刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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バトルの後には友情かもしれない。多分違う。


8.彼らのその後

時刻は朝六時半。

 

「――――そこですわ!」

 

上方にある“ブルー=ティアーズ”から放たれたレーザーが、アリーナの地面を抉る。

瞬時加速で遥か上空に居るオルコットへ向けて上昇し、迎撃で放たれたミサイルをアサルトライフルで迎撃。

その爆風を煙幕代わりにオルコットの後方へ回り込み、ハイパーセンサーによって状況を理解したオルコットに最接近し、背中にタッチして一言。

 

「捕まえた。今日の朝練はこれで終了」

 

「……参りましたわ」

 

お互いピットに戻ってISを解除する。

ブルーのISスーツ姿になったオルコットは髪を掻き上げながら溜息を吐きながら言ってくる。

 

「結局一度も直撃させる事は出来ませんでしたわ……」

 

「そりゃそうだろう。お前の攻略法は昨日から変わってないんだから」

 

ライフルは避ける。“ブルー=ティアーズ”は使用中オルコット本人が動けないから牽制攻撃で解除させる。

これを繰り返しながら距離を詰めていけば終了。正確過ぎる射撃の腕も考え物だ。

何故俺がオルコットと朝練をする事になったのかと言えば、それは今日の朝五時にまで遡る。

突然オルコットが部屋を訪ねてきて、朝練に誘われた。簪の為にも“打鉄”の稼働データが欲しい俺は了承。終わり。

お互い更衣室へ向かいながら歩き始める。

 

「……しかしまぁ。朝から叩き起こされて、朝練の相手をする事になるとは思わなかったぜ」

 

「ですから、面倒でしたらお断りしていいと何度も申しているではありませんか」

 

ぼやくオルコットを尻目に欠伸をする。朝練の内容は実戦形式。オルコットが俺から直撃を取るか、俺がオルコットに触れるかで訓練終了。要するに鬼ごっこだ。

これを五回程繰り返した辺りで今の時間になった。そろそろ簪が起きている頃なので、一度部屋に戻って簪と朝食を食べに食堂へ向かおう。

 

「て言うか、一夏の奴は誘わなかったのか? あいつこそ朝練が必要だろ」

 

「勿論誘いはしましたけれど……その、篠ノ之さんが物凄い形相でこちらを睨んできましたので」

 

「あぁ、成程」

 

とりあえず、昨日までで一夏と篠ノ之の関係性は分かった。

一夏はISが来るまでずっと剣道の稽古をしていたそうだし、つまり篠ノ之は一夏の事が好きなのだろう。

一夏のISは完全近距離型だ。近付かないと話にならないし、そもそも本気で攻撃するにもシールドエネルギーを著しく消費する。

“零落白夜”。モンドグロッソで世界最強と相対した時、一度だけ見た。

問答無用で相手を倒す為のあれを見てしまったから、俺は棄権したんだけど。

更衣室まで辿り着いた。

 

「んじゃ、学校で」

 

「あら、よろしければ朝食をご一緒しません事?」

 

「昼飯なら考えてもいい。朝食は簪と食べる」

 

「残念ですわ」

 

本当にそう思っているのか分からないオルコットは微笑んで、女子更衣室へと消えていった。

俺もシャワー浴びてさっさと着替えよう。遅刻すると出席簿が飛んでくる。

そういや、刀奈との練習はどうなるんだろ。まぁあの人なら個人間秘匿通信で連絡取れるし大丈夫か。

シャワーを浴びてさっさと着替えて、寮の自室へと戻る。

ドアを開けると、簪が制服に着替えている姿が見え――――。

 

「悪い!」

 

とりあえず土下座した。なのでほんの一瞬ぐらいしか見ていない。

水色のパジャマをベッドの上に脱ぎ散らかし、ストッキングを上げている簪とか一瞬しか見ていない。

ストッキングの下に見えた布とか絶対見てない。色とか分かりませんでした。信じてください。

 

(……相棒、IS学園で首を吊るのに最適な場所を検索してくれ)

 

(マスター。それは構いませんが、少しは簪さんと話したらどうでしょう)

 

「……楯無。朝練終わったの?」

 

簪の気配を近くに感じる。着替え終わって俺を殺そうとでもしてるんだろうか。

 

「あぁ、構わない。どうぞ殺してください。簪に殺されるなら悪くはない」

 

「……馬鹿な事、言ってないで」

 

土下座したまんまの俺の頭に何かが乗る。……この熱を持った感触は、よく知っている。

簪が俺の頭を撫でていた。いや、でも何で?

 

「髪、濡れてる……。朝練の後、シャワー浴びて直ぐ来たの?」

 

「あ、あぁ。簪との朝飯に遅れたら悪いと思って」

 

そのおかげで俺は処刑されるのだが、簪は何故かおかしそうに小さく笑う。

 

「別に、置いて行ったりしないから。まだ時間はあるから、先ずは髪を乾かそう?」

 

簪は俺の脇に手を入れ俺を立ち上がらせ、ベッドに座らせた。

続いて自分のベッドの下の収納スペースからドライヤーを出してコンセントへ繋げた。

ドライヤーを吐き出し始めた温風で俺の髪を乾かしながら、簪は鼻歌まで歌っていた。

 

「……機嫌良さそうだな」

 

「楯無の髪を乾かすのは、私の日課だから。朝から出来て、嬉しい」

 

(俺の髪を乾かす事が嬉しいって、乙女心って傍から見てる以上に複雑なんだな)

 

(そうでしょうか? もしマスターが簪さんの髪の毛を乾かす事になったら、と考えてください)

 

相棒にそう言われ、俺は一瞬考える。

俺が簪の髪を……髪を……。

 

(やっべぇ超嬉しい! 刀奈に自慢しまくるわ!)

 

乙女心簡単だった。相棒の例え話分かり易過ぎる。

そして乙女心と言えば、俺が先程しでかしてしまった事がある。

 

「……怒ってないのか?」

 

「……いい流れだったのに、そうやって蒸し返す」

 

どうやら気付いていなかった、というわけではないらしい。

だが、だったら何故。そう思った疑問は、簪から答えがあった。

 

「もう……殆ど着替え終わっていたから。下着まで見られたのは、恥ずかしいけど」

 

「だよな。本当にすまん」

 

簪に髪を乾かしてもらいながら謝罪する。

丁度髪を乾かし終わった簪は、手櫛で俺の髪を梳かしながら言ってきた。

 

「いい。楯無になら……見られても嫌じゃ、ないから。それに……」

 

「それに?」

 

「私も、楯無の着替え……偶に、見てる。だから、おあいこ」

 

俺の場合は別に簪に見られても困る事はないから仕切りもなしに着替えているだけなのだが、それでも全然おあいこな気はしない。

 

(マスター。これも逆のパターンをお考えください)

 

(成程――――いや駄目だろ相棒。逆は駄目だから今こうなってるんだろ)

 

乙女心は複雑で繊細だ。変わらず機嫌良さそうな簪に手櫛をしてもらいながら、改めて認識する。

……まぁ、それよりも。あの夜から一夜明けた今、簪が強かに自分の事を話してくれるようになって俺は嬉しかった。

――――あの決闘から一夜明けて、俺の周りには少しばかりの変化が訪れていた。

 

 

          ◇

 

 

『織斑君! クラス代表就任おめでとう!』

 

その言葉を皮切りに、一斉にクラッカーが乱射された。

空中を舞い踊る紙テープ。片付け面倒くさそうだなと思う。

当の主役である一夏は、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた横断幕を見ながら納得してなさそうに口を尖らせる。

 

「本当に俺でいいのかよ」

 

一組のクラス代表は一夏に決まった。それは朝のホームルームで告げられた事だ。

それを祝う為に、夕食後の食堂を貸しきってパーティを開いていた。

『主役』とでかでかと書かれた襷をしてお誕生日席に座らされていた一夏は、変わらず口を尖らせていた。

俺とオルコットはそれを少し離れた所から見ている。あ、篠ノ之は一夏の左隣をキープしていた。固定ポジションと言うべき態度で座っていて、クラスの皆は恐ろしくて右隣りには誰も座っていない。

 

「そもそも、俺は全敗したんだぞ。そんな奴代表にしていいのかよ」

 

「あれ、俺に勝ったじゃん」

 

「それお前が降参しただけじゃん! シールドエネルギーの総量じゃ全然勝ってたし、あのまま続けていたら楯無が勝ってた!」

 

だってモンドグロッソ準決勝ごっこはそうしないと終わらない。

織斑千冬役を選んだ時点で一夏の勝利は確定していたのだ。

 

「ちなみに私には袋叩きにされましたわね」

 

「そんな事言われなくても自分が一番分かってるよ! あと一歩だったのにぃ!」

 

どうやら俺が千冬さんや刀奈と話している間に、一夏はとんでもない虐待を受けていたらしい。

まぁ、あんな初心者殺しの武装を相手に、あと一歩まで追い詰める底力があれば大丈夫だろ。

それでも事実上全敗を喫した一夏は自分が代表になるのは納得がいかないようだ。

 

「セシリアか楯無がやればいいだろ」

 

「俺は千冬さんから代表就任禁止令が出ている。『棄権するような奴に任せられるか』らしい」

 

「私は一夏さんが更なる経験を積める機会が少しでも増えればと、辞退させていただきましたわ」

 

俺とオルコットが二人して断ると、一夏はがっくりと項垂れる。

別にやりたくないわけではないだろうが、自分の実力に自信がないのだろう。

 

「安心しろ一夏。明日から私がお前のISのコーチをしてやろう」

 

ふん、と胸を張って篠ノ之がしれっと約束を取り付けていた。

それはそれは。訓練機が借りられるといいな。

ジュースを飲みながらその様子を観察していると、同じようにジュースを持ったオルコットがひそひそとこちらへ話し掛けてきた。

 

「朝の私への態度と言い、篠ノ之さんはもしかして一夏さんの事が……?」

 

「だろうな。どうしたオルコット。お前も一夏狙いか。頑張れよ」

 

相変わらずの競争率の一夏だが、残念ながら当人が気付いた事は一回もない。

そんなレースにオルコットが参戦したのかと思ったが、どうやら違うらしい。じと目で俺を見ながら言ってくる。

 

「確かに一夏さんの向上心には共感いたしますが、私の標的は楯無さん、あなたでしてよ?」

 

「何? 俺の事好きなの?」

 

「そうではなく! 私が何時か射貫くと決めたのはあなたという事でして! いや分かりませんけど、未来は分かりませんけど!」

 

あぁ、そういう事ね。流石にその意味を伝えるには言葉足りな過ぎやしませんかね。

それであの朝練だったわけか。確かに標的を直接相手にした方が、得られる経験値は多いだろう。

一夏の向上心とオルコットは言ったが、オルコットの向上心も中々の物だろう。流石代表候補生と言った所か。

ま、あの朝練には一夏を巻き込むのが最適だろう。一夏の今後の為にも、回避能力と接近能力を鍛えるのが一番手っ取り早い。

 

「それはそうと……」

 

「何? まだ何かあんの?」

 

「あなたISが絡まないと本当に適当ですわね! 楯無さんもいい加減、私を名前で呼びなさいって事ですわ!」

 

「名前ぇ……?」

 

何を言い出すのかと思えば、そんな事か。

別にオルコット呼びのままでも構わないんだが、多少オルコットの向上心には好感を抱いてもいる。

オルコットの性格上、呼ぶまで永遠に噛み付いてくる事だろう。たとえ簪や刀奈と一緒に居ようと、居ようと……。

 

「何か無性に腹立ってきたな。潰すか」

 

「何をですの!?」

 

まぁ、冗談はこれぐらいにしておこう。

別に名前を呼ぶくらい何でもない。俺は手を差し出しながら告げる。

 

「今まで色々あったけど――――これから“打鉄”の宣伝よろしくな、セシリア広告宣伝隊長」

 

「忘れてましたわ……」

 

クラスメイトとして握手を交わしたオルコット――セシリアは、一夏と同じようにがっくりと項垂れていたのだった。

セシリアががっくりと項垂れたおかげで拓けた視界に、クラスメイトとは違う眼鏡を掛けた生徒の姿が見えた。

「新聞部でーす!」とか言ってる辺り面倒な事になりそうだ。

 

「悪いセシリア。俺、部屋に戻るわ。猛烈に具合悪い」

 

「それタイミング的に私と握手したせいですわよね――――あ、ちょ、ちょっと!」

 

きゃんきゃん騒いでいるセシリアを無視して、しれっと食堂から抜け出して全力で部屋に戻る。

部屋に戻れば珍しく部屋の明かりが点いていた。

 

「ただいま」

 

「うん……お帰り」

 

部屋のベッドの上から声が聞こえてくる。簪はまだ起きているみたいだ。

部屋の中に入って簪の方を見れば、自分の端末で何か映像を見ているようだった。もう風呂にも入っているらしく、水色のパジャマに身を包んでいる。

簪は俺の方に向き直ると、部屋の時計を見て首を傾げていた。

 

「まだ、パーティの時間じゃないの?」

 

そうだった。帰ってくる時間は前以って伝えておいたんだ。

それより早く帰ってきたら不思議がっても仕方ない。

 

「何か面倒な事になりそうだったから抜け出してきた。どうやら正解だったみたいだな」

 

さっきから“打鉄”に個人間秘匿通信が一夏とセシリアから入りまくっている。

余程面倒な事になってるんだな。本当に逃げて正解だった。

 

「それで、何見てるんだ?」

 

恐らく地獄の中に居るであろうクラスメイト達は思考から消して、俺はさっきから気になっていた事を訊いた。

簪は照れ臭そうに俯いた後で、はっきりとした声で告げてきた。

 

「アニメ。ヒーロー物の」

 

アニメか。小学校ぐらいまでは見ていたな。簪は女の子なのに、ヒーロー物が好きだなんて意外……でもないか。

俺の事をヒーローと呼ぶぐらいだから、きっと憧れてもいるのだろう。

好きなものは誰かと分かち合うに限るし、簪が好きなものは俺だって知っておきたい。

 

「へぇ、面白そうだな。シャワー浴びたら俺も見ていいか?」

 

「う、うん!」

 

そんな花みたいな笑顔で嬉しそうに頷かれたら、俺も本当に楽しみになってきた。

 

「でも、その前に髪乾かしてあげる……!」

 

日課を忘れる事無く、簪は告げてくれる。

それも楽しみだと心の底から思いながら、俺は脱衣所へと向かった。




この作品は半分ギャグなのではなくて、主人公がちょっと人間性があれなだけな気がしてきた。
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