ドールズふよんよライン   作:佐賀茂

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ふよんよの時間だ


私だってエリートなんです

「おはようございます指揮官。本日もよろしくお願い致します」

「うん、おはようハルさん。今日もいい天気だな」

 

 司令室の扉を開けると、そこには既に執務の準備を整えて待機しているハルさんが居た。やっぱりなんだかんだで彼女は優秀なんだよなあ。俺の目の前で両手を広げて、ハグの構えをしていることを除けば完璧な人形である。実に惜しい。

 

「指揮官、一日の執務はハグから始まるといいます」

「何それ初めて聞いた。俺が知らないので無効です」

 

 バッチコイと言わんばかりの様相のハルさんを華麗に躱し、俺は指揮官デスクへと腰を据える。スルーされた彼女は彼女でそのまま両手を下げ、いつものように副官デスクへと向かっていた。

 相変わらずハルさんは基本的に無害なものの、最近ちょっと直接的な要求が多くなってきているような気がする。別に無視すればいつも通りではあるのだが、何か心境の変化でもあったんだろうか。それともメンタルモデルが更に進化してバグったのか。今度ペルシカリアに診てもらおうかな。多分無駄だと思うけど。

 

 しかし、今日はいい日だ。Five-seveNを主軸とした第二部隊は今長期の遠征に出ているし、AA-12を筆頭としたショットガン部隊も今日は地区の警邏係である。UMP姉妹がちょっと怖いが、まあナインが居れば基本大丈夫なのでそう問題視はしていない。

 そしてカリーナは今高熱を出してぶっ倒れている。毎度思うがあいつは一体どうやってあんな怪しいアイテムを仕入れているんだろうな。グリフィンは一応世間体も気にしている部類の民間軍事企業だから、そう表立ってヤバいことはやっていないはず。裏で何をやっているのかは知らんし知りたくもないけども。時々カリーナの蒐集能力が怖い。

 昔一度だけ、カリーナ本人にどうやって仕入れを行っているのか訊いたことがある。だって明らかに俺どころか一民間企業が本来関与出来ない、そもそもしちゃいけない類の商品まで取り扱っているからな。そのルートが気になるのは至極当然のことだろう。

 

「指揮官さま。私はお金が大好きですしお金を貯めるのも大好きですが、その大好きなお金を沢山使うのも最高に好きなんですよ」

 

 で、返ってきた答えがこれである。普段からおちゃらけていて底抜けに明るいカリーナの、闇の顔を垣間見た気がしてそれ以上は訊けなかった。喋ってる時に表情がスンッて抜け落ちたもんね。それ以上突っ込むのは野暮というものだろう。というか流石に俺も命が惜しい。

 ただまあ、そんなカリーナも言ってしまえば所詮人間なわけで、現在は体調不良に見舞われているわけだ。一応薬は手配しておいたが、長引きそうなら病院に連れて行った方がいいかもしれん。

 

「指揮官、こちら本日の決裁書類となります。また、最近のトレンドは頬へのフレンチキスだそうです」

「ありがとうハルさん。ちなみにそんな流行は聞いたことがないですね」

 

 書類とともに左頬を差し出す副官をさらりと流す。

 うーん、平和。今日は実にいい日だ。

 

「指揮官~~~~!! ただいま戻りましてですわよぉ~~~~!!」

 

 知ってた。そういう平和は長続きしないって俺知ってた。というか完全に失念していた。AA-12たちショットガン部隊が地区の警邏に就いたということは、それまでその任務に就いていた部隊が帰って来るということである。地区の駐屯地から帰投し勢いよく扉を開け放ったTAR-21、タボールがその肢体を見せつけながら艶かしげに近付いてきていた。

 

「ああ、おかえりタボール。地区の警邏お疲れ様」

「んもぉう~~~~ッ! 指揮官ったら! どぉぉぉおおうして! 最新型のわたくしが敵の殲滅ではなくて、こんなショボい任務に回されるのでして!?」

「それはなタボール。君にしか任せられない仕事だからだ」

「んもぉぉ~~~う指揮官ったら! そんな甘言には騙されませんことよ!? べ、別に嬉しくなんてなくってよ!? 勘違いなさらないで!?」

 

 ツカツカと軽快な足音を鳴らしながら、やや大股に歩み寄ってくるタボール。彼女、タボールは優秀な戦術人形ではある。それは事実だ。ただほんの少しばかり自信過剰で、ほんの少しばかり言葉遣いがおかしいだけである。

 そして、ほんの少しだけ愛情表現が独特なのだ。ハルさんやUMP45などとはまた違った癖の強さがある。実害がない分全然マシな部類なのだが、如何せんうるさい。リアクション一つとってもクソデカ級なので間接的に俺の手が止まってしまうことが多々あるのだ。任務遂行能力自体は間違いなく高いのだが。

 

 それに、彼女にしか任せられない仕事、というのもあながち嘘ではない。正確に言えば仕事というより彼女の所属する部隊にはお守り役が必要で、その役目にタボールが抜擢されている。

 

「しきかん! せんもんかのわたしがもどったわ! えらいでしょ!」

「ああ、ネゲヴもおかえり。よく頑張ったな」

「えっへん! すぺしゃりすとのわたしにかかればこんなものよ!」

 

 そのお守り役が必要な原因というのが、このネゲヴだ。

 もちろん彼女も例に漏れず、普通に戦わせる分にははちゃめちゃに強い。というか、単純な火力だけで言えば第三部隊隊長のM249をゆうに凌ぐほどである。

 だが、うちに所属しているネゲヴは何故だか知らんが、メンタルモデルの精神年齢が妙に幼い。明らかにバグじゃねえのと思ってペルシカリアのチェックも受けさせたが、どうやら普通らしかった。おかしいでしょ。他の基地のネゲヴも皆こんな感じかよ。と、悲愴に暮れたのも今ではいい思い出だ。

 

「そぉぉぉおおうですわよ! わたくしやネゲヴのような優秀な人形が! どぉぉぉおうして地区の警備なんかに回されるんですの!?」

「いいのよたぼーる! どんなにんむもこなしてこそのすぺしゃりすとだもの!」

「んもぉぉぉおう! ネゲヴったら! わたくしも見習わなければなりませんね!」

「流石ネゲヴだな。これからもその調子で頼むぞ」

「えっへん!」

 

 で、何故だか知らんがタボールとネゲヴはめちゃくちゃに相性が良い。明らかに違う方向にベクトルは向いているはずなのだが、妙に馬が合うらしいのだ。こいつらが喧嘩したりいがみ合っているところを俺は見たことがない。だからこそ、本来マシンガンはM249の部隊で運用するべきところ、タボールとセットで動かしているわけだ。

 一方、精神年齢が幼いネゲヴはタボールと俺以外にはあまり懐いていない。険悪とまでは言わないが、妙に不貞腐れたり時にはギャン泣きをかましたりする。以前UMP姉妹と一緒に行動させた時は、ナインの家族ラッシュに巻き込まれて大泣きしていた。これはどっちかと言えばネゲヴがどうこうというよりナインが悪い気もしないでもないが。

 

 だが、だがしかしだ。こいつらが悪いわけでは決してないが、とにかく煩い。やかましいのだ。時にはこういう騒がしさが恋しかったりするが、ハルさんとはまた違った方向で常にフルスロットルなコンビを相手にするには多大なスタミナを要求される。仕事がない日ならそれでもいいが、書類仕事をこなしながらこいつらの相手はかなりキツい。

 

「二人とも、ご苦労だった。ひとまずはゆっくり休んでくれ」

「んもぉぉぉおう! 指揮官ったら! わたくしたち優秀なレディィイにはもうちょっと気の利いた言葉の一つや二つ、投げ掛けておくべきではありませんこと!?」

「いけないわたぼーる! れでぃはじぶんからもとめたりはしないのよ!」

「あらあらあらぁ~~~~~~ネゲヴったら! その通りかもしれませんわね!」

 

 ヤバい、手が進まない。書類の内容が全く頭に入ってこない。早々にご退場願わなければ業務に差し障りが出てしまう。間違ってもこいつらのことは嫌いじゃないし、むしろこの突き抜けた清清しさは好ましくもあるのだが、時と場合というものがある。

 

「お二人とも、指揮官は現在執務中です。あまり気を遣わせてはなりません。指揮官と一番長い時を過ごすのはこのスプリングフィールドと相場は決まっています」

「んもぉぉぉおう! スプリングフィールド! それは少々勝手が過ぎるのではなくて!?」

「わ……わたしだって、しきかんとおはなし、したいもん……」

「あらあらあらあら! ネゲヴ! いけませんことよ! レディは気を強く持たなくては!」

 

 アカン、これ収拾がつかなくなってきたぞ。

 

「オ゛ェッホ……! じぎがんざば……本日のおずずめはごぢらの品に……ヴェッホォッ!」

「お前は寝てろォ! ハルさんカリーナを戻してきて!」

「畏まりました。そのまま指揮官と私がベッドイン……ということですね?」

「そうじゃなァい!」

 

 どうすんだこれ! 収拾つかねーぞこれぇ! 仕事させてくれよォ!




タボール:テンション爆アゲパリピお嬢様。うるさかわいい
ネゲヴ:せんとうのすぺしゃりすと。うるさかわいい


タボールは可愛い。ネゲヴも可愛い。なあ、同じリンクスなんだ、アンタだってそう思うだろ?
だからよ、感想を書いて見逃して……ま、待ってくれ! ノーカウントだ! ノーカウント!

タボールはテンションの高い熊野で再生してくれると助かる
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