WHITE×CAT   作:ちゅーに菌

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二次試験

 

 

 

「二次試験後半、あたしのメニューはスシよ!!」

 

 

 二次試験の前半にブハラさんが70頭のグレイトスタンプを食べ終え、後半はメンチさんが担当したところ、お題はこれである。

 

「こんなジメジメした湿地帯で寿司……やるならせめて海の近くにしなきゃ試験にならないニャ」

 

「一応、寿司にしても色々あるしな」

 

 どちらかと言えば寿司という題材は重要ではなく、料理を通して観察力や注意力を見ているのだろう。机の上には箸と、小皿に入れられた醤油が置いてあるし、ヒントとして握り寿司とも指定された。そこから、魚を捌いて一口大のご飯に乗せた物を導き出せれば、それでいいのではないだろうか? 

 

「まあ、そうなると答えを知っている俺たちはちょっと狡いから凝った物にして、終わりの頃に出すか」

 

 調理場で調味料を確認しておくと、醤油などだけでなく昆布と鰹節が置いてあった。ふむ、出汁は取れるな。それなら作る幅が大分広がる。

 

「そうしますか? じゃあ、僕は川に行って来ますニャ」

 

「そうか、俺は森と――」

 

 ふと周囲の景色を見渡すと、中央で真っ二つに割れた岩山があるのが遠くに見えた。ここはビスカ森林公園だそうなので、あれがマフタツ山という場所だろうか。

 

「卵を採ってくる」

 

 そう言って俺とピトーは一旦別れて、互いの欲しい食材を採りに行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「おかえりニャ主様」

 

「ただいまピトー」

 

 30分程で帰って来ると、ピトーは既に調理場についており、1匹の魚を捌き終わっていたようで、白身の魚だということしか既にわからない状態であった。しかし、他にも2~3匹獲ってきていたようで、見れば丸々としたナマズだということがわかる。

 

「ほーん、ナマズか」

 

「ナマズは漁師の間でのスタミナ食で、その味は鰻と比べても引けをとらないほど美味しいんですニャ。まあ、そもそも泥臭い川魚は刺身にはあまり向かない上、こんなところの川魚なんてたかが知れてますし。それなら生食は諦めて、どこにでもそれなりにいるナマズの焼き寿司が無難ですニャ。でも、別に川魚のスシが食べれないわけじゃなく、この湿原の川魚は清流の川魚と比べれば遠く及ばないだけですニャ」

 

「へ、へぇ……」

 

 好きなモノを語るとき、人間って早口になるよなぁ……やっぱりピトーはグルメにゃんこだなぁ。

 

「主様は何を?」

 

「ああ、ひとつ目はマフタツ山に糸を張って外敵から卵を守るクモワシの卵。美味しいと聞いたことがあるので普通に食べたかった」

 

「そうですかニャ!」

 

 入れ物がなかったので、戸棚に入っていたキッチンの排水溝用ネットを代用し、それに目一杯詰まったクモワシの卵をピトーに見せると、目を輝かせていた。ピトーは食べるのが好きだな。

 

「森の方は?」

 

「キノコと川エビ」

 

 これまたビニール袋一杯に詰まった食べれるキノコ類と、何尾かのテナガエビを見せると、ピトーはポンと手を叩いて閃いた様子だった。

 

「エビは思いつかなかったですニャ!」

 

 まあ、寿司って言われたら真っ先に赤身魚とか、光り物が思い浮かぶものな。

 

「………………キノコは何に使うんですかニャ?」

 

「んー、出来てからのお楽しみ」

 

 そして、俺とピトーは寿司のようなものを作り終えてから試験官に持って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナマズの焼き寿司だよ」

 

 メンチは寿司の作り方が知れ渡ってしまっため、味で審査しており、主に未だ誰も合格者の出ない状況と雑な寿司モドキが増産されることに苛立ちを募らせていると、明らかに今までのものとは毛色の違うものが机に置かれ、目を丸くしてこれを出した受験者を見た。

 

 それは白い髪をして、金の瞳をした猫のような女性の魔獣だった。更に魔獣の女性から溢れるオーラは攻撃的では一切無いが、並の念能力者が見れば気を狂わせてしまいそうなほどに禍々しく、莫大なものだった。メンチをして、自身では比べ物にならない怪物であるという絶望感さえ、自然と沸いてきてしまう始末だ。

 

 しかし、当の本人が目を細めてニマニマと柔らかめの笑みを浮かべていることと、調理するためにしっかりとエプロンを着用しているため、その姿が可愛らしくさえ見え、猛烈にアンバランスで奇妙な印象を抱かせた。

 

 例えるなら野うさぎに優しく朗らかに挨拶するライオン。そのぐらい奇っ怪な光景であった。

 

「399番ね……」

 

 メンチは極力魔獣の女性については気にしないようにしながら、寿司より先に、寿司の隣に置かれた小皿に入れられた醤油よりやや粘性のある仄かに甘く黒い液体に箸の先を付けて舐めた。

 

「………………甘ダレね。用意してなかったからアンタが作ったの?」

 

「まあねぇ、寿司ぐらい常識で知ってるし。普通の物作ってもつまんないもの」

 

「そうね……」

 

 割りとマトモなことを言っており、少なくとも寿司の出来も見掛け上は最もマトモである。なにより、無理矢理生魚を使っていない辺りがポイントが高い。

 

 しかし、やはりオーラは悪の権化のような禍々しさである。アンバランスを越えて最早、異様であった。

 

 すっかり頭を冷やされたメンチは無言でナマズの焼き寿司を摘まむと、甘ダレを付けて口に運んだ。

 

(あ、美味しい)

 

 何か大きくリアクションを取るほどの美味しさではない。しかし、限られた条件の下で握られたにしては、ナマズの部位、焼き加減、調味料、細かな工夫などが、とても体良く纏まっていた。

 

 しかし、極まった完成度というわけではなく、まだまだ発展途上の部分もちらほらと散見されたが、逆に言えばこの魔獣の女性の料理の腕前が、上達していくという証でもあり、美食ハンターとして見ても、今後にとてつもなく期待が持てると感じられるほどだった。

 

 だが、一点だけメンチが気になる点があった。

 

「……酢飯は作ったみたいだけど、このシャリを握ったのアンタじゃないでしょ?」

 

「ニャんと……よくわかるね」

 

 女性の魔獣は少し驚いた様子で目を丸くしていた。

 

 そのように気づいた理由は単純で、体良く発展途上の腕で作られた彼女のナマズの焼き寿司という作品の中で、その部分だけメンチでも舌を巻くほどの技量で握られていたのである。熟練の寿司職人であってもここまでの物を出せる者はそういないであろう。故に彼女が握ったのではないという結論に至ったのである。

 

「……悪かったな。特に指定がなかったのでシャリは両方とも俺が握った」

 

 そう言って出てきたのは、399番の後ろに並んでいた400番の20歳前半程に見える若い男性だった。見ればこちらはエプロンを着用し、三角巾を頭に付け、口はマスクで覆っている。

 

 399番があまりに異彩を放っていたため、隠れていたが、400番も399番と比べても遜色ないほど禍々しく莫大なオーラをしていた。むしろ魔獣でそのオーラならば色々と割り切ることも出来たが、こちらは人間のため、人を超えた人のような何か、正しい意味の"魔人"である。

 

(そう言えば10年以上前に"魔人"って呼ばれてた賞金首が居たわね……)

 

 何故か自身は年齢的に見たことすらないそれを思い浮かべたメンチだったが、すぐに思考を切り換えて男性に対応した。

 

「……アンタが握ったのこれ? なにしたのよ?」

 

「いや、別に何も……ただ職業柄、温度の調整や触れ方の力加減にはちょっと敏感ではあるな。30個ぐらいシャリだけ握ってみて一番マシだと思った奴を出してみたんだが……やっぱり悪かったか?」

 

「はぁ!? 何もなしでこれを握れるとかアンタ寿司職人を舐めてんの!?」

 

「お、おう……なんか悪かったな」

 

「な、なぁ……メンチ……その人は……」

 

 隣のブハラが冷や汗を掻きながら400番に詰め寄るメンチを止めようとした。

 

 しかし、その前にこれまで温厚な凶獣といった様子だった399番の視線が、射殺さんばかりに冷たく鋭くなると共に、片手の爪がせり上がるように伸び、更にその背後に"黒子のような人形"が浮かんだ――。

 

 

 

 次の瞬間、メンチと399番との間に400番が立つ形で、399番の振り抜かれた爪を400番がいつの間にか片手に握られていた杖で受け止め、鈍い金属音を響かせる。

 

 そして、それと同時に、二人の間に生まれた細い衝撃波が地面に横一文字の線を刻んだことで、到底人間と人間がぶつかり合ったようなものとは思えない光景を作り出す。

 

 化け物同士の刹那で一撃の攻防。それが微かにわかった者は、試験会場にいる念能力者のみであった。

 

 その光景が終わり、つかの間の静寂の後、真っ先に口を開いたのは400番だった。

 

「ピトーちゃん……?」

 

「――ハッ!? あ、主様違うニャこれは! 若くて綺麗なあの人が主様に近づいたから反射的にその――」

 

「めっ!」

 

「ニャっ!?」

 

 スパァン!とデコピンとは思えない小気味良い音を399番のオデコに響かせる400番。399番は反省しているようで甘んじてそれを受けて、オデコを押さえる。また、いつの間にか400番が持っていた杖先と柄に金の装飾が施されてフレームが黒い杖は消えていた。

 

「ああ、本当に悪かった。うちの猫が殺し掛けてしまって、本当に申し訳ない」

 

「――――――え? あ、ええ! 次は無いわよ! 試験官への攻撃は即失格だからね」

 

「恩に着る」

 

 放心状態から復活したメンチにそれを告げると、400番は399番を自分の目の前に両肩を後ろから掴む形で立たせた。

 

「ピトー、ごめんなさいは?」

 

「……………………にゃっ!」

 

「ナデナデ抜き」

 

「ごめんなさい! 僕が悪かったです!」

 

 メンチは思った。自分はいったい何故ここにいなければならず、何を見させられているのだろうかと。そう考えると、試験官として全うすれば、すぐにこの二人から遠ざかることが出来ることを思い出し、メンチは口を開いた。

 

「399番合格よ。文句は……あるけど及第点ね」

 

「やった!」

 

「よかったなピトー」

 

 399番は両手を上げて喜ぶと、一度400番に抱き着いてから調理場の方へと元気に去っていった。ひとまず、心労の原因の半分が消えたことに安堵するメンチ。次はこの男の審査である。

 

 男は打ち合った時でさえ、振動すら与えずにずっと片手に乗せていた皿をメンチの前に置く。

 

「はい、寿司」

 

「……………………なにこれ?」

 

「松茸寿司。旬にジャポンだとたまに見掛ける奴」

 

 それはスライスされて適度に焼かれたロングな松茸がシャリの上に乗り、海苔で数の子のように巻かれた寿司のようなものだった。

 

 メンチは無論、知ってはいたが、ここでそれを出してくるのは予想外を飛び越して、宇宙でも感じられそうなものである。

 

 

 しかし――。

 

 

「悔しいけど……美味い! 400番合格よ!」

 

「やったぜ」

 

 ほぼ、素材100%の味で火加減もほどよく、シャリに文句の付けようがないそれにメンチが合格を出さない理由も特に無かった。

 

 ちなみに399番に料理を教えたのは、400番とのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主様! ちょうど茶碗蒸しが蒸しあがったニャ!」

 

「おう、できたか。楽しみだなぁ」

 

「ちょっと待ちなさい。卵なんて無かったでしょ、アンタら何作ってんのよ。私にも寄越しなさい!」

 

 399番と400番が試験課題とは別に作っていた茶碗蒸しは、昆布と鰹節で出汁を取って調味料で味を整え、クモワシの卵を使い、様々なキノコが程々に散りばめられ、グレイトスタンプの肉が入り、上に川エビの剥き身の乗った非常に凝ったものであり、メンチといつの間にか頂いていたブハラをも唸らせる出来であった。

 

 

 

 ちなみにメンチが400番を、かつて"魔人クート"というふたつ名で呼ばれた元賞金首だと気づくのは、三次試験会場へ向かう飛行船で試験官同士の食事中である。

 

 

 

 

 







↓この辺に興奮したヒソカ








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