昨日ONE PIECE STAMPEDEを観に行ったせいで、ONE PIECEの二次創作が書きたくて仕方ないですが、私は元気です(ZやGOLDを映画館で観た後にも起きた病気)
ピトーとゴンの試合は意外にも、およそ全ての受験者と試験官が考えていた展開とは裏腹に、試合としての体を成していた。
「ほーら、ゴン。もっと攻めなきゃ僕には届かないよ?」
というのもピトーは自分からはほとんど手を出さず、ゴンから繰り出される攻撃を避けることに徹していた。更にピトーは最初から手を背中の後ろで組んだまま、全く両手を使う様子がない。
そして、体を反らすことや、足のステップと曲芸のような宙返りを行うことで避け続けていた。
「はい、隙あり」
「うわっ!? 痛ってー!?」
そして、ゴンの大振りの攻撃を躱したピトーは、そのときだけ片手を使って軽くゴンの額にデコピンを放った。
爪も立てずに放たれたそれは、ゴンの体をぐらつかせるに止まり、やられた側のゴンは既に何度も受けて真っ赤になっている額を手で押さえて、ピトーの目の前で痛がる様子を見せていた。
「にゃふふ、油断大敵だニャ」
そういうピトーは目を細めて、ニマニマとした笑顔を見せており、一見すると、とても温厚そうな大人のお姉さんといった風格に見えた。
それを見たクートを除く一堂は思う。
『「普通だ……」』
その光景はただの修行のような遊んでいるような風景であった。
「何故、彼女はあのようなことを? 貴方の指示か?」
「いや、ピトーが自発的にしてるよ。クラピー」
「そうなのか……クラピー?」
ハッキリ言って、この課題はゴンくんに有利過ぎる。
何せ、ピトーのオーラに呑まれてもまるで戦意の喪失すらなく、むしろ怖楽しいとでも言いたげな雰囲気を見せていたゴンくんである。そんな彼をどうしたら"まいった"と言わせられるか? しかもこちらは殺したら即失格。無理矢理言わせる方法も俺が禁止した。
これは最早、念能力とも何も関係のない。我慢比べの勝負なのである。如何に拷問されようと口を割るまい。その上、死亡の制約のせいで拷問にも限度がある。そんな訳で、俺にはゴンが"まいった"というビジョンがまるで浮かばない。それはピトーも同じだろう。
「それで、逆に聞くが。クラピーだったらゴンくんに"まいった"と言わせられるか?」
「………………確かに方法が思い付かないな。ところでそのあだ名はなんだ?」
「ピトーが君に付けてたあだ名」
中々可愛いと思うので俺もとても気に入っている。
そんな話をしつつ、戦う二人に視線を戻す。ゴンくんとピトーの試合が始まってから既に2時間が経過しており、ピトーは言わずもがな、ゴンくんもまだまだ余力を残した様子である。
これは数日掛かるのではないかと思った矢先、ピトーが口を開いた。
「さて……ねぇ、ゴン?」
「なにピトーさん?」
「僕にどれだけ挑んでも今の君じゃ、絶対に勝てないことはわかったよね?」
「うん! スゴいやピトーさん! 強過ぎてどうしたら勝てるのかまるでわかんないよ!」
「うんうん。じゃあ、"まいった"って言ってくれる?」
「言わない!」
「だよねぇ」
そんなゴンの様子を見ている試合を観戦している者たちは、試験官を含めてほとんどが顔をひきつらせていた。かく言う俺もネテロ会長と同じように感心した面持ちで眺めていた。
どうして、絶望的なまでに格上で、精神を病ませるほどに邪悪なオーラを纏う存在に、そこまで楽しげに啖呵を切れるというのか。相手の実力をここに来てまだわかっていない極度の鈍感なのか、単純に馬鹿なのか。
しかし、その答えはゴンくんの真っ直ぐで澄んだ瞳にあるだろう。相手をしっかりと見据え、それでいて何を考えているのか全くわからない。挑戦的で決して好奇心を失わず、どこか楽しげにさえ思えたその瞳。
それが、あの日。
「じゃあ、ゴン。僕とゲームをして負けた方が"まいった"って言うニャ」
「うん、いいよ!」
………………ああ、なるほど。そういう手段があるのか。正直、全く思い付かなかったな。うーん、思った以上に俺の頭は殺伐としているようだ。
ピトーはその場に座り込み、ゴンくんも前に座るように2~3度軽く前を叩く。そして、ゴンくんが前に座ると、ピトーは"じゃあねぇ!"と笑顔で言葉を区切ってから、そのゲームを提案した。
「"しりとり"をしようか!」
あっ……。
◇◇◇
「アクリル」
「る……ルート!」
「トラブル」
「る……る、ルアー!」
「アップル」
「る……る! だぁ! "まいった"! もうないよピトーさん!」
「やったニャ」
10分後、片手を掲げて勝ちを表現するピトー。それと共に立会人はピトーが勝者というジャッジを下した。
これはひどい。こんなのでハンターライセンスを貰っていいのかと思ったが、別に"まいった"と言わせる方法は問われていないので、問題ないのだろう。ピトーの頭の柔らかさを誉めるべきだろうな……うん。
「主様勝ちましたニャ! これでハンターですニャ!」
「ピトーは可愛いなぁ……」
「えへへ……」
撫でると目を細めて、嬉しそうに耳をピコピコ揺らすピトー。あれだな、可愛いは正義って奴だ。もう、なんでもいいや、チクショウ。
「それにしてもジン=フリークスの子か……」
ああ、そうだ。あのときの赤子が仮に成長していたらこれぐらいの年齢になっているだろう。いや、しかしそんな偶然が――。
「ジンのことを知ってるの!?」
俺が呟いた独り言を聞いていたピトーの隣にいたゴンくんが、俺の方に体を向けて声を掛けてきた。その様子にこちらが放心していると、ゴンくんは口を開いた。
「俺はゴン=フリークス! ジンは父親なんだ! ジンについて何か知ってることがあったら教えてよクートさん!」
「――――――」
その言葉に絶句すると共に、そう言えば1度も苗字を聞いていなかったことを思い出し、自分の阿保さ加減を痛感しつつ、途端に面白くなり、そのまま口を開いた。
「く……くく……はははは! いいぞ!
その叫びに近い俺の言葉に会場が騒然とする。
試験官らも改めて驚いたような表情をしている。まあ、実際に人間離れしたオーラをしている俺を見て、例え記録上は倒されていることを知っていても、俺を倒した人間がいることそのものが驚きだろう。
「おっと、恨んでなんかいないぞ? アイツは紛れもなく人間だった。人間だからこそ、人間らしい方法で化け物を屈服させた。俺も
そう言いつつ俺はゴンくんに黒い栞のような紙を渡した。
「これは?」
「ハンター試験が終わって、手に入れたものを使えばこれが何かわかる。そうしたら、君にジンと俺の全てを話そう」
ちなみにこれは、練をしている間だけ俺の仕事用の電話番号が浮き出る紙である。そのため、念さえ習得してくれれば話せる。むしろ、念がわからなければ話せないような内容だからな。
「ありがとうクートさん!」
それだけ言ってゴンくんは屈託のない笑みを浮かべた。ああ、本当に……ジンにそっくりだよ。君は。
◇◆◇◆◇◆
その後の最終試験は、クラピカ対ヒソカの試合ではヒソカがクラピカに耳打ちした後で、"クートと戦いたいから"と言って負けを宣言した。次のゴン対ハンゾーの試合は、ハンゾーがどれほど拷問しようとも"まいった"とは言わず、最終的にハンゾーが試合から降り、その過程でゴンを気絶させた。
そして、次の試合――クート対ヒソカ戦が始まり、互いは試合開始の合図を迎えても、互いに構えを取らず、会話をしていた。
「随分、早く戦う機会ができたなぁ」
「でも殺すのが禁止なのが残念♣」
「ははは、何を言ってるんだヒソカくん。君が殺そうとしたぐらいで俺が死ぬわけがないだろう? だから――」
クートは全く悪びれる素振りなく、いつものような笑みを浮かべて当然のように言い放った。
「俺を殺してみろ。ヒソカ」
「……あぁ――ああ! そうするよクート! 君を殺す♡」
その瞬間、ヒソカはトランプを両手に持ち、クートはオリハルコンのサーベル――クライストを片手に具現化させ、それと同時にヒソカは襲い掛かった。
周を纏ったヒソカのトランプをクートはクライストで事も無げに防ぎ――。
「――く!?」
刃に多少触れただけで、ほとんど拮抗すらせずにヒソカのトランプは真っ二つに裂けたため、ヒソカはクートから距離を取り、クートに意識を向けると眼前にクライストの切っ先があった。
(投擲してきたか♢)
ヒソカは卓越した反応速度で避けようと体を動かしつつ、トランプでの接触の瞬間にクライストに付けていたバンジーガムを縮めて軌道を多少逸らすことで躱そうとした――瞬間、煙のようにクライストが消失し、何も持たずに手を振り上げるクートが背後に立っていることに気がついた。
(フェイント……!)
ヒソカは振り向きつつ、周で強化したトランプを投げてバンジーガムで盾のように纏めつつ、クートから距離を取るために飛び退いた。
次の瞬間、クートの手が振り下ろされると同時に手にクライストが具現化され、トランプの盾をただの紙のように斬り裂き、急激にリーチが伸びたことで、退避する途中のヒソカの胴をクライストの切っ先が僅かになぞる。
「ふむ、今ので生きているか。大したもんだ」
「ククク……光栄だね♥ でも僕を殺したらクートが失格になるけどいいのかい?」
「うーん? お前は俺に殺す気でして欲しいだろ?」
「ああ、そうだよ……♧」
「なら、いいじゃん。細かいことは気にするな」
クートは何故か、それ以上の追撃はせずに飛び退いたヒソカを眺めながら、懐に手を入れて何かを探しているため、その間にヒソカは一文字に斬られて少なくない血が流れる胴体の傷にオーラで止血を済ます。
「すげぇ……ヒソカをあんなに子供みてぇに……」
「あ、ああ……これがクート盗賊団首領クート・ジュゼルか……」
外野でクートと関係はあったが、クートの戦闘はほとんど見たことのないレオリオとクラピカが思わず、そう呟いた。
(速い……何もかもが速すぎる……なるほどこれは異次元の使い手だ♧)
クートの
四次試験の時点でクートの身体能力と技量は知っており、食事中に
具現化物を具現化する速度がおぞましく速く、オーラを集めてから具現化するまでのプロセスが0.1秒を切り、最早視認できない域まで達しているのだ。故にクートは近接戦闘中にいつでも武器を消し、今のように対象に触れる直前に具現化することが可能なのである。
あまりに微細なことであるが、それによる戦闘でのアドバンテージは暴力的なまでに高かった。
(槍を具現化されてたら死んでたね僕♦)
ヒソカはやや自嘲気味にそう考え、イルミが己にとっての"ショートレンジの絶対強者"と評価していた理由のひとつはこれかと思い当たる。
そして、二つ目の理由はオリハルコンの武器。イルミがオリハルコンの針を持ってはいるが、ヒソカがオリハルコンの武器を持つ者と戦うのは、これが初めての経験であった。
(なるほど……延べ棒ひとつで国や組織が戦争になるわけだ♤)
念能力者は、最終的に肉体同士で打ち合うことになりやすいためと、奪われたときに戦闘力が落ちるため、素手で戦う者が多い傾向にある。また、周で武器にオーラを纏わせても、結局のところ、肉体で打ち合えてしまうという理由もあるだろう。
しかし、オリハルコンの武器と対峙して初めてヒソカは気づかされた。それは到底素手で触れていい物体ではないことに。
あまりに硬く、あまりに鋭く、あまりに武器として完成し過ぎている。よほどに莫大なオーラでも持っていない限りは、触れるだけでも危険。
無能力者が銃を持つように、これは念能力者のための武器。正しく念能力者を殺傷する道具。これがあるかないかで、戦局はまるで変わる。
無敵とまで弟子に言わしめる具現化速度と近接戦闘技量を持っているクートという存在が、オリハルコンの武器を持っているのは、正に竜に翼を得たる如しだった。
「これ、使ってみろ」
「……?」
クートは懐からミニアタッシュケースをふたつ取り出し、ヒソカに投げ渡した。意図はわからないが、ヒソカがミニアタッシュケースを開けると、そこには黒い材質に金色で絵が描かれた一組のトランプセットが入っていた。
「これは……」
「柔軟性は紙のようにしなやかで、とても滑りがよくてシャッフルもしやすい。そして、オリハルコンの強度を持ち、紙らしく使い方を間違えればよく手も切れる」
それを見たヒソカが目を色を変えると、クートはそう語った後に、溜め息を吐いた。
「要は作ってはみたが、実際持つと自傷のリスクも相応にあるため、誰も使えなかったオリハルコンのトランプ――名前はジークフリート。というか、よほどトランプに精通して、手先の器用な奴にしか渡せないからな」
「僕がクートのお眼鏡に適ったってこと……?」
「ははは、いや。それをこれから判断するのさ」
クートがクライストを構え、一歩でヒソカの眼前に迫ると上段から振り下ろす。
ヒソカはオリハルコンのトランプを全て宙に放り、もう片方の手で幾つかのバンジーガムで縦に張り付けて並べると、剣のようになったトランプでクライストを受け止めた。
凄まじい金属音と共に火花が舞い、ヒソカの足を中心に石畳が大きく陥没したことが、想像絶するクートの斬撃の威力を物語る。
だが、それでもヒソカはクートの一撃を受け止めていた。鍔迫り合いをしたまま、クートは感心した様子で口を開く。
「…………君の
「君に言われるとほとんど嫌味だねぇ……消してもう一撃、見舞えば僕死んでたでしょ?」
「そしたら、俺が面白くないだろ?」
「違いないね。けど――」
ヒソカは笑顔で言葉を区切ると口を開いた。
「それが命取りさ♧」
次の瞬間、クートの眼下にはらりと降って来るものがあり、それはジョーカーのオリハルコンのトランプだった。
「――」
何かを理解したクートは行動を起こそうとするが、既に遅い。天井に張り付いた30枚を超える数のオリハルコンのトランプが、バンジーガムを介して全てクートの全身に繋がっており、まず最初の1枚がクートの体に突き刺さる。
ヒソカは最初にトランプを撒いたときに天井に違和感のない数を振り付け、鍔迫り合いをして会話をしている最中に、仕込みをしたのだった。基本的にあらゆる状況において、警戒と凝を怠ることはないクートであったが、ほぼ密着した状態で、視界外で仕込みを行っていたことには気が付かなかったのだ。
続けて断続的にトランプが全身に刺さり続けて行動をある程度阻害し、それによって生まれた隙にヒソカは地面に落ちたトランプをバンジーガムで引き寄せ、鍔迫り合いをしている手とは逆の手にトランプの剣を作り、クートの首を狙う。
クートはクライストを消す――のではなく、もう片方の手に2本目のクライストを具現化して、ヒソカをトランプの剣を受けるために動く。
(数の制限はないのか。けれど彼を殺るには今しかない♤)
特に一本しか出せないとは言っていなかったため、そう言うことだろう。しかし、ここまでの事態は想定内だった。
クートのクライストとヒソカのが接触する寸前、ヒソカの手からトランプの剣が離れ、不自然にクートの首へと弾け飛ぶように直進する。
ヒソカはトランプの剣を作った時点で先端からバンジーガムを伸ばし、クートの首に貼り付けており、今それを解き放ったのだ。
対象を失ったクライストはヒソカの腕を通り過ぎ、ヒソカは片腕を喪失するが、互いにそれに目を向けることすらない。
しかし、クートは恐るべき反応速度で、両手のクライストを消して、手首を自身の首に向けて傾け、両手に再びクライストを具現化しようとしており、既にオーラが収束している。度重なる攻撃により、若干具現化速度が落ちているが、それでも具現化されたクライストによってトランプの剣についたバンジーガムは断ち切られるだろう。
(ここだ――!)
そして、クートのその行動を待っていたヒソカは、トランプで攻撃が始まってからクートから自身に貼り付け続けていたバンジーガムを全て引き寄せ、自身の足にほぼ全てのオーラを集中させ、その場に死力を尽くして留まった。
それにより、たった少しだけ、クートの体はヒソカが思い描いた通りに動き、手首の向きと角度を少しだけ変え、体が上半身だけヒソカへと引き寄せられる。
そして――。
次の瞬間に具現化された2本のクライストがハサミのようなギロチンとなり、クートは自分自身の首を刎ねた。