ドールズふよんよライン   作:佐賀茂

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なんだか思いの外沢山の感想を頂いてしまってびっくりしています。ありがとうございます。
沢山パワーをいただいたので、頭わるいやつを続けてみることにしました。


アンタッチャブルシスターズ

 この支部には決して少なくない数の戦術人形が勤めている。流石に数百人とかいうレベルにまでは至らないが、まあそこそこの数が在籍している。うちはそこまで規模の大きい支部じゃないが、それでも管轄地区の住民の面倒も見なきゃいけないとなると、それなり以上の手間隙やコストはどうしてもかかってしまうものだ。

 

 むしろ、目下の課題であるはずの鉄血人形の掃討よりこちらの方がしんどいまである。

 明確な敵というのは実に扱いやすい。やることもシンプルだし、やらなきゃいけないこともシンプルだ。しかし治安維持や地区住民の管理となるとそうは問屋が卸さない。人間は愚かにも考えることが出来るので、それはもう様々なトラブルの種がそこら中に落ちていたりする。まあ大体それらはうちの連中がさっさと拾い上げてくれるからまだマシなんだが。

 そんな感じなもんで、俺の仕事はどちらかと言えば荒事というよりそういう内務の方が多い。どれだけ自分がベストを尽くしたと思っていても、相手となる母数が増えれば増えるほど満場一致とは行かないものだ。かといって、少数派の意見ばかり拾い上げていては全体が歪んでしまう。この塩梅は技術というよりセンスと言っていい。この辺は難しいところだな。

 

「指揮官、本日の決裁書類はこちらに。ちなみに、今日は気分を変えて下着を履いてないのですが如何でしょうか」

「如何もクソもないから履いてください」

 

 今日も今日とて副官デスクに座るハルさんが、整理された書類とともに爆弾を置いていく。でもまだ見せびらかしたりしてこないから全然マシ。

 こんなハルさんではあるが、実務という面では優秀だ。それに彼女を単品で扱う分には目立った弊害もないので、俺は結構な頻度で副官業務をお願いしている。まあ他に選択肢がないとも言えるが。そもそも内務の補助をまともにこなせる人形の方が少ない。

 

「あら、これは失礼を。やはりこういうのは夜でなければいけませんね」

「そういう問題じゃない」

 

 もう完全に慣れてしまった俺も俺だが、I.O.P社製の戦術人形は一体どうなっているのか。これがバグじゃなくて仕様であるなら他所の支部とかどうなってんだろうな。気になる。地獄の釜の蓋を開けてしまう予感しかしないから特に聞いたりはしてないんだけどさ。

 

「おはよう指揮官! 今日こそ家族して家族になろう!」

「ナインはそろそろ俺に通じる言葉をもう一度習得してから話しかけてくれない?」

 

 書類仕事に精を出していると勢い良く司令室の扉が開かれ、絶対家族になるウーマンUMP9がその顔を覗かせる。うちの支部ではナインと呼んでいる彼女、最初こそ明るく素直な性格だったはずなんだけどなあ。何故か分からんが強さを手に入れると同時に、表現方法の半分以上が家族という単語に収束してしまっていた。こいつの発言に家族というワードが含まれないことの方が珍しい。はっきり言って何を言いたいのかよく分からん。

 でも、この子はまだ明るくて騒がしい子、という範囲に収まるレベルなので助かっている。流石にずっと傍に居られると鬱陶しいこともあるが、まあ台風みたいなもんだな。AA-12なんかよりも全然余裕で捌ける。

 

「ちょっとナイン、そう毎度毎度押しかけても指揮官に迷惑でしょ」

「えー! だって家族家族したいー!」

「勢いは認めるが意味が分からないので却下します」

 

 ナインと同時、司令室に足を運んできたUMP姉妹の片割れ、UMP45がやれやれといった様相でナインの暴走を諌める。家族家族ってなんだよ。ジャンガジャンガみたいな言い方しやがって。まったくもって意味が分からない。そして俺は彼女の言葉に頷いてはいけない気がする。嫌な予感しかしねえぞ。

 

 暴走する妹を諌める姉は、ぱっと見かなりまともに見える。実際、UMP45はかなりマシな部類だ。突飛な発言をするわけでもないし、食って掛かってくるわけでもないし、このシチュエーションだけを切り取れば実に平和な人形である。もともとの電脳が優秀なもんで、実務の能力も高い。普通であればハルさんを押し退けて副官最有力候補に躍り出ても何らおかしくない人形だ。

 

「お二人とも、今指揮官は執務中です。それに指揮官の家族は私です」

「惜しいなあ、前半はあってるけど後半に認識の齟齬がある」

 

 他者の乱入により、途端に面倒くさい正妻オーラを醸し出すハルさん。これさえなけりゃほぼ完璧なんだけどな。もっと根本の部分で総崩れしているのはこの際目を瞑るとして。

 

 ちなみに、UMP姉妹は特定の部隊に所属していない。支部内では完全に遊兵扱いであり、あらゆる局面に於いて必要に応じて出すといった立ち位置に収まっている。

 例に漏れず彼女ら二人の錬度も極まっており、うちに所属している戦術人形の中でも特に機動力という一点において抜きん出ている。普通に部隊に組み込んで運用も勿論出来るが、二人のトップスピードについていける人形がほとんど居ないのだ。彼女たちの性能を最大限活かすために、独立兵力扱いをしているわけだな。

 

「怒られちゃった! それじゃあ私は416と家族ごっこしてくるね!」

「あ、ちょっと待って45も一緒に連れて……ああー……行ってしまった……」

 

 家族ごっことは。それに付き合わされる416もご愁傷様である。

 忙しなく司令室を後にするナイン。残されたUMP45はその後姿をしばしの間見つめ、完全にその背中が廊下の奥へと消えたのち。無言で俺のデスクに歩み寄り、中途半端にスペースの空いた俺の椅子にその尻をねじ込んでいた。

 

「45。狭いんだけど」

「…………」

 

 俺の忠言も何処吹く風か。椅子にケツをねじ込んだまま俺の胴体に腕を回し、わき腹辺りにすりすりと頬を擦り付けていた。

 

 UMP姉妹をセットで運用し、かつ他の部隊と離しているもう一つの理由。

 それはこのUMP45にあった。

 

 彼女、UMP45はその視界にナインが居る限り、しっかりしたお姉ちゃんなのである。だが一度それが途切れてしまえばご覧の有様だ。そこにハルさんが居ようと、他の人形が居ようとお構いなし。全力かつ無言で俺に甘えてくる。AA-12をゆうに超える仕事の邪魔っぷりであった。そしてそれは、このような日常であろうが作戦行動中であろうが変わりない。だからこそナインを常に傍に置き、UMP45の暴走を制御していたのだ。しかし、今この場においてその枷が外れてしまった。

 

「45さん、執務の邪魔ですよ。それに私以外の匂いを指揮官に擦りつけないでください」

「匂いはどうでもいいけど確かに仕事の邪魔だからちょっと離れて欲しいんだが」

「…………」

 

 ああーこれ完全に面倒なやつだ。時と場合によっては多少粘りながらも離れてくれることもあるが、今日は大分ややこしい感じだぞこれ。何か機嫌を損ねるようなことしたかな。最近特にそういうイベントはなかったはずなんだが。

 だが、一度ここまでスイッチが入ってしまったUMP45はたとえテコでも動かない。昔はそうでもなかったんだけどなあ。彼女も何故か強さを手に入れる程に、俺への依存度がよろしくない方向に高まってしまっていた。

 甚だ不服だが、彼女がある程度満足するまでこのまま執務を続けるしかあるまい。幸い寄って来ているのは左側なので、右腕は動かせる。書類仕事をする分にはまだギリギリセーフと言ったところだ。メチャクチャやりづらくはあるが。

 

「指揮官。やはり下着は付けていないよりも際どいものを着用していた方がいいのでしょうか」

「そういう問題ではない」

 

 ああもう、UMP45との距離がゼロなものだから、ハルさんがオートで正妻モードに入っちゃってる。これ今日も仕事の効率めちゃくちゃ悪そうだな。

 

「指揮官さま! 本日の特売品にこのランジェリーは如何でしょうか! 現物だけでは分かり辛いかと思いましたので、私がモデルになってみましたわ!」

「うん、服を着ようか」

 

 あられもない姿で司令室に飛び込んできたカリーナを一言で切って落とす。ていうか俺に女性ものの下着を売りつけてどうしようってんだこいつは。頼むから普通に仕事をして欲しい。

 

「やはり指揮官はああいったものがお好みなのでしょうか……」

「違う、そうじゃない」

「…………」

「45はいい加減離れて」

 

 埒が明かないので、45をそのまま抱えて司令室の外に運び出す。ついでにカリーナも押し出してしまおう。で、ドアの内鍵をガチャっとな。よし、これで邪魔者は消えた。さて仕事だ仕事。

 

「指揮官……そういうことですのね……!」

 

 閉められたドアに熱い視線を注ぎ、惚けた表情で言葉を搾り出すハルさん。

 

 そうじゃないんだよなあ~~~~。




ナイン:独立遊撃兵そのいち。これかぞ。かわいい
UMP45:独立遊撃兵そのに。ひっつきむし。かわいい


ナインちゃんと家族になりたい人は感想を書きましょう。
45姉に24時間ひっつきむしされたい人も感想を書きましょう。
おじさんとの約束だ。

そしてこのままではハルさんがレギュラー化してしまう気がする。

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