刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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専用機を持ってるのは一組だけだから余裕だよー(棒)


9.彼が飛ぶ理由

朝、簪と朝食を取った後クラス前で別れて一組に入る。

簪は四組。おまけにクラス代表。俺は一組。おまけにクラス代表禁止令。

別れ際に手を振ってくれた簪の姿を網膜に焼き付けておいた。これで昼まで乗りきろう。

 

(相棒。簪の笑顔をナノマシンを通じて左目に永続投影してくれ)

 

(マスター。昔から簪さんと刀奈さんの事になると途端に頭が悪くなるのは何故ですか? 病気なのでしょうか、検索しておきます)

 

冷たい相棒に傷付けられながら、のそのそと自分の席に向かう。

 

「雪月君、おはよー」

 

「おは」

 

クラスメイトの相川さんからの挨拶を返す。

最近俺の目が休み時間とISの授業時間以外死んでいるとの噂があるが、そんな事はない。俺は唯、簪と刀奈に関わる事以外をちゃんとしないだけだ。

それに、死んでいるという表現なら俺より自分の席で突っ伏している一夏の方が合っている。

その死体を取り巻いている篠ノ之とセシリアが居るので聞いてみる。

 

「これ、お前らが殺したの?」

 

会話をした事は殆どない篠ノ之が、腕を組んだまま否定した。

 

「失敬な。私ではない。飛ぶ度に撃ち落としていたのはセシリアだ」

 

篠ノ之の言葉に視線をセシリアへ移すと、セシリアは悪びれもなく答える。

 

「楯無さんが朝練に出てくださらなかったので、一夏さんを集中的に鍛えていたのですわ。ルールは楯無さんとしていた時と一緒。まぁ、クレー射撃の方が私としては有意義でしたかしら」

 

「一体何回撃ち落としたんだ?」

 

「二十より先は数えてませんわ」

 

「……二十六回だよ」

 

ぷるぷる震えながら上半身を起こす一夏に向けて合掌する。大丈夫、お前ならあと一週間同じ事を続けてたら三回に一回は勝てるようになる。

そろそろ出席簿を投げる人がやってくる時間だ。俺は殆どバッターボックスと化している自分の席に向かおうとするが、クラスメイト達の会話が聞こえてきた。

 

「知ってる? 二組のクラス代表が変わったの」

 

「知ってる知ってるー。それに転入生も来るって噂だよ」

 

転入生? 四月も終わろうとするこの時期に珍しい事だ。

クラス対抗戦もあと二週間程で始まるのに、クラス代表を変えるとは相手はそれ程までの強さなんだろうか。

 

「でも専用機を持ってるのは一組と四組だけだから余裕だよー」

 

正確には一組だけだ。四組の簪の“打鉄弐式”は完成していないし、簪もクラス対抗戦に出場する気もないようだ。

それにたとえ専用機でもうちのクラスの代表は死体だ。挙句今の一夏は素人の中の素人。おまけに“白式”は弱点だらけ。正直素人が乗るなら訓練機の方がましだ。

あんなピーキーという言葉さえ生温いIS、乗りこなせるのは世界最強ぐらいのものだろう。

 

「――――その情報、古いよ!」

 

懐かしい声が教室の入り口から聞こえて、思わず振り返った。

入り口にはツインテールの少女が扉に寄り掛かりながら立っていた。

 

「二組も専用機持ちが代表になったの。そう簡単には優勝出来ないから!」

 

「り、鈴かっ!?」

 

突然の乱入者の名前を、死体だった一夏が呼ぶ。

篠ノ之がぎろりと扉前の少女を睨むのを意に介さず、不敵な笑みを浮かべたまま八重歯を煌めかせた。

知っている。凰鈴音。小学五年生から中学二年生まで同じ学校に通っていた親友だ。

 

「そうよ! 中国代表候補生、凰鈴音! やっと転入手続きが終わったから、今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

気取った言い回しは緊張でもしているのだろうか。

まるっと一年ぶりに再会した一夏の前だからしょうがないだろうが。

そんな鈴音の様子を見て、一夏はおかしそうに笑いだす。

 

「何格好付けてるんだ? すげぇ似合わないぞ!」

 

「なっ――――何て事言うのよ、あんたはぁ!」

 

鈴音がいつもの喋り方に戻って、いつも通りのやり取りが始まった。

それにしても、代表候補生か。天才ってやつだろうな。

鈴音が中国へ帰国したのは中学二年生の終わり。それからIS学園に転入するまでには一年しか時間がない。

ISにも触った事がないその状況で代表候補生にまで成り上がるなんて、よっぽどの才能と努力がなければ出来ない事だ。

普通に教室内に入ってぎゃあぎゃあと絡み続ける鈴音と一夏。そしてどんどん目のハイライトが無くなっていく篠ノ之。それを察して逃げ出したセシリア。

順調に地獄が出来上がっていた。

俺もさっさとバッターボックスに逃げて座っていたのだが、鈴音が何故かこちらへやってきた。

 

「楯無も相変わらず元気そうねー。安心したわ」

 

「何だよ。一夏ともっと話さなくていいのか、鈴音」

 

「散々話したし、昼休みにも襲撃するつもり。だったらちょっとは親友と話してもいいじゃない?」

 

それはありがたい事だ。

だったらとりあえず、一言言ってやらないとな。

 

「お帰り、鈴音」

 

「ただいま、楯無!」

 

お互いにハイタッチして挨拶を交わす。クラスメイトが「雪月君の目が死んでない……!?」と騒いでいたが気にしない。

親友と一年ぶりに出会って嬉しくない筈がない。

……まぁ唯、残念なのが。

 

「積もる話もあるけど、そろそろ千冬さんが来るぞ。俺は今日こそ出席簿をホームランする。その為の秘策も考えてきた」

 

「相変わらず千冬さんに喧嘩売って生きてるのね……。はぁ、その度胸は本当に尊敬するわ。ま、あんたも後でね」

 

どかどかと大股で二組へ戻っていった鈴音。

それを見送った後、教科書を丸めてバットを作っていると、セシリアが溜息を吐きながらやってきた。優雅さどうしたイギリス令嬢。

 

「凰さん……でしたかしら? 彼女はあなたや一夏さんとどういった関係で?」

 

「小五から中二まで一緒に居た友人だよ。俺にとっちゃ、多分唯一の何の柵もない親友。お前もさっさと席に戻らないと、出席簿野球に巻き込まれるぞ」

 

「あなた、本当に高校生なのですか?」

 

セシリアの呆れた声を無視して、俺はバッティングポーズを取る。

掛かってこい、世界最強。今日という今日は捉えさせてもらうぜ――――!

 

 

          ◇

 

 

「はぁ――――!」

 

「しっ――――」

 

お互いの呼吸と共に斬撃が放課後のアリーナに舞う。

刀奈の専用機、“霧纏の淑女”の武装“蒼流旋”の一撃を近接ブレードで相対する。

ナノマシンで制御された水が螺旋の様に回転している槍の一撃は重い。こりゃ受け止めるより流した方が負担が少ないな。

両腕の甲にシールドを展開したまま、距離を詰めて右手に握った近接ブレードを振るう。

刀奈の反応は早い。素早く後退しながら“蒼流旋”のガトリングを掃射する。

それを回避する為には距離を置かねばならない。その思惑通りに俺はスラスターを吹かして距離を取り、距離は詰め直しとなった。

刀と槍では槍の方がリーチが長い。詰めれば小回りの利かない大型の槍よりは近接ブレードの方が有利だが、刀奈の技量を掻い潜りながらそこまで距離を詰めるのは骨が折れる。

お互い装甲が薄いISを纏っているが、向こうのISにはナノマシンで制御された水が液状フィールドとして展開されている。さながらそれはドレスの様だ。

もう一度距離を詰めようとスラスターにエネルギーを送った所で、アリーナの貸し出し時間リミットのブザーが鳴った。

お互いにISを解除して訓練を終える。

 

「あら、お終いね。ざーんねん、お姉さん丁度燃えてきたのに」

 

「本当に残念だ。もっと刀――――更識先輩と一緒に居たかったよ」

 

「……嬉しい事言ってくれるわね。じゃあ生徒会に入る?」

 

「いいよ。日本暗部集団の中に入っていくのは遠慮する」

 

調べた所、刀奈はこのIS学園の生徒会長だった。

そして生徒会のメンバーは“打鉄”の改造を手伝ってくれた三年生の整備科の先輩――布仏虚先輩と、まさかのクラスメイトの布仏本音。

通っていた小学校では簪と一緒に居る場面を何度か見た事がある。向こうは俺の事をそう知らなさそうだったから、IS学園で同じクラスになっても話し掛ける事もしなかったけど。

更識家は日本の暗部用暗部。それと一緒に居続ける布仏姉妹も、きっとそういった類の家柄なのだろう。

 

「それも残念ね。でも、こうして訓練に付き合ってくれて嬉しいわ」

 

「約束したからね。“打鉄”のハイレベルな近接データが得られるしこっちも助かってる」

 

セシリアとの鬼ごっことかでは近接データは取れないし、一夏とやるのは篠ノ之の目が怖い。

そういった意味では大型のランスを主武装とするISに乗り、ロシア代表の実力を持つ刀奈との訓練は最高の機会だ。

それに――――こちらの本当の手の内を知られずに、向こうの手の内を知れるのも都合がいい。

 

「“打鉄”ねぇ。言うのも悪いと思うけど、よく日本の量産機をちょっと改造しただけで私と渡り合えるわね。……と言うか、性能に任せて強引に距離を取らないと間合いコントロールされっぱなしなのがちょっとショックだったわ。流石は世界三位って所かしら?」

 

「あんまり大声で言わないでよ。セシリア辺りに聞かれたら面倒くさい。あと、それ以上言ったら本当の名前で呼ぶ」

 

「酷いわ、それ」

 

拗ねたように口を尖らせた刀奈。それを見て口が綻んでしまうのは無理もないだろう。

お互い更衣室へ向かいだす。そろそろ夕食の時間だ。食堂で簪と待ち合わせをしている。

 

「いいなー。簪ちゃんとご飯。私も食べさせ合いっこしたーい」

 

「んな事してないけど……」

 

したいかしたくないかと言われたら勿論したいが、俺と簪はそんな関係じゃない。

それに、何時かは簪にもそういう相手が出来るのだろう。

 

「簪ちゃんは可愛いし、優良物件だと思うけれど?」

 

「俺みたいな経歴とお先が真っ黒な相手より、もっといい奴が現れるよ」

 

俺に普通の人と同じぐらいの平和なんて訪れない。そんな事はずっと昔に諦めている。

人の人生を丸々ひっくり返そうとしているんだ。せめて俺の人生を懸けないと釣り合わない。

 

 

          ◇

 

 

「……はい、これ」

 

「ありがとな」

 

刀奈と別れ、食堂で簪と合流すると渡しておいた“黒雷”を返される。

唯その表情はどこか怒っているように見える。一体何があったのか。

相棒に聞いてみるが、相棒も教えてくれない。何故なのか。……それに。

 

「今日は食堂で食べるんじゃないのか?」

 

彼女の手には購買部の袋がぶら下がっていた。中にはおにぎりやサンドイッチが入っている。

お気に入りのかき揚げうどんを食べるんだと楽しみにしていたのに、何故簪は食料を持っているのか。

怒りからか顔を赤くしている簪は、俺にそのビニール袋を渡しながら言ってきた。

 

「今日は部屋で食べる……だから、買ってきた」

 

「あ、あぁ。何となく予想は付いてたけど……じゃあ、部屋戻る?」

 

「戻る……」

 

ビニール袋を受け取ると、そのまま簪に手を引かれた。

今日の簪は強引だ。余程の事があったのだろう。俺は大人しく手を引かれ続ける事にした。

食堂から出てしまえば、寮の廊下には人は殆ど居ない。今は食堂に殆どの生徒が集中しているのだろう。

そうして廊下を歩いていると、先に口を開いたのは簪だった。

 

「……さっき、お姉ちゃんと話していた事」

 

どれだろう。色々話したから分からない。

俺の無言を迷いと理解してくれたらしく、部屋に戻った直後に簪は続けた。

 

「経歴とお先が真っ黒って、楯無よりいい人が現れるって所!」

 

「お、おぉ。そういえば言ってたな。当たり前の事過ぎて忘れてた」

 

「当たり前じゃない!」

 

いきなり壁に押し付けられ真っ直ぐと目を見てそう言われる。

思わずビニール袋を落としてしまったが、そんな事気にしていられない。

その瞳は潤んでいて、今にも彼女は泣きだしそうだったから。

でも、これは彼女が弱いからではない。俺に怒っているからだ。

 

「確かに楯無は人とは違うかもしれない。篠ノ之束博士に拾われたし、正体を隠してモンドグロッソにも出た。それに世界で二人の男性操縦者だし、唯でさえ色んな国や機関から狙われたりもすると思う」

 

「そんなの構わない。俺が選んだ事だ。そうしてでも救いたい人が居る」

 

簪は俺の瞳から目を逸らさない。

目としての機能を失い、唯ISとの適合を高める為の機関になった左目。

その左目を右手で覆い、何時かの俺を見て簪はゆっくりと口を開いた。

 

「お姉ちゃん……でしょ」

 

「……あぁ」

 

刀奈が悲しげに笑った日。『私、もう直ぐ刀奈じゃなくて楯無になるの』。その言葉を聞いた時から、彼女を救うと決めた。

簪が泣いていた日。『私が何も出来ないから、お姉ちゃんは楯無になってしまったの』。その言葉を聞いた時から、それを絶対に否定すると決めた。

あの時から俺の道は変わっていない。その先に何があろうと。更識刀奈を、更識簪を、絶対に二人の心からの笑顔を取り戻す。

 

「更識刀奈。今ではもう名乗る事は許されないその名前。俺はそれを必ず取り戻す」

 

「それは……更識家を敵に回すという事。日本を敵に回す事と同じ……」

 

簪も俺がやろうとしている事の未来を理解してくれたみたいだ。

俺を大切に思ってくれるのは嬉しい。でも、それと同じように俺も簪が大切なんだ。

だから俺の自己満足に、これ以上簪を巻き込めない。

 

「な、過去も未来も真っ黒だろ、俺。そんなんで簪に迷惑を掛けられない……俺よりいい人が現れる。俺は一人でいい。何も間違ってない」

 

「ううん。間違ってる」

 

優しい声で、彼女は子供の頃から続いてる俺の間違いを正した。

 

「楯無は、ヒーローだから。一人で孤独に戦っても大丈夫なのかもしれない。でもそれが、誰にも迷惑を掛けないで生きる理由にはならない。……それに私は、“打鉄弐式”の事で楯無に迷惑をいっぱい掛けてる。今更……私に遠慮しないで」

 

『そもそもマスターは一人ではありません。私が居ます』

 

「そうだね」

 

彼女の笑顔が、直視できなかった。

簪に一番していてほしい表情なのに――――ずっと見ていたいのに。

 

「私にとって、いい人は楯無だけ。あなたがお姉ちゃんを救うヒーローなら、私を守ってくれるヒーローでもある。楯無とお姉ちゃんが私を大切にしてくれるなら、私は楯無とお姉ちゃんを大切にする」

 

そう言われて、俺はもう我慢出来なくなった。

相棒とだけ、俺は一緒に居るんだと思ってた。全てを捧げて救う。それ以外は何も望まなかったから。

刀奈が俺の選択を肯定してくれるとも思っていない。彼女は楯無である事を受け入れている。俺のやる事は唯の余計なお世話なんだって分かってる。

でも、それを応援してくれて、それでも傍に居てくれる人が居るんだって。そう言ってくれるだけで、こんなにも嬉しいなんて。

 

「……なぁ、抱きしめていいかな」

 

震える声で問うた俺の言葉を、簪は笑顔で受け入れた。

 

「どうぞ。好きなだけ」

 

言葉のままに、躊躇わずに簪を抱きしめる。

腕の中の存在は温かくて、背中に手を回してくれた。

――――背中に伝わる彼女の熱が、俺の翼の始まりなんだと教えられた。

 

「楯無が翼の代わりに失くしちゃうものを、私は拾い上げる」

 

「……俺も、簪が自分の翼で飛ぶのを手伝うよ」

 

更識簪という少女を感じながら、俺は誓う。

こんなにも俺を大切にしてくれる少女の想いに、応える為に。




……あれ、メインヒロインは刀奈さんでいいんだよね?
原作でも偶にある簪さんのしれっと押しが強かったりちゃっかりしてる部分が好きです。
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