神のみスピンアウト・ちいさなひみつのドクロウちゃん 作:猿野ただすみ
朝。午前中ながら夏の暑い陽射しが差し込む桂木家。そのリビングでは。
「どういう、事なの…?」
桂馬とえりの母、桂木麻里が困惑の表情を見せていた。その原因は昨夜、ハクアが連れてきたひとりの女の子。
「……は!? まさか!!」
「言っとくけど、父さんの隠し子じゃないからな?」
先回りをし、予防線を張る桂馬。前例があったので、そこら辺は警戒しての発言だ。
「えーと、この子は『黒野ドクロウ』ちゃん。昨日の夜にハクアさんが連れてきたんです」
「ハクアってあの、笑えない冗談を言ってた子ね?」
ハクアが初めてこの家へやって来たとき、自分を「隠し子」と言って家庭に波風を立てたことがあるのだ。
「ドクロウはハクアの知り合いの、そのまた親戚の子で、その家では今、親族争いの真っ最中らしい。
唯一の味方だったその人物は安全確保のため、ハクアにドクロウを託したみたいだけど、ハクアも今は居候の身。
そこでボクを、と言うか、この家を頼って来たみたいだな」
桂馬は、夜の内に3人で練り上げた設定を掻い摘まんで説明する。
(さて、この説明でどういう反応をするのかだけど、母さんなら多分…)
「そうなの。あなた、苦労してるのね。
わかったわ! あなたの面倒は私が見てあげる。何も心配することはないからね!」
(……まあ、予想通りだな。母さんはいい意味で単純だから)
そう分析しながら、小さく安堵する。
「あ、でも、学校の手続きとかは…」
「それならハクアさんとその知り合いの方が、既に手続きを済ませたって言ってました。ドクロウちゃんは2学期の始業日には転入できますよ」
この辺りも昨日のうちに詰めておいた。学校に通わせるにしても、バックアップ出来る知り合いのいる所の方が安心できるからだ。
「と言うわけで、これからボクはえりと一緒に、ドクロウを連れて学校の下見に行ってくる」
そう告げると、麻里は目を丸くして言った。
「え、何? 何だか桂馬がお兄ちゃんみたい」
「……一応、兄属性は持ってるんだが」
「え~、でも私には、こんなに親身にはなってくれませんでしたよー?」
「お前は同い年だったからな。……まあ、手間はかかったが」
「? 何か言いましたか?」
「いいや、気のせいだろ」
そんなことを話していると、ドクロウがふたりの袖口を引っ張り。
「行こ。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
と促した。
「キャー、お兄ちゃん、お姉ちゃんー!」
ドクロウの発言に麻里が興奮するのを後目に、桂馬は軽く頷く。
「そうだな。行くぞ、えり。……えり?」
えりの様子が何かおかしい。えりは身体をふるふると震わせていた。そして。
「ドクロウちゃん! もう一度、私のことを呼んでみてください!」
「……? お姉ちゃん?」
「はうわっ!」
ドクロウのお姉ちゃん呼びに、えりは身悶える。
「し、知りませんでした。お姉ちゃんと呼ばれることに、これほどの破壊力があるとは…!」
顔を紅潮させて言う姿に、さすがに桂馬と麻里もやや引いていた。
「……そんなことはどうでもいい。ほら、さっさと行くぞ!」
そう言うと、えりの服の後ろ襟を掴み引きずっていく。
(何だかえりちゃんが、段々とポンコツになっていく気がするわ…)
その様子を見ていた麻里は、内心そう思っていた。
家を出た桂馬たちは、学校には向かわずに一旦隣の家へと立ち寄る。表札には「鮎川」と記されている。
「……お兄ちゃん?」
「ん? ああ。学校へ行く前に顔合わせしときたいヤツがいたからな」
そう言って呼び鈴を押そうとした、その時。
ガチャリ
扉を開く音と共に、ひとりの少女が顔を出した。
「あ、天理」
「…………え? ええっ! け、桂馬くん!?」
天理と呼ばれた少女は、予想もしていなかったことに、軽くパニックになる。
「おい、驚きすぎじゃないか?」
少し呆れて桂馬は言った。すると一瞬、天理の身体が輝き、目つきが鋭くなる。
いや、それだけではない。その頭上には、天使のような輪が浮かんでいた。
そんな彼女が口を開く。
「なにを言っているのですか。扉を開けたら、目の前に愛する人が立っていたのです。驚くのも当たり前でしょう?」
「そーですよ、にーさま。ディアナさんの言うとおりです」
ふたりの言い分に、ポンと手を打ち。
「そうか。天理は恋愛をしてたんだったな。成る程、ヒロインの反応としては順当なものだ」
「相変わらずのゲーム基準ですか」
「もう、にーさまってば…」
ふたりは深く、ため息を吐く。
「あの、お兄ちゃん?」
今まで黙っていたドクロウが声をかける。
「ああ、そうだったな。
済まない、ディアナ。天理と替わってくれ。コイツのことを紹介したいんだ」
桂馬がそう言ってドクロウの頭に手を置くと、彼女も理解したのか軽く頷き。
パアァァ…
再び身体が輝き、元の穏やかな表情になり、頭上の輪も消えていた。
「天理、紹介しておく。コイツは『黒野ドクロウ』、地獄の関係者らしい。しばらく家で預かることになった」
「え…」
桂馬の説明に、驚きの色を見せる天理。
「ドクロウ、コッチは幼馴染みの『鮎川天理』。そして昨日話した女神のひとり、ディアナの宿主だ」
「女神…。さっきの人?」
「ああ、そうだ。もしもの時は頼ったらいい。
……天理。ドクロウはヴィンテージに狙われてるらしい。だからもしもの時は頼む。もちろんディアナも」
「ふえっ!? ……あ、うん、わかったよ」
天理が返事をすると、またもや入れ替わり。
「わかりました。気にとめておきましょう。
……桂木さん、えりさん。ふたりもお気をつけて」
「ああ」
「ディアナさん、ありがとうございます」
ふたりが応えると、ディアナは引っ込んでいった。
「あの、天理さんはお出かけですか?」
「……うん。ちょっと買い物。……あの、みんなは?」
「私たちは、ドクロウちゃんが転入する学校の下見です」
えりが答えると、天理は下を向き、足の前に持ってきていた手でスカートをギュッと握る。そして意を決したように桂馬を見つめ。
「あ、あの、私も、ついて行って、いいかな?」
「あ、ああ、構わないが…。お前、最近押しが強いな?」
幼い頃からの天理を知っている桂馬は、ここ最近の彼女の行動力に驚きを感じていた。
小学校に向かって歩を進める一同。天理は桂馬の、三歩後ろを着いてくる。
「(天理さん。ちゃんとにーさまの横に立たなくちゃダメですよ)」
天理の横に移動してきたえりが囁く。
「(そ、そんな、恥ずかしいよ)」
「(そんなじゃあ、にーさまの攻略なんて、出来ませんよ!)」
「(こ、攻…!?)」
えりの発破をかける言葉に、天理は強く赤面した。
「(おふたりには悪いですけど、私は天理さんの味方ですからね)」
実は、桂馬のことが好きだと告白している女性は、あとふたりいる。どちらもえりと仲がいいのだが、これに関しては、最も古くからの付き合いである天理に頑張って欲しいと思っていた。
「(……ありがとう、えりさん)」
「ドクロウ、ここがお前が通う小学校だ」
やって来たのは舞島北小学校。ここがドクロウが通う学校として選ばれたのには3つの理由がある。
1つ目は、桂木家から比較的近いということ。
2つ目に、桂馬たちが通う舞島学園にも近いこと。
そして3つ目に、この学校にはドクロウをサポートしてくれる人物がいるということ。
これらの理由を語ると。
「サポート?」
ドクロウが小首をかしげながら、桂馬に尋ねる。
「ああ。この学校には、頼りになるヤツがいる。そいつについては…、まあ、その時までのお楽しみだ」
そう告げる桂馬は、しかし彼の趣味で言ったわけではない。
事前に連絡をとりドクロウのことを頼んだとき、相手から詳細を話さないように頼まれたのである。理由は
「……ねえ、桂馬くん。職員室には寄るの?」
「いや、このまま舞島学園も案内したいから、後はハクアか母さんに任せることにする」
「わ-、丸投げですかー」
えりが呆れて言った。
再びの移動を経て、桂馬たちは舞島学園の正門までやって来た。
「ここが舞島学園だ。向かって左側が高等部。ボクとえりが通う、2-Bの教室がある」
「ドクロウちゃん、何かあって私たちに会いたいときは、躊躇わずに来てください」
「うん」
ドクロウは素直に頷いた。
「桂馬くん。ここに来たのって、学校を教えるためだけじゃないよね?」
「なんだ。天理、気がついてたのか」
桂馬が尋ねると、天理は頷き。
「わたしと同じで、ドクちゃんを紹介したい人がいるんだよね?」
それを聞いて、桂馬は頷き返し。
「ああ、そうだ。少なくとも、今日はあと2~3人と顔合わせ出来るはずだ。ついてこい」
そう言って歩き出す桂馬のあとを、3人はついて行く。
「今日は陸上部、休みか…」
グランドの前まで来て呟く桂馬。微妙に安堵感が感じられる。
「それじゃあ、図書館に行くか」
そう言うと左に進んでいく。すると一部がガラス張りになった建物が現れた。
桂馬は躊躇わずにその中に入っていく。すると。
「……あ。桂木くん…、えりさん…」
黒髪を肩の辺りで切り揃えた大人しめな少女が、大量に本を抱えた状態で移動している最中だった。
「ん? 栞、今日は蔵書整理の日だったのか?」
「い、いえ、少し調べ物を…」
栞と呼ばれた少女がそう答えたとき。
「栞ー、頼まれてたもの、見つけてきたよー」
「結構、重いのですね」
奥の方からふたりの少女が現れた。
「なっ、歩美、月夜!」
「えっ、桂木!?」
「桂馬!?」
予想外のところにいる予想外の人物に、3人は驚きの声を上げた。
「歩美さん、月夜さん? おふたりはなんでここに?」
えりが尋ねると、歩美は少し落ち着きを取り戻し答えた。
「私たちは栞のお手伝い。昨日、下校時刻がたまたま重なって、そういう話になったのよ」
「今日は陸上部はお休み、私も新月で少し暇だったから」
ふたりの答えに、成る程と頷く。
「それで桂木たちは…、って、天理?」
このときになって、ようやく天理の存在に気づいた歩美。すると天理は。
「なっ、おい、天理!?」
顔を真っ赤にしつつも、自分の腕を桂馬の腕に絡ませてひっついた。それを目の当たりにした歩美が、ドス黒いオーラを発散させる。
「あ、歩美、落ち着くのですね!」
「何、月夜。私は落ち着いてるわよ」
「ひっ!」
ニッコリと笑った歩美を見て、短い悲鳴を上げる月夜。
もうお判りだろう。桂馬に告白した、残りふたりの内のひとりがこの少女、高原歩美である。
(くそっ! 陸上部が休みで安心していたのに…!)
桂馬は、出来れば歩美と天理を引き合わせたくはなかった。
……仲はいいのだ、このふたりは。ただ、桂馬が間に入ると、ものすごくギスギスしてしまうのだ。
「あ、あのー、大事な話があるんですが…」
えりが恐る恐ると言う。
(ナイスだ、えり!)
こっそりサムズアップをする桂馬。
「そうだ。大事な話がある」
そう言いながら、不自然にならないように天理の腕を振りほどき、ドクロウをずいっと前に押し出した。
「コイツを紹介しにきた。名前は『黒野ドクロウ』、ヴィンテージに狙われていて、家で預かることにした。
ドクロウ。彼女たちは、汐宮栞、高原歩美、九条月夜…」
順に指差しながら名前を挙げ。
「そして順に、女神ミネルヴァ、メルクリウス、ウルカヌスの宿主だ。天理同様、もしもの時には頼ったらいい。
3人も、ドクロウのことを頼む」
「私からも、お願いします」
えりからも頼まれては、さすがに歩美も断れない。
「仕方がないなぁ。この子にはなんの罪もないしね!」
最後の「ね!」で桂馬をキッと睨むが、スッと視線を外される。
「まったく…。
あっ、話は変わるけど、桂木って昨日、学校来てなかった?」
「そう言えば、児玉先生に何か言われたとか文句言ってましたけど、学校へ行った理由は聞いてませんでした」
桂馬は憂鬱な気持ちになりながらも答えた。
「……みなみの様子を見に来たんだよ」
「みなみ?」
「誰、なの?」
「……」
歩美、月夜、栞の視線が突き刺さる。それに答えたのは、えりだった。
「みなみさんは、にーさまが夏休み前に攻略した、中等部の水泳女子です」
桂馬はふう、とため息を吐き、続きを引き継ぎ語る。
「みなみは攻略時、殆ど接点がなかった。塞いだ心のスキマが安定するよう対処したつもりだが、前半、ホントに接点がなかったからな。気になって昨日、様子を見に行ったんだ」
「みなみさん、どうでしたか?」
「遠くから水泳をしてる姿を見ただけだが、問題はなさそうだったな」
桂馬の答えに、安堵のため息を吐くえり。と。
「……ねえ、攻略って何の事?」
尋ねるドクロウに、えりが慌てふためく。
「ド、ドクロウちゃんは知らなくてもいーんですっ!」
「そうそう! コイツのやってることは、あんまり褒められることじゃないから!」
「でも、桂馬くんがやってるのは、人助けだよ」
「そのやり方が問題なのよ! 天理はなんとも思わないの!?」
「そ、それは…」
言い淀む天理。
「……?」
その様子を見ていたドクロウは小首を傾げる。
「……栞。私たちは調べ物の続きをするのですね」
「……」(こくり)
月夜と栞は呆れて、本来の作業に戻っていった。
天理「鮎川天理…」
ディアナ「ディアナの…」
天理・ディアナ「あとがき代わりの座談会コーナー☆NEXT!」
天理「…って、ディアナと一緒にこのコーナーやるの、初めてだね」
ディアナ「そうですね。『めがみ~な』の方でも、その内実現するとは思いますが」
天理「うん。……それじゃあ解説、始めようか」
ディアナ「ええ。まずは朝の桂木家ですが、読んでいただければ判るように、『神のみぞ知るセカイ』と同じような出来事は起きています。つまり、未だに存在を感じさせない彼女もいます」
天理「この話では色々と前提条件が変わってるから、こんなことが起きてるみたい」
ディアナ「そしてえりさんですが、……麻里さんが思ったように、確かにポンコツになってきてる気がしますね」
天理「因みにえりさん、ある人から姉扱いされてるみたいだけど、ある理由でドクロウちゃんほどの衝撃は受けなかったんだって」
ディアナ「次は、鮎川家にやって来たわけですが…」
天理「……あの、この人、誰?」
ディアナ「誰も何も、天理自身ではありませんか!」
天理「だ、だって私、こんなことしないよ!?」
ディアナ「そう、ですね。天理なら、『そう、なんだ』『それじゃあ天理さん、お先に失礼します』『あ、うん…』みたいな感じで終わっていた気がします」
天理「……ディアナ、モノマネ上手だね」
ディアナ「いえ、モノマネがどうのではなくて、天理のことです!」
天理「そんなこと言われたって、私は桂馬くんの傍に居られたら、それだけで幸せだから…」
ディアナ「原作の最終回で、泣いていたくせに…」
天理「? ……ディアナ、何か言った?」
ディアナ「いいえ、何でもありません。
ともかく、あちらの天理は一緒について行く流れになりましたが、小学校の描写はあまり、と言うよりも殆どありませんでしたね」
天理「小学校は、ドクロウちゃんが学校に通い出せば、イヤでも出るからだって作者が言ってたよ」
ディアナ「身も蓋もありませんね。……まあ、いいでしょう。
そして今度は舞島学園へやってくるわけですが。……なんでしょう、この修羅場は」
天理「向こうの私、頑張ってるなぁ」
ディアナ「天理が恋愛に積極的になってくれるのはありがたいのですが、何故わざわざ、波風を立てる様なことを…」
天理「き、きっと、今までこんなことをしたことがなかったから、加減が判らないんだよ」
ディアナ「……天理、言ってて虚しくはありませんか?」
天理「……ちょっと」
ディアナ「ハァ…。まあ、虚しいと思うだけでもマシ、でしょうか」
天理「え、えーと、次は、前日に桂馬くんが学校に来ていた理由だね」
ディアナ「攻略した女性を見に行ったって、やっぱり他の女性に現を抜かしているのですね」
天理「桂馬くんは優しいんだよ」
ディアナ「それはそうでしょうが…! いえ、ここでどうこう言うようなことではありませんね。それこそ、月夜さんと栞さんが呆れるレベルです」
天理「あはは…(汗)」
ディアナ「ところで天理、ひとつ気になることがあるのですが」
天理「え、何?」
ディアナ「ドクロウさん、出番少なくありませんか?」
天理「そ、それは、作者さんも気にしてるから、言わないであげて」
ディアナ「やれやれ、ですね。
……さて、これで座談会も終了ですね」
天理「うん。次回はいよいよ小学校へ転入だって」
ディアナ「そうですか。ようやく本格的に物語が始まるのですね」
天理「そうだね。それでは皆さん」
天理・ディアナ「次回もまた、見てください」