GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL 作:フォレス・ノースウッド
前にフォロワーのアウスさんが描くシンフォギアと結城友奈は勇者であるのクロス『戦姫と勇者の二重奏』シリーズに朱音もコラボ出演して、その時にイリス転生体の『比良坂真矢(ICV:植田佳奈)』が出てたことはお話しました。
アウスさんの描くイリス転生体が真矢なら、自分のイメージと言うか趣味全開で書いてるのが彩矢(ICV:上田麗奈(うえしゃま))です(コラ
他県からは洗練された観光都市と言うイメージのある横浜市内の一角、末 異人街、休日でも人通りが少なく、陽光の恩恵もあまり受けられないが為に昼でも薄暗い、狭苦しさのある裏通りの路上に、六角形状の方陣が出現する。
《錬金術師》が長距離移動に用いる《テレポートジェム》の方陣に立つ形で、二課仮説本部から転移してきた朱音が姿を現した。
ベージュのマウンテンパーカーと生脚を惜しげもなく晒すショートデニムの風体な朱音は転移時に方陣から垂直に吹かれた風をふわりと浴びて、少し乱れたマルベリーカラーがかっている自身の黒髪を片手で整え直しながら、艶やかな吐息を発する口より――。
「いるのは分かっている……隠れていようともな」
鋭利さが増した凛々しい朱音の声(ねいろ)が、手狭な路地の中で反響し、煌びやかな眼光で鮮やかさが増した翡翠(ひとみ)は、正面の一点を見据えている。
丁度朱音の目線の行く先の、常人の視界では人影が微塵も見られない宙(くうかん)が、歪み出したかと思うと、一転して人の輪郭が表出し、少女の姿が露わになった。
ツーサイドアップに纏めた闇夜よりも濃い黒味ながら、薄暗い路地裏の光量でも麗しく耀う長髪と、生物の生き血ほどに鮮やかな深紅の瞳。
翼とは別ベクトルで、和風の美しさを携えた美貌。
柳星張――イリス転生体の少女……たち。
「比良坂……〝彩矢〟の方か」
「大正解(ピンポ~ン)でっせ~~」
まだ断片的にしか思い出せていない〝神隠し〟の間の記憶の欠片と、眼前の少女の様相を照らし合わせ、真矢ではなく彩矢だと見抜いた朱音の翡翠(ひとみ)は、警戒の眼光を解かずに睨み続ける。
対して彩矢の方はと言えば、朱音の眼力に全く臆さないどころか、喜色満面の表情で相手に拍手を贈り、リズミカルに叩かれる両手から発する演奏音が路地内に反響していた。
「今の手品は《神獣鏡(シェンショウジン)》による〝光学迷彩〟だな?自慢の能力でコピーしたか」
「さすがの碧眼……むしろ翠眼やわ~おみごと~」
エルフナインが二課に齎してくれた手見上(じょうほう)の一つ、《武装組織フィーネ》が《F.I.S》から強奪した聖遺物のリスト――の中に、朱音が今口にした《神獣鏡》もあった。
記録に載っていたかの聖遺物の特性から朱音は、先程彩矢が見せた現象の正体(からくり)がそれとイリス自身が持つ特性を用いた〝併せ技〟によるものだと看破し、向こうも誤魔化しもはぐらかしもせずに肯定した。
「それ以上の称賛はいらない………その身体とルームシェアしてる真矢の方はどうしている?」
「つれないこと言わんといてくれる?うちにとっては念願叶うた感動の再会やのに……」
「生憎だが今私が知る〝元邪神〟は、比良坂真矢ただ一人だけだ」
面識はある体で話す彩矢に対し、彼女の名を通じて脳裏に浮かんだ記憶(ビジョン)を除けば、自分と彩矢の方とである関係性には現状ほぼ覚えがない朱音は、仮にも敵対関係――しかも前世からの宿縁付きの相手なのは確かな彼女の親しげだが腹の内を読ませない京言葉混じりの口調と態度に、警戒を解かずにいる中。
「それに〝一対一で腹を割って話したい〟と言ったのは、そっちの方だろう!」
彩矢への眼光を逸らさぬまま、朱音は背後から忍び寄ってくる〝気配〟には背を向けてたままそれらを掴み取った。
朱音の両手がそれぞれ捕らえた手首を握りしめたまま振り上げ、合気道の二人掛けで〝二人〟を前方へと宙返りさせて放り投げ。
『FLAME~ON~♪』
《旋律囃――フォニックビュート》
両手にギアアーマーを纏わせ、手首から放出されたエネルギーの縄が今投げ伏せた少女たちを拘束した。
「うそ?」
「デース!?」
不意打ちを仕掛けてきたのは、なぜか眼鏡をかけている《ザババ》のシンフォギア装者の二人。
前世譲りで視力が良い朱音は、その眼鏡が度のない伊達仕様だと見抜いた上でなぜわざわざ二人が掛けていた理由を勘繰って……。
(いやいや、これで変装のつもりとか、まさかね……)
そんなわけないだろうと自身の邪推を振り払う。
「暁切歌と月読調、彼女らが付き添いとは聞いてないんだが?比良坂彩矢」
「これに関してはお詫びするわ、申し訳あらへん」
追及された彩矢は頭を深々と下げて謝意を示した。
「も~~調も切歌も……水を差さんでとも、二人に敵う相手やないとも言うとったやろ?」
「デ、デスけど……」
「二課(あっち)の聖遺物を手に入れる好機だったし……」
「そんで呆気なく返り討ち、防人語で言えば〝生き恥晒す〟オチになっとるんやけど」
確かに奇襲に失敗した挙句、逆に朱音に捕らえられてしまっている調と切歌な有様に、彩矢はごもっともな苦言を呈した。
どうやら謝罪の誠意も、先の不意打ちは紗矢にとっても不本意な仲間の独断によるものなのも本当らしいと、朱音は心中察しながらも。
「そうだな、このまま二人だけでも二課に連行するのも手か…‥」
「ちょ!そこちょいとタイムタイム!後ろの外野の皆さんも待って!」
捕縛する手は緩めず、不敵に微笑んで《武装組織フィーネ》のシンフォギア装者の身柄と聖遺物を土産物として退散の旨を表す朱音に、彩矢が待ったをかけてきた。
(確かに話の腰を折る〝横槍たち〟のせいで、話もなにもあったものじゃないか……)
口から慎ましく溜息を吐き出す朱音は背後に振り向き、彩矢の言う〝外野〟に視線を送る。
「Excuse me,May I ask your name?(すみません、どちら様ですか?)」
「We're fellow townspeople――Ms KUSANAGI(我々は同郷の者同士ですよ、ミス草凪)」
緒川ら二課のエージェントたち同様、黒ずくめのスーツ(懐に拳銃を忍ばせてる)を着込んだアメリカ人たちに、朱音は何者かと問うと、リーダーらしき男が代表して応えた。
リーダーの朱音に対する態度こそ丁寧だが、サングラスに覆われた双眸からは、彩矢たちに対して明確な敵意を朱音は嗅ぎ取る。
「あらら~~こっちにもおる……」
彩矢の方にも見返すと、彼女の背後にも同部隊のメンバーらしい同じ風体のアメリカ人らがおり、薄暗い裏路地は完全に挟み込まれていた。
『貴方の名声は我々も存じております、《ルナアタック》から世界を救った英雄の一人たる《紅蓮の戦乙女》と直にお会いできるとは』
『それはどうも』
朱音は帯(ビュート)による調と切歌の捕縛を継続したまま、表向き向こうの賛辞に笑みで受け取る裏で、彼らの素性と目的を大体把握していた。
一週間前の《QUEENS OF MUSIC》で起きた《武装組織フィーネ》の蜂起(テロ)で辛酸を舐めさせられた《F.I.S》とアメリカ政府の命令で極秘捜査を行う特殊部隊の面々であるのは確実だ。
『そちらはこの《ザババ》の担い手たちを尾行していたのですか?』
『左様』
英語による朱音たちのやり取りでまんまと尾けられていた事実を突きつけられた調と切歌当人らの眉間が青ざめ、彩矢は〝だから言わんこっちゃあらへん〟と言いたげに仲間の迂闊さに呆れた様子で、額に手を当てていた。
恐らく朱音と接触しようとしていた彩矢の後を追っていたところを、連日張り込んでいた米国部隊に見つけられてしまったところか。
(なんて……〝Goofballs(お間抜けさんたち)〟だこと)
リスクは承知の上で、対策もしていた彩矢と違い、この《ザババ》の二人の方も迂闊だと、《QUEENS OF MUSIC》でのマリアのあれ程派手な演出(テロ)をかましておきながら詰めの甘さも露呈していた有様を引き合いに出して朱音はクリス風の表現を用いて心中独り言ちて、仮にも宿敵の転生体の筈の彩矢のお気持ちに同調できてしまうくらいには苦笑いをしていた―――が、表向きはポーカーフェイスに徹し。
『それで……〝同郷のよしみで彼女らの身柄を貴方たちに渡せ〟――と?』
『話が速くて助かります、その者たちの立場がどういうものかご存知でしょう?ミス朱音』
朱音に捕縛されている二人に、欲を言えば彩矢たちも含めた三人の身柄の引き渡しを、表層は丁寧だがその実、有無を言わせぬ威圧さを秘めている向こう側の要求を、一応は聞き耳を立てる。
『ここは日本です、貴方たちの管轄ではないのですが?』
『我々は貴方だから丁重にお願いをしているのですよ』
連中のやろうとしていることは明らかに〝治外法権〟であり、遠回しながらそのことを朱音は言及するも、向こうは居直り強盗も同然な態度で開き直る。
『この事案担当の特機二課に委ねる気は毛頭ない……と?』
『ええ、長年〝終焉の巫女〟に良い様に利用されていた〝特機部二(Protuberance)〟には、元より期待しておりません』
Protuberance――腫れ物とは、これまた酷い揶揄様(いいよう)だ。
(そのフィーネと裏で共謀していたのを棚に上げて、よくもまあぬけぬけ言えること……)
広木防衛大臣がご存命の内に〝スパイ防止法〟が可決できなかったのは痛すぎたと、朱音の心身が染みた。
お陰で大臣当人は白昼で暗殺されるわ、堂々と治外法権を振りかざしてで日本(このくに)に土足で踏み込んでくるわと………今日まで〝スパイ天国〟のままとなっている実態を目の当たりにした朱音は、嫌でも痛感させられる。
『賢明なるご判断を、ミス朱音』
朱音の聴覚からは、あちらのリーダーの言葉の裏にある本音――〝つべこべ言ってないでこちらの要求に従え〟――と、返答次第で銃を使うことも厭わぬ姿勢をありありとかぎ取り、その場で目を閉じて肩をすくめ、シュラッグさせた両手の内、丁度リーダーらのいる方角を向いた左手の指をフィンガースナップを鳴らした瞬間――。
《眩惑ノ煌(げんわくのきらめき)――ミラージュフレア》
部隊内から閃光手榴弾を遥かに上回る光量(ハレーション)で、通りは白銀一色(ホワイトアウト)に染められた。
強すぎる閃光で視覚が頼りにならない中、この状況を作り出した本人たる朱音は翡翠の双眸を閉じたまま、傍からは見えているとしか思えぬ迷いのなさで足音を最小限に抑えた疾駆で、視界不良でパニック寸前な米国特殊部隊へと飛び込み、強襲。
通りの中央に立っていたリーダーの右腕を掴んで捻ると同時に、朱音は下顎と頸部に掌底を打ち上げ、上段から振り下ろす形で肘撃ちを右腕関節へ、追い打ちで左手による寸勁(ワンインチパンチ)を鳩尾に叩き込む。
スペイン発祥でアクション映画でも幾度か用いられた護身術《KEYSI(キーシ・ファイティング・メソッド)》を用いた朱音の連撃で前屈みに呻くリーダーの顔面に膝蹴りを撃ち、相手はその場でうつ伏せに倒れた……その間は一秒にも満たぬ早業。
残る部下たちも視力を戻して体勢を立て直す暇も無いまま、瞑目する朱音から正確ながらその暴風の如く敏捷かつ激しい攻撃を受け、昏倒させらていく。
最後の一人は肘撃ちを顔に、膝に裏拳を受け、バランスが崩れたところで腹部に二ーキック、ダメ押しにかかと落としをまともに受けて地にひれ伏した。
「ふぅ~……」
一息ついて目を開けると、最初に無力化させた米国部隊のリーダーの息遣いが聞こえ。
「Ah……I know what you're think that? 〝It's faster to Shoot a gun than to singing〟――Know well(おっと……何を考えていたか当ててやろうか?〝歌うより銃を撃つ方が速い〟――よく知ってるよ)」
うつ伏せな相手の背中に腰掛け、両腕と両足を組ませた体勢で馬乗りになって、《シンフォギア・システム》と銃をかけたジョークをリーダーに贈る朱音、図星を当てられたらしく動揺の吐息が相手から発せられたと同時に、後頭部へ手刀を打ち込み。
「Sorry……」
完全に相手部隊のリーダーを気絶させ、スーツの内側から端末とドッグタグを〝拝借〟した朱音は再び駆け出す。
走りながら朱音は懐からもう一つのテレポートジェムを取り出して前方突き当りの壁へと投擲し、自身の帯(ビュート)に縛られたままな上、先の閃光で同じく視界不良となっている調と切歌の華奢な身体を脇に抱える形で持ち上げ。
「連中に捕まりたくなければ来い!」
《神獣鏡》の特性で閃光から瞳を防ぎつつ、同じくもう一方向側にいた米国部隊のメンバーを無力化させていた彩矢に来るよう催促。
外壁に衝突して割れた《テレポートジェム》から転移用の方陣が表れ、朱音と彩矢は躊躇なくそこに飛び込み、通りから退散。
気絶させられた米国部隊が散らばる通りに、冬が近いのを報せる空っ風が鳴き声を挙げて吹かれるのだった。
「まったく……仮にも司令の俺を差し置いて事を進めるのは自重してもらいたいものだな……」
二課仮説本部の艦橋(しれいしつ)では、後頭部をかく弦十郎の人並み以上に図太い眉が八の字になっていた。
先程まで彼は艦内の自室にて、政府高官たちとリモートによる会合を行っていた。
お題は無論〝月の落下〟と言う未曽有の事態に関するものだが……相変わらず〝お偉いさん〟たちの態度は楽観主義が過ぎ、その癖対処に苦労している真っ最中の現場の人間たちには高圧的と、実に二課を〝特機部二〟扱いする応対振りで、頭を抱えて会合を終えて司令室(ブリッジ)に来てみれば、丁度朱音が《テレポートジェム》で艦外に転移した瞬間に立ち会った。
「まあまあ弦十郎くん、実質副司令の私が許可しましたってことで、それに因縁のライバルから招待状を贈られてきたのよ、いてもたってもいられなくなるのは無理ないじゃない」
「俺も分からんでもないさ、ただ一応上司の身として苦言を呈したまでさ」
何せ高官たちからは要約すると〝独断で事を進めるな〟と釘を刺された矢先に、立場上部下である装者の朱音が自己判断で行動を起こしたので。事情は大いに理解はしていても形式上でも注意の言葉を発する弦十郎は、友里の淹れ立てのコーヒーを味わいながら、朱音がメモ用紙に書き記したその〝ライバル〟からの伝言を目にする。
〝拝啓、ガメラ様――一対一で腹を割ってお話したいので、横浜市末 異人町の裏路地においで下さい――我ら柳星張姉妹より〟
「これをどうやって朱音くんの携帯に送信できた手品の種は分かったか?」
「おそらくだけど、《錬金術》のテレパスを応用したのでしょうね」
エルフナインから提供されたこの世界に実在する《錬金術》を用いた技術の一つがテレパシー。
術師自身の感応波――脳波信号を錬成(へんかん)し、エスパー同然に遠くにいる相手との意思疎通を可能とするもの。
「人間と精神感応できるガメラとイリスだった朱音ちゃんと彼女らなら、同じ能力を使えてもおかしくないわ」
「だから俺達にはノイズ音にしか聞こえなかった電磁波音を朱音くんだけはテレパシーによる言葉として認識できたのか……」
比良坂彩矢は、感応波を特殊な電磁波に変換して直接朱音の私用のスマホに電話をかけてきた。市販のスマートフォンでは圏外となる仮説本部内でも着信できた理由(トリック)の正体がこれである。
「司令、ドローンカメラが朱音ちゃんを補足できました、モニターに出します」
「よし」
普段は自動操縦で定時パトロールに勤しむノイズドローンの数ある一体を、比良坂彩矢が指定した区画方面まで遠隔操作していた藤尭が、司令室前方に大型立体モニターを表示させ、ドローンのカメラ映像が映し出される。
「最大望遠です」
「あらあら色々とカオスね~~」
万が一感づかれる可能性を踏まえ、カメラのスペックの限界まで遠方から最大望遠で捉えたものの為、やはり少し画質が荒いが、それでも朱音たちの接触に割り込んできた米国の部隊員(エージェント)たちの姿は確かに見て取れた。
元は米国の聖遺物研究機関にして了子に憑依していた頃のフィーネとも関連性が疑われている《F.I.S》から離反したメンバーで構成された《武装組織フィーネ》による一週間前の《ソロモンの杖》強奪とライブ会場占拠事件は、かの国の面目を潰すには十分過ぎる事態だった。
加えて《ルナアタック》関連事件でも、最終的に決裂したとは言えフィーネと利害の一致で共に裏で引いていた疑惑もある以上……米国側としては〝終焉の巫女〟の置き土産に関わる事案は、火種の内に消しておきたい筈。
それを踏まえれば〝治外法権〟も甚だしいやり方で独自に《武装組織フィーネ》の行方を追い、奪われた異端技術を取り返そうと躍起になっている可能性は弦十郎の脳裏にも過っていたが……ここまで露骨に突き付けられると、予想できていても気持ちのいいものではなく。
「〝人様の庭〟で、好き勝手してくれる……」
これには弦十郎も辛辣な表現を使ってしまう程の光景(えいぞう)が、突然画面全体に渡って真っ白となった。
朱音の起こした攪乱技の光量を前に、ドローンのカメラレンズが白飛びの直撃を受けたのである。
「カメラの修理代、朱音ちゃんに請け負ってもらおうかな?」
「藤尭くん……せこ」
「だよね~~冗談だから!」
まさしく〝ゴミを見る目〟で睨む友里から冗談(ボヤキ)に釘を刺されながらも藤尭はオペレータコンソールを手早く的確に操作して、待機させていたもう一機のドローンカメラに切り替えて映像を復帰させた。
朱音が持前の格闘能力でガタイの良いエージェントたちを無力化させたのと対照的に、映像からは真矢か彩矢かの判別はできなかったが、柳星張転生体の少女はただその場で立ったまま、それこそ〝棒立ち〟そのものな状態にも拘わらず、涼しい表情を崩さぬ彼女を捕えようとしていた周囲の部隊員らは空を仰いで呻き、ほぼ同時に倒れ込んでしまった。
「朱音ちゃんってばちゃっかりしてるわね~」
粗い画質でもエージェントのリーダーと思われる男の懐から携帯端末らを抜き取った朱音はそのまま《テレポートジェム》の方陣を展開し、先に捕縛していた調と切歌を抱え、比良坂姉妹に同伴を促して転移していった。
「その朱音ちゃんから写真データとメッセージが届きました」
それから程なくして、朱音の使う二課専用端末(スマートウォッチ)で撮影された彼女の掌に乗る認識票(ドッグタグ)の写真が送られてきた。
本物には所属組織の認識番号や社会保障番号も刻み込まれている為、これだけでも十分な証拠品(てがかり)となり、早速オペレーターメンバーの一部はドッグタグを頼りに解析を開始した。残りのメンバーはこうしている間にも地球に近づいている危険性のある月の正確な軌道計算を引き続き行っている。
今回のも含めた米国の暗躍の数々によって、NASAが公表した月面公転軌道のデータは改竄されている可能性が高く鵜呑みにできない以上、二課は独自に計算し直す形で脅威の実態を明るみにしなければならないからだ。
「さ~て、私は邪神ちゃんたちの能力をもう少し調べるかしら」
了子はドローンのカメラ映像から、比良坂姉妹が何かしらの能力を行使した箇所を抜粋し、以前朱音が提供してくれた情報(イラスト)を元に作成したイリスのCGモデルと照らし合わせて解析を開始する。
「俺が見た限りでは、この触手に似た武器を使ったと見ているが……」
「弦十郎くんの勘は当たっているでしょうけど、問題はそれをどう不可視にしていたかよね~」
映像を一コマずつ補正をかけて画質を向上させて分析していた了子。
朱音からの報告書によれば、柳星張(イリス)は触手や鋭利な槍上の腕で突き刺した対象から血液含めた体液を吸い取るだけでなく、遺伝情報を読み取ってその相手が持つ能力をコピーできたと言う。
朱音もシンフォギアを通じてとは言え前世(ガメラ)の能力をほぼ受け継いでいるとすれば、比良坂姉妹も同様と踏まえられた。
「もしイリスのコピー能力が聖遺物にまで及ぶのなら……この透明化の術は《神獣鏡》の模倣で間違いないわね」
さらに模倣できる対象が生物に留まらず聖遺物にまで範囲が広がっている可能性を考慮した上で了子はエルフナインからの情報で《武装組織フィーネ》が《F.I.S》より奪取した聖遺物の一つの名を口にする。
「しかし……長野の皆神山の出土品が、なぜ《F.I.S》に……」
「その件で、衝撃の事実を打ち明けてもいいかしら?」
「なんだと……?」
了子の苦々しい面持ちと。昔皆神山の発掘作業に参加していたチームを襲った悲劇を思い返した弦十郎は彼女の言わんとしていることを察し、戦慄でこめかみに冷や汗が流れた。
「まさか奏くんのご家族らを襲ったノイズは……」
「そ……〝わたしたち〟が《バビロニアの宝物庫》から放り出したものよ、《神獣鏡》を手にする為にね」
発掘チームには考古学者だった天羽奏の両親もおり、彼女本人と妹も付き添いで来ていた。遺跡内にて突如出現した特異災害から生き延びたのは……天羽奏ただ一人、生き残った彼女がその後どんな運命を辿ったかは、ご周知のとおり。
「我ながらとご先祖様ながら、白々しいわよね………奏ちゃんが呪詛(バラル)を解く為に集めていた聖遺物欲しさに殺した人々の遺族だってことを分かってた上で、シンフォギア装者に仕立てる実験体として利用していたんですもの……その命が散るまで」
トレードマークの眼鏡を外した了子は、その場で額に手を置いて俯く。
「了子くん……」
今の櫻井了子には心身ともに乗っ取っていたフィーネの魂は微塵も残っていない、それでもその間に〝自分ら〟が起こした凶行の記憶で心痛める彼女の肩に、弦十郎はそっと肩を置いた。
〝表向き〟では廃ビルとなっているある建築物の屋上に《テレポートジェム》の方陣が出現し、朱音たちが転移してきた。
朱音は抱え持っていた調と切歌の様子を見ると、転移中の酔いのショックで気を失ってしまったらしく、未だ帯(ビュート)に縛られたまま眠りこけて、掛けられていた眼鏡がずりっと落ちた。
そっと二人を屋上スチールを背もたれに下ろして座らせた朱音は、手をパンパンと払い。
「さて、これでやっと〝腹を割って話せる〟な、比良坂真矢」
「そうね、余計な面倒をかけてすまなかったわ」
「相変わらず今のお前はそういうとこ律儀だな……」
怪獣だった前世の頃より殺し合う宿敵―――と言う両者の出自を踏まえると、朱音の今の態度は少々フランク気味だった。
「あんたまさか、思い出したの?」
「まだ神隠しの間のこと全部ではないよ、ただ、一度は雌雄を決して……共闘していた頃もあったところまでは蘇ってきたさ、真矢」
と、朱音はイリス転生体の少女の片割れの名を改めて呼ぶのであった。
つづく。
朱音に馬乗りにされたいと思った人、怒らないから正直に手を挙げなさい(オイ
エージェントへの捨て台詞はダーティハリー(71年)のS&W M29を一躍有名にしたあの名台詞よりです。
なんてのはさておき、今回のきりしらの展開、自分でも書いててさすがに無防備過ぎでは?と思って見返してたけど……美味いもん食べたさに学際回ってたり、おさんどん担当としてスーパーの買い出しに行ってるとこだったり、アメリカ側が思いっきり治外法権で追っているし、隠れ家を見つけたら完全武装で襲撃してた等(これも風鳴のジジイ激おこ案件)を踏まえると……きみらもう少し緊張感と言うものを持てとツッコミたくなりました。