感じだった。間違いない。

シャワーを浴び終わって身体を拭いて寝間着に着替えると、あとはもう自由時間だ。

ベッドに座ってぼーっとしていれば、相棒からの語り掛けがあった。

 

(マスター。少し、よろしいでしょうか)

 

「構わないぜ。何だ、相棒」

 

ここには俺と相棒しか居ない。態々心の声で答える必要もない。

相棒だって普通に声を出して構わないのだが、心の声で語り掛けてくる。

 

「そういう話か。続けてくれ」

 

(はい。簪さんの事です。マスターはお気付きでしょうが、恐らく彼女は――――)

 

「俺の監視と護衛の為、だろう? 更識の人間が俺と同室なんて出来過ぎているからな」

 

(そうです。ですが簪さんは監視の面では問題があるとは思えません。マスターの秘密は黙っていてくれると約束してくれました)

 

「だったら、問題は護衛の方か?」

 

どうやら、それが本命らしい。相棒は肯定もせずに話を続けた。

 

(彼女の専用機は完成していません。戦力としては不十分です。武道は嗜んでいるようですが、ISを相手どるには不足しているでしょう)

 

それは当たり前の事だ。IS相手に生身で相手どれるのは世界で二人ぐらいしかいないだろう。

そんな規格外達と簪を比べるのは酷というものだ。

 

(ですが、マスターの危機となれば彼女はマスターの身を守ろうとするでしょう。そこにISの有無は関係ありません)

 

「そんな事する必要ないだろ。俺にはお前が……って、そうだよな。俺だってそうする」

 

簪が危機に陥っていたのなら、俺はきっと迷わず守りに行く。相棒の言う通り、ISを持っていようがいなかろうが関係ない。

 

(ですから、マスター自身が危機に陥る事を避けるか、危機に陥っている事を簪さんに覚らせない事が重要になってきます)

 

「確かに、俺は束姉の庇護下にはもう居ない。これからIS学園に居る間、何があるか分からないからな。気を付ける」

 

(唯でさえ、マスターのやろうとしている事は少なくない混乱を齎します。他人を巻き込まない為に自らの危機管理に敏感になって、損をする事はありません)

 

了解、と短く答える。相棒がこんな早い段階から警告をしてきたという事は、きっと本当に気を付けた方が良い事だ。

となれば、訓練機でもISを堂々と展開させられるのは都合のいい事だったのだろう。

 

「――――ただいま……」

 

タイミング良く相棒との話が終わった時に、部屋のドアが開いて簪が帰ってきた。

 

「お帰り。俺も偶には浴場でゆっくり浸かりたいぜ」

 

「……でも、あの広さに一人だと逆に寂しそう。あ、でも織斑さんが居た」

 

あいつと一緒に入るのはちょっと遠慮したいです。距離近いし。

他愛もない話をして、簪も自らのベッドに座った。今日はもう“打鉄弐式”の開発をする気はないようだ。

じーっと俺の方を見つめて、簪は何か言いたげだ。

 

「どうした?」

 

「昨日から気になってたけど……髪、乾かさないの?」

 

そう言われて自らの髪を触れば、まだ湿っていた。

男にしては長い肩程まである黒髪だから、乾くのには時間が掛かる。

 

「放っておけば乾くだろ」

 

そう言えば、簪は不満そうに「駄目」と答える。

 

「髪、痛む……男の人って、そういう事には無頓着なの?」

 

簪は立ち上がると、ベッドの下の収納スペースからドライヤーを取り出した。簪が持ち込んだ物だろう。

ベッドの枕元付近にあるコンセントに挿すと、そのまま俺のベッドまでやってきた。

 

「か……乾かしてあげる」

 

「いいのか?」

 

「うん……じっとしてて」

 

ドライヤーから温風が出て、簪が俺の髪を手で梳きながら乾かしてくれる。

細い簪の指が髪の間を通って心地いい。

 

「どう……熱くない?」

 

「あぁ、心地良くて眠くなるよ」

 

思えば、こんな事してもらったのは何時ぶりだろうか。

束姉にしてもらった事は何度かあったけれど、中学生になって一度もなかったな。

俺と妹には両親がいなかったから、幼い頃のそういった思い出もない。

だからだろう。ふとしたこんな提案に、乗ってしまったのは。

 

「……ふふっ。これから毎日してあげようか?」

 

「あぁ、簪がいいのなら頼む」

 

「え!? ……分かった、楽しみにしててね」

 

取り消そうとも思ったけれど、好意を無碍にするのも悪いと思い、甘える事にした。

簪も簪で嬉しそうだ。こうした小さな事が彼女の息抜きになってくれればいい。

こうして俺のIS学園二日目の夜は更けていく。明日もこうあればいいと、小さく願いながら目を閉じた。




この女の子、彼女じゃないんですって。うせやろ。
普段引っ込み思案なのに、時折大胆になるのが簪さんの魅力的な所だと思います。

……ところで、彼は何時戦うんだい?
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