刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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ビーチバレーで一話使うとは思わなんだ


41.砂浜デスマッチ

「――――今日も世界は平和だ」

 

つい先程までIQ一桁だった楯無は、呑気に西瓜を食べながらそう言った。

セシリアがライフルで木端微塵にしようとしていた西瓜である。絶賛美味しくいただいていた。

 

「大き目のパラソルを持ってきていて正解でしたわね」

「皆で入れるのは、いいね。……日差し、苦手だから」

 

セシリアの意見に同意しながら、簪は小さな口で西瓜を齧る。

パラソルによって日光を遮られたビニールシートの上に、先程の面子が仲良く西瓜を食べていた。

しゃくしゃくと音を立てて、夏の風物詩を感じている。

 

「ふむ、甘いが繊維質で不思議な触感だ。教官の話には出てこなかったが、教官も食した事があるのだろうか」

「織斑先生も日本人だからあるんじゃないかな。後で訊いてみようよ。……あれが終わって死人が出てなかったら」

 

シャルロットは視線の先で繰り広げられている激闘という名の蹂躙を見て、ラウラへの提案は多分叶わないんだろうなと悟っていた。

織斑千冬。“世界最強”の二つ名を事実として冠する、全てのIS乗りの憧れである存在。

相対するは織斑一夏。織斑千冬の弟であり、世界最強の姉を誇りに思い、目標としているIS乗り。

王者と挑戦者が出会えば、争うのは必定。故にビーチバレーで戦うのは自然な事だった。

もう一人の男性操縦者が仙人掌と同程度のIQになっている間に始まっていたのも、無理からぬ話である。

 

「ぶべらああああああああ!!?」

 

千冬が放つナパーム弾の様な光り輝くサーブが、一夏に直撃する。

ボールのあまりの衝撃に砂煙が舞い上がる。何故か砂煙と共に一夏も舞い上がっていた。

「あれで三十四ですわね」とセシリアのカウントが増えるのを聞いて、簪は苦笑いする。

毎ポイント毎ポイント千冬のサーブ一発で終わってしまうので、お互いのペアである鈴と真耶は最早立っているだけであった。

ほぼ虐殺現場と化しているコートの中に、千冬に憧れている生徒も流石に立ち入ろうとはしなかった。賢明な判断である。

 

「しかし、倒れても倒れても立ち上がる一夏さんを見ていると、何故だか懐かしさを感じますわ」

「最近の一夏はセシリアとの鬼ごっこも上手になってきたよね」

「あの近接技術……私も、見習わないと」

 

べしゃり、と砂浜に顔面から落ちた一夏が、ゾンビの様に立ち上がり千冬へボールを返した。

その表情は若干の笑みが含まれている。どうやら姉とのスキンシップも兼ねているらしい。隣の鈴が幼馴染兼想い人の異常性癖に若干引いていた。

 

「流石は教官だ……並みの手練れでは、あそこまでサーブを光らせる事は出来ないだろう」

「ラウラ? 普通どれだけバレーが上手くても、サーブは光らないんだよ?」

 

まるで多少はサーブが光るみたいなラウラの言い草を、シャルロットは母親の様に優しく諭した。

ドイツの特殊部隊隊長は、元教官に対しては多少盲目的だった。

 

「でも、楽しそうではあるんだよね、ビーチバレー。二人の絆が試される感じがして……ね、帯?」

「……ん、何の話だ?」

 

左側から掛けられたシャルロットの声に、楯無が西瓜を食べる事を止めて視線を向けた。

実はこの男、IQが戻っただけで先程から一切合切話など聞いていなかった。

仙人掌と化している間に“黒雷”が撮影してくれていた簪の水着写真を整理するのに忙しかったのである。

 

「ビーチバレー、楽しそうって話」

「あぁ。何か砂浜にクレーター出来てるなって思ったら、そんな事やってるのか」

 

真隣で自分の水着写真を整理されるという、盛大なセクハラを受けていた簪が今の話題を教えると、楯無は他人事の様に納得した。

このやり取りの間にも光るサーブが炸裂しているのだが、楯無は疑問にも思わなかった。“世界最強”はそれぐらいやる。その程度の認識だった。

 

「まぁ、普段忙しいんだから姉弟のスキンシップぐらい楽しませてやれ」

「おや、遠慮をするな雪月。お前も昔馴染みなのは変わらん。鳳と共に混じって構わんぞ?」

 

サーブをしようとした千冬が楯無の方を見て、にやりと挑発的な笑みを浮かべる。どうやら楯無の写真整理が終わるのを待っていたようだった。

その挑発を受け取った楯無は、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「俺が混じっても、結局一夏が打ち上げられるだけじゃないですか?」

「安心しろ。お前も均等に狙ってやる」

「何でだよ! じゃあ鈴音も狙えよ!」

「ちょっとちょっと! 巻き込んでんじゃないわよ楯無ぃ!」

 

鈴が抗議の声を挙げるが、楯無はどこ吹く風だった。

どうせ無理やり参加させられる事もないだろう。このまま一夏の体力が尽きるまで粘っていればお開きだ。

そういった算段でいた楯無だったのだが、ふと隣からの視線に気付いてしまった。

 

「……、」

 

更識簪の期待を込めた視線。

ヒーローアニメを見ている時の様な、憧れの人の活躍を望む子供の様な。

基本的にISバトルをしている時に受けている視線を感じて、楯無は“黒雷”のウィンドウを閉じた。

人格を切り替えるように小さく息を吐いて、そっと立ち上がる。

 

「仕方がねえ。“世界最強”だか何だか知らないが、やってやるよ」

「ほう、いい目になったものだ。お前にやる気を出させるスイッチは分かりやすいな」

 

ボールを放りながら待つ千冬の許へ、楯無は向かっていく。

それをぼぅっと惚けた顔で見つめるシャルロット。仄かに朱に染まる頬へ、簪は問いかける。

 

「どうしたの?」

「あ、えと……簪になら、いいか。その、ね」

 

手招きをして寄せた簪へ、そっと耳打ちをする。

 

「僕って、帯が誰かの為に真面目になるのが好きなんだなぁって」

 

ラウラ=ボーデヴィッヒの乗機、“シュバルツェア=レーゲン”が暴走した際に見せた、彼女の信念が踏みにじられた事への怒り。

シャルロット=デュノアの選択に対し、その価値を認めてそれを笑うものは潰すと約束した優しさ。

普段のやる気のない様子とは掛け離れたあの姿に、シャルロットはときめいていた。

 

「……負けない、よ?」

 

友人の恋心を宣戦布告と受け取った簪は、しーっと人差し指を立てて唇に当てた。

内緒にしてるつもりなのかな、とシャルロットは内心苦笑いを浮かべるが、誤解されるのは困る。

 

「僕は傍に居られるだけでいいんだ。簪の事も応援してるから、安心して?」

 

きっと、あの二人から離れてしまえば、彼の輝きは失われる。

更識姉妹が傍に居ない環境での楯無の人間性など、シャルロットには想像も出来なかった。

だからこそ、楯無を始まりの二人から離すような事はしない。傍に居る事を許してくれた楯無を、シャルロットは信じていた。

だが、それはそれで簪はシャルロットが我慢しているように思えてしまったのだろうか。

 

「……それで、いいの?」

「じゃあ、帯に余裕があったら、ね?」

 

二人して顔を赤くしながら頷き合って、視線を想い人の方へ戻す。

後方でとんでもない会話をされていた事も露知らず、楯無は一夏と鈴のチームに加わっていた。

 

「……どした、鈴音」

「いやー、何かあっちで楽しそうな話をしている気がするのよね」

「鈴の直感は凄いからな。大方どっちが勝つか賭けてるんだろうぜ」

 

一夏の予想に、鈴は「何か違う気する」と腕を組んで首を傾げた。

あの一瞬で色恋話に発展するとは夢にも思わないので仕方がない事だった。

 

「それにしてもこの面子が揃うと、無人機襲来の事件を思い出すわね。あの頃とは違うって事、見せてあげるわ」

「無人機相手の方が絶対楽だったと思うんだが。見ろよ、向こうのコート。口角上がりっぱなしの“世界最強”とか逃げ出したくなるわ」

「お前ら、人の姉さんを何だと思ってるんだ……」

 

弟の疑問に、幼馴染二人は「“世界最強”」と口を揃えた。色々な事柄から人間扱いするのは無理があった。

ともあれ、中国の代表候補生、実は世界第三位、そして男性操縦者の幼馴染トリオはチームを結成する。

 

「誰からやられるか、相談は終わったか?」

「あぁ、先ずは一夏からだ」

「作戦通りに行くわよ」

「そんな事言ってたか!?」

 

しれっと友人に売られた一夏から、二人は目を逸らした。

 

「よかろう。望み通りにしてやる!」

「あの~、やり過ぎないようにお願いしますね?」

 

真耶の懇願を無視して、千冬のサーブが光り輝く。それは光の軌跡を描き、一夏へ吸い込まれていった。

隣で吹っ飛んでいく幼馴染を見ながら、楯無は『“雷速黒閃”の様だな』と呑気な感想を抱いていた。

今までであればこれで終わりだった。しかし織斑一夏は絶えず学習をしている。

着弾はすれども、そのまま地面へは行かない。舞い上がるのは――――ボールと一夏のみ。

 

『――――、』

 

楯無と鈴は視線を合わせ、言葉も無くそれぞれの行動を開始した。

無二の親友である二人は、言葉を交わさずとも通じ合える。

楯無が虚空へ向かって飛び、鈴はボールに向かって飛ぶ。

 

「吹き飛びなさい!」

 

ボールに追いついた鈴が、楯無へ向かってボールを蹴り飛ばす。

瞬間、三日月状に歪む程の力が加わったボールが、大きくブレながら楯無へ向かっていく。

どう見ても味方に打つレベルの威力ではない球を見つめ、楯無だけがこの空間で笑っていた。

 

「ドンピシャだぜ鈴音!」

 

既に準備は出来ている。渾身の力で振りぬいた拳がボールを芯で捉えた。

相対する力によって押し出されたボールはより激しく粗ぶりながら――――織斑千冬の隣に居る山田真耶へ突き進んでいく。

端から正面切って千冬と戦う気など毛頭無かった事が発覚し、結構な人間の好感度が下がった瞬間だった。

 

「えぇぇっ?」

「汚ねえぞ楯無ぃ!」

 

まさかこの流れで自分が狙われるとは思っていなかった真耶が間の抜けた声を出し、一夏は普通にチームメイトの戦術に引いていた。

鈴は特に驚きもせずに着地している。あいつならやると思ってました。

 

「浅知恵め。想定済みだ」

 

言葉と共にボールと真耶の間に千冬が割り込んだ。音を置き去りにした行動だった。

残像を描く程の速度でボールを打ち上げ、一人で打ち上げたボールを追い掛け跳躍した。

――――着弾する。三人がそう直感した瞬間には遅かった。

地鳴りを伴い、足元から巻き起こる砂煙。吹き飛ばされる三人。今までのサーブでさえ加減していたのだと、その場の誰もが察した。

吹き飛ばされた鈴を受け止めながら、楯無は軽い足取りで着地する。

 

「駄目か……」

「行けるかと思ったんだけど、まさか一人で対応されるなんてね。千冬さん一人でよくない?」

「千冬姉にあんなの通用するわけないだろ。次の手は相談しようぜ」

 

鈴を降ろしている隣へ、一夏は華麗に着地した。

三人は屈んで顔を突き合わせながら、ひそひそと作戦会議を開始した。

 

「どうする? 弱い方を狙っても千冬さんが対応してくるなら、チームメンバーを交代させて弱体化を狙うのは無理だぞ」

「なら千冬さんに交代してもらうのはどう?」

「もう主目的変わってきてるだろそれ……。そもそも三対二の時点で十分卑怯だからな?」

 

それからもひそひそと作戦会議を続け、三人は顔を上げて頷き合う。

 

「作戦会議は終わったか、餓鬼共」

「今度は俺が相手だ、“世界最強”。この首が欲しかったんだろう? 付き合ってやるよ」

「その台詞、言うのが大分遅いような気が……」

 

もう不意打ちする準備にしか聞こえない挑発に、真耶は苦笑いで返す。

しかし隣の千冬はそれで構わないようだった。

 

「いいだろう。その挑発、受けてやる。――――沈めっ!」

 

どう聞いてもサーブの時に発するものではない掛け声と共に、破壊の弾が弧を描く。

 

「損な役回りだ。――――決めろよ、二人共」

 

後ろに居る幼馴染達へ口角を上げ、楯無は破壊に呑まれ後方へ吹き飛ばされる。

直撃したボールは天高く舞い上がる。太陽の輝きとは別に、普通にボールが輝いていた。

コートの外まで吹き飛ばされてごろごろと転がる楯無の口元には――――笑みが浮かび続けている。

 

「一夏、行くわよ!」

「おう!」

 

屈んだ鈴の組んだ手に、一夏は助走をつけ足を掛ける。

そのまま打ち上げられた一夏が宙に舞い、光を失いつつあるボールへ追いつく。

見下ろした眼前へ広がる相手コート。佇むは己が憧れ。あと副担任。

 

「これが今の俺の全力だ……!」

 

身体が弓の様にしなる。

鍛え抜かれた身体は今、一つの砲台としての極地へ至っていた。

一人では何も出来ない。それはきっと、今も昔も変わらない。

それでも追い続けると決めた背中に、織斑一夏は友の力を借りて手を伸ばす。

 

「いっけぇぇぇえええええええ!!」

 

『流星』。そう称されるに相応しい程の勢いのボールが、相手コートへ降り注ぐ。当然ボールは光っていない。

今の弟が作り上げた、友と手を繋いだ至高の一撃。

自らに迫る流星へ織斑千冬は相対し――――笑っていた。

 

「まぁ――――こんなものか」

 

振り上げた拳が流星を捉え、破裂させた事でビーチバレーはお開きとなった。




海だけで二話使うとは思わなんだ
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