神のみスピンアウト・ちいさなひみつのドクロウちゃん 作:猿野ただすみ
※歌詞の使用が可能になったので、音符で伏せていた場所を訂正しました。
夏休みも終わりを告げ、2学期の始業日。
ここ、市立舞島北小学校1年
「さて、今日からみんなと一緒にお勉強をするお友達が増えます。
さあ、入ってきて」
藤村先生の合図と共に、ひとりの少女が扉を開け教室の中へ入ってくる。
「はい。今日からみんなのお友達になる、黒野さんよ。黒野さん、自己紹介をして」
先生に促されてコクリと頷き、自己紹介を始める。
「……黒野、ドクロウです。……よろしく、お願いします」
「あー、ええと、緊張してるのかな?
うーんと、それじゃあ一番後ろの、窓際から二番目、……西原さんの後ろが黒野さんの席ね」
ドクロウは先生に頷き、席へと移動する。
「さて、それじゃあ、夏休みの宿題集めるわよー」
先生が声をかけると、生徒たちがドリルやら絵日記やらを教卓の上に置いていく。
「……うん、これで全部ね。
それじゃあ次の授業まで自由時間よ。ただし! あんまり五月蠅くしないことと、勝手に教室を出ないこと!」
『はーい!』
生徒たちは元気に返事をした。
「ねえねえ! ドクロウって変わった名前だね!」
突然、ドクロウの前の席に座っている、ツインテールをリボンで止めた女の子が声をかけてきた。
「……私の名前、変わってるの?」
ドクロウは小首を傾げて聞き返す。
「え? うん、変わってると思うけど…」
逆にビックリした表情になって答える少女。
「そう、なんだ。……私にはよくわからない」
「え、ええと…」
微妙な空気になり、なにを言ったらいいのか判らなくなる少女。そこへ。
「駄目だよ、こずえちゃん。変わってるなんて、失礼だよ?」
「あっ、まろんちゃん」
こずえと呼ばれた少女は、声をかけてきた少女の名を呼んだ。
「こずえちゃんは、自分の名前が変わってるって言われて、嬉しい?」
「え? ……ううん、微妙かも」
こずえは、ちょっと考える表情になってから答えた。
「それじゃあ、謝ろ?」
「うん。
あの、ドクロウちゃん。変わった名前とか言って、ごめんね?」
こずえが頭を下げて謝ると、ドクロウはふるふると首を横に振り。
「大丈夫。私は、気にしてないから…」
と答える。それを聞いて安心したこずえは。
「よかったぁ。
……ねえ、ドクロウちゃん。よかったら私と、お友達になって」
「あ、それなら私ともお友達になって欲しいなー?」
まろんと呼ばれていた少女も便乗する形で言った。
「……私、友達なんていなかったから、どうしたらいいのか判らないけど、それでもいいなら」
ドクロウの告白に、目を丸くするこずえ。
「お友達、いなかったの?」
「それなら、私達が初めてのお友達だね!」
危うく重たい方向へ話が進みそうになるところを、まろんが元気に吹き飛ばす。
「ほら、こずえちゃん。自己紹介しなきゃ」
「あっ、そうだった。
えーと、私は西原こずえです」
「私は中川まろん。今はお父さんとお母さんのお仕事の関係で、こずえちゃんのお家で居候中なんだ」
まろんの自己紹介に、ドクロウの表情が少しだけ動く。
「居候? 私も同じ…」
「わあ、そうなんだ。ねえ、どういうお家なの?」
まろんが尋ねると、ドクロウは静かに口を開いた。
「……ゲームばかりしてるけど優しいお兄ちゃん、ドジだけどお掃除とお料理が上手なお姉ちゃん、怒ると怖いけど普段はとっても優しいお母さん。そんな人たちが暮らす、明るくて賑やかなお家」
「……ドクロウちゃんは、その家族が大好きなんだね?」
聞いていたまろんが、優しく微笑みながら言う。
「……? なんで、そう思ったの?」
「あ、それは私でもわかるよ! だってドクロウちゃん、ほんのちょっとだったけど、微笑んでたもん」
「え…?」
こずえに言われ、内心で驚くドクロウ。
ドクロウは気づいていた。自分の感情が希薄だということを。
勿論、喜怒哀楽が無いわけではないし、条件によっては酷い恐怖心に駆られることもある。
しかし普段は、表情に出るほどの感情の起伏があるわけではなかった。それが、桂木家の人たちを語っていたとき、微笑んでいたと言う。
桂木家に身を寄せて、僅か数日。しかしドクロウは、確実に変化していた。
「どうしたの、ドクロウちゃん?」
黙り込んだドクロウが気になるこずえ。
「ううん、何でもない」
ドクロウは心配かけまいと、首を横に振る。その想いもまた、変化であることに気づきもしないまま…。
ふと。得も言われぬ違和感を感じた。
「なに…?」
同じ様に違和感を感じたのだろう、まろんが教室を見渡す。そしてふたりは気がついた。
「みんなが大人しくなってる」
ドクロウの発言を聞いて、まろんがハッとした表情になる。
「こずえちゃん!?」
見ればこずえは、机に突っ伏している。
「大丈夫、こずえちゃん!?」
まろんが駆け寄り声をかけると、こずえは気力のない眼差しを向ける。
「まろんちゃん、なんだろ。急にやる気が無くなっちゃって…」
よく見れば、周りの子たちも皆、こずえと同じような目をしている。
「大変!」
言ってまろんはケータイを取り出し、慌てて電話をかける。
「もしもし岡田さん、大変なの! 急に皆が、やる気をなくしちゃったの!!」
『やる気のない脱力系アイドル…、いけるっ!』
「いえ、いけませんから!」
素っ頓狂なことを言う岡田に、まろんはツッコミを入れた。
「それにしても新学期早々、まろんの学校は事件が起きて。あの学校、呪われてるんじゃないかしら?」
通話を切った岡田郁子は、左手を頬に当てながら言った。するとそこに。
「スミマセン。岡田さん、休憩を取ってもいいですか?」
まろんと顔立ちのよく似た、高校生くらいの少女が声をかける。
「あら、かのん。もう休憩?」
中川かのん。それは現在人気急上昇中のアイドルである。
「……そうね、それじゃあ30分くらい取りましょうか」
「ありがとうございます!」
かのんと呼ばれた少女は深々と頭を下げて、その場から立ち去っていった。
ドクロウは教室を飛び出した。理由は単純。この異変と同時に魔力、しかも
(瘴気は…、上から?)
瘴気の流れを感じ取ったドクロウは階段を駆け昇り、屋上の扉を開け放つ。するとその上空には。
『みんなー、何にもしないで昼寝しようよー』
そんな、だらけたことを言うはぐれ魂がいた。その名は[ノビティア]。別のはぐれ魂[シャイアン]に虐められ、やる気をなくしてしまった存在である。
勿論そのようなことは、ドクロウには関係がない。ただ。
(あれを何とかしないと…)
それだけである。
意を決したドクロウが、ふたたび魔法少女になろうとした。が、その時。
---♪♪♪~…
どこからか歌声が聞こえてきて…。
ひとりの少女が上空に舞い踊る。
「オン・ステージ! かのん100%!」
それは、アイドルの中川かのんだった。
「みんなのやる気を奪うなんて許せない!」
『いいじゃないかー。朝から昼寝して、昼には散歩なんて、素晴らしいじゃないかー』
「人間には学校も仕事もあるのー!
『かのん100%』ー!」
---かのん100% 元気レボリューション
大丈夫 どんな運命も かえちゃおう!…
かのんが歌うと、はぐれ魂は力が弱まっていく。そこへ。
「勾留ビンー!」
いつの間にか屋上にいた、半透明の羽衣を身につけた黒髪ポニーテールの少女が、大きなビンを使いはぐれ魂を吸い込んでいき。
「駆け魂勾留!」
ビンのふたを閉めながら彼女は言った。
それは、ドクロウの逃走を手伝ってくれた少女の出で立ちと似ており、そして。
「……お姉ちゃん?」
謎の少女の姿を見て、ドクロウが呟く。そう、その少女は桂木えりによく似ていた。
「え? あっ!」
ドクロウに気がついた少女が駆けよってくる。
「あなたがドクロウちゃんですね? ハクアや神にーさまから聞いてます。
私はエリュシア=デ=ルート=イーマ、駆け魂隊の悪魔です。
こちらでは桂木エルシィという名前で、神にーさまやえりねーさま…、桂木桂馬と桂木えりの母親違いの妹ということになってます!」
「エリュ、シア…」
「あ、エルシィでいいですよ。みんなからもそう呼ばれてますし」
そう言って、にっこりと微笑むエルシィ。
「それじゃ、エルシィお姉ちゃん」
そう言われた瞬間、エルシィは雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。
「ド、ドクロウちゃん。もう一度私のこと、呼んでくれませんか!?」
「……? エルシィお姉ちゃん?」
「はうあっ!?」
エルシィは身悶え、顔を紅潮させる。
「し、知りませんでした。お姉ちゃんと呼ばれることに、これほどの破壊力があるとは…!」
その様子を見たドクロウが言う。
「言ってることが、お姉ちゃんとおんなじ」
「あ~、それはそうですよ。何しろ私とえりねーさまは、……は!? げふんげふん!!」
エルシィは誤魔化すように咳払いをする。それを訝しげに見ていたドクロウだったが。
「……そう言えば、さっきの人は?」
気がつけば、かのんの姿はいつの間にか消えていた。
「あ、えーと、かのんちゃんも色々と忙しいですから。
……あーっ! 私も用事があるんでしたっ!!」
そう言ってエルシィは背を向けるが、一度ふり返りドクロウに言った。
「ドクロウちゃん。かのんちゃんが魔法少女になって戦っていたのは、ナイショにしてください」
こくり
ドクロウが頷くとエルシィは安堵し、再び背を向けると空を飛んで去っていった。
ドクロウが教室に戻ると、そこは元通りの賑やかさを取り戻していた。
「あっ、ドクロウちゃん。どこ行ってたの?」
「あ…、うん、ちょっと」
こずえに尋ねられたドクロウは、曖昧な返事を返す。
「んー、まあいいや。
……あっ、そうだ。ドクロウちゃんはまだ知らなかったよね? まろんちゃんって、かのんちゃんの親戚なんだよ」
「……え、かのんちゃん?」
「そう! 人気アイドルの中川かのんちゃんだよ!」
そう言って、パスケースに入れたかのんのブロマイドをドクロウに見せた。
(……やっぱり。この人、さっきの魔法少女)
かのんという名前は、それこそさっきエルシィから聞いたばかりである。
ドクロウは親戚だというまろんをチラリと見る。
「ん? どうかした?」
「ううん、何でもない」
慌てて首を横に振るドクロウ。
(エルシィお姉ちゃんはかのんさんのこと、ナイショって言ってたけど…。まろんちゃんはこのこと、知ってるのかな?)
ドクロウは疑問に思う。そしてその疑問は、新たな疑問を生み出す。
(……エルシィお姉ちゃん、お兄ちゃんとお姉ちゃんの妹って言ってた。じゃあふたりとも、かのんさんのことを知ってる…?)
「はーい、みんな待たせたわねー。授業始めるわよー」
しかし藤村先生が戻ってきたため、ドクロウの思考はそこで中断せざるをなかった。
桂馬「桂木桂馬…」
えり「桂木えりの…」
桂馬・えり「あとがき代わりの座談会コーナー☆NEXT!」
えり「……って、今回私たち、出番がありませんよ?」
桂馬「まあ、ドクロウが主役だからな。向こうのボクは静かにゲームが出来ていい、……というわけにもいかないんだよなー」
えり「一部を除いて、原作の攻略はちゃんと起きるんですよねー」
桂馬「夏休み明けは、……七香か」
えり「ドクロウちゃんとのエンカウント、必至ですね」
桂馬「ここで敢えて言わせてもらおう。
リアルはクソゲーだ!」
えり「向こうのにーさま、女神さんたちのせいで難易度上がってるんだか下がってるんだか…」
桂馬「事情を知っていて協力的だが、ストレスは半端ないらしい」
えり「ここで1話目に繋がるんですねー」
桂馬「そういうことだ。
さて、裏話もこれくらいにして、解説を始めるぞ」
えり「はい。ええと、まずは…。藤村先生、ですね」
桂馬「ああ、藤村だな。無論、あの藤村だ。
どうやら、舞島東から移動になったらしい」
えり「随分近くに移動になりましたね?」
桂馬「おそらく白鳥家か藤村組、あるいは両方の圧力があったんだろ」
えり「藤村組って、それじゃあ元の作品と同じ設定になるんでしょうか?」
桂馬「舞島出身ってこと以外は、大体同じみたいだな。勿論、あの作品のような出来事は無いが。名前も『藤村大河』にするそうだ」
えり「タグ、増やさないといけませんねー。
ええと、次は…。こずえちゃんとまろんちゃんですね」
桂馬「このふたりに関しては、神のみ読者および視聴者には、多く語る必要もないだろう」
えり「設定は、大体マンガ版から来てるみたいです。もちろん、この世界独自のものもありますけど」
桂馬「まろんの人生が、この世界独自のものだからな。
そうそう、こずえの苗字は連載時のかのんの苗字、西原から来ているそうだ」
えり「巻末四コマでネタにされてた、あの苗字ですか」
桂馬「そして事件が起きて、はぐれ魂の登場だな」
えり「[ノビティア]と[シャイアン]。[シャイアン]はマンガ版に出てきたはぐれ魂ですね。それに虐められていた[ノビティア]って、あのネコ型ロボットが出てくる作品ですよね!?」
桂馬「[シャイアン]自体がそこから来てるみたいだからな。
そして、『朝から昼寝して、昼には散歩』は、あの妖怪アニメのOPネタだな」
えり「かのんちゃんのツッコミもそれでしたね」
桂馬「そしてようやく、エルシィの登場だ。
ドクロウのお姉ちゃん呼びに対する反応は、えりのそれと同じものだが…。重要なことをポロッと言いそうになってるな」
えり「え~と、その方がエルシィさんらしくて安心します!」
桂馬「相変わらずのポンコツぶりってわけだな。
そして最後は、かのんとまろんの間柄が説明されて、ドクロウが疑問を抱えるわけだ」
えり「……ええっと、にーさま。何だかヴィンテージ、出てきませんね?」
桂馬「ヴィンテージはまだ、ドクロウの居場所を特定出来てないからな」
えり「……そーなんですか?」
桂馬「唯一特定していたフィオーレは、ハクアが勾留したままだからな。しかも下っ端だから、誰もいなくなったことに気づいてない」
えり「……こっちでも、フィオの扱いヒドいなぁ」
桂馬「さて、大体こんなとこか」
えり「そーですね。次回は多分、七香さん攻略の話題が入るんじゃないかと…」
桂馬「タイミングがモロかぶりだからなー。
そんなわけだから、次回も忘れずにロードしてくれ」
えり「つーづーく!」