刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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前半と後半の温度差で風邪ひきそう


42.ご飯とお風呂

自由時間を満喫した後、俺達は宿に戻り夕食を取る事になった。

 

「あー疲れた」

 

さっきまでの出来事を思い出しながら、俺は溜息を吐く。

宴会場と呼ばれる大広間にて待機していると、言葉通りの感想が溢れ出してくる。

千冬さんとのビーチバレーが無効試合になった後、爆心地になった砂浜の整備をする羽目になった。

千冬さん本人も整備に参加していたからそれ自体に不満はないのだが、問題はそこからだった。

 

「ビーチフラッグ、西瓜割り、遠泳。ビーチで出来る勝負は大半やってたね……」

 

浴衣姿で隣に座るシャルの言葉が全てだった。

勿論勝負は千冬さんの全勝だった。ISバトルならまだしも、生身での勝負となると身体能力の差が歴然過ぎる。

最終種目であった西瓜割りでは、木の枝で真空波を放って西瓜を真っ二つにしていた。“暮桜”要らないだろあんた。

 

「ま、千冬さんも大分満足していたみたいだったし、暫く絡まれる事もないだろ。やたら楽しそうでもあったし、普段からストレス溜まってるんだろうな」

「なら、普段からもう少し優等生であろうね?」

「優等生ならシャルだけで十分だろ?」

「いや優等生は何人居てもいいと思うんだけど……」

 

シャルの苦笑いを受け、俺は居心地悪そうに腕を組んだ。

そろそろ夕食が配膳される時間だ。配膳前にこうやって待機している時点で、十分優等生じゃないだろうか。

 

「うむ、あちらの方は苛烈なものだな」

 

今まで俺の正面に座って黙って話を聞いていたラウラが、ちらりと別方向へ呟いたのを見て同じ方を向く。

そこにおりますのは織斑一夏。そして行われているのは、織斑一夏の隣を巡る座席争いだった。

セシリア主導のじゃんけんやらくじ引きやらで、一組の女子達が鎬を削り合っている。どっちかにしろよ。

ちなみにセシリアの手引きにより、篠ノ之はしれっと右隣に陣取っていた。審判の八百長である。

結局、日中はどこに行ってたかは分からず仕舞いだったが、体調不良の類でないなら何よりだ。

 

「男性操縦者ってのは人気なんだな。興味津々の女子に囲まれるのは息が詰まって嫌になるよ」

「いやいや、他人事みたいに言ってるけど帯も男性操縦者でしょ……?」

「まったくだ。まるでそれ以上の針の筵に居た経験があるような物言いだぞ」

「忠告どうも。発言の内容には気を付ける」

 

ラウラは得意げに「そうしろ」と頷いた。やっぱりこいつ俺が包村帯だって気付いているだろ。

しかしまぁ、俺の目の前に陣取るラウラが威圧的でないのはとんでもない違和感だった。

 

「ラウラ、今だけ学年別トーナメント前の態度に戻ってくれないか? 調子が狂う」

「貴様馬鹿か?」

「うん、帯は割と馬鹿だと思う」

 

酷い言われようだった。ラウラはともかく、シャルはそんな態度取っていた時期一度もなかっただろ。

悪乗りした自覚があるだろうシャルは、照れくさそうに頬を書いている。

 

「俺としては、一夏の隣には鈴音を置いてやりたいんだが」

「晩御飯はクラス毎だからねえ。こればっかりは仕方ないよ」

「クラス毎でなければ、シャルロットの反対側には簪が座っていただろうな」

 

そう。きっと。恐らく。願望として。

シャルが座っている左隣ではなく、右隣にはいつもの様に簪が居てくれた筈。

臨海学校は二泊三日。ご飯は一日三回。えーっと、三回が三日あって……いや終日滞在してるわけじゃないから違うか。

まぁあと何回かは分からないが、簪が隣に居てくれる事はありえないわけで。

 

「……簪と、ご飯、食べたい」

「いかん、面倒なスイッチを押してしまったようだ」

「お、帯! 僕じゃ駄目かな!? 僕なら毎日一緒にご飯食べてあげられるから!」

 

めそめそし始めた俺を、ラウラが面倒くさがり、シャルは慰めてくれた。

しかし右側には何もない。何もないからこうなっているのだが、この空白は何で埋めればいい。

 

「……二人も、座って食べるのが苦手な人達の為に、テーブル席だって用意してあるんだ。そっち行ったっていいんだぞ」

「寂し過ぎて完全に孤独になろうとするな」

「僕は帯と一緒に食べたいかなぁ、って」

 

シャルの頬を染めながらの告白に、縋るようにラウラを見る。

俺の懇願をどう思ったのか、ラウラは「仕方がない」と言いながら立ち上がる。

そしてそのまま席移動をし、俺の隣に座ってどや顔で一言。

 

「どうだ、埋めてやったぞ」

「違う、そうじゃねえ……」

 

隣が空いているのが落ち着かないわけではないんだが。寧ろちっこい千冬さんが隣に居るみたいで落ち着かねえ。

そうこうメンタルを崩壊させている内に、料理が配膳されてきた。

 

(マスター。もし限界であれば、簪さんの“打鉄”と個人間秘匿通信を繋げる事も出来ます)

(簪にもクラスの付き合いがあるだろうし、今は大丈夫だ) 

 

相棒にまで心配されてしまう始末だが、まあ、いざとなれば頼らせてもらおう。

別に喧嘩したわけでもなんでもないし、離れ離れになったわけでもない。学園でも授業の間はほぼ一緒になる事はない。

今は目の前に飯に集中して、刀奈へのお土産話を一つでも増やそう。そう自分を納得させ、眼前の料理と向き合う。

刺身と小鍋がメインとなって、お新香や味噌汁まで完備されている豪華な夕食だった。

IS学園の学食レベルも異常なくらい高かったが、この旅館もそれと同レベルかそれ以上だ。

とりあえず“黒雷”に夕飯の写真を撮ってもらう。勿論保存先は簪の水着フォルダとは別だ。

写真を撮り終わったら、シャルとラウラと共に手を合わせ、『いただきます』を済ませて箸をつける。

 

「む……楯無、刺身の横にある緑色の山は何だ?」

「それはわさびだ。薬味の一種だよ。えーっと……からし――マスタードとかと一緒で辛いから、山盛りにすると死ぬぞ」

 

実際に刺身にわさびをほんの少量乗せ、醤油に浸けて食べる。

 

「……うっま」

 

思わず出てきた言葉に、自分で驚いていた。

施設で刺身なんか食べた事は殆どないし、束姉の世話になってからも同様だ。

束姉は一人暮らしのアパートにご飯を作りに来てくれていたが、その際も気を遣ってしっかりと火の通ったものを用意してくれていた。

俺もそれを真似て火を通すようになったので、生の食べ物は野菜か果物以外殆ど食った事がない。正直寿司は特別な処理をされていると思っていた。

ラウラも俺の感動ぶりに、同じように刺身を食べて頷いている。若干目を綺羅つかせているのが微笑ましい。と言うか箸使えたのか。

 

「え、えっと……」

 

シャルの声に意識をそちらに持っていくと、ちらちらと俺の方を見ていた。

 

「どうかしたか?」

「その、えっと……」

 

もじもじと恥ずかしそうに視線を泳がせるシャル。

熱でもあるかの様に頬を朱に染め、口を開こうとして躊躇うのを繰り返している。

こうやった葛藤を、簪もよくやっている気がする。そしてこのパターンの場合、次に飛び出すのは――――。

 

「あ、あーん、して?」

 

こういったとんでもない要求だ。

場所を弁えろ。そう言わんばかりにラウラが半目でこっちを見ていた。俺じゃねえ。

 

「一応聞くが、俺は食べさせればいいのか、それとも食べればいいのか。どっちだ」

「食べさせて!」

 

眉間を揉みながら問えば返ってきた元気な返事に、溜息で返す。

クラスの関心は一夏に集中していて助かった。こうしてとち狂った事態になっても目立たずに済んでいる。

もう口を開けて食べさせてもらう気満々のシャルには、何を言っても通じない。

色んな事を諦めてきたシャルル時代の反動もあるのだろうし、甘えられる相手が居るのは大事な事なんだろう。

 

「一回だけだぞ」

 

手早く刺身にわさびを乗せて、醤油に浸けてシャルの口の中に突っ込む。

 

「い、いいねえ、これ……」

 

もぐもぐと咀嚼したシャルが、うっとりしたような表情で味に酔いしれていた。……本当に味に対してだよな?

 

「じゃ、じゃあお返しに……」

「自分で食える。あんまり燥ぐと千冬さんの世話になるぞ」

 

自然な流れで食べさせようとしてきたシャルに対して、IS学園に於ける最大級の禁止カードを切って牽制する。

その発言を聞いたラウラが、千冬さんを召喚しようと俺に食べさせようとしてきて謎の『あーん拒絶バトル』が開始されたのだが、それは俺達だけの小さな世界の出来事である。

 

 

          ◇

 

 

「あー疲れた」

 

何か夕飯前にも言っていたような言葉が口から洩れて、肯定するように鹿威しが鳴った。

 

「あはは、そっちも大変だったみたいだな」

 

隣で湯に浸かっていた一夏が、同情するように笑ってくれた。

夕食も終わり、今度は入浴の時間になった。学園でたった二人の男子である俺達は、女子の入浴時間とはずらして小さめの浴場を用意してもらっていた。

 

「こんなに静かで、海まで見える浴場を用意してもらえるなんてなぁ」

「まぁな。野郎二人で見るようなシチュエーションじゃないのは確かだが」

 

女子の入浴時間と被ってしまえば、向こう側が騒がしいのは容易に想像出来る。旅館の人達の気遣いには感謝するべきだろう。

 

「そんな事言うなって! 俺はお前と見れて嬉しいぜ、楯無!」

「大声出しますよ?」

 

肩を組んでくる一夏に牽制する。こちとら恥も外聞もなく“世界最強”を呼ぶ準備は出来ている。

一夏は俺の反応が気に食わないのか、「冷たいなあ」と拗ねていた。

 

「IS学園でたった二人だけの男子なんだから、こういった裸の付き合いも必要だろ? そもそも俺達幼馴染じゃんか」

「一緒に海行ったりプールの授業受けたり、ほぼ裸の付き合いは幾らでも経験してきただろ。幼馴染関係ねえし」

 

一夏の肩を引き剥がしながら、俺は一夏の距離感の近さに辟易していた。

 

「一夏、お前シャルにもこんな事してたんじゃないだろうな」

「え? あぁ、シャルロットが女子だって分かるまではこんな感じだった気がする」

「シャルも大変だったんだな……」

 

デュノア社の命令であったのは間違いないが、あまり男性に免疫がない状態で一夏に絡まれるのは心労が凄かっただろう。

あの時の一夏は学園に男子仲間が増えたと思っていたのでテンション爆上げだったみたいだし、距離感の近さも五割増しだった気がする。シャルには今度少し優しくするか。

一夏も自覚はあったらしい。気まずそうに頬を掻きながら反省していた。

 

「大浴場が解禁された時も、一緒に入ろうって誘っちゃったしなあ。あれ今思うとセクハラだよな」

「そーだな……」

 

その後に起きたシャルの混浴の事は黙っておこう。そう固く誓って俺は目を逸らした。

随分と大胆な事をしてくれたフランス代表候補生だ。今もはっちゃけまくってくれてるけど。

 

「シャルロットは楯無の恋人なのに、悪い事したよなあ」

「いや違うけど」

「そうなのか!?」

 

ばっしゃあ! と立ち上がって一夏は驚く。タオルは巻いていないのでもろ見えなのだが、男性同士なので気にしない。

 

「だっていつもあんなに距離近くて仲良いだろ?」

「それは鈴音相手だって同じ事だろ」

「か、間接キスだってしてるだろ!?」

「それも鈴音相手だって同じ事だ」

 

こうなると鈴音相手が異常な気がするのだが、逆にお互い異性として見てないからとしかいいようがない。

丸出しの一夏が「それもそうか……」と納得していた。はよ座れ。

 

「……ま、好意を向けてくれてるのは確かだよ。言葉にもしてくれた」

「え、それで付き合ってないのはフッたって事か?」

「付き合ってほしいって言われてない。傍に居たいって伝えたかっただけなんだと」

 

俺としてもこれ以上シャルが勇気を出して伝えてくれた事を教えるつもりもない。顔の前にはっきりと両手でバツを作って「俺とシャルの話題は終わりだ」と打ち切った。

俺達だけが知っていればいい。周りになんてどうとでも言わせておけ。

一夏はじゃぶっと入浴して、真剣な表情で問うてくる。

 

「楯無は簪さんが好きなのか? それとも更識会長なのか?」

「……どーだろうな」

 

以前シャルに問われた時と同じように、俺にははっきりと答えが出す事が出来なかった。

好きなのは間違いない。だけどそれがどういう意味かは分からない。

まあ。でも。俺に好意を伝えてくれた女の子――シャルを見習って、答えが出ないなりに偽らざる気持ちは言葉にするべきだろうか。

 

「簪にもどきどきするし、更識先輩にもどきどきする。何時だって会いたい。何時までも一緒に居たい。本当の笑顔で笑っていてほしい。……その為に、俺は生きてきた」

「……それ、恋だぜ」

 

まさか唐変木代表みたいな一夏にそんな事言われるとは思ってなかったので、俺は目を丸くした。

一夏は「気付いてなかったのか?」なんて得意げな顔をしている。確かに、呆気に取られたのは事実だ。

 

「人生掛けるぐらい好きなら、恋じゃなきゃ嘘だろ!」

「……そうだな。そうなんだろうな」

 

認めてみる。そうすると腑に落ちる。

あぁ、うん。確かにそうじゃないと嘘だ。

だって家族でもない人間が何時までも一緒に居たいって事は、世間一般的にはそういう事なんだ。

 

(私はずっと前から気付いていました)

(何だそりゃ。気付いていたなら教えてくれよ)

(そういった話題は友人同士でするものかと。私は友人ではなく相棒ですので)

 

相棒の言い分に内心苦笑いする。生真面目で頼れる相棒だ。

ちょっとした気恥ずかしさを誤魔化すように、俺は一夏へ話題を振る。

 

「お前はどうなんだよ。女子人気ならお前の方が圧倒的に上だろ」

「俺は……」

 

そう言い淀んで覚悟を決めて、一夏ははっきりと俺に言った。

 

「箒に、笑っててほしい」

「篠ノ之……か」

「昔から男女だとか揶揄われて、束さんがISを発表して、色々と大変な目に遭って。箒の笑顔ってあんまり見た事ないんだ」

「確かに、ずっとむすっとしてるイメージだ」

 

俺には見せない表情はあるのだろうが、それを見せる一夏に対してもあまり柔らかい表情は見せていないのかもしれない。

鈴音を選んでくれない事は親友としては不服だが、一夏の気持ちなので仕方がない事だ。

 

「だから、箒に笑っててほしいんだ。俺が箒の笑顔を守ってやりたい」

「……そうか」

 

二人には二人の過去がある。

俺がシャルとの事を二人だけの秘密として仕舞ったように、それは一夏と篠ノ之二人だけの出来事であるべきだ。

 

「そういえば、明日は七月七日だったな。プレゼントはちゃんと持ってきたか?」

「勿論だ。喜んでくれるといいんだけど」

「喜ぶだろ、あんだけ悩んだんだから」

 

と言うか、一夏からのプレゼントなら何でも喜ぶ。

俺の言葉に自信がついたのか、「プレゼントは気持ちだもんな!」と気合を入れる。

再び立ち上がって燃える一夏に、「ま、頑張れよ」と友人らしい言葉を送り、野郎二人の入浴の夜は深まっていく。




まだ一日目が終わらない恐怖
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