感想欄を見ると、7話で時々幻影旅団の話が出て来て、何故だろうと思いましたが、どうやらクートが盗賊団と言っているものを、幻影旅団と勘違いしておられるようでした。そのため、極力より分かりやすいように配慮しますが、それでも限度がありますので、可能なら前後の文脈から判断していただけると幸いです。
「ま――」
プレートを差し出そうとしたイルミに向けられたのは、両手を槍に添え、槍にオーラを収束させ、地に亀裂を刻むほどの脚のバネから放たれた叩きつけだった。
辛うじて躱したイルミだったが、地面に衝突した槍の穂と太刀打ちは、激突位置から扇状に十数mのクレーターを地面に刻むと共に微かな振動を起こし、更に槍から発生した指向性を持つ衝撃波が100mほどに渡って直線上の森ごと地面を抉り取るような亀裂を生んだ。
遅れて直線上にあった幾つもの木々がバタバタと折り重なるように倒れ、鳥や動物が逃げ出す姿が見える。
"人間業ではない"
オーラが見えようが見えまいが、そこにいた全ての人間が考えたことであろう。
念能力でもなんでもなくただ槍の技量を純粋なオーラで強化し、莫大なオーラを上乗せしただけの一撃でそこまでのことをやって見せたクート。ヒソカは距離を開けながらも、唖然とした表情の後に恍惚としたものに変わり、同じく避けたイルミもその被害を見ながら、本当に不味い事態になってしまったということを感じている様子で頬をひきつらせていた。
「まあ、固いこと言うなよ。イルミくん今のところ、ハンター試験で一度もキツかったり、タルかったりしてないだろ? それじゃあ、つまらなそうだから、ちょっと遊ぼうぜ? 試験官ごっこだ」
「ククッ……」
「…………!」
謀らずもヒソカとイルミが知るワードを言ったことにヒソカは小さく笑い、洒落で済まないイルミはヒソカを睨み付ける。
そうした間にクートは槍を構え直して、再び動き出し、イルミを太刀打ちで薙いだ。オーラに差があり過ぎるため、工業用のレーザーカッターが薄い木板に通り過ぎることとそう変わらないだろう。また、突くのではなく、叩き付けるあるいは薙ぎ払いを主体とするそれは、ジャポン武術の槍術に近いものであった。
それをイルミが体勢を低くして避けると、一際長く大きな針を手に持ったまま、クートの心臓目掛けてカウンターを放った。
「いいねぇ、迷いがない!」
「――――!?」
しかし、届くより前にイルミは走行する車両に激突したような凄まじい衝撃を受け、クートから弾き飛ばされる。
クートがしたことは至極単純なオーラの基本――"練"である。ただし、クートという異常なほど莫大なオーラを持つ念能力者が、圧縮したオーラを外に飛ばすように繰り出された練のため、半径数mの小規模な爆発を生んだのだ。
弾かれながら、空中でイルミは針を飛ばせる限り、クートに飛ばして時間を稼ぎつつ着地し、長い針を剣のように構え――既に飛ばした針を当たるものだけ的確に叩き落とした上で眼前に迫り、槍を振りかぶるクートを見据えた。
(速過ぎる――)
イルミは次の手を思考しながら、微かにそう考えた。
クートが特筆すべき点はオーラ量を含む念の才能だけではない。肉体の強靭さ、瞬発力、反応速度、対処能力、危機回避能力等も持ち合わせ。そして、何よりも多種多様な武器を使う技量が世界トップクラスに高いのである。
そして、
そのため、クートは近距離戦ではほぼ無敵を誇る。というよりも、イルミにとっての師としてのクートは、ショートレンジの絶対強者であった。
絶対に勝てない存在への畏怖と僅かばかりの畏敬こそが、イルミが彼に対して持つ感情であり、更に修行で数多の絶望的な目に会わされたことからも来ている苦手意識である。
そして、イルミ自身感じていることだが、オリハルコンの武器を具現化していない時点で、クートはこれでもかなり手加減をしている状態であった。
イルミの眼前に迫る馬鹿げたオーラを纏った槍は、避けるか、逸らすかの理不尽な二択を迫る。受けることなどできるわけもない。そして、どちらにしても、クートの超越した技量が絡むため、無傷で可能な確率は極めて低い。
はっきり言って、初撃の一撃で仕留め損なった時点で、イルミは既に詰んでいた。
「ん……?」
しかし、クートの疑問符と共にクートの槍の軌道が、何故か不自然に数cmズレたため、イルミは身を
イルミが凝で穂先を見ると、そこにはピンク色の粘性のある糸のようなオーラがまとわりついており、それは真っ直ぐにヒソカが綱を持つように両手を構えた手先へと繋がっていた。
ヒソカは恍惚な笑みのままポツリと呟く。
「僕も混ぜて?」
「ああ、いいぞ」
次の瞬間、イルミは大型で長い針を一本ずつ剣のように両手に持ち、クートの右側面から襲い掛かり、ヒソカは両手にトランプを持ち、左側面から襲い掛かる。結果、クートは左右のイルミとヒソカを一本の槍で同時に相手をすることになった。
手数で攻める二人をクートは、槍を棍のように使い棒術で対応し、手数を増やして当たる。しかし、クートを除けばトップクラスの念能力者二人をただの槍一本を棒術で受け流し続けることは、クートであっても無理が生じ、僅かばかりの隙が生まれる。
「今だ♧」
「…………!」
「おお……!」
そして、打ち合いつつ、合間で幾重にも張り槍に重ねたヒソカのゴムとガムの性質を持つ変化系念能力――
更にバンジーガムはクートの手足にもついており、一気に縮まったことで、クートの体勢が手前に傾き、僅かに崩れる。
「死ね」
そして、バンジーガムにより生まれ隙に、イルミが残った片手の大型の針を心臓目掛けて突き刺し、針はクートの心臓を貫通して背中まで抜け、更に続けて槍を打ち払った方の大型の針をクートの喉に突き刺し、気道を貫通して後ろに抜けた。
「――!?」
クートは肉体操作で片手の爪を立て、ひと裂きで自身についていたバンジーガムを切断すると後方に跳ぶ。そして、ふらふらと少し揺らぎ、首と心臓に突き刺さる針にそれぞれに触れた。
「おお……おぉ……」
通常の人間ならばとっくに死んでいる。だが、クートを見るとその様子は全く無く、受傷部からうっすらと白煙のようなものが上がっている。
クートは突き刺さった針を勢いよく抜き、イルミに投げ渡す。そして、首の調子を確認するように鳴らした頃には、心臓と首の明らかな致命傷は、完全に跡形もなく消えていた。
「…………ウソ♤」
流石のヒソカもこの事態には驚きながら、眉を潜めてそう呟く。そんな様子のヒソカにイルミは溜め息を吐いて、ポツリと呟いた。
「"
それこそがクートの体の種明かしである。
「体内にナノマシンを具現化する具現化系・特質系・操作系の念能力だ。ナノマシンに付加された機能は傷を負っても瞬時に回復でき、致命傷を受けても死なず、病気にもならず、歳さえも取らなくなる不死のナノマシン。だから、ひと欠片でも肉片が残ってさえすれば再生する」
「なるほど他者への治療もそれを使って……念能力で作れる念能力じゃないよね?」
念能力は、本当に不死身の体や、絶対に折れない剣を作ることは不可能である。しかし、実際のクートとイルミの説明を聞くと、前者を手にしているようにしか見えなかった。
「いや、念能力だよ。クートは3つの念能力を連結させて、"
「がぁ――!? お前、もうちょっとで
「あ、ゴメン。それはヤバいわ」
話の途中で、喉の再生が終わったのか、クートが叫び、何故かイルミは謝る。どうやら、イルミはクートの念能力の全容を全て理解しているように見えた。
「……もっと傷つければ更にスゴいのが見れるのかい?」
「まあね。
それだけヒソカに言うと、クートはオーラを収めて、ゴズの槍を回収する。最初から試験官ごっこと言っていたため、遊び感覚であり、もう争う気はないのだろう。
「今回は俺の負けだ。いい友達を持ったなイルミ」
「クククッ……今日はここまでか。残念♣」
「おい、待て」
「照れるな。お前ひとりなら負けてただろう?」
「………………」
その言葉に対し、イルミは何も言い返すことが出来ず、半眼でクートを睨むばかりだった。クートは小さく笑うと、ヒソカを見て口を開く。
「やっぱりトランプが武器なんだね。それでモノは相談なんだけどさ。今度、俺と本気で殺り合ってみない?」
「――――」
その言葉にヒソカは固まる。そして、歓喜に多少身を震わせながら、口を開いた。
「本当かい……?」
「ああ、もちろん。君なら作るだけ作ったが、誰も使い手のいない――"ジークフリート"を渡せるかもしれないからな」
それだけ言うと、クートは踵を返して去っていく。その途中、ゴズについてくるように声を掛けていた。その背中に、また狙われては堪らないため、イルミが声を掛ける。
「俺のプレートはもういいの?」
「ああ、大丈夫だ」
クートは後ろを向いたまま、89番、118番、191番と番号の刻まれた3枚のプレートをイルミに見えるように掲げた。
「もう、6点分は揃ってるからな」
「…………お前のそういうところがマジで嫌いなんだよ」
「ははははは! 違いない! 悪かったな! あっちの海岸沿いの入り江の近くを拠点にしてるから、腹減ったら来いよ。お詫びになんか食わせてやる。あ、ヒソカもいいぞ」
「誰が行くか」
「じゃあねー」
それだけ言って手を振ると、今度こそクートはイルミと、ヒソカの前から去っていった。
「はぁ……」
それを確認したイルミは大きな溜め息を吐くと一言呟いた。
「疲れるんだよアイツ……ナノマシンでずっと自分を操作してるから針も意味ないし……」
「そうかなぁ。僕はイイ人だと思うけど♥」
イルミはクートに刺した長く大型の2本の針――黒い色で持ち手に金の装飾がなされたオリハルコン製のそれを眺めながら、再び溜め息を吐くのだった。
◇◆◇◆◇◆
「スゴかったですニャ主様!」
「負けたけどな」
最初からオリハルコンの武器で挑めばよかったというのが、とりあえずは今日の反省点である。師としての威厳も何もあったものじゃなかったな。
後、ヒソカくんの念能力なにあれ。めっちゃビックリしたんだけど? 初見殺し性能高過ぎでしょ。
すり寄ってくるピトーを撫て満足させてから、拠点まで連れてきたゴズさんに話し掛けた。
「さて、生かした以上。少しだけ責任は取るよ」
そう言ってゴズさんの肩に触れ――オーラを流し込んで精孔を抉じ開けた。
「な……なんだこれは!?」
「それがオーラ。万物が持つ生命エネルギーそのものだ。とりあえず3日ぐらい掛けてもいいから、オーラを纏めよう」
才能が30%とは言ったが、個人的に精孔を抉じ開ける方法で死ぬような奴は、流石に念能力者には向いていないと思う。そのため、俺は選別も兼ねて、無理矢理抉じ開ける方法オンリーである。
というわけで頑張って欲しい。最期の瞬間まで戦士足ろうとしてヒソカに挑んだ精神と、念を使わずに太刀打ちの部分で草とゴンくんの髪を斬り、木を真っ二つにできるだけの槍の技量。そちらの方は個人的に高得点である。
なので、念能力者になり、修行を積み続けて10年、20年後にきっと大成するはずだ。こう見えても俺は、長い目で才能を見抜くことだけはちょっとしたものだからな。
オーラを体に留めるコツをレクチャーした後、いつも持ち歩いているモノをキャディバッグから取り出した。ハンター試験では、オリハルコンの間に入れている。
「なんですかそれ?」
「見ての通り、本だよ」
タイトルは"念能力者の野望 with パワーアップキット"。この一冊で、とりあえずそれなりの念能力者になれるだけのだけの内容が載っている。DVD付き。
ちなみに内容は念の心得と秘匿、四大行とその訓練方法の例、幾つかの系統の調べ方、四大行の応用技とその訓練方法の例、賢い念能力の作り方と系統別の俺が実際に見た念能力の例などが、図を入れつつ解説されている。また、俺のホームコードと家の電話番号とパソコンのアドレスも載っている。
それから付属のDVDには、系統の調べ方・四大行と応用技の修行方法についての解説映像であり、映像を撮るときに協力してくれた元盗賊団員か、俺が実演しつつ解説している映像が入っている。
売ろうとしたら、ハンター協会に殺されるので、自費出版かつ手渡しオンリーだがな。そのため、見開きの1ページ目に二次配布禁止とも書いてある。
「…………同人誌かニャ?」
めっ! 薄々気づいてるけど言っちゃダメなのピトー!
そんなこんなで、ゴズさんは四次試験には落ちたが、四次試験が終わるまでにオーラを体に留めておけるようになったので、本を渡して別れた。
他に特筆することと言えば、3日目ぐらいからイルミくんとヒソカくんが食事に来るようになり、ヒソカくんはたまにだったが、イルミくんは拠点の脇の土の中でセミの幼虫のように寝て、食事の時間に出て来ていたので、途中からずっといたりした。
しかし、その程度で俺とピトーからプレートを奪おうとする受験者は一人も現れず、普通に無人島でサバイバル生活をして、残りの日数は終えたのだった。
・敗因
2対1かつ初見で片方がバンジーガム持ってるのは死ねる。
~クートの念能力~
具現化系、特質系、操作系の複合念能力。自身の体内で常に具現化されているナノマシンそのもの。ナノマシンに付加された機能としては、傷を負っても瞬時に回復でき、致命傷を受けても死なず、病気にもならず、歳を取らなくなる不死のナノマシン。
ひと欠片でも肉片が残ってさえすれば再生できるアニメ版のBLACK CAT仕様。謀らずも大天使の息吹っぽい名前なので、HUNTER×HUNTERにマッチしているような気もしないでもない。
※別の念能力と致命的な弱点を共有しているため、成立している念能力。
~オリハルコンの武器~
・針(所有者:イルミ=ゾルディック)
針の全体が黒い色で、持ち手に金の装飾がなされたオリハルコン製の2本の針。針というより形状や大きさはテント杭に近い。驚くほどの貫通力があり、クートですら念でガードしても実際に貫通するほど。