神のみスピンアウト・ちいさなひみつのドクロウちゃん 作:猿野ただすみ
舞島市。時刻は深夜と言っていい時間。
とある地方にあるこの都市を、2つの人影が駆け抜ける。
ひとりは紫色の長い髪、スレンダー体型でキツめな、見たところ10代後半くらいの美少女。右手には、飾りのついた大鎌を携えている。
もうひとりは黒髪ショートボブの、小学校1年生くらいの女の子。
女の子は、前述の少女に手を引かれながら駆けていた。しかし息も切らさずに走る姿は、その幼さからは想像もつかないことである。
ふたりは小さなアパートの入り口に飛び込むと、少女が身につけていた半透明の羽衣でその身を覆った。すると驚いたことに、ふたりの姿はその場から消えてしまう。
「(ちょっとの間、我慢してて。やり過ごしたら、信用のおける人の所に連れて行ってあげるから)」
少女が小声で言うと、女の子はコクリと頷いた。
とある住宅の一室。照明の消された部屋に流れる複数の音楽と、複数の女性の声。しかし、人の気配はひとつだけ。
「ふ、ふふふ…。やっぱりゲームはいい。リアルなんか、くそ食らえだ!」
この部屋の主、桂木桂馬が6つの美少女ゲームを同時進行しながら、不満を爆発させる。
「なぁにが『ゲームばかりしてないで、少しは現実に目を向けろ』だ! そのリアルがボクを、あれこれ厄介事に巻き込んでんだぞ!? 解ってるのか!? 児玉のバカヤロー!」
最近、色々とストレスをため込んでいるためか、いつもより歯止めが利かなくなっているようだった。
コンコン
突然、窓ガラスを叩く音がする。しかし、ゲームに没頭しつつ不満を爆発させるという器用なことをしている桂馬の耳には、全く入ってきていない。
コンコンコン!
更に強く叩かれるが、状況は全く変わらず…。
ガッシャァァ……ン!!
「うわっ! なんだ!?」
突然ガラスが割れたことに驚く桂馬。そこへ。
「ちょっと、なにシカト決め込んでるのよ!」
そう文句を言いながら部屋に侵入してきたのは、先程の紫色の髪の少女。その姿を見た桂馬は。
「な、ハクア!? お前、人ンちの窓ガラスに何してんだ!」
「何回窓を叩いても、オマエが何の反応もしないからでしょ!」
ハクアと呼ばれた少女は腕を組みながら、プンスカと怒っている。……と、そこへ。
コンコンコン!
「にーさま。今、凄い音がしましたけど、何かあったんですか!?」
扉を叩きながら、桂馬の妹、えりが尋ねてきた。桂馬はひとつため息を吐き。
「……あー、入ってきていいぞ。その方が状況も飲み込みやすいだろ」
そう促す。えりはゆっくりと扉を開け、中をのぞき込む。と。
「えっ、ハクアさん!? こんな時間にどうしたんですか!?」
驚きの声を上げながら、ハクアへ質問をする。
「あ、アンタはえり…」
ハクアは跋が悪いのか、少し困った表情を作ってから本題を切り出した。
「ええと実は、桂木に頼みたいことがあって来たのよ」
「ボクに、頼みだと?」
桂馬にイヤな予感が走る。ゲーム的展開としても、今までの経験からしても、何か厄介事に巻き込まれる未来しか見えてこない。
そんな桂馬の危惧を無視して、ハクアが羽衣を操作する。
スイ…ッ
すると羽衣は、窓の外からひとりの女の子を引っ張り上げてきた。
「わぁ、可愛い! この子は…?」
えりが尋ねると、ハクアは複雑な表情をして。
「この子の名前は、……ドクロウ、よ」
「は?」
「え…、ドクロウって…」
「そう。室長と同じ名前よ。詳しいことは聞いてないけど。
ただハッキリしているのは、この子がヴィンテージに狙われてるって事くらいよ」
「ヴィンテージ!」
えりが驚愕の表情を浮かべる。そして桂馬は、硬い表情でハクアに聞く。
「ボクに頼みって、まさかそいつを預かれって言うんじゃないだろうな?」
「あ、やっぱりわかった?」
悪びれもせずに言うハクアに桂馬は。
「なんでいつもいつも、ボクが頼りにされなくちゃならないんだ! ヴィンテージが絡んでるなら、女神を頼った方が安全だろ!?」
不満を口にした。するとハクアが意外とでも言うように、視線をえりに移して問う。
「何だか今日の桂木、いつもより荒らぶれてない?」
「えーと、何だか最近ストレスを溜め込んでいるみたいで。
あと今日は、児玉先生に何か言われたらしくて、それも原因のひとつかと…」
「それはまた、タイミングが悪いときに来ちゃったみたいね」
そう言ってお互い、困った顔をする。
と、その時、ドクロウがとてとてと桂馬の下へ近づき、見上げるようにしてその顔を見つめる。
「……な、なんだ?」
思ってもいない状況に桂馬が尋ねると、ドクロウが彼に質問をする。
「……女神って、なに?」
この質問で桂馬は、今まで仲間内の会話になっていることに気がついた。
(名前や状況から察するに、ドクロウも地獄の関係者なのは間違いない。だが、天界のことを知ってるかどうかとなると、話は別だ)
桂馬が簡潔に状況を整理すると、ドクロウの質問に答える。
「詳しい説明は省くけど、ボクの知り合いに女神を宿した女子が6人いる。その女神たちは『ユピテルの姉妹』と言って、300年くらい前に地獄の悪い悪魔たちを封印したそうだ。
力は完全には戻ってないらしいが、そんな彼女たちならたとえひとりでも、お前を護るのには充分だと思った。以上だ」
桂馬の説明を聞き、成る程と頷くえり。そしてハクアは、ひとつため息を吐く。
「桂木の言うことはもっともだけど、これは上からの命令なの」
「命令?」
「そ。それにわた…、みんながオマエを頼るのは、オマエを信頼してるから。なら、気が重いかもしれないけど、期待に応えてあげるのが道理ってものじゃない?」
「そーですよ、にーさま。ゲームだって、こういう時は力を貸すのが当たり前じゃないんですか?」
「く…」
ハクアとえりの口撃に、桂馬は一瞬言葉に詰まる。
「……えりの言い分は状況にもよるが、概ね間違っちゃいないな。
全く、ボクはリアルと関わりたくないってのに…」
桂馬は愚痴っぽく言い、そして。
「母さんを説得するためのドクロウの設定、お前たちも考えるんだぞ?」
これを聞いたハクアとえりは、安堵のため息を吐いた。
ビビビビビ……!
突然、ハクアの左手首に着けられた、飾りのないブレスレットが異音を発する。
「なんだ、どうした!?」
桂馬の質問に、ハクアは険しい表情で答えた。
「ヴィンテージに見つかったわ。この家の周りに張った簡易結界に引っかかったのよ」
そう言うと、入ってきた窓に近づき。
「私が何とかするから、みんなは部屋から出ないように!」
そう釘を刺して飛び出していく。と、次の瞬間。
ビュオッ!
黒ずんだ羽衣がハクアを襲う。
「ッこのぉ!」
ハクアはバランスを崩しながらも、空中で大鎌を振るい羽衣を裁ち切ると、羽衣の機能と自らの空中移動の術を重ね、急加速しながら敵に迫っていく。だが。
ジャラララ!!
四方から鎖が襲いかかり拘束しようとする。
「くっ…!」
ハクアは咄嗟に羽衣の壁を作り、魔力の足場を蹴って上空へ逃げる。
(これって、私が
瞬時に状況分析をするハクア。と、そのハクアを上から衝撃が襲う。
その一瞬の隙を突き、先程の鎖がハクアを絡め取る。
「やっぱり。ハクアならそう行動すると思った」
その声に、ハクアはギョッとする。
「敵が結界に触れれば、奇襲を仕掛けて速攻で対処する。確かに効率的ね。だけど…」
すっと、ハクアが目指していた敵が羽衣に変わる。
(羽衣人形…!)
「一瞬で本物とダミーの区別はつきにくいでしょう?」
ハクアはゆっくりと、声の主へ視線を移す。
「オマエは、フィオ…」
目の前にいたのは魔学校でハクアと同期だった、そして主席を争った相手、フィオーレ=ローデリア=ラビニエリ。角付きの、名家出の悪魔だ。
彼女も駆け魂隊として人間界に来ていた。しかし。
「あなた、ヴィンテージだったの!?」
信じられないものを見るように、フィオーレを見つめるハクア。
「優等生でマニュアル人間のあなたには意外だった?」
フィオーレは悪意の隠った笑みを向け。
「それじゃあ、再会したばかりで偲びないけど、これでお別れね」
そう言い終わると同時に、ハクアの首に鎖が巻きついて…。
「おい、アレってマズいんじゃないか?」
戦況を見ていた桂馬が、誰にともなく言う。危機的状況に陥ったハクアを、えりは顔を青くしながら見ている。そして。
「……いや」
「ん? ドクロウ?」
小さな呟きに、桂馬は聞き返す。
「死ぬのは、いや…。
殺すのは、いや…」
「ドクロウちゃん、どうしたんですか!?」
えりも驚き声をかけるが、まともな返答はない。
「わたし…、わたし、は……」
恐怖に打ち震えるドクロウ。するとその耳に。
---汝は、あの者を助けたいのか?
そんな言葉が聞こえてきた。
「え…、誰?」
「どうした、ドクロウ?」
「何か聞こえるんですか?」
しかしそれは、ドクロウにしか聞こえないようだ。
---汝、力を欲するならば強く願え
「……欲しい。あの人を助けるための、力が欲しい!」
---……倒すためではなく、救うために力を欲するか。気に入ったぞ。その願い、叶えてやろう!
するとドクロウの身体が閃光に包まれた。
フィオーレは、ハクアが出来るだけ長く苦しむように、少しずつ、ゆっくりと首を締め上げていく。
「か…はあっ…!」
ハクアはすでに、息をするのもままならない。
(このままじゃ、雪枝まで…)
この期に及んで、契約の首輪で繋がった
やがて気が遠くなっていき、意識を手放しそうになったその時。
「きゃっ!?」
桂馬の部屋から飛び出した人影が、フィオーレへ体当たりする。
その拍子にハクアを縛っていた鎖が緩み、その隙に何とか脱出を果たした。
そこには、年の頃なら13~4、半袖ミニスカのエプロンドレスに長手袋、ロングブーツ姿の少女がいた。
「あなた、なによ!?」
フィオーレが、ハクアの前に立ち塞がる少女を睨みつけながら聞く。
「わたしは、魔法少女プロセルピナ」
少女は、名乗りを上げた。
「魔法少女!? ……く、邪魔をしないでっ!!」
フィオーレがプロセルピナに向けて鎖を放つ。だが。
ジャラララ……!
なんと、プロセルピナも鎖を放ち、フィオーレの鎖を絡め取る。
「なっ、……それなら!」
鎖は消え失せ、代わりに大きな網がプロセルピナに襲いかかる。すると彼女はチラリとハクアの方を見て。
ザシュッ!
ズババッ!!
その網は切り裂かれ散り散りになった。プロセルピナの手には、ハクアのものと全く同じデザインの大鎌が握られている。
(まさか、魔力を使ってコピーしてる…?)
ハクアが驚きの眼差しで、プロセルピナを見た。それも当然だろう。ハクアたちが本来、羽衣を使ってやっているようなことを、自分の魔力のみで行使しているのだから。
「ちょっと、何であなたが『証の鎌』を持ってるのよ!?」
余裕のないフィオーレは、プロセルピナが大鎌…、『証の鎌』を持っていることで混乱をきたす。そこへ。
「勾留ビンッ!」
「なっ、しまっ…」
ハクアが勾留ビンを使い、フィオーレを閉じ込めてしまった。
ハクアはプロセルピナに向き直り。
「ありがとう。プロセ…、ううん。あなた、ドクロウね?」
ハクアのその言葉に、プロセルピナはコクリと頷き。
「無事で、よか…」
そこで彼女はふっと気を失い、それと同時に元の幼い姿に戻る。そんな彼女を、ハクアは慌てて抱きかかえた。
(不思議な子ね。きっとそれが、ヴィンテージがこの子を狙う理由なんだろうけど)
深い眠りに落ちているドクロウを見ながら、ハクアはそのようなことを考えていた。
歩美「高原歩美…」
ちひろ「小阪ちひろの…」
歩美・ちひろ「あとがき代わりの座談会コーナー☆NEXT!」
ちひろ「……って、なんじゃコリャー!?」
歩美「ちひろ、それ、無印座談会の時と同じ反応。気持ちはわかるけど」
ちひろ「いや、だって座談会の1回目って、必ずうちらじゃんか」
歩美「んー、何でも、座談会出張版の1回目も気がついたら私たちだったから、今回の1回目も私たちになったみたいだよ?」
ちひろ「出張版はたまたまだったんだ!?」
歩美「前に他の座談会で言われてたけど、いい加…、気まぐれなちひろは使いやすいってのもあるみたい」
ちひろ「今、非道いこと言おうとしなかったか?」
歩美「気のせい気のせい!」
ちひろ「歩美ってこっちだと、ちょっと性格悪い気がすんだよなー。
……ま、いっか。そんじゃあ解説始めようか」
歩美「そうだね。
まずはタイトルだけど、最初は『ふしぎなひみつのドクロウちゃん』にするつもりだったみたい」
ちひろ「ん? タイトルになんか意味でもあったの?」
歩美「昔のアニメ、『ふしぎなメルモ』と『ひみつのアッコちゃん』に、ドクロウちゃんを合体させたかったみたい」
ちひろ「へー。でも、そんじゃあ何で、『ちいさな~』に変わったのさ」
歩美「小学校での話が多くなる予定だから、女の子って意味を強調させたかったんだって」
ちひろ「ふーん。ホントかどうかは判らんけど、一応考えてはいるんだ。
ええと、それじゃあ次は…。最後まで読んでれば判ると思うけど、これって前半、ワザと『神のみ[過去編]』終了後みたいな雰囲気で書いてるよね?」
歩美「うん、そーだね。ハクアさんのえりに対する態度をどう捉えるのか、とか、ヴィンテージって捕まったんじゃないの? なんてトコはワザと忍ばせてるみたいだね。
でも、ヴィンテージの正体がフィ何とかさんだった段階で、原作の『神のみ』じゃないって確定するわけで」
ちひろ「そーいや季節を書いてないのもそのためだっけか?」
歩美「うん。この話は夏の終わり。原作だと『サマーウォーズ』の回の2~3日前くらい」
ちひろ「つまり原作じゃ、舞校祭どころか女神の宿主すら出揃ってないわけだ。……あ、いや、他の女神の情報すら入ってないのか」
歩美「そうだね。長く引っ張るほどのネタじゃないから、後半であっさりバラしてるけどね。
で、次はフィ何とかさんとの戦闘だけど」
ちひろ「あの人、あんなに強かったの? ハクアさん、あっさりやられちゃったけど」
歩美「それは、ハクアさんがヴィンテージの正体を知らなかったのが原因だね。フィ何とかさんはハクアさんのことをよく知ってる上に、お互いトップ争いをしてたからね」
ちひろ「てことは、ヴィンテージがフィ何とかさんだって判ってたら、状況は変わってたってわけだ。ハクアさんも運が悪かったねー」
歩美「そしてその、運が悪いハクアさんを救ったのが、魔法少女プロセルピナ」
ちひろ「正体はドクロウなわけだけど。それってやっぱり…」
歩美「まあ、そういうことだね。つまりこの話は…」
ちひろ「この先はまだ秘密、と。
ところで最後に疑問だけど、どうして夏休み中なのに、桂木は児玉先生と会ってたん?」
歩美「あーあれは、たまたま学校に行った桂木が児玉先生に目をつけられたらしいね」
ちひろ「学校に? 桂木が、休み中にわざわざ?」
歩美「その辺の理由は、次回書くつもりだって」
ちひろ「つまりそれって、次回予告ってやつか」
歩美「そういうこと。というわけでみんな」
歩美・ちひろ「次回もまた見てくださいね!」