神のみスピンアウト・ちいさなひみつのドクロウちゃん   作:猿野ただすみ

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ドクロ4・お兄ちゃんのおしごと

始業日の授業も午前中で終わり、ドクロウは桂木家へと帰ってきた。

 

「ただいま…」

 

扉を開けて声をかけたものの、返事は返ってこない。しかし特に動揺することもなく、靴を脱いだドクロウは廊下を進み、一枚の扉を開ける。するとそこには、小洒落た内装のカフェがあった。

 

「あら、ドクちゃん」

「ただいま」

「はい、お帰りなさい」

 

このカフェを営む桂馬たちの母、桂木麻里は優しく返事を返す。

 

「ドクちゃん、学校は楽しかった?」

 

麻里が尋ねると思案顔、と言うには表情に乏しかったが、しばらく考え込み答えた。

 

「多分、楽しかったんだと思う…」

 

ドクロウの答えは曖昧なものだったが、麻里は表情を崩すこともなく、優しく頭を撫でる。

 

「そう。よかったわね」

 

麻里に撫でられ、そう言葉をかけられたドクロウは、得も言われぬ心地良さを感じていた。

 

 

 

 

 

二階に上がり部屋に入ったドクロウは、鞄を壁に掛ける。

ドクロウは現在、えりと同じ部屋を使っている。別に部屋が空いていないわけではないのだが、誰かと一緒の方が寂しくはないだろうと配慮したのだ。

私服に着替えリビングへ来ると、キッチンで料理をする麻里の姿が。

 

「あ、ドクちゃん。すぐにお昼、出来るからね」

「うん」

 

ドクロウは返事を返してテーブルに着くと、料理をする麻里の後ろ姿を、完成するまでずうっと眺めていた。

 

「はい、お待たせー」

 

そう言って出されたのは、小さなオムライスにキャベツとベーコンのコンソメスープ、デザートにお店で出してるプリンだ。

 

「いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

麻里はニコニコしながら応えた。

 

 

 

 

 

お昼ご飯を食べた後、部屋に戻ったドクロウは宿題を片付ける。日本の文字は、学校が始まる数日の間に覚えていた。

一時間ほどかけて宿題を終わらせたあとは、国語の教科書を取り出して読み始める。他の子たちと比べ、読み書きの拙いドクロウにとっては勉強の意味合いもあるが、同時に文字を読むということに興味を引かれていた。

 

「……?」

 

教科書を読み始めてから随分とたった頃、外が何やら騒がしく感じた。

何だか気になったドクロウは、階段を下り、お店(カフェ)の扉から表へ出て。

 

「……お兄ちゃん?」

 

桂馬が路上で、セーラー服を着た茶髪の少女と将棋を指していた。

 

 

 

 

 

次の日。舞島北小学校、(おんぷ)組の教室。

 

「あれ? ドクロウちゃん、何だか機嫌わるくない?」

 

こずえが尋ねると、ドクロウはキョトンとした表情になる。

 

「そうだね。ドクロウちゃん、ちょっとムスッとしてるよね?」

 

まろんにまで同じことを言われて、ドクロウは戸惑った。

 

「あ、もしかして、居候してるお家のお兄さんと何かあった?」

「えっ!?」

 

まろんの何気ないひと言に、驚きを露わにする。

 

「わあ、ドクロウちゃんって、そういう顔でおどろくんだ」

 

ドクロウ自身、まろんの発言にこれほど心が揺さぶられるとは思っていなかったが、それ以上に、桂馬のことをそこまで意識していたことに気づき驚きを感じていた。

 

「ねえ、ドクロウちゃん。何があったの?」

「……昨日からお兄ちゃん、女の人と将棋をしてる」

「「将棋?」」

 

まろんの質問に答えたドクロウに、ふたりは質問を返す。ドクロウはこくりと頷き。

 

「これから一週間、お兄ちゃんと将棋の特訓をするって」

 

その言葉は、普段どおり感情のこもっていないものに聞こえたが、しかし。

 

「ドクロウちゃん、またムスッとしてる…」

 

そう、こずえは言った。そこでまろんが、そっかぁ、と頷き。

 

「ドクロウちゃん、ヤキモチ焼いてんだね?」

 

などと言う。再びドクロウは驚き、目をパチクリとさせる。

 

「お兄さんがその女の子と仲良くしてるから、面白くないんだよ、きっと」

 

面白くないのかどうかはわからないが、確かにその少女と桂馬が将棋を指しているところを見ていると、ドクロウの胸の内に何かモヤモヤとしたものが広がってくるのが感じられた。

 

「ドクロウちゃん、そのお兄さんが取られた気がしたんだね」

 

こずえのその言葉には、何となくだが納得する。確かに、積極的にではないものの今まで構っていてくれた桂馬が、ずうっとその少女に構いっきりになっているのだ。

昨日の会話で、自分が変わってきてるのはわかっていた。だから、そういう感情が芽生えていてもおかしくないと、ドクロウは思い始めていた。

ただし、それは頭の中で理解しているだけであって、本人にはまだ、実感できるものではなかったが。

 

 

 

 

 

それから更に数日が経ち。

 

「……」

 

こずえは、ドクロウが放つ異様な雰囲気に圧倒され、言葉をかけることが出来ないでいた。

 

「……ドクロウちゃん。ムスッとどころか、もう仏頂面だよ?」

 

まろんが苦笑いをしながら声をかける。

因みに、ムスッとと仏頂面は同じ意味だが、どうやらまろんは、より険しい顔をしてるという意味(あくまでイメージ)で言ったようだ。

そしてさすがにここまでくると、ドクロウも自分がヤキモチを焼いていることを理解し、その感覚もわかるようになってきた。

 

「……いや」

「え? ドクロウちゃん?」

 

こずえがドクロウのつぶやきに聞き返す。

 

「こんな気持ち、いや。こんなの、知りたくなかった」

 

ドクロウにとって、人を妬んだり羨んだりするのが醜いことだと思えた。本を読んでいても、それは良くないこと捉えられるような内容が見受けられるからだ。

 

「……そうだね。ヤキモチって、自分に対しても嫌な気分になるもんね」

 

まろんが、とても真剣な表情で返してくる。しかしその表情を崩し、軽く微笑みながら、続きを口にした。

 

「でもね。人って醜い心も持ってるけど、とても美しい心も持ってるんだよ。

例えば、人が困ってるときに助けてあげたくなることってない?」

 

言われてドクロウは、ハクアを助けた時やこの学校で起こった時のことを思い出す。

ハクアの時は、「死」というものに対しての恐怖を何とかしたかったことが大きいが、学校での事は、みんなを助けたいという気持ちが先立っていた。

 

「……うん、あるよ」

 

すると今度は、ハッキリとした笑みを浮かべながらまろんは言った。

 

「ヤキモチ焼いてたのがドクロウちゃんの想いなら、助けたいってのもドクロウちゃんの想いだよ。

人の気持ちって思いどおりにはならないけど、そういう優しい気持ちを持っていられるなら大丈夫だよ」

 

それを聞いたドクロウは、心が少し軽くなるのを感じ、その表情が心なしか穏やかになる。

 

「……まろんちゃん、何だか大人の人みたい」

 

今まで呆気にとられていたこずえが呟いた。

 

「え、あ、あはは。ほんとはコレ、かのんちゃんから聞いた話なんだー」

「かのんちゃんから!?」

 

こずえが身を乗り出しながら尋ねる。

 

「う、うん。かのんちゃんのお友だちが、そういう話をしてたんだって」

 

その勢いにタジタジになりながらも、まろんは答えた。それを聞いたこずえは、そうなんだー、と言いながらしきりに頷いている。

 

(中川、かのんさん…)

 

ふたりの会話を聞いていて、屋上で見たかのんのことを思い出す。

 

(かのんさんも、誰かを助けたくて、魔法少女になったのかな?)

 

もちろん、話したこともない今のドクロウに、かのんの気持ちを読み解くことなど出来ず、また、その力もない。

ただひとつ。かのんの歌には、人の心を暖かくする、そんな力があった。

 

(私もこの力を、誰かを助けるために使いたい)

 

ドクロウはあの夜、あの謎の声に答えたことを、改めて心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

そして七日目の午後5時。鮎川家(天理の家)の前で、対局が行われた。

ひとりは鮎川天理、……と入れ替わったディアナ。そしてもうひとりが、桂馬と特訓していた少女、名を榛原七香という。

七香の左隣には桂馬が一緒に座り、すぐ後ろにはえりとドクロウが立ち見している。

対局は黙々と進む。お互いかなりの腕前だが、やはり、神であるディアナ相手では分が悪く、七香は徐々に追い詰められていく。

 

「少しの間特訓して勝てるほど、簡単ではありませんよ」

「そ、そんなん、わからんで!!」

 

そう強がりを言うものの、天理(と思われてるディアナ)の攻めにポロポロと涙をこぼし始める七香。

 

(……このまま、勝ってしまってもいいのでしょうか?)

 

ディアナは疑問に思う。

 

(桂木さんは、勝ち負けは関係ないと言っていましたが…。

まあ、勝ち負けを越えた先に辿り着かせたいという、桂木さんの意見もわかりますが、果たして上手くいくのかどうか…)

 

頭の片隅でそのような思考をしていると、七香が次の手を指してきた。

【1五角】

 

(これは、私の攻めを受けながらも、こちらを攻める一手。これで攻守は交代ですか。

七香さんもなかなかやりますね)

 

とはいえ、ディアナなら負けはしないだろう。……本来ならば。

ディアナが強手(きょうしゅ)を指すと、七香は涙をこぼしながら、隣に座る桂馬の右手を左手で強く握りしめた。それでも将棋を指し続ける彼女を見た桂馬は、握りしめる左手に自らの左手を重ねて握り。

 

「七香、負けるなよ!」

 

彼女を強く励ました。

その様子を見たディアナは、イラつきながら次の一手を指す。その瞬間。

 

「王手!!」

 

ディアナの王将の前に指された、【3三金】

 

(いけない! 七香さんの持ち駒、読み間違えました!!)

 

慌てたものの、時すでに遅く。局面はすでに詰んでいた。

 

 

 

 

 

その後、カフェで開かれた祝勝会は日がすっかり沈んでようやくお開きとなり、すっかり酔っ払った(ジンジャーエール、当然ノンアルコール)七香を連れ、桂馬は家を出る。

そこをえりがこっそりとつけて行き、それが気になったドクロウがその後を、更について行く。

ドクロウがようやく桂馬に追いついた、その時。

七香が桂馬に駆け寄り、キスをするところだった。

ドクロウの中にイヤな感情が駆け巡る。が、次の瞬間、七香の中から何かが飛び出した。

 

(アレは、古悪魔(ヴァイス)!?)

 

それだけではない。電柱に隠れたえりが、上着のポケットからビンを取り出すと、それが一抱えもある大きさになる。そのフタを取ると、物凄い勢いで古悪魔(ヴァイス)が吸い込まれていく。

最後に蓋を閉め。

 

「駆け魂、勾留です」

 

えりが、ふぅ、と息を吐く。

 

「……エルシィお姉ちゃんと、同じ?」

「えっ、あ! ドクロウちゃん!?」

「何だって!?」

 

ドクロウの呟きに気づき、えりはあたふたとし、桂馬は驚きの表情を見せる。

 

「やれやれ、バレるのが意外と早かったな?」

 

桂馬はひとつため息を吐き、ぼやくように言った。

 

 

 

 

 

「さて、知られたからには説明をしないとな」

 

意識を失っていた七香が目を覚まし立ち去っていったのを見届け、桂馬は家に向かって歩き出しながらドクロウに言った。

 

「ボクは新悪魔との契約で、女性のココロの隙間に潜む駆け魂、……古悪魔(ヴァイス)の魂を捕まえる手助けをしなくちゃならないんだ」

 

そう言いながら、自らの首に着けられた半透明の首輪を手で触れる。

 

「駆け魂を追い出すには、ココロの隙間を埋めてやればいいんだが…。生憎とボクにはギャルゲーのやり方、恋に落とす方法しか知らない。

そして恋愛の末に、最後にキスをすれば攻略完了。ココロの隙間は埋まり、駆け魂が出てくるってワケだ」

 

桂馬の説明に納得はするものの、ドクロウの気持ちはまたもやモヤモヤとする。

 

「女の人は、その後どうなるの? それにお姉ちゃんが使ってたビン、エルシィお姉ちゃんのと同じ」

 

それを聞いた桂馬は、ああ、と呟き。

 

「そういやエルシィから、ドクロウと会ったって連絡があったな」

「そうでしたね。駆け魂狩りで、それどころじゃありませんでしたから」

「……?」

 

兄妹の会話に、キョトンとしているドクロウ。

 

「ああ、すみません、ドクロウちゃん。

えーっと、私はかのんさんのサポートで忙しいエルシィさんの代わりに、にーさまの駆け魂狩りのサポートをする事になったんですよ」

「えり、基本情報が抜けてるぞ」

 

桂馬はえりにツッコミを入れてから、話を続ける。

 

「エルシィは駆け魂狩りのために地獄から来て、ボクはそのパートナーになってしまったんだ。

だが、 かのんが魔法少女として駆け魂の一種、はぐれ魂を捕まえることになって、えりが言った現状になったってワケだ。

ああそれと、駆け魂を出した()の攻略時の記憶は、地獄の技術で消去される。だから、彼女たちの今後の心配はない」

 

そう言う桂馬の表情が少しだけ寂しそうに見えたのは、ドクロウの気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

不承不承ながらも納得したドクロウは、先に部屋へと戻っていく。

 

「……ところでにーさま。ドクロウちゃんに、契約の首輪の事は話しませんでしたね?」

 

リビングのソファーに腰掛け携帯ゲーム機(PFP)を操作する桂馬に、えりが疑問を投げかける。桂馬は視線をゲーム機に向けたまま答えた。

 

「この首輪は、契約を破ると首が落ちる仕組みらしいからな。そんな契約を持ちかけたのが『ドクロウ室長』だとは、さすがに言えないだろ」

「それもそうですね」

 

えりは頷く。

 

「ドクロウちゃんと同じ名前で、多分ドクロウちゃんとも関係してるみたいですからね」

「そういうことだ」

 

桂馬はそう言いつつ。

 

(それに、おそらくドクロウは…)

 

様々な可能性に思考を巡らせていた。




空「飛鳥空…」

四葉「杉本四葉の…」

空・四葉「あとがき代わりの座談会コーナー☆NEXT!」

空「……って、私たち、ゲームのキャラクターなのにいいのかな?」

四葉「桂馬くんがいいって言ったからいいんだ、って作者さんが言ってたよ?」

空「そう…。うん、桂馬くんには感謝してもしきれない恩もあるし、こういう時こそ恩返しをしないとね」

四葉「そうだよね」

空「それじゃまずは、ドクロウちゃんの帰宅シーンだね」

四葉「ドクロウちゃんはまだ、感情が希薄だから、受け答えには気を遣ったみたい」

空「そして駆け魂を持った子、七香さんと出会いました」

四葉「桂馬くんの攻略編だね。
で、翌日の学校に場面が変わったけど、ドクロウちゃんは順調に成長してるね」

空「『七つの大罪』も、心の成長には避けて通れないものだから。でも、確か桂馬くんは…」

四葉「『六つの大罪』だね。『嫉妬』は恋愛に必要だから含まないんだって。私だって、桂馬くんが他の女の子と仲良くしてたら、嫉妬しちゃうな」

空(あ…、今の四葉さんの拗ねた顔、絵にしてみたいかも)

四葉「空さん?」

空「あ、何でもないの。
ところで、まろんちゃんがドクロウちゃんにかけた言葉、かのんさんが誰かから聞いた言葉みたいだけど…」

四葉「『人は醜い心も持ってるけど、美しい心も持ってる』って言葉だね。うん、どこかで聞いたことがあるんだけど、どこだっけ?」

空「私も思い出せないなぁ。でもいずれ、答えが出るよ」

四葉「そうだね。
それじゃ次だけど、ディアナさんと七香さんの対局で、ディアナさんは怒ってる感じがしないね」

空「こちらではすでに事情を知ってるので、今更怒る必然性がなかったから、らしいね。
それよりも、例のシーンでディアナさんがイラついてるのは、やっぱり…」

四葉「うん。こっちのセカイでも、桂馬くんの事…」

空「……止めましょう。何だか不毛な気がするから」

四葉「うん。
えっと、後はドクロウちゃんに駆け魂狩りの事がバレて、桂馬くんが説明したんだよね」

空「えりさんが、『かのんちゃん』じゃなく『かのんさん』って呼んでたけど」

四葉「えりさんは、かのんさんがアイドルになる前から知り合いだったんだよ」

空「そうだったんだ。
ええと、それから桂馬くんが首輪について触れなかったのは、ドクロウちゃんに余計な心配をかけたくなかったからだね」

四葉「桂馬くんはやっぱり優しいな」

空「そうだね。
……ええと、これで大体終わりかな?」

四葉「うん。
次回は久し振りに、ドクロウちゃんが魔法少女になる予定だって」

空「予定…。決定じゃないんだね」

四葉「登場予定の子との絡み次第だって、作者さんが言ってたよ」

空「新しい子が出るんだね。誰なのかな?」

四葉「次回までの偽名で、『鈴印(レイン)・コレクト』っていう女の子だって」

空「鈴…、あの子だね?」

四葉「うん。まろんちゃんがいるんなら、当然彼女もいる、って作者さんが言ってたよ」

空「作者さん。四葉さんに丸投げするのは、どうかと思うよ」

四葉「えっと、それじゃあそろそろ終わりだね?」

空「え、あ、そうだね。ええと、それでは皆さん」

空・四葉「次回もまた、見てくださいね」
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