WHITE×CAT   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

BLACK CATならこの娘出さなきゃ……(使命感)






神の吐息

 

 

 

 第287回ハンター試験から遡り、20年以上前の話。一人の女が鉄と湿った臭いの充満する薄暗い施設の中を歩いていた。

 

「~♪」

 

 女はキョロキョロと辺りを見回しながら、鼻歌混じりで歩き、歩く度に鈍い色をした何らかの金属でできた床に足音が反響する。

 

 そして、その女は片腕が剣と一体化し、異形の腕になっている――クート盗賊団首領クート・ジュゼルその人であった。

 

 何故か剣と一体化していない方の手には、100円ショップに置いてあるような掌に収まる小さな鉢植えを持っており、何かの植物の芽が一本生えていた。

 

「……ん?」

 

 するとクートの前方から、頭部が黒いボールあるいはアボカドなどの植物の種子のような見た目の何かに見え、それ以外は達人クラスと言えるほどのオーラを纏った人型の姿をしている数体の存在が現れた。それを見た彼女は、眉間にシワを寄せつつ呟いた。

 

「また貴方たち? しつこい男は嫌われるわよ?」

 

 軽口を叩くクートに数体の人型の何かは飛び掛かり――即座に振るわれた異形の剣により、それぞれが10以上のパーツに分割されて地面に転がった。

 

「本当に雑草みたいねぇ……」

 

 クートはそう言って肩をすくめ、残骸と化しているハズの人型の存在を一瞥する。すると、それらは次の瞬間には、"白煙のようなもの"を上げながら近くのパーツとパーツが繋がり、パーツが遠い場合は生え直して、全身を完全に再生させた上で立ち上がる。

 

 また、離れたパーツは新たな個体となっており、全体の数は倍以上に増えていた。

 

「"植物兵器ブリオン"……本当に面倒――」

 

 そう呟くクートに対して、その場にいる20体以上の五大災厄のひとつ、ブリオンが襲い掛かり――。

 

 

「イチイチ、全部細切れにする身にもなってくれないかしら?」

 

 

 クートの剣がブレた次の瞬間、ブリオンらは近い個体から次々と肉片が0.5cmにも満たない大きさに粉砕されて崩れ落ちる。そして、1秒にも満たないうちに全てブリオンは塵のように変えられてしまった。

 

 積もった肉片から白煙が上がるが、それ以上のことは起こらず、塵のように消え失せ、念の効果を含んでいたのか、全ての個体はその場から跡形もなく消滅した。

 

「うふふ! さーて、この都市には何があるのかしら!」

 

 誰に言うわけでもなく、そう言って再び鼻歌を口ずさみながらブリオンの守る古代都市の深部へと突き進むクート。進む度に増えるブリオンの個体が、彼女を阻むが、文字通り処理され、施設内の隔壁は全て破壊されるため、彼女を阻むものは何もなかった。

 

 彼女の目的は際限なく再生し、数の非常に多い五大災厄のひとつである"植物兵器ブリオン"の先にある"万病を治す香草"ではなく、ブリオンのいる古代都市そのものである。

 

『暗黒大陸の古代都市なんてロマンじゃない!』

 

 むしろ、彼女が暗黒大陸行きを決意した理由はたったのそれだけ。始めから五大災厄や希望(リターン)にはあまり興味がない。また、非公式に来ているだけでなく、海岸に停めてある自身が保有する大型船の船員代わりに連れて来た団員は全て船に残してこの古代都市に来たため、探索者もクートたった一人だけであった。

 

「あら? ここが最深部かしら?」

 

 そうして、遂にクートは古代都市の最深部へと到達し、極めて広い部屋の中心に、サーバーのように隙間から光が零れ、駆動音を響かせる巨大な装置が置いてある部屋に辿り着いた。

 

 なんとも殺風景な有り様にやや落胆するクートであったが、サーバーに近い床にひとつだけ設置されていたハッチが競り上がり、それは培養槽だということに気づく。

 

 "スペシャルなブリオンでも出てくるのかしら?"と攻撃をせずに中身が出てくるまで目を向けて待っていると、開かれた培養槽から出て来た明らかに他のブリオンとは違う人間らしい容姿をした人型の存在に驚く。そして、何よりもその"容姿"にクートは目を大きく見開き、口を開けていた。

 

 そして、嬉しくて堪らないといった様子で、目と口の端を歪めて口を開く。

 

「なるほど……植物兵器ブリオンの不自然な再生能力に、万病を治すだなんて眉唾物もいいところな不自然な植物……タネはそういうわけだったのね」

 

「………………」

 

 クートの言葉に対峙するその存在は答えない。というよりも酷く無機質で機械的であり、

 

「いいわ! 私、貴方が欲しくなっちゃったから盗むわね! それと……これで"G・B(ゴッド・ブレス)"が作れるわぁ!」

 

 クートは歓喜の声を上げ、次の瞬間にクートと人型の存在は衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にクートは鉢植えで持っていた万病を治す香草を人間の世界に持ち帰った。そして、古代都市からは、クートが交戦した人間に近い存在と、サーバーから"ナノマシン技術"を盗み出し、それら3つを元に"G・B(ゴッド・ブレス)"の発現に至ったのである。

 

 蛇足だが、クートが鉢植えで持っていた万病を治す香草は、現在ではクート本人と一部の残党や友人以外には知られることなく、ひっそりと自宅の庭に生え――てはおらず、暖かい季節になるとミント並みの繁殖力でジュゼル家の庭を埋め尽くそうとするため、毎年香草を引き抜いてはまた生えないように焼却処分するクートの姿や、二日酔いを治す薬代わりにジンが時々引き抜きに来る様子が見られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ――ああ……あ……あるじざまぁぁ!?」

 

 ゾルディック家を後にし、ククルーマウンテンから近いデントラ地区にあり、()が借りた最もランクの高いホテルの最上階のスイートルームに戻ると、真っ先に涙を流したピトーが抱き着いてきた。

 

「よしよし、ただいま」

 

「えへへ……お帰りなさいニャ」

 

 撫でるとピトーは心底愉しそうな表情で目を細めていた。相変わらず可愛らしい俺の猫である。

 

「あれ? クートさん戻ったんだ」

 

「マジか!?」

 

「本当だ!?」

 

 するとリビングルームにいたゴンくんとレオリオくんとクラピカくんも寄ってきた。()が二人にもとんでもないこと言ったよなぁ……。ゴンくんには比較的優しかったけど……その理由は伝えるべきだよなぁ……。

 

「……なんかもう色々悪かったな」

 

「念能力って言うヤツのせいなんでしょ?」

 

 相変わらず澄んだ目でそう言うゴンくん。その言葉に泣きそうになるが、40代の男の涙を10代前半の子供に見せるのは恥ずかし過ぎるため、頑張って耐える。

 

「念について教えてよクートさん!」

 

 そうしている間にゴンくんがそんなことを言う。なんかもう、ゴンくんに渡した紙とか無駄になった気がするが、()が試しの門を斬ったり、投げたりして念の説明を触りだけしやがったので、むしろここまで来て教えないのは逆にないだろう。

 

 そこまで考えてゴンくんら三人が、三人しかいないところが気になった。

 

「それはいいのだが……キルアくんはどうした?」

 

「3~4日後に家を出て、俺たちと合流するって」

 

 どうやら、ハンター試験が終わり、そのままの足で()が試しの門をぶち抜いてゾルディック家に行ったせいで若干早過ぎたらしい。それに彼らから試しの門を開ける機会を奪ってしまったとも言える。本当に()は気を多少は使える癖に考え方が極端だから嫌になるな。念能力者になるにしても、攻撃力に直結するので、全員が第二の扉を開けられるぐらいには筋力をつけたいところだろう。

 

「それなら……キルアくんが来てから全員で念の説明はするということでいいか? 仲間外れにしたらキルアくんなら拗ねるだろう」

 

 そう言うとその様子が想像できたのか、皆一様に笑った。そして、俺はトレーニングメニューで使う道具に何を使うかに当たりをつけながら口を開いた。

 

「じゃあ、それまでは筋トレでもするか」

 

『「「筋トレ?」」』

 

 三人の疑問符を声を聞きつつ、三人に行うメニューを考えながら、そういえばパドキア共和国の周辺にクート盗賊団の残党が一人住んでいたことを思い出し、念の参考に呼ぼうかと考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、始めるぞ」

 

「ニャ!」

 

 翌日の早朝。朝陽が登った直後にゾルディック家方面の森の中にある開けた場所に全員で集合していた。三人が対象の筈なんだが、何故かピトーの一番元気なお返事が聞こえ、大変可愛らしい。

 

「まず、昨晩神字を刻んだ、このトレーニングウェアーに着替えてくれ」

 

「神字とはなんだ?」

 

「神字って言うのは、少し時間をかけて術者が場所や道具等にオーラを込めた字を書くことで、自身の能力を底上げする手段にしたり、書いた対象にプログラムを組み込んだり、性質を少し変えたりできるようにする方法のことだ。オリハルコン加工で性質を弄る上での基本でもあるから、俺の技術はちょっとしたものなんだぜ?」

 

 三人のサイズに合った長袖のジャージと、なんとなく作っておいたピトー用のジャージを着るように促すと、クラピカくんから疑問の声が上がったので神字の説明をしておいた。

 

「よくわかんねぇけどわかっ――」

 

 そして、真っ先にブルーシートの上に置かれたジャージをレオリオくんが一番最初に手に取ろうと片手で持ち上げようとして――前のめりに体勢を崩した。

 

「な、なんだ……これシートに張り付いてんのか?」

 

「ふふっ、面白い冗談だな。単純に350kgあるだけだよレオリオくん」

 

「へー、さんびゃく――350キログラムぅ!?」

 

 レオリオくんはとても驚いた様子で口を開いた。うーん、思った通りだったかなぁ……。

 

「やっぱり軽過ぎたかな? 500kgぐらいからスタートの方がよかったよねぇ。1トンぐらいまでなら、神字を追加で刻めば弄れるからいつでも言ってくれていいぞ」

 

 何せハンター試験を抜けてきた方々なのだから、手心を加える方が失礼だっただろう。そう言うと、目を点にしていた全員の目に決意の光が灯り、ジャージを着始めた。

 

 うんうん、やっぱり皆素直でいい子たちだなぁ。

 

「主様のそういう無自覚なところが、女性の方のアレになったんですね……」

 

 何故かピトーが頬を膨らませながらそんなことを言って腕を絡めてくる。特に理由はないが、やりたくなったので、膨らんでいるピトーの頬を指で押すと空気が抜けた。可愛いなぁと考えていると、半眼でこちらを見てきたため、これぐらいにしておこう。

 

 

 

 その後――。

 

 

 

「~♪」

 

『――――!?』

 

「慎みたまえピトーちゃん」

 

 突然、野郎四人の前で普通に脱ぎ始めたピトーというアクシデントがあった。しかし、そう言えば、家には俺しかいないので、慎みというものを教えていなかったことを思い出したが、全員がジャージを着ることができた。

 

「お……重――!?」

 

「これは……かなり来るな……!」

 

「だね!」

 

「僕の薄紫で可愛いジャージだニャ♪」

 

「よし、じゃあ、筋トレを始めようか! ひとまず、腕立て伏せ、腹筋、背筋、それから各自で自由に鍛えたいことをひとつな。1000回ひとセットで、午前中は12セットやるぞ! 1セットごとの休憩は3分だ。あ、動けなくなったら、G・B(ゴッド・ブレス)で動けるようにしてやるから安心してくれ」

 

『「「………………え?」」』

 

「はいですニャ!」

 

 まずはそれぐらいで十分だろう。基礎をつけることは何よりも大事だからな。腱が切れようと、腕が引き千切れようと、ゴッド・ブレスで治してやれるから安心して取り組めるしな。

 

 こうして、4日に及ぶ筋トレの日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った……」

 

「ようやく終わったな……」

 

「クートさん、このジャージ貰っていい?」

 

「うん? 元からあげるつもりだぞ。ただ、重たいから、持ち運びに不便だろうし、住所とか教えてくれれば、俺がそっちに発送しておくよ」

 

「なんでお前らそんな疲れてんの……?」

 

 4日目の夜にキルアくんが来たので、筋トレはそこでお開きになった。1週間ぐらいやれば第二の扉とは言わず、第三の扉ぐらいまで開けれるポテンシャルを3人は秘めていたようだったので、少しだけ残念である。

 

「よし、それじゃあ、キルアくんも来たことだし、念の説明をするか!」

 

「念? なにそれクート?」

 

「はーい、ジュゼルです」

 

 その説明を説明することをキルアくんに伝えていると、フロントから電話が掛かってきたようで、ピトーが対応していた。そして、少し話した後に電話を切って、俺の方に振り向く。

 

「フロントから主様へのお客さんが来てるってことだったから通しておいたよ」

 

「ああ、やっときたのかアイツ」

 

 まあ、女の子は色々と時間が掛かるものだと、()も常々言っているので、そういうものなのだろう。知りたくはないが、よく知っている。

 

「誰が来るの?」

 

「俺とピトーだけじゃ、念能力者のイメージが偏るかも知れないから他の念能力者だ。俺の盗賊団の残党のひとりで、今……えーと、20代半ばぐらいの年齢かな?」

 

「へー、そうなんだ」

 

「クート盗賊団の残党ぅッ!?」

 

「にしては随分、若いのだな」

 

「いや、だから念能力者ってなんだよ?」

 

 あの()は、暗黒大陸から拾ってきた時の年齢が0歳で考えるので、その歳で正しい。というか、そう扱わないとハンマーで殴られる。

 

 そんなことを思い返していると、このスイートルームについているインターホンがなった。俺とピトーに続いて、4人も玄関に向かう。そして、ゴンくんに玄関を開けてもらうようにように頼み、彼がドアを開けるとそこには――。

 

 

「………………」

 

 

 ゴンやキルアと同じか少し上程の年齢に見える"長い金髪で胸に十字架の装飾があしらわれた黒い服を着た少女"が立っていた。少女は無表情で、目を半分だけ開いており、そのせいか若干不機嫌そうに見えなくもない。

 

「えっ……?」

 

 どう見ても20代には見えない容姿に俺とピトーを除く4人は言葉を失っている。そして、数秒の時が流れたため、俺の方から声を掛けることにした。

 

「"イヴちゃん"。悪戯しないの」

 

「ふふっ――」

 

 そう言うと少女――イヴの体が淡く発光し、体格が大きく変わり、急激に成長する。具体的に言えば身長が144cmから167cmに変わり、体型が36kgから58kgに変わった。この身体情報はイヴちゃんに知れたら、半年ぐらい臭いお父さんを見るような目で見られそうなので、墓場まで持っていく所存である。

 

 そして、最後にポケットから眼鏡を取り出して、それを掛けると優しげな笑みを浮かべて、彼女は口を開いた。

 

 

 

「こんばんは、私は"イヴ"。よろしくね」

 

 

 

 彼女は暗黒大陸の古代都市にいたブリオンの最上位種のナノマシン兵器であり、すっかり人間らしく、色々と大人っぽくなり、()に育てられて奇跡的に真っ直ぐ育った昔はBLACK CATのイヴ、今は成長してルナティークと瓜二つの女性である。

 

 






~クート盗賊団残党~

・イヴ
 その昔、暗黒大陸からクートが拾ってきたやたら可愛いブリオン。植物由来で量産型のブリオンとは異なり、人由来の何らかの存在がベースのエース個体であり、ナノマシンの性能が極めて高いため、ブリオンの最上位種。クートと接しているうちに自我が芽生え始め、クートを反面教師にして育ったため、クート盗賊団でも指折りの常識人。戦闘能力は王直属護衛軍よりも低いが、原作よりもナノマシンの再生能力が遥かに高いため、異常な生命力を持つ。
 男のクートからはイヴちゃん、女のクートからは姫っちと呼ばれており、イブにとっての二人の認識は両親に近い。名前をイブにするか、ヤミにするかでクートは一週間悩み、ヤミの本名もイブなので、イブという名前を付けられた。好物は、やたらクートに与えられたためにタイヤキ。

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