GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL 作:フォレス・ノースウッド
オートスコアラーズのコント(?)はまあ書いていて楽しかったですが
《使用曲》
月煌ノ剣
室内に点在する小さな電球らによる薄明かりで照らされる《ディーンハイム・コーポレーション》の社長室では、キャロルが自らのデスクに腰掛けたまま、机上に表示されている立体モニターを眺めている。
画面内には会場内で一騎打ちを展開している朱音とマリアの戦闘模様が、リアルタイムで映し出されている。
気だるそうに椅子にもたれて頬杖を付いているキャロルではあるが、その眼差しは真剣味を帯びて装者同士の闘いを観戦していた。
「《ネフィリム》の腹の調子はどうだプロフェッサー?」
目線をモニターから離さずに、キャロルはナスターシャへ進捗具合を尋ねる。
「現在フォニックゲイン吸収率は二十二パーセント付近です」
「貪食の癖に鈍足だな……」
と、韻を踏んだ皮肉がキャロルの口から零れた。
彼女らが起動させようと目論んでいる《完全聖遺物》は、その為に必要なフォニックゲインを満たせられずに休眠状態のままでいる。
「レイア」
「もうしばしお待ちを、マスター」
宙に投影されたホログラムのキーボードを両手の五指を〝伸ばして〟入力していたレイアは主人(キャロル)のデスク上に解析結果の画面を表示させる。
朱音たちの戦闘映像から切り抜き、サーモグラフィーよろしく特殊なフィルターの掛かった静止画、検知されているのは熱ではなくフォニックゲインの方だ。
『(あらら~~アイドル大統領さんの方はブレブレでよれよれですね~~)』
「ガリィ」
『(ほんとのことじゃないですかマスター~~)』
一連の戦闘映像の撮影者(カメラマン)で主人(キャロル)から苦言を呈され、このオフィスには不在にも拘らず、八重歯をむき出しに毒を吐く様が容易に想像できる存在感の高さを主張するガリィは、かたをすくませたのだと声だけで分かるくらい溜息を大きく吐いた。
ただガリィの言いたいこともキャロルは分からぬわけでもない。
フィルター越しのマリアの全身から発するフォニックゲインのオーラは分厚く、一見強大そうに見えるが、実際はせっかく彼女の歌声で生み出されたエネルギーを非効率に放出、浪費しているも同然な上、オーラそのものもどこか不安定でおぼつかない波形となっている。
『(腕前は確かですけど~~装者としては外れ~~枠ですよ)』
〝まあこの体たらくで〝世界を救う〟には生煮えではあるな……〟
口の悪さ込みで性根が何とやらなガリィからこっぴどく皮肉を言われるのも、無理はないと周囲に絶対知らせまいと、心中で同意をこっそり発していた。
「特機部二たちの方を見せろ」
「はい」
そんなマリアとノイズらと対戦している特機二課所属装者たちのデータ画像が、スピーカーから響く彼女らの歌声とセットで追加表示された。
マリアのとはまるで正反対に、身体から発するフォニックゲインは量も質も高水準を維持したまま安定しており、それこそ着装するアーマーよろしく体表に纏い、体内にて炉心状に形作らせていた。
「素敵ね、翼(つるぎ)ちゃんのは……私の〝剣〟でなます切りにしてあげたいわ」
「おい、オフィスで武器を出すな」
「あら失礼しました」
レディーススーツから緑系列の配色が施されたロングドレスに着替えていたファラの手には、いつの間にか直剣が握られており、その刀身を人間のよりも長く伸びる舌でなまめかしく舐めていたのをキャロルに咎められる。
「ファラ、お前なら真っ二つにしたいと言いそうなものを、なます斬りだと?」
「だって、それはガメラちゃんが先にやってしまって、ハードルが上がってしまったのですもの」
レイアの質問にこう応じたファラから好評を貰った翼のフォニックゲインのオーラは、まるで水が滴り流れる刀身の如く鋭利で洗練されていた。
「マスターはやはり、見た目も能力も派手な《星の姫巫女》に関心がございますか?」
「否定はせん」
キャロルはレイア発言に肯定を示し、自身の瞳にも映る朱音のフォニックゲインのオーラ、まさしく太陽の表層そのものだった。
朱音――ガメラが操るエネルギーはフォニックゲインから変換された超放電現象(プラズマ)な為、似通うのも当然ではあるのだが………〝地球(ほし)の意志〟より前世の力を託されるだけある彼女の心象そのものが表現されていると言っても過言でも無かった。
そして朱音と翼の間には、フォニックゲインで出来た糸(パイプ)が繋がっている。
「ギアの性質に頼らずともこのユニゾン、改めて地味に見事です」
解析中のレイアが賛辞の言葉を発し、これにはキャロルも内心同意する思いだった。
《ユニゾン》――装者同士の歌声を重ね合わせる合奏による同時運用でフォニックゲインを共鳴共振させ、互いのギアの出力を増幅させる《シンフォギア・システム》の特性の一つ。
片や朱音が使うギアは、かの兵器の生みの親たる櫻井了子が開発した正規品を下にした模造品でありながら、翼との初の共同戦線にて絶大な効果を発揮し、現在では双方のギアの出力を高水準で安定させつつエネルギーの消費も抑え、デュランダル移送作戦の時の様な聖遺物を意図せず起動させて不測の事態を招く危険性すら招かぬ程の練度に至っている。
「どうするプロフェッサー? 私(オレ)の見立てでは、アイドル大統領一人だけで姫巫女と防人を相手にしつつ《ネフィリム》を叩き起こすのは、到底実現できそうにないが……」
キャロルは教授(プロフェッサー)――ナスターシャへ、遠回しにかつ当てつけ混じりに〝計画(プラン)〟の変更を提言した中、モニター画面内では、再び朱音と翼が並び立ってマリアと対峙していた。
マントがマリアの首元を中心に回り出し、マゼンタ色のホーミングレーザーを複数発射、本体も鞭となって続けざまに、並び立ち協奏(ユニゾン)する朱音と翼へと攻撃を再開させる。
「いざ~推して参る~~♪」
翼は愛機たる《天羽々斬》の機動力と、長年の実戦と鍛錬で磨かれてきた己が感覚と身体能力で光の雨の弾幕の隙間を走り抜け、一振りの刀(アームドギア)を二振り小太刀に変えてマリアの懐へ斬りこんだ。
リーチが短くなるデメリットと引き換えに、手数の多さと小回りが利く小太刀二刀流による流麗にして濁流の如き翼の剣戟に対し、烈槍で応じるのは不利だとマリアは相手の間合に入らせまいとステップを利かせつつマントを操作して翻し、斬撃をいなす。
《烈火球・散乱――リードショットプラズマ》
持前のプラズマスラスターとホバリングで旋回しながら朱音は、フレームとグリップと撃鉄はS&W M29だがバレルとシリンダーはレミントンM1858のデザインが掛け合わされ、銃身に炎のレリーフを象った自作リボルバーをその手に握り、翼の攻撃のタイミングに合わせマリアの視界の死角から、44マグナム弾に5.7x28mm弾に散弾と一発ごとに異なる銃弾を連続撃ち込む。
しかしマリアの肢体を覆う漆黒のマントは二人の連携で織りなす斬撃も射撃も共々、悉く阻んで通さない。
《逆羅刹》
ならばと翼は刀(アームドギア)を大腿部のアーマーに納めると同時に両脚のブレードによる回転連撃を繰り出し。
《旋斬甲――シェルカッター》
朱音も宙に漂わせたプラズマエネルギーを三つの甲羅(シールド)に固形化させ、脳波操作であらゆる方位から攻め立てた。
マリアは翼の脚撃を烈槍で迎撃し、同時に攻め立てる甲羅も鞭(マント)をしならせ撃ち弾く。
時に朱音に目掛け飛ばされてきた甲羅を、左手に持った《ヴォルナブレーザー》の槌で撃ち返すと共に、右手に生成したロングバレルのリボルバーを構え、銃口から《454カスール弾》をマリアと宙に連射。
虚空に放たれた分の弾丸は甲羅(シールド)による跳弾で、マリアへと軌道変更し攻め立てるも……一連の朱音と翼のコンビネーションを前にしても見事に応戦してみせた。
「~~~♪」
『(翼の言う通りだ、あの《ガングニール》は本物だよ)』
『(別の欠片を用いた同一品、で相違ないわけか……おまけに担い手も奏に勝るとも劣らぬ手練れときた)』
朱音と翼は連携攻撃を継続させながらユニゾンの副次効果による念話(テレパシー)でマリアが使う《ガングニール》もまた紛れもなく〝本物〟であり、それを纏う装者(マリア)当人にも〝敵ながら天晴れ〟と、ここまでの戦闘で実感し合う中。
「ようやくお墨が付いた~~そう~これが我が烈槍~~何をも貫く~~無双の一振り~♪」
《SPIRAL†FALL》
朱音たちの表情からお墨付きをもらったと察したらしいマリアは飛び上がり、二人の視界から月光を逆光に刃を突き立て見下ろし、背部のマントが穂先と自身ごと螺旋状に包み込んで急降下してきた。
二人は散開して飛びのき、竜巻(マント)の猛撃を躱し、翼はマリアの頭上へ跳躍、刀(アームドギア)の切っ先を渦の中心に向け、落下の勢いを相乗した刺突を仕掛けるも、螺旋の内部にて待ち構えていたマリアが烈槍を突き上げてきた。
刀と槍の先端同士が衝突し金属音を上げ、弾かれた勢いで翼の身が宙に溺れる。
そこが狙い目とばかり、回転し続けるマントの一部が鞭となって翼に迫るも。
《烈火球――プラズマ火球》
朱音が左手で構えたライフルから放たれた彼女の十八番(かきゅう)が鞭状にしなるマントの一部を破砕させ。
「だからとて~~我らが退く道理など~~――♪」
意図して翼風の言い回しを真似、先のマリアの詩(ことば)に対する返答の即興歌唱を謳い、右手に持つ《ヴォルナブレーザー》の斧刃が超振動とプラズマエネルギーを帯びて赤熱化。
「あろう筈なし~~ッ♪」
《炎晄波――レイジングウェーブ》
大地に叩き込むと、プラズマエネルギーの衝撃波がガメラの掌を連想させる五指状に漆黒の竜巻(マント)に押し寄せる。
《HORIZON†SPEAR》
相手も猛火の荒波を受ければ足場を崩されるどころでは無いと悟ったのか、槍の穂先から発した光線の反動を推進力に跳躍、辛うじて直撃は免れた。
尚もマントは攻撃を一切通さぬと、夜天の闇よりも漆黒の竜巻となってマリアを防護する様を見上げる朱音と翼。
「「我らやらずて誰がやる~~目覚めよ~~邪を祓う~~無双~♪」」
二人は翼の戦闘歌をメインとした協奏(デュエット)によるユニゾンで互いの出力(フォニックゲイン)をさらに高め合い、虚空へと翼は飛び上がり、円状に煌めく月面を逆光に螺旋(マント)を見据え、自身の刀(アームドギア)を投擲、数十メートルものの大剣に変形させ、地上にいる朱音の手が握る《ヴォルナブレーザー》の斧と槌と槍で構成された穂先が太陽色のマイクロ波を帯びて、翼の大剣めがけ突き出すとマイクロ波のエネルギーが熱線上に照射。
《奉流ノ光――シャインストリーム》
恵みの輝きを浴びた大剣の刀身は、荒ぶる膨大な稲妻を迸り。
「幾千幾万~幾億の命~~すべてを握りしめ振りかざす~~♪」
《天ノ逆鱗・月雷》
アーマーのスラスターを吹かして急降下する翼の右足(ストレートキック)が大剣の柄尻へ叩き込み、切っ先がマリアの竜巻(マント)へと突貫する。
対するマリアは一連の戦闘で瓦礫の山と化したライブセットの亡骸に降り立ち、マントを頭上にて傘の如く広げ、台風よろしく時計回りに再び回転させて全身を覆い被せた直後、急降下する翼の大剣の剣先と激突。
「その背も凍り付く~~断破の一閃~~散る覚悟はあるかァァァァッ~~♪」
それにより生じた衝撃波がドーム状に広がり地を大きく震わせ、瓦礫の一部を宙へと弾き飛ばし、無数の砂塵が飛び交う中、大剣の刀身が反時計回りに旋回し始め、攻勢を強め。
《超烈火球――ハイプラズマ》
朱音が構えるアームドギア――ライフルの銃身が周囲の酸素を取り込むと共にプラズマエネルギーをチャージさせていた。
(まずい……)
マリアの内心に、焦燥の冷や汗が落ちる。
目には目を、スピンにはスピンを……相反する渦同士をぶつけ合わせることで螺旋(マント)の防御力を弱めたところに火球を撃ち込もうとしていると判断したマリアは――。
「Purgeッ~♪」
《アーマーパージ》
朱音がトリガーを引いた瞬間と同タイミングで、マリアは敢えてギアアーマーの一部にして攻防ともに優れた矛にして盾であるマントを切り離して結合を強制解除させ、外套を形作っていたエネルギーを散弾よろしく周囲へ爆ぜ飛ばした。
翼もマリアが《アーマーパージ》を使うと見抜いていたのか柄尻を蹴りつけ後退、大剣は爆散したマントの勢いに吹き飛ばされ虚空で消失、火球もマリアに着弾する前に相殺され、粒子状に散華した。
マントを生成し直しつつ体勢を立て直そうとするマリアの双眸が、驚愕で見開く。
(いつの間に!?)
相対距離が開いていた筈の朱音が、眼前にまで肉薄していた。
高速で突き進む物体が生み出す風の渦で、空気抵抗を軽減させ、後続する物体を吸引させる現象、スリップストリーム。
先の火球でかの現象を利用し、アーマーパージの衝撃から防護しつつ、一気にマリアとの相対距離を詰めた朱音の背後に、眩い後光(ぎゃっこう)が差し込まれる。
二課のノイズドローンの一基が、朱音の背後から強烈なライトを焚き、マリアの視界を一時的に奪った瞬間。
「伊座尋常に~~我が拳の火を~~♪」
《爆熱拳――バニシングフィスト》
朱音は左手を覆う猛火で編み上げられた前世(ガメラ)の剛腕で攻撃――すると見せかけ、マリアの烈槍(アームドギア)の穂を鷲掴み、。
「貰い~受~けろォォォォッ~~♪」
翼の戦闘歌をアレンジした詩を歌い上げながら朱音の右手が握る《ヴォルナブレーザー》から振るわれた胴薙ぎの一打が、マリアの腹部へめがけ繰り出され、見事に命中。
《玄武掌・二重撃――デュアルハードスラップ》
咄嗟にマリアは槍(アームドギア)の穂先を分離させ猛火(ガメラ)の拳から逃れて後退しようとするも、朱音はダメ押しに戦槌を以てして寸勁(ワンインチパンチ)を重ね掛けた至近距離からの猛撃で、マリアを打ち飛ばした。
槍を地面に突き立て勢いを削ぐマリアだったが、今の攻撃で歌唱が途切れ、ついに膝が地に着いた。
その隙を見逃さぬと、上空のノイズドローンのもう一機も点灯してマリアにスポットライトを当て。
「そこだッ!」
《影縫い》
その明かりで生じた影に、翼は短刀を投げ突き刺し、今宵の〝テロ〟と言う舞台を演出した張本人を無力化せしめたのであった。
「よしっ!」
ライブ会場の模様を映像越しにオペレート中の二課司令室では、今まで鉄壁の防御を誇っていたマリアの防壁(マント)を掻い潜って朱音が攻撃をクリーンヒットさせ、翼との連携で動きを封じた瞬間、彼女らと連携していたドローンを遠隔操作していた当人たry藤尭が両手を振り上げてガッツポーズを取るも。
「そこ、キーボードから手を離さない!」
「は、はい……」
友里に苦言を呈され、引き続きコンソールへの入力を再開させていた。
先程全世界にライブ配信されていた会場の機能(インフラ)をほんの一時的ながら掌握した二課だったが、裏を返せば向こうも同様の行為が可能だと他ならない。
現場の様相を司令室に中継している二課専用ドローンがもしハッキングされれば、相手側の目論見の一つである二課の重要機密――〝装者の個人情報〟の漏洩を許すことになる為、職員たちはオペレートだけでなくリアルタイムでハック対策に明け暮れている。
現在月は雲海に覆い隠されており、マリアの動きを《影踏み》で封じ続けるのに必須な〝影〟を差すライトを照射するドローン一基だけでも機能を奪われればここまでの苦労は水の泡だ。
いくら藤尭がその手の情報処理能力のエキスパートでも、僅かな暇で相手方に一本も二本も取られては元も子もないので、友里に釘を刺されるのも詮無きことであった。
一方で藤尭の先のノリに対してこの状況でも我先に乗ってきそうな了子は、その鳴りを潜めてここまで朱音と翼と相手にほぼ互角に立ち回ってきたマリアの関する二課オペレーターたちが収集した戦闘データを整理及び解析を進めている。
「どうだ?装者としてのマリア・カデンツァヴナ・イヴの実力は?」
了子の席の机上に投影されているホログラムモニターにはマリアの戦闘映像と、そこから切り抜いた静止画が幾つか表示されており、それを覗き込む形で弦十郎が問うてきた。
「朱音ちゃんと翼ちゃん、それに奏ちゃんとも並ぶ猛者ね、戦力としての安定さは、響ちゃんを遥かに上回っているわ、ただし……」
「ただし?」
曰くありげなその発言をオウム返しした弦十郎をよそに、了子当人は常人離れした速さと正確さを併せ持ったタイピングスキルでホログラムキーボートを操作する。
モニターのマリアの静止画に《フォニックゲイン》を可視化させる特殊フィルターが覆い被せられた。
「これが変身し立て、こっちが戦闘し始め、三枚目が朱音ちゃんの攻撃がクリティカルヒットする直前」
スクリーンショットに選ばれた写真たちを指差す了子から経過を伝えられた弦十郎は、彼女の言いたいことに感づく。
「マリアも〝時限式〟か?」
「ごめ~とう~~実態はもう少し解析しないと~~……だけど、私の見立てでは適合率、奏ちゃんより雀の涙かもね」
「そうか、だから構成員の一人にドクター・ウェルが……」
《F.I.S》から《武装組織フィーネ》に鞍替えしたと思われる聖遺物研究者の一人たるウェル博士は生化学者の権威でもある。
「あの英雄中毒マニアなら、私とご先祖様が作ったのよりもハイスペックローリターンな《LiNKER》を開発して生産ラインに乗せられるでしょうね……」
そう推察する了子の口ぶりに、弦十郎はある違和感を覚えた。
声色から、苦々しい風味と、明らかにウェルに対して少なからず〝敵意〟の念が帯びている。
「了子くん、まるで顔馴染みの様な言い方だが、まさか――」
「ほんのちょっとなんだけどね、私の優秀だけどご先祖様が抜けたせいで穴と凸凹だらけの記憶(ハードディスク)の一部が復旧したのよ、《F.I.S》の研究所らしき施設であいつと一緒に孤児たちを眺める〝私たち〟の姿、眼鏡ごとブッ叩きたくなるウェルのスカシ面をね……」
側頭部をトントンとして、眉間に皴が寄せられている了子は、大半が喪失していた自分に憑依している間のフィーネの記憶の断片を思い出したのだと、弦十郎にカミングアウトしつつ、解析作業を再開し始めたのだった。
左手は《ヴォルナブレーザー》の柄を握り、片に担がせたまま私は右手に持つお手製のリボルバーのシリンダーをスイングアウトさせ排莢、予め腰部に備えていたスピードローダーホルターから次弾を装填して、翼の《影踏み》で身動きの取れぬマリアに銃口を向けて牽制。
無論、マリアと交戦前にて上空にいるのを感知した〝奴〟の転生体らしき仲間含めて、周囲の警戒も一切緩めていない。
『朱音ちゃん、これは貴方にだけに送っている暗号通信よ、おそらくマリア・カデンツァヴナ・イヴは――』
私は櫻井博士からマリアが奏さんと同様、ギアとの適合と運用に《LiNKER》の服用が前提となる《第二種適合者》の可能性を聞く。
かくいう私も戦闘中、マリアが《第二種》と思われる証拠らしきものを見た。先程の攻撃をヒットさせた瞬間、マリアの首筋に注射痕が幾つのもあったのを目にしていたのだ。
博士が現状私にだけこの推理を伝えたのは〝情報戦〟の鉄則――いかに敵に悟られずに、こちらにとって有利な相手側の内情を掴むか。
本人たちには悪いが、響も翼もクリスも、この情報を聞いた瞬間あからさまにリアクションを見せてしまうだろうからね。
「(主戦力の一人が捕らわれの身と言うのに、増援も寄越さず沈黙、不気味だな……)」
正眼の構えで刀の切っ先をマリアに向けたまま、翼は私の隣に並び立って、ユニゾンによる念話で、現状次なるアクションを起こす気配を見せない敵側の動向に対して疑問を投げかけた。
「(位相差障壁の兆候は感じられるか?)」
「(いや全く……)」
自分の感覚と勾玉を以てすれば、このライブ会場内での位相の歪みを即座に探知できるのだが、ノイズを寄越してくる気配は今のところ皆無だ。
「(こっちの戦力が揃うのを待っているのかもしれない)」
「(質で無理なら〝数で勝負〟と言う訳か……)」
「(用意できてる?)」
「(我が剣で良ければ)」
文字通りの嵐の前の静けさの中で、向こうがどんな手を打ってくるにしても臨機応変に対処できるよう、某SFアニメ映画の一場面を真似て翼と気を引き締め直し合った直後、私たちの耳に〝聖詠〟が響き。
「朱音ちゃん!翼さ~ん!ごめん遅くなって」
「ったく……こっちが着く前にフライングに盛り上げ過ぎだろ」
会場上空を横切った二課のヘリから響とクリスが飛び降りてきて、やっと現着できた。
「ようやくそちらの役者は揃ったか」
依然として翼の《影縫い》で身動きが取れぬ状態ながら、マリアは不敵に微笑んで挑発的な態度を取ってきた。
私はリボルバーを、翼は刀を構え直し、クリスもクロスボウのを二挺(ツーハンド)でマリアに向けた。
(やはり貴方に〝悪役〟は似合わないよ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……)
本人に悪いが、その強気な態度はある種の〝やせ我慢〟であると、ここまで実際に歌声をぶつけ合って戦闘を繰り広げてきた私(こちら)には筒抜けだぞと心中でこっそり言い返していると。
「響……」
一人、ノイズを相手にする時は握りしめられた拳を開かせた無手のまま、響はマリアへと歩み寄り出した。
「〝融合症例第一号〟」
そんな響を、名前ではなく症例番号で呼び、彼女なりに〝フィーネ〟を装ったまま響の行為を嗤うマリア。
「先程宣言した通りだ、私たち《フィーネ》は世界の全てに宣戦布告した、お前も例外ではないぞ」
「それでも私は……〝話し合いたい〟んです、今のマリアさんが、本当にフィーネさんだったとしても――」
できれば響の意志を尊重して、しばし静観していきたいところだったが、私の〝感覚〟は前世から数え切れぬほど聞かされてきた〝雑音(みみなり)〟を捉える。
(来たかッ!)
「Back Off~~My Friend(下がれ! 我が戦友)~~♪」
響の前に出て、私は甲羅(シールド)を上空へ向けて構え、雲(ベール)に隠されていた月が再び姿を現した刹那、聴覚をつんざく怪音とともに月色の線流が降り注いできた。
つづく。
そういえばXDの念話機能(テレパシー)って無印しか使われていなかったな……見返して、なんとかこの設定を生かせないかと思案して、ならユニゾン中は使えるということにすれば!!と思いつく一方、ユニゾン周りの設定を確認する程『え?元は一対の武器だったシュルシャガナとイガリマ以外のユニゾンってそんな難易度高いの!?』となってどうしようか……―――もう迷うなら走れ!!と半ば開き直りました。
え?了子さんの手でマリアさんが『時限式』だとバレることになったのは?
一視聴者として『時限式ではここまでなの!?』は『貴方もその言い回し使うんか~いwww』となるんですけど、これナスターシャ視点から見ると自分から自己申告するマリアに気が気でなかったんじゃ……さすがに自分からバラしちゃうのマリアさんポンコツ過ぎるんじゃ……となって、了子さんなら見抜いてもおかしくないよね~~となった次第(コラ