感想・評価ありがとうございます。大変励みになります。待っていて下さった方々がこんなにも多く困惑すると共に今度こそは完結させねばという決意になりました。本当にありがとうございます。拙い小説ですが、楽しんでいただければ幸いです。
※ピトーちゃんの時系列についてはキメラアント編までいかないと解決が出来ませんが、これだけは言っておくと、ピトーはネフェルピトーそのものです。ぶっちゃけ、その辺りはネフェルピトーっぽいものを愛でるだけの小説なので、エロ同人並みに雑な設定だと思ってください(オイ)
「ついたニャ!」
快晴の空の下、ピトーはスキップしながら歩き、その場で一回転して止まった。何故か妙なポーズを決めており、よくわからないが大変可愛らしい。
「そうだな。えーと……ツバシ町の2ー5ー10は……」
俺はと言えばナビゲーターから渡された用紙に書かれた住所と、添えられた店名を交互に見つつ、やや渋い顔をしていた。
そこにあったのはただの定食屋である。一見すると――いや、じっくり見ようとも完全に定食屋である。どこの町にでも探せば2~3軒は見つかりそうな普通の個人経営の食事処にしか見えない。カモフラージュにしてもハンターの洞察力を試すとか、そういう以前の問題なような気もするが、予選も意味がわからないと言えば意味がわからないような内容だったので、深くは語るまい。
「おじちゃん、ステーキ定食2つ」
「へい、焼き加減は?」
「弱火でじっくり」
店先でそんなことを考えているとピトーが先に入って合言葉を言っていた。それを追って店に入ると店主から奥の席に通され、ステーキ定食が2つ置いてある部屋に通された。
するとすぐに扉が閉まり、部屋が下に動き出す浮遊感を感じる。どうやらエレベーターだったらしい。
「主様? 食べないと冷めますニャ」
「あ、ああ……」
展開の早さに多少困惑していると、いつの間にか席についていたピトーがフォークとナイフを手にして俺を待っていた。
うーん、この順応力の高さ。俺よりピトーの方がよっぽどハンターに向いてそうだな。
そんなことを考えながらエレベーターの壁に、持ってきていた神字の刻まれた大型のキャディバックのようなものを立て掛けてから席に座り、ステーキ定食を食べ始めた。
「主様……それ全部持っていく必要はあったんですかニャ?」
「仕事に必要だからな」
「屋敷に留守番を置いたのに、ソレは持って来るのは謎ですニャ……」
ピトーがジト目で壁に立て掛けたキャディバックを眺める。言いたいことはわかるが、その中には俺の今の商売道具――オリハルコン鉱石から精製した純粋なオリハルコンが全て詰まっている。
たったそれだけの量に感じるかも知れないが、それほどまでにオリハルコンは貴重なのだ。故に誰かに管理させて奪われでもしたら、色々とやりきれないというものだ。ので、オリハルコンの管理だけは俺自身の手で行うように徹底している。
「ところでステーキ定食の味の感想は?」
「焼き過ぎニャ。この肉自体はそんなに悪くないから、火を弱めるか、半分くらいの時間で十分ニャ。弱火でじっくりは合言葉の建前だとしても、せめて食材の扱い方ぐらいはしっかりして欲しいですニャ。それよりも何なのですかニャ、この付け合わせの雑なサラダは――」
そんなことより、最近、ピトーの食に対する姿勢が奥さんから料理人のそれになり始めており、なんとも複雑な気分である。美食ハンターでも目指すのだろうかと考えたが、そう言えば猫の頃も無茶苦茶、餌の選り好みをしていたので、特に変わっていないのではないかという結論に至った。
◇◆◇◆◇◆
「あ、クートさん。お久し振りです!」
「おお、ビーンズくん。久し振り、元気だった?」
「はい、お陰様で。ですが、募る話はまたの機会に。これはここからの受験票代わりのナンバープレートです」
「どうも、お仕事お疲れ様」
「………………なんですかニャ、今のスーツ姿のマメは?」
「ん? ハンター協会の会長のネテロさんとよく一緒にいるビーンズくんだな。俺もよくは知らん……ソラマメの魔獣なのかな?」
十二支んとかハンター協会にはコスプレもといキャラ作りに精を出している方々もいるので、ビーンズもそっちのタイプかも知れないな。いや、でも背丈が幾らなんでも……まあ、今回のハンター試験には何も関係のないことだ。
ピトーの分を合わせて2つ受け取ったナンバープレートは、399番と400番だった。さんきゅっきゅっとキリ番。なんか前者の方が響きが可愛いのでピトーに渡そう。
ピトーに399番のプレートを渡すと、いつも着ている黒紫色のシャツの胸に付けた。俺も400番のプレートを付けておこう。
「うーん、無能力者ばっかりですニャ……」
少しガッカリしたような様子で回りの受験者達を見回すピトー。まあ、そう言いたい気持ちはわかるが、念能力は秘匿されるものなので仕方のない事だろう。それにハンターの多くはハンター試験を通過してから覚えるものらしいからな。
「だから才能のありそうな奴を探す方が楽しいぞ」
「ニャるほど……それなら――」
ピトーが家に来て、はや3ヶ月。俺がピトーに念について教えることもほとんどなくなったので、才能のある無能力者の探し方を教えていた。
まあ、来た初日から教えることがそんなにあったのか問われると何も言えなくなるが、その辺りはお口にチャック。
ジリリリリリリィィ!!!
「ニャっ!?」
無能力者を暫くピトーと眺めていると、突然目覚まし時計のような音が響き渡り、ビックリしたピトーがネコミミを手で押さえる。猫は音に敏感なのである。
すると、いつの間にかトンネルの壁の一部が開いており、配線の上に薄紫色の髪をしてスーツを着た口髭が特徴的な紳士が立っていた。
「では、これよりハンター試験を開始します」
ハンター試験の試験官とおぼしき男性から目を離し、伸びをして肩を鳴らす。そのうちに試験官は歩き始め、そのまま注意事項と"ついてくること"というそれだけの一次試験内容を説明し、受験者たちは後ろを追い、ピトーと俺もそれに続いた。
◆◇◆◇◆◇
一次試験の前半はトンネルの中を試験官についていくものであり、途中から階段に変わったが、ピトーと俺に問題があるわけもなく通過した。
そして、一次試験の後半。場所は詐欺師の塒と呼ばれるヌメーレ湿原に移り変わった。試験官が話をしている最中に試験官を名乗る猿が乱入してくることがあったが、奇術師のような男性念能力者がトランプを投げて解決してくれたので、特に問題なく過ぎ、試験官の2m後ろをピトーと走っていた。
何故かピトーは試験官と同じ歩き方で着いていっており、ピトーがするととても絵になって可愛らしく見える。
しかし、それどころではない。今は緊急事態なのである。
「
「ルービックキューブ」
「ブルー」
「
「リール」
「る……るか」
いかん……走りながらやることが無さ過ぎて、一次試験の後半からピトーとしりとりを始めたのだが、執拗な"る"攻めで負けそうだ。なんでこんなところに知恵がついてるんだピトー……。
「…………クート・ジュゼル様ですね?」
「ん? ああ、そうだな。元特Aクラスの賞金首、クート・ジュゼルだ。練でもして見せようか?」
「い、いいえ……遠慮しておきます。なんといいますか……想像していた方とは違いますね」
「ははは、ハンターからはよく言われるよ。随分、若く見えるともな。もう、40超えてるんだがな」
一次試験の試験官――サトツさんから声を掛けて来たので、渡りに船と見てしりとりを止めて、そちらに対応した。
サトツさんは若干冷や汗を流しているように見えた。まあ、自身の十倍を遥かに超えるであろうオーラ量の人間に真後ろ2人で追われてよい気分はしないだろう……よく数時間も耐えたなこの人。
ふと回りを見ると、他の受験者はピトーと俺から10mほど間を開けて後ろを走っている。とすると今なら話しても特に問題はないか、受験者らも試験官の背中を追うので必死の形相だしな。
「で、俺に話し掛けてきたということは昔話でも聞きたいのか? 盗賊行為、盗品、団員の所在、オリハルコン、俺の念能力、俺を倒した男――」
ひとつずつキーワードを挙げていくと、途中でサトツさんが僅かに反応を見せたため、それについて話す事にする。
「なるほど……じゃあ、ジン=フリークスについて話そうか」
「…………私もまだまだ修行不足ですね」
そうは言うが、理由でもなければ好きで俺に声を掛けてくることはないだろう。また、見たところ、ブラックリストハンターではない。ならば俺が持っている情報の中で何かを聞きたいのだろう。
「いえ、ハンターでも一握りしか知り得ない方の情報を、そう易々と聞くわけには――」
「硬いこと言わないの。今では年に数回は飲みに行くような関係だしな」
「…………はい?」
「不思議だよな、俺もそう思うよ。だが、そういう奴なんだよアイツはさ。それに友人とは、出会いとは、元より数奇で唐突なものだろう? それにアイツが
"ここから先は俺の独り言"と念を押してから、二次試験会場につくまでの間、ジンという友人についての話をサトツさんにして過ごした。
ちなみにピトーは俺が他者と話しているときは文字通り、借りてきた猫のように大人しく話を聞いているので安心である。
◇◆◇◆◇◆
二次試験は青空の下でクッキング、お題は豚の丸焼き。
これだけ言うとさっぱりわからないが、その通りなので仕方ない。二次試験会場は屋外にキッチンが設置された場所で、二次試験官は美食ハンターのメンチさんとブハラさんが担当し、実際にその試験課題を出されたのだ。
ちなみに太めで大柄の男性がブハラさん、緑髪で水着のような布面積の服を着ているチャンネーの方がメンチさんである。
「じゃんけんで負けた方が豚を2頭獲って来るニャ」
「おうよ、じゃーんけーん――」
そして、俺が負けたので森へ戻り、豚を探すとすぐに見つかった。2m以上の体格で鼻が盾のようになっており、妙に丸っこくアニメのように鮮やかなピンク色の豚である。
「グレイトスタンプだったかな……?」
生物図鑑で見た覚えのある豚だった。確かかなり凶暴な豚だった筈だが――などと考えていると豚がこちらを目視した瞬間、親の仇でも見つけたかなような鋭い目で、まっしっぐらに突撃してきた。
どうやら図鑑の表記に偽りはなかったらしい。
『ぷぎー!』
眼前に迫る巨大な豚。うーん、大迫力だな。
俺は足に力を入れて衝突に合わせるように身を固めた。
『ぴぃ゛っ!?』
「まあ、無能力者……もとい豚じゃこうなるわな」
俺に突進してきたグレイトスタンプは、俺に直撃すると鉄柱にでも激闘したような衝撃を受けたようで、そのまま頭を打ってお亡くなりになられた。
「もう一頭は……」
足元の小石を拾い上げ、小石に周をする。そして、50mほど離れた位置にいる、まだこちらに気づいていないグレイトスタンプの一頭のこめかみ目掛けて投擲した。
小石は容易くグレイトスタンプの頭蓋骨を横から貫通し、何が起こったのかすらわからない様子で永遠に沈黙する。狩りは恐怖を与えずに殺らないと味も落ちるし、食への敬意にも欠けるからな。
「すっげー! 今のどうやったの!?」
「……ん?」
グレイトスタンプを一頭片手に担ぎ上げ、その上に更に一頭乗せて、ピトーの待つ調理場へと戻ろうとすると、緑の服を着て釣り竿を持ち、ツンツン頭の少年に呼び止められた。澄んだ綺麗な目をしており、見られているだけで悪人の俺は浄化されそうである。
「…………ああ」
一撃で終わらせるために念を使って仕留めたが、無能力者から見ると、微動だにせずにぶつかったグレイトスタンプが死んだり、どこにでもある小石を軽く投げて殺したりと、超絶技量か、超能力かのどちらかのような状況に見えただろう。
はてさて……どう言い訳したものかと思いながら少年を眺めていると、少年からうっすらと垂れ流されているオーラの質を見て確信した。
この子は1000万人にひとりの逸材だと。ここまでの才能を持った人間は、俺が生きてきた中でもほとんど見たことがない。
ならば下手に取り繕う必要もないと考え、少年の頭に手を乗せて少し撫でてから手を話した。
「プロハンターになれば、君もすぐにできるようになるよ。だからヒ・ミ・ツ」
「そうなの!?」
「その代わりに、お近づきの印として豚一頭あげようか?」
「ううん、自分で獲るよ! ありがとう!」
それだけ言って少年は元気に駆け出して離れて行き、見えなくなりそうなときに一度振り返って手を振ってきたので、俺も小さく振り返した。
しかし、何故だろうな。あの目、あの笑顔、あの雰囲気……俺をぶっ倒したどこかの誰かさんにそっくりだったような気がするのだが……。
「……幾らなんでも少年に失礼だな」
他人の空似だと結論付け、ピトーの待つ調理場へと戻った。
尚、帰る道中で豚を自力で獲れ無かった受験者数人に襲われたが、少しオーラを浴びせてやると失神するか、奇声を上げて逃げ出したので、今のところハンター試験では誰も殺していない。
うん、お外ではあまり人殺しをしてはいけないことをピトーに説いている手前、俺が殺すわけにはいかないからな。
※主人公とピトーちゃんは半ばピクニック気分なので、原作主人公たちと関わるのは三次試験からがメインです。