GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL 作:フォレス・ノースウッド
この手のシチュで難しいのはビッキーはああいう場面で率先して喋るキャラじゃないんですよね。他のキャラがペラペラ専門用語込みで長々と述べたら一言二言リアクションするくらいなので、喋らせなさすぎると存在感は無くなるし、でも喋らせすぎると解釈違いだし。
逆に朱音はこういう場面でも自分から発言させ易いから塩梅が難しい、こうしたのは自分だろ?と言われればぐうの音も出ない(苦笑
しかもこっちの世界線ではフィーネの魂の分は抜けたけど了子さんは健在なので、手綱しっかり握らないとずっと朱音と了子さんが喋りまくることになりかねない(コラ
しかしGの用語集見直すほど、Gだけでも了子(フィーネ)さん、面倒な置き土産残し過ぎ。
涎がしたたり落ちて不快な音色が混じる〝ケダモノ〟の唸り声が反響する暗闇の中、両開きでオートドアが開いた。
光差す外から、人影が一人暗闇の中に入室し、扉は閉まりて室内は微かな薄明かりしか灯らぬ中、キャロル・マールス・ディーンハイムは宙に手を翳すと、多数の六角形の連なりで構成された魔方陣らしき円陣が出現。
キャロルは円陣を通り抜けると、その体格は一瞬で大人の女性のものから数え年ほどの幼女に姿に変化し、服装もレディーススーツからどこか魔法使い染みた装束となった。
外見年齢を変えたキャロルは、この暗黒の奥にて閉じ込められている《聖遺物》を黙して見つめている。
その唸り声を反響させる《聖遺物》が、暗闇からキャロルめがけて〝牙〟を向きだしに襲い掛かってきた―――が、目には見えない〝障壁〟と激突し、その攻撃は彼女に届かぬまま阻まれた。
この《聖遺物》を端的に表するなら……〝異形の怪物〟と言う他ない。
禍々しく醜悪な遺物(かいぶつ)は、牙と舌と唾液をむき出しに、室内中へ不快な鳴き声を轟かせ何度も不可視の壁に体当たりをしかけるが、障壁は破られるどころか、傷の一つも入らぬ頑強さで、この異形を閉じ込める檻の役目を全うしている。
幼子の姿となったキャロルは、牢獄の中で暴れ続ける《聖遺物》と、奴の口から飛び散った唾液がこびり付いて滴る障壁に映る己自身を黙して眺め続けている中にて――ふと彼女の脳裏に、ある映像(フラッシュバック)が走る。
「またか……」
その幼い顔つきの一部たる眉間に、似つかわしくない皴(ゆがみ)が寄せられる。
「〝人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇〟……か」
〝喜劇王〟と呼ばれた二〇世紀の映画史を代表する名役者が生前に残した言葉の一つをキャロルは吐き、異形と鏡面の自身を重ねる形で見ていた。
〝オレが奇跡を殺すと言っているッ!〟
自分であって自分でないが、確かに自分自身であることは紛れもない、脳裏に流れ込む〝己(みずから)〟の記憶を。
脳内に響く己が怨嗟を振り払う様にキャロルは首を振って、吠え続ける異形の《聖遺物》から背を向け、肉体を幼女から大人の姿に再び変えつつ、この暗黒まら光差す回廊へと退室すると。
「やっぱりここにおったね~キャロはん」
比良坂―――今は紗矢の人格が表に出ている《武装組織フィーネ》に所属するシンフォギア装者の一人にして〝怪獣〟の前世(きおく)を有する転生者の一人でもある少女たちの片割れが、端末(スマートフォン)を片手に、壁にもたれて待っていた。
大方、真矢と共々前世からの因縁ある〝ガメラ転生体〟の戦闘映像を鑑賞でもしていたのだろう。その上機嫌な表情でキャロルも嫌でも分かる。
大体彩矢がこう言う顔つきになるのは〝ガメラ〟が絡んだ時と、相場が決まっていた。
「〝腹減りモーフ〟の様子はどうやった?」
端末を懐にしまい、京都辺りの関西弁風の訛りを意図的に取り込んだ口調な彩矢の口から発せられた単語は、かの異形の《聖遺物》を揶揄したあだ名であり、キャロルはそれのネタ元が二〇世紀の後半頃に公開されてシリーズになる程ヒットしたSFホラー映画に登場する地球外生命体であると存じている。
「今日も変わらずの〝貪食〟具合で暴れ狂うが、成長は鈍足なぐらいだが?」
「な~んやつまらへん~」
口を少し尖らせ気味の彩矢に対し、相手の退屈を晴らす気のないキャロルは速く本題に入ろうとした。
「用があってオレを探していたんじゃないのか、〝二代目〟?」
「また人(うち)をそう呼んで、まあほんまのことやけど」
キャロルから〝二代目〟と揶揄された彩矢は少々苦言を交えつつも否定はしない。この少女(ひとり)の肉体に宿る二つの意志(じんかく)の出自を踏まえれば、キャロルの表現は的確であるからだ。
「で、用件は?」
「あ、忘れるとこやった、教授(マム)が呼んでたで」
「それをさっさと言え……まったく」
溜息を吐きながらナスターシャの下へと向かい出すキャロル。自分の部下(オートスコアラー)ほどでは無いが、今自分の背後から着いてくる形な彩矢の享楽主義的な人柄はキャロルにとって苦手な部類に入った。
「そや、今日の〝フナちゃん〟の様子はどや?」
「それをお前に話す気も義理もないぞ……」
彩矢からの頼みを一蹴する言葉を吐く間にキャロルは一瞬ながら瞼を閉じ、向こうにいる彼女と視覚(かんかく)をリンクさせる。
〝すっかり餌付けされているな………おい〟
脳裏に投影されたのは、スイーツを心底美味しそうに食している己が〝分身(ホムンクルス)〟たる少女の姿……であり、額に冷や汗が流れそうになりつつも。
〝あの微笑みはエルフナインにか、それともオレか……ヤツも大概食えないヤツだ〟
背後にいる彩矢と真矢同様、《怪獣》の記憶を有し、キャロルにとっても〝異物〟の存在――ガメラ転生体たる少女草凪朱音の、微笑とともにこちらに向けてきた翡翠色の眼差しに対し、食わせ物めと揶揄したくなる気分となる。
草凪朱音……《ルナアタック》から世界を救い、終焉の巫女の野望を打ち砕いた英雄の一人にして〝もう一人の自分〟が辿った次元では存在していなかった〝異物〟でもあり、《武装組織フィーネ》にとっても最大の障害となるのは確実となる相手。
〝朱音(やつ)と柳星張(こやつら)、元怪獣どもがどう引っ掻き回してくれるのか〟
当人らに悟られぬ様、心中の奥底でキャロルは一人呟いた。
《QUEENS OF MUSIC》と言う聖なる祭典の最中引き起こされてしまった悲劇(テロ)から約一瞬間過ぎたその日、私はと言えば今日の授業を終えた後二課仮説本部の――。
「味はどうエルフナイン?」
「今日のお菓子も美味しいです!これはなんて言うんですか?」
――食堂にて、あのテロ及び《武装組織フィーネ》と《錬金術師》に関して〝重要参考人〟なエルフナインに、自分の手で調理し、三角に切り分けたタルトにプリンを乗せた見た目をしている御菓子(スイーツ)を振る舞ってあげていた。
「起源はローマ時代にまで遡る由緒あるフランスのお菓子、フランさ」
二課に保護されて以来、私はこうして時間が取れればエルフナインにちょくちょく長年鍛えた料理の腕前を披露している。
「日本ではちょっとマイナーだから、食べられるお店もそうなくてね、プロに比べたら見劣りするかもしれないけど」
「いえいえそんなことは、僕の感性では朱音さんはプロも顔負けな技術だと言えます!」
「おや、それはどうも~♪」
その理由は、特殊な出自持ちだろうと関係なく発揮される私の子ども好きな性分なのもあるし、心底美味しそうに食べて私の料理の腕を称賛してくれるエルフナインの眩い純真さに自然と口元が微笑んで心(むねのうた)がほっこり温まっているのも本当だけど………一方で私の〝翡翠〟に喩えられる前世(ガメラ)の頃から変わらぬ虹彩(いろ)をした瞳は、この子の瞳越しに〝覗き見〟をしている相手を感じ取った。
ほんの一瞬かつ僅かながら、エルフナインの瞳の色が変化したのを逃さず捉える私の瞳。
エルフナインの視界を通じて見ている誰かの見当は付いている………前世からの宿敵である柳星張――イリスの転生体〝比良坂真矢〟も属しているテロリストグループ《武装組織フィーネ》のパトロンにして、この子の生みの親も同然な錬金術師――〝キャロル・マールス・ディーンハイム〟。
時は一週間前、《QUEENS OF MUSIC》と言う祭典が前述のテロリストどもによる劇場型テロによって、惨めに踏みにじられてしまった悲劇の直後。
増殖分裂特性を持った《巨大アメーバ型ノイズ》を《S2CA》で会場外の市民たちに被害が及ぶ前に撃破し、一応は事態を収束させた私たち装者は二課のヘリで仮説本部に移送され、エルフナインと司令と櫻井博士と緒川さん含めたエージェント数名が先んじて待っていたレクレーションルームに入った。
「これで役者はお揃い~~ってわけでエルフナインちゃん、説明をお願いできるかしら?」
「はい」
今回の会合(レクレーション)の目的は無論、今日起きた数々の事態に関連する情報を有して二課に接触しようとしてきた重要参考人たるエルフナインの事情聴取――。
「それでは………え~と、どこから話したら良いでしょうか?」
――なのだが、当人は可愛らしい顔立ちの一部なほっそりとした眉を綺麗な八の字にして、上がりそうになった場の緊張感を一気に急降下させた。
この場にもしアニオタな弓美がいたら〝ギャグアニメじゃないんだから!〟と突っ込まれそうなエルフナインのボケに、響とクリスと未来はその場からズッコケかけ、翼も眉間に指を差して苦い表情を浮かべている。司令も緒川さんも苦笑いで、櫻井博士だけ口をお腹を手で抑えて笑いをこらえていた。
「んなことアタシらに聞くんじゃっ――うご!?」
「クリス、ツッコミたい気持ちは分かるけど堪えて」
私はと言うと、エルフナインの意図しないボケにいつもの男勝りな口調と物腰で突っ込みそうになったクリスの口を押える一方、内心この子の説明に悩む様に共感している。
自分もシンフォギア装者として再び〝ガメラ〟として戦火に飛び込んだ日、司令ら二課の人たちにどこまで情報を開示しようか悩まされた経験があったからだ。
「では私たちが質問するから、エルフナインがそれに答える形で話すと言うことで」
「あ、ありがとうございます朱音さん」
こちらから助け舟の案を出すと、エルフナインはぺこりと言う表現が似合う綺麗なお辞儀をする。
「じゃあ朱音ちゃん、問者(もんじゃ)役はお任せできるかしら?」
「もちのろんで」
櫻井博士に改めて頼まれずともそのつもりだったので、私は博士の口癖を使って請け負った。
「さて、君自身のことと〝錬金術〟に関することは一度置いておいて、《武装組織フィーネ》に関して君が知っている情報をまずは聞きたいんだが……」
「はい……」
最初の質問をエルフナインに問いかけるほんの僅かな時の間、両腕を組んでルーム内を回る私の脳裏はかのテロ組織に関して現状知りえた諸々を、改めて整理し直す。
「もし違っていたらはっきり違うと訂正してほしい――」
同日、アメリカの聖遺物研究機関《F.I.S》で起きた襲撃事件。
岩国基地にて、その時点で《F.I.S》から除名されていたドクター・ウェルが口にした〝英雄〟に関する持論。
歌姫同士の協演、盛り上がる最中に放り込まれたノイズ等、《PROJECT:N》との共通項。
そもそも組織の名を〝フィーネ〟にした意図。
〝絶対に譲れな~い~~~夢が吠え叫ぶよ~~正義の為に――悪を貫けぇぇぇ~~♪〟
戦闘中にて漆黒のガングニールを纏う、〝悪役〟を振る舞いながらも到底向いていると言い難いマリア・カデンツァヴナ・イヴが歌いあげた詩。
〝お前の名は、比良坂真矢だ〟
〝そう言う貴方は、草凪朱音〟
そして夏の神隠し以来の再会となったイリス転生体の少女――比良坂真矢の、まだ不鮮明な記憶と今夜の対面含め、かつての外道さとは程遠い曰くに塗れた在り様。
これらの情報を反芻し直したことで、私は自らを〝フィーネ〟だと称する連中(テロリスト)の目的に対し、ある程度の目星が付いていた。
「もしかして奴らの目的は、終焉の巫女の置き土産――〝月の落下から人類を救う〟――ではないのかな?」
「はぁっ!?」
「月の、落下……」
私の口から端的に自分の推理が発せられた瞬間、周囲の空気が緊張感で重々しさが増し、
息を呑む音色が響き、響が私の言葉の一部をオウム返しする。
その中で櫻井博士だけは同意だとばかり、繰り返し顔を頷かせ。
「朱音さんの推測は……当たっています」
と、エルフナインは肯定で返答し。
「上手く呑み込めていない人もけっこーいるようね」「
先代のフィーネの依代であった櫻井博士の言う通り、事実奴との関わりが強かった響やクリスの表情は驚愕と戸惑いが張り付き離れず、目は大きく開いて震えるまま、息遣い少し乱れ気味、人並み以上に鋭敏な私の五感の内の聴覚は、心臓の鼓動が速まっているのを聞き取った。
特に私と共に絶唱の二重奏で《カ・ディンギル》の月を穿つ荷電粒子砲の光から、どうにか災厄を阻止できたクリスなんて、なまじフィーネの計画に加担していた負い目から〝どういうことだよ!〟思わず大声を張って乗り上げてもおかしくなかったのに、よく自制できているものだ。
かく言う私も、傍からは平静そのものに見えるくらいには装っているし、そうあるよう心掛けてはいるものの、内心は脳内で想像した〝月(そら)が落ちる〟光景を前にぞっとし、今日の一連の事態が目の前で立ち塞がるまでその〝可能性〟を考えていなかった自分が腹立たしい気持ちもある。
なまじ《絶唱》を使ってまで《カ・ディンギル》の奔流(ひかり)が月に直撃するのを防ぎ、掠めるに留め、月の一部だけでも地球に落とそうと引きずり出そうとしたフィーネの〝最後の足掻き〟を阻止できたこともあってか………もうこれっきりにしてほしい想いがあったからかもしれない。
たとえもっと前に〝スカイフォール〟が進行していると知って、たかが前世(ガメラ)の力の一部を《地球(ほし)の意志》から借り受けただけの一介の人間な自分一人に何ができる? 己惚れるなと、自身に釘を刺して自戒しようとも、罪悪感の〝疼き〟は当分消えそうにない。
かと言って、その気持ちに酔いしれる気もないので、そのまま平常心(ポーカーフェイス)を維持させたままにして。
「朱音ちゃんが《武装組織フィーネ》の目的を言い当てた補足の為に、まずはご先祖様の計画をおさら~いと行こうかしら」
「そうですね、お願いします博士」
博士の口から、かの先史文明時代の巫女が《ルナアタック》で何を目論んでいたのか、復習の講義を提案され、事実密接にリンクしているのもあり異論はないと私は了承を示した。
「さて、私の中にいた頃のご先祖さまが、どうやって《バラルの呪詛》を穿とうとしたか―――」
モニターに関連情報を随時表示させながら博士は。十二年前の《天羽々斬》起動実験にて翼の歌声を切欠に自身の肉体に宿り覚醒したかつての〝櫻井了子(フィーネ)〟が、特機二課での職務と聖遺物研究の裏で進めていた計画をおさらいしていく。
流れを簡潔にリストにするとこうだ。
完全聖遺物と生体融合することで、自らを〝新霊長〟へと成す。
旧特機二課地下本部にて密かに建造し、不滅の剣《デュランダル》を動力源とした荷電粒子砲を発射する天を仰ぐ塔《カ・ディンギル》を以て、人同士の相互理解を阻む《バラルの呪詛》の発生源たる遺跡が存在すると言う月を破壊。
《統一言語》を取り戻しながらも未曽有の混乱と災厄が待っている人類を、自称〝新霊長〟フィーネが新たな世界秩序の支配者として君臨し――。
「―――そうしてあわよくば……〝あのお方〟にまたお会いになろうと宇宙の彼方へ羽ばたこうとしていた……でしょうね」
十二年間自身を乗っ取っていたにせよ、自身が子孫であることと、彼女が抱いていた慕情に対する敬意からか、櫻井博士かの神々の一族――《アヌンナキ》の一人の名を敢えて口にはしなかった。
「となれば……《武装組織フィーネ》は、呪詛(バラル)を月ごと破壊した後に実行する手筈だった〝彼女〟の計画の続きを実行しようとしていると?」
「どう?弦十郎君の推理も当たっているかしら?」
「はい、的中しています」
櫻井博士からの問いに、エルフナインは司令の推理も当たりを引いたことを証明し、その事実を前に、この場にいる翼(せんゆう)たちのほとんどもその意味を察して、言葉を失う程の衝撃を受け止めさせられていた。
「あの……そのフィーネさんの計画の続きが何なのか、私にでは全然分かりません……」
そんな中で、バツの悪そうに響は猫背気味に縮こまった体勢で手を挙げて苦笑いフィーネが呪詛(バラル)を破壊せしめた後に何をしようとしていたか汲み取れていない旨を打ち明けてきて、未来も申し訳なさそうにまるで保護者同然(まあ実質そうなんだけど)に頭を下げ詫びていた。
いけない、ただでさえ常人の感性では受容仕切れぬスケールの話をしているのに、さすがにここまで説明の飛躍が過ぎたな……と私も自省した。
「響も未来も、フィーネがものの喩えじゃなく、本気で月まるごと《バラルの呪詛》を《カ・ディンギル》で破壊しようとしていたことは分かっているよね?」
「うん……」
響の性格上、どうしても櫻井博士に宿っていた頃のフィーネを悪く思うことなどできないが、《ルナアタック》の件だけでも奏さんを含め多くの人間を犠牲にしてきた事実も存じているので、ゆえに複雑な心情がより表情へと露わになっていた。
今日の《武装組織フィーネ》のテロの裏で、巻き添えをくらった民間人に蒸発した立花洸(ちちおや)がいて二課に保護されている事実は、知らせておくべきか……どうしても私の心の片隅では葛藤(まよい)が渦巻いている一方で。
「月が粉々になる程の大災害なんて起きれば、地球は人どころか生命(いきもの)自体住めなくなってしまうわ……ご先祖様がそれを承知で《呪詛》の解呪と同時に起きる〝ノアの大洪水〟から人類を救うとしたら――」
「〝ノアの方舟〟ですよね」
櫻井博士が先史文明(メソポタミア)時代に書かれた《ギルガメッシュ叙事詩》もしくは《旧約聖書・創世記》に記述されている物語を引用し。
「博士と朱音さんの仰る通り、先代フィーネは月の破壊が招く災厄からの救済措置としての〝方舟〟に該当する〝超大型聖遺物〟を事前に発見、用意していました」
エルフナインがモニター操作用のコンソールを操作すると、画面内に地球図が表示され、マーカーが太平洋上の東経一三五.七二度、北緯二一.三七度の地点を十字状に指し示す。
「この海域に発見された巨大遺跡、先代のフィーネが名付けたコードネームは《フロンティア》、正式名は――《鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)》です」
「ふねの、かみ?………船なのか神様なのかどっちなんだよ?」
「日本神話ではどちらの意味でもあるのだ雪音、船としてはまたの名を《天鳥船神(あまのとりふねのかみ)》、名の通り天翔ける大船さ」
翼が補足で、フィーネから〝ノアの方舟〟として選ばれていた聖遺物の別名を口にした。
古事記出てくる同名の〝神々の船〟と同じ用途で使われていたとすれば、先史文明人の創造主たちである《アヌンナキ》の星間航行用の艦船の一つだと思われ、フィーネはこの天(うちゅう)を泳ぐ船を以て、月の破壊で〝生命が住まう惑星〟としては滅亡必至な地球から人類を連れ出そうする魂胆だった。
「しかし、これほど大規模な遺跡クラスの聖遺物となるりますと、起動に至らせるだけでも膨大なエネルギーが必要でしょうね……」
緒川さんからのごもっともな指摘。エルフナインが持ってきた《F.I.S》の極秘資料によれば、遺跡自体は〝結界〟で保護されているらしく、そこから想定される本体のおおよそのサイズを踏まえると――。
「《限定解除(エクスドライブ)》を実現させた時のフォニックゲインくらいじゃ、まだまだ足りないくらいよ、《デュランダル》を使うプランもあったでしょうけど」
遺跡そのものが聖遺物の域な《完全聖遺物》となると、それだけのエネルギーを半永久的に生成でき、動力炉の役目を果たせる別の聖遺物が必要となるのは明らか。
かの〝不滅の剣〟は、未来たち級友や子どもたちの歌声(フォニックゲイン)を後押しに発動した特撮ヒーローで言うところの〝最強フォーム〟に該当する《エクスドライブ》へとパワーアップした私たち装者と、複数の完全聖遺物との融合で《黙示録の赤竜――ベイバロン》となったフィーネとの最終決戦で消滅した。
しかしフィーネのことだ、《デュランダル》以外にも候補となる完全聖遺物自体は《F.I.S》での人脈と組織力も利用して確保していたに違いない。
となれば――。
「元より今日のライブは、動力源となるもう一つの〝聖遺物〟を目覚めさせる為に練られた計画でもあったわけだね?」
「はい、その《自律型完全聖遺物》がこちらです」
エルフナインが画面にて新たに提示した資料は、前述の〝ノアの箱舟〟同様、旧約聖書の正典な創生記に民数記だけでなく外典にも登場する〝天から落ちてきた巨人たち〟のものであり。
「《ネフィリム》か……」
「はい、クラッキングで消去される前に入手できた《F.I.S》の資料によれば〝自律稼働する増殖炉〟と称されている聖遺物です」
その巨人たちの総称を私は口にし、《完全聖遺物》としての同名の異形(すがた)が描かれたCGが画面に映される。
「その見てくれで《自律型》と言うことは……」
「朱音ちゃんの前世――ガメラと似た者同士と言うわけ」
実質前世(ガメラ)もこの世界で言う聖遺物そのものだったので、博士の言葉に異論は無いが。
「うわっ……」
「なんて言うか、その……」
「ノイズと良い、《ネフィリム》だっけか?この怪物(バケモン)といい、先史文明(あのじだい)の連中のセンスはどうなってるんだ?ギャオスを作ったあっちの古代人(やつら)とどっこいどっこいだな」
ただ引き気味の響と未来、ノイズと我が宿敵を引き合いに出して揶揄するクリスの気持ちも分かるくらいには、見る者に嫌悪感を催すクリーチャー然とした外見だとも言い切れた。
喩えるなら、SFホラー映画の金字塔なかの美醜が混在する秀逸なデザインをした完全生物(エイリアン)から〝美〟だけを取り除いた感じとでも形容すべきか。
まあ、自分たちの《ネフィリム》に対する芳しくない第一印象はさて置き。
「質問を変えていいかな?エルフナイン」
「どうぞ」
次の質問の内容を脳裏で選び取る最中、エルフナインの面持ちを見つめる私の翡翠(ひとみ)は、この子の双眸から発する違和感を嗅ぎ取った。
今日会ったばかりの自分からでも温和で優しさをストレートに表現できる人となりなエルフナインの瞳から、似つかわしくない刺々しい別の〝誰かの視線〟を感じたのだ。
だが私は敢えて重要参考人(エルフナイン)越しの目線をスルーして、素知らぬ顔でこの子との質疑応答を続けることにする。
そもそもの話、エルフナインが二課と接触して情報提供できている時点で、自分はその可能性を頭に入れていたし、向こうがそう来るなら、こちらもこちらでこの状況は有効活用させてもらうまで。
「《F.I.S》及び米国(アメリカ)政府が〝月の落下〟を察知したのは三か月以上前である」
「はい」
「朱音(くさなぎ)、なぜ三かげ――そうか……マリア・カデンツァヴナ・イヴ」
「Right(そうさ)」
《ルナアタック》が起きたのは七月の始め、マリアのデビュー曲を公開する事前告知(ティーザー)動画がネットで公開されたのは八月に入りたての頃、この日の為に彼女を〝歌姫〟に育て上げたとすれば、本来は年に約三.八メートル離れている筈の月が逆に地球に近づいて落下コースに入りつつあると《F.I.S》が観測したのはその期間内に自ずと絞られる。
「落下の事実を知った《F.I.S》上層部及びアメリカ政府中枢の面々はこの件を隠蔽するだけでなく、フィーネの〝計画〟の続きを密かに実行し、自分たちだけ確実に助かろうと目論んでいた」
「はい……」
正直この〝事実〟は、こうして口にすることすら苦々しく忌まわしい話で、自分の眉間が皴で歪む感覚がありありと嫌でも自覚させられる。
対処方法の見つからない巨大災厄が公表されれば、無駄に人々の混乱を招くだけ、そんな不都合な真実を隠す理由なんて幾らでもあるとは、納得できなくとも理解はできる。
だが私の祖国の片割れは……仮にも災厄に対抗できる〝方法〟をその手に持ち合わせていながら、自分らだけの命惜しさと我が身可愛さにおめおめと自国も人類社会そのものも、地球に生きる生命全ても見捨てようとしていた……組んでいる両腕の内の拳を握る力が、義憤でぎりぎりと音を立てて震える。
一方で、自身の心(むねのうた)から湧き上がるこの〝感情〟を抱くものが、向こうにもいたのだと思考していた。
「だがその方針に異を唱える面々が《F.I.S》内部にもいた、そのメンバーの集まりが――《武装組織フィーネ》」
「そうです、その組織のトップにいるのがこの方――ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ」
スクリーンに齢六〇は超えているであろう老婦人な印象を受ける教授(プロフェッサー)の顔写真が表れ。
「ウェルのヤローもいるんだよな?その中に」
「勿論です、後のメンバーがこちらです」
クリスに催促される形で、エルフナインは残りの構成員の顔写真(リスト)をまとめて画面内に並べ立てた。
当然ながら、全世界に〝宣戦布告〟を突き付けたマリア・カデンツァヴナ・イヴもいる。
「これだけ?これだけなのか?」
翼が疑問を反復させて投げかけるのも無理ない、今日あれほどの大規模テロを引き起こした組織(テロリスト)のメンバーが、首魁のナスターシャ教授も入れてたったの〝六人〟しかいないのだから。
そして………その一味の一人に〝彼女〟もいる。
比良坂真矢――柳星張(イリス)転生体。
まだほんの僅かな断片しか思い出せていない、私が神隠しに遭っている間に相まみえていた〝少女〟なのだが。
〝比良坂……彩矢(さや)?〟
写真の下に並ぶ名前にはもう一つあった。
一体……誰だ?
もし先程対峙していた少女が人格を複数持つ体質を有していたとして、前世(かつて)戦った時の〝邪神〟にはそのような性質は持ち合わせていなかった。
人間に転生した際に、人格が分かれたのか?
けど自分が思い出せる比良坂真矢に関係する記憶の中には、多重人格者らしき様相は全く見られない。
まだ〝彩矢〟の方の記憶を思い出していないだけ………なのかもしれないが、自分の直感はその仮説に対し〝NO〟だと断言してくる。
私の意識(なか)にいる私たちの一部よ、なぜそこまではっきりと言い切れる根拠は何なんだ?
「っ……」
自己意識(じぶんじしん)の奥の奥へと対話を試みようと潜り込もうした時、脳裏にある〝ビジョン〟が浮かび上がる。
それは、ガメラとイリスと人類の兵器が並び立ち………レギオンと対峙している様だった。
つづく。
イリス転生体コンビの真矢と彩矢
アウスさんの『戦姫と勇者の二重奏』読者なら真矢のことは存じてるでしょうが、彩矢(イメージCV:うえしゃま)は誰ぞ?でしょう。
正体を明確にするのはもう少しお待ちを。
《使用曲》
烈槍・ガングニール(70806446)