GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL   作:フォレス・ノースウッド

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今作では『二人』いる人間に転生したイリス。

片っぽの真矢はアウスさんの『戦姫と勇者の二重奏』とのコラボで出てきた方で、彩矢は私がイメージするイリスの転生キャラです。

違いを分かりやすく表現するならFate時空のイシュタルですね。

真矢が凛を依代にしたイシュタ凛なら、彩矢はFake世界線でフィリア(アインツベルンのホムンクルス)に憑依した方の彼女。

ちなみに今回朱音が使った英語の一つの元ネタはスターウォーズ屈指の煽りスキルの持ち主なマスター・オビ=ワンから。


#13 - 元神たちの戯れと黄昏

「まだ神隠しの間のこと全部ではないよ、ただ、一度は雌雄を決して……共闘していた頃もあったところまでは蘇ってきたさ、真矢」

 

 超古代文明の落とし子同士、殺し合う宿命を背負いあっていた前世の頃から変わらない翡翠色の澄んだ瞳を私、いや〝私たち〟に向ける……草凪朱音。

 確かにその眼差しは、一応前世の宿命を超えて〝共闘〟する間柄になった頃の時を思い出させるものなんだけど、朱音(こいつ)って自分の真意を悟らせず飄々と振る舞うのが上手い奴でもあるので、鵜呑みするのは油断禁物。

 下手に出ればこっちの弱味を握られては溜まったもんじゃないと、朱音(ガメラ)の翡翠の目を逸らして周囲の景色を見て……私はようやくこいつが転移先に選んだ場所がどこか気がついた。

 建物と自分の視覚から目と鼻の先に太平洋の海原が見え、反対側に向けば、《私立リディアン音楽院高等科》の現校舎が佇んでいる………と言うことはここはかつて《浜崎病院》と呼ばれた廃屋の頂き。

 ウェルの奴が二課をおびき寄せる為の狩場として選んでいた建築物、あいつの計算じゃ今日にはあっちの諜報部(エージェント)が蒔いておいた情報(えさ)に辿り着くと豪語してたけど……。

 

「あんたまさか、ここがなんなのか分かってて―――ええっ!?」

 

 朱音に向き直した私は、自分の目を疑って思わず目を擦って見返す。

 

「な、なななんじゃっ……なにやってんのよ!?」

「なにって翼の《逆羅刹》ごっこだけど」

 

 なぜか朱音(こいつ)、いつの間にか屋上のフェンスの上で逆立ちしている上に、その場でくるくると前世(ガメラ)よろしくブレイクダンスし出す始末。

 そう言えば〝昭和の先輩〟も映画劇中でこんな鉄棒曲芸を見せてたっけ……。

 

「あ~確かに風鳴翼(あのひと)の技にそんなのがあったわね―――って違うわよ!」

「あ、ナイスノリツッコミ」

 

 逆立ったまま、明らか語尾にネットスラングの定番なW(草)を生やして返答してくる朱音にしてやられた感はあるけど、いちいち悔しがってる場合じゃない。

 

「アンタここがどこだか――」

「Yeah(ああ)、分かってるよ」

 

 昔自分から〝アメリカ暮らしが長かった〟と豪語してた帰国子女でもある朱音は、その頃と変わらぬ時々英語が混じる言い回しを披露して、逆立ちしているフェンスに両足を接地させて立ち直した。

 廃屋になってから長年経ってる上に円柱タイプのフェンスなんて不安定極まる足場でも、曲芸師顔負けのバランス感覚と体感で震えも乱れも一切見せずに立ったまま、朱音は涼しい顔でその場にしゃがみ込んだ。

 朱音の翡翠の目と、私たちの血の色染みた深紅の目、こうして〝人間〟になってからも互いの瞳(めせん)を合わせるのは何度目になるか。

 

「ここが〝特機部二ホイホイの蟻地獄〟だってことぐらいはね、発案者は生化学の権威でもあるドクター・ウェル辺りだとして~~大方院内にノイズの反応をちらつかせて入ってきた装者たちに適合率を下げる効果のある薬……さしずめ《Anti LiNKER》をガスで撒いて弱らせたところを腹を空かせたネフィリムがいただきま~す――する手筈ってところかな? あとそっちの装者の中でお前以外の誰か、それともお前除く全員が《LiNKER》持ちの《第二種》と踏んでるんだけど、どうだ?」

「どうかしらね、推理ごっこをまともに付き合う気はこっちに無いから」 

 

 驚異の体感でフェンスにしゃがんだまま、頬杖を付いて少し首を傾げて挑発的に微笑む朱音の口から発せられる推察を素っ気なく払うも……内心私は焦りの冷や汗が流れていて、できることならその場で頭を抱えて蹲りたかった………なけなしの意地でどうにかポーカーフェイスに徹しているけど。

 相変わらずの名探偵振りと言うべきか……朱音が〝今回〟披露した推理もまた、満点に大当たりだった。

 

「お、やっとこさか」

 

 ウェルの奴の他人(ひと)をイラつかせる慇懃無礼な顔が頭に浮かんでいる間に、朱音はフェンスから降りて、《テレポートジェム》の転移によるいわゆる〝乗り物酔い〟で気を失っていた調と切歌の前にしゃがみ込んで、二人の表情(かお)を眺めている。

 いわば〝転移酔い〟で青ざめていた二人の顔つきは大分血の気が戻りつつあると思っていたら、閉じている瞼がぴくぴくと動き出して、ゆっくりと瞳が開き出す。

 

「Hello,there(やあどうも)~」

 

 片手を挙げてニコやかに、おそらくこれもこいつとあの人外司令の趣味な〝映画〟の台詞が元ネタであろう英語による挨拶を朱音が送ったと同時に、二人の意識が完全に目覚めた瞬間――。

 

「はっ!」

「デースっ!?」

 

 脱兎の如く――その格言に相応しい勢いで朱音から離れて私の背後へと回り込んで隠れた。

 まあ無理もないわね……敵対する間柄であるし、しかも米国政府の横槍が無かったらあのまま二課に連行されてたに違いないし。

 そんな相手がいきなり目の前に現れてフレンドリーに挨拶してきたら、こうして警戒心剥き出しに睨みつけるに決まってるわよ。

 

「怖がり過ぎだよ、君らが盾にしてる〝人食いギャオス変異体〟の方がおっかないと思うんだけど」

「誰が人食いギャオスッ!―――なのは事実なのよね………」

 

 飄々とした調子を崩さない朱音からの球(ことば)を咄嗟に打ち返しかけたが、朱音(ガメラ)の言葉通り自分は〝人食い〟の習性持ちな怪獣だったのは、ぐうの音も出ないし反論の余地も無いし耳に痛く刺さる本当のことであることと、ここで突っ込み返したら相手(こいつ)の思うつぼな気もして、自嘲と悔しさがない交ぜになって両手で頭を抱えて私は項垂れた。

 

「そんなことないデス!真矢ちゃんは調とタメ張れるくらい料理も美味しいし!面倒見の良い友達思いの優しい子デース!」

「そ、そう!私と切ちゃんはそんな真矢ちゃんとも〝ズッ友〟を誓い合った仲!〝柳星張〟の頃しか知らない貴方に何が分かるの!?」

 

 もう何度目かも分からない前世(イリス)の〝悪行三昧〟の記憶に対し、皮肉にも人に転生して育まれた良心が疼いて悲鳴を上げる中、調と切歌の言葉が五臓六腑にしみ込んでいく、冬に差し掛かってる少し肌寒い外気とのギャップも相まって、とてもありがたい温かみを感じる一方………欲を言えば自分の前に立って庇うくらいの勇気は見せてほしいのも否めない………いくらさっきの不意打ちから返り討ちにされたと言ってもね、私の背中にしがみついたままじゃイマイチ締まらないわよ。

 

「それに!どうして私たちを助けたの!?」

「ソーデスソーデス!私たちは敵同士デスよ!むじゅんなのデ~ス!」

 

 相変わらず私の背後から離れずにいないまま、されど二人はごもっともでもある朱音の先の行動に言及する。切歌が口にした〝矛盾〟のイントネーションがなんか訛っているのは気になるけど………気にしてる場合じゃないので疑念はしまい込むとして。

 確かにあの米国の特殊部隊は《特機部二》を詰りはしたが、目的(ねらい)は一緒ではあるので、取引に応じて自分らの身柄をあちらに渡す手もあった。

 でも私はわざわざ問うまでもなく………知っている。

 

「連中のやり口が気に入らなかったのもほんの少しあるけど、一番の理由はそうだな――〝助けたいから助けた〟」

 

 ほら思った通り、朱音――ガメラは前世からこういうヤツだ。

 助けを求める悲鳴が響いた時、たとえ自分自身に憎悪を抱き殺めようとした相手であっても、その声に応じて命がけで助けようとする………かつての私(イリス)に絶望を突き付けられたまま生体融合される運命に落ちかけた綾奈の時もそうだった。

 理屈を超えた音色(おもい)の炎をその胸の奥に宿して、災いに脅かされる命を助ける………草凪朱音と言う人間に生まれ変わっても揺らがぬ気質。

 

「「…………」」

 

 ―――だと分かっている私と違い、二人は朱音の返答の意図と真偽を測りかねて困惑の沈黙の中。

 

〝~~~♪〟

 

 空っ風の音色を上書きする音量で、二人分の腹の中の虫の鳴き声が綺麗にシンクロする形で宙に轟き、私は指先を額に当ててやれやれと首を振って溜息した。

 誰の腹から出たのかは、恥ずかしさで顔が赤くなっていく当の本人たちへの気遣いとして、敢えてはっきりさせないでおくわ。

 そう言えばあっちの世界でも、似たようなシチュエーションがあったわね………と思い返していると、朱音はスマホを取り出して何やら画面をタップし始めた。

 二課に連絡諸々するなら腕に着いてる専用端末(スマートウォッチ)を使う筈だけど、なんか調べてるのかしら?

 

「うん、予約取れた」

「なにがよ?」

「レンタルキッチン」

 

 なるほど、朱音のその一言で何をする気なのか大体把握できたに対し、調と切歌の頭周辺には疑問符が漂っている。

 

「私は基本〝お腹を空かせている相手にはこちから仕掛けない〟主義でね、真矢はともかく、そこの二人は空腹でお困りの様だから、一戦交える前に腹ごしらえでもしようと思ってさ」

 

 これまた朱音らしい一面(ひとがら)だ、こう空腹に苛まれている相手には惜しみなく磨き上げた調理スキルを披露するとこ。

 

「それ知ってるデス~~〝敵に塩を送る〟デース!」

「バカにして……私たちを甘くっ――真矢ちゃん!?」

 

 どちらかと言えば第一印象は感情表現が控えめそうな一方、結構激情家な一面もある調が思わずギアを手に私の背後から飛び出しそうになったのを、私は自分の腕で制止した。

 

「待つのよ、朱音(こいつ)が今なんて言ったがよ~く考えてみて……〝こちらからは仕掛けない〟ってことは―――」

「Right(その通り)――私からは先手は撃たないけど、そっちがその気ならそれなりに応戦するのでよろしく」

 

 だと思った……さっきの不意打ちでもまんまと返り討ちだったのに、ここでバカ正直に真正面から、しかも空腹と言うデバフかかった状態で朱音に喧嘩売ったら、今度こそ二人はお縄を頂戴されてしまっただろう。

 ほんと煮ても焼いても喰えない亀(ガメラ)よ………自分らの前世の地球(せかい)では亀は恐竜時代に絶滅したから、実際は亀によく似た特徴(みため)を持ってる別のナニカなんだけど、そこは置いといて。

 

〝~~~♪〟

 

 ダメ押しとばかり、調と切歌のお腹の虫がまた鳴き声を響かせてきた。

 緊張感を削いでくるこの響きを何度耳にしていると、とても戦う気分になれそうにないわね……その二人当人たちも空腹でまともに戦闘できる状態じゃないし。

 

「さて、月読調と暁切歌、君たちには今選択肢が二つある――」

 

 朱音は不敵に微笑み、片手をツーピースにして提示する。

 

「ハラペコのまま私に喧嘩を売るか、腹ごしらえをした上で改めて決闘と言う形で戦うか―――Well,What should we do(さあ~どうする)?」

 

 洋画でよくありそうな言い回しで朱音が調と切歌に選択肢を突き付けたタイミングで、二人の腹の虫がまたしても緊張感のない鳴き声を轟かせてくる………これはもう〝決まり〟かしらね。

 

 

 

 

 

 

 

『司令、どうします?』

「ひとまずはしばし朱音君の采配に任せるとして………監視の方は続けてくれ、くれぐれも気取られるなよ、特に〝比良坂姉妹〟にはな」

『了解しました』

 

 今二課の司令室におじゃましてるアタシは、司令(おっさん)とその筋では有名らしい忍者の末裔の端くれでもある緒川さんら二課エージェントたちとの通信含めた、ここ数分の状況を拝んでいたアタシは――。

 

「いいのか?そのまま朱音に任せちまってよ」

 

 一応って感じで、朱音の独断ってやつにフォローする形な司令(おっさん)の方針に苦言のボールを投げた。

 おっさんが監視を命じたエージェント兼防人先輩のマネージャーな緒川慎次(あのひと)がマジモンの忍者の末裔だったことはアタシも知ってるし、何度も自分らの特訓に付き合ってもらっているので、おっさんと別ベクトルの〝デタラメ〟さも当に思い知らされ済みだ。

 朱音の前世からの宿敵(イリス)どもはともかく、後の二人の装者の身柄確保なら、余裕で無傷で達成しちまうだろうさ。

 

「クリスくんも、朱音くんが何も考えずに事を起こすタイプではないと、知っているだろう?」

「そいつはアタシも分かってるけどさ……」

 

 おっさんの言う通り、朱音はバカ響辺りみたいに考えなしの感情任せでアクションを起こしたりしない、行動に移す時はその前に脳細胞を必ず思慮深く働かせてる方、ただその頭(おつむ)の回転が速過ぎわ、行動に移すまでのタイムラグが短すぎるわで、傍からはそうは見えないっておつりが付いてくるけどな。

 

「それに、朱音くんがこう言う気質だからこそ君も救われた性質ではあるだろう?」

「まあ~~それもそだけどさ」

 

 照れ臭くなって頭を掻きながらおっさんからそっぽを向くも、ほっぺに熱が籠るのと裏腹にアタシの口は否定はしなかった。

 朱音は喩え敵対してる相手でも腹が減って困ってる相手には自分からは戦闘をしかけない(ただし飢餓に抗ってまで牙を向けてくるなら相応に対処はする)し、その時は持前の調理スキルを存分に使って料理(うまいもん)を振る舞う。

 自分も朱音のそんな性分の一つに助けられた一人だし、今はすっかりアタシの腹の虫はあいつの料理のファンになっちまってるし、自分自身そのこと込みで朱音にだけでも色々恩義があるのはまごうこと無き事実だった。

 朱音がいてくれなかったら、《ルナアタック》が終わって二課の一員になってからそろそろ半年に差し掛かっている今でさえ、まだまだ周囲と距離を取っていただろう。

 ただまあ……それでもかつてフィーネに乗っ取られていた櫻井了子(あのひと)となると、上手い距離感がまだ測りかねていて、バカ響の定期検査の準備で司令室を入れ違いになったのをありがたいと思ってしまう実状もまた事実だった。

 

「そういやバカ響の奴はまだ来てねえのか?」

 

 ほっぺの熱が収まってきたのに合わせてそれっぽく、バカ響の現状を聞いてみる。

 

「端末のGPSでは、まだ喫茶店の中だ、待ち合わせ相手が大層遅刻しているらしい……」

「っ………」

 

〝お父さん……〟

〝響……〟

 

 その相手とやらを聞こうとして、傍から見ても気分が良いもんじゃない家族模様が咄嗟に思い返されたアタシは………やっぱやめとくことにして口をつぐんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 前言通り、予約したレンタルキッチンで料理を作るつもりだがその前にスーパーで食材調達を目的に市街地を歩く私は、約一〇メートルほど後方で間隔を開けてついて来ている真矢たちの様子を歩を進めたまま窺う。

 何やらザババコンビの二人に口酸っぱく、かつ私の耳に聞き取れない様に小声かつ唇も読まれまいと背を向けた状態で忠告していた真矢は、やけに長めの溜息こっちに走り寄って私と隣の位置で歩き直す。 

 

「彩矢も今は大人しくしてて!」

 

 どうやら脳内で肉体の主導権交代を主張してるらしい彩矢に対して声を荒げ、これまた長めの溜息が再び真矢の口から零れ落ちた。

《レセプターチルドレン》は血縁が無くても実の家族同然にナスターシャ教授の庇護下で育った仲なので、同じ柳星張転生体な彩矢は言うに及ばず、私が真矢たちに何かしないか警戒の眼差しを送りつつも空きっ腹を無意識にさすってる背後の二人とも姉妹な仲だと改めて伺える。

 

「大変そうだね、〝姉妹たち〟の面倒は」

「感情の籠ってない声で労ってもらっても嬉しくないわよ……」

 

 あ~確かに我ながら至極どうでも良さそうな棒読みだったなとは思うも、まあいいか……前世の鬼畜外道から打って変わって〝苦労人属性〟が付いたかつての宿敵を拝めるのは、中々目の保養になって愉悦である。

 

「ちょっと今度はそのニヤケ顔なにぃ?」

「いやなに~そっちの仲睦まじさが微笑ましいと思ってただけさ」

 

 多分元から常人より良い視力もさらに、大体0.5くらい良くなってる気がする。

 

「その割には目つきに邪さがあった気がするんだけど……」

「気のせいじゃないか、あったとしても前世のお前よりマシだろう?」

「うぐっ……」

 

 こっちは嘘は言ってないのに、猜疑心がお強い元邪神様だこと。

 

「だから五月蠅い!」

 

 どうやら彩矢の方からも茶化されたらしく、顔の熱気を上げてツンデレ濃度たっぷり気味に悪態をついた。

 比良坂彩矢………一人の少女の肉体に二つ宿った柳星張(イリス)転生体のもう片割れ。

 そっちの手がかりに関しては、脳裏に浮かんだ一枚(ビジョン)から全く進展が無い。

 

 宿敵だった筈の守護神(ガメラ)と邪神(イリス)が、宇宙から再び地球に襲来した〝侵略する生態系〟相手に共闘する――あのビジョン。

 

 未だにあれが唯一にして最大の、かつ断片として小さすぎるし少なすぎる取っ掛かりである。

 当の本人たちが目の前にいるのだから、直接ネタバレ訪ねてみる……と言う手もあるが、その手を使うのは私の自分でもしょうもないと自負する意地でする気になれなかった。

 反対に真矢の方に関係する記憶はほぼ解放されたと見ていい。

 自分が現状思い出せた〝神隠し〟の間の記憶では、紆余曲折を経て共にあちらの世界の危機に立ち向かう様になって以降、犬猿の仲も何とやら感じで口喧嘩で罵倒し合う癖に――。

 

〝よそ見は禁物だぞ!〟

〝そっくりそのまま返すわよ!〟

 

 いざ戦闘になると、我らながら絶妙な連携を披露する好敵手な関係に至っていた。

 多分〝神隠し〟以前の自分が柳星張(イリス)とつるむ様を目にしていたら大層ドン引きしていただろうけど、今の自分がそこまで悪い気がしないのは転生体の片割れな比良坂真矢を、あんな前世からここまで更生せしめた〝友達〟らの賜物だろうなと、翡翠の腕輪をそっと優しく撫で上げる。

 

「それ……」

「私がこの腕輪を貰った経緯は真矢も知ってるんじゃないか?」

「ええ、その頃は敵対してたから、後々話を聞いたぐらいだけど、今の仕草ってよくやってるの?」

「Yeah(ああ)、これをプレゼントしてくれた人たちの幸を願ってね」

 

 このままの勢いで、この腕輪をプレゼントしてくれた神隠し中の自分と交流があったその人たちのことも思い出せたらな……と欲張りそうになるが、どうやらまだその時ではないとばかり、厳重に封印(プロテクト)がかかったままだった。

 まあ思い出せた記憶の断片は少しずつ増えてはいるのも確かだから、焦らない様にと自分に言い聞かせるのを兼ねて、腕輪(ひすい)を撫で直す。

 

「アンタらしいわね」

「皮肉か?」

「半分は、って奴よ」

「そいつはどうも」

 

 ならもう半分は、ありがたく受け取っておくことにして。

 

「ところで朱音、調と切歌のお腹の虫を満足させる料理をどうするか考えているんでしょうね?」

「当然だ、ぬかりはない」

 

 今もこうして私と真矢に着いて来てるあの二人へ、いかに満腹感を提供するか、大体のアイディアは固まっている。

 

「切歌は肉はガッツリ好みだが野菜は苦手だろうし、真矢と並んでおさんどん担当の調は自分が料理するならともかく、食べる方となると切歌と逆に野菜はよく食べるがお肉は好き好んで食べる方ではないと見た、となるとガッツリかつヘルシーな―――」

 

 この自分の推理を踏まえた上でメニューを述べようとした私が見たのは、歩きながら大きく項垂れてどんよりとしたオーラを発する真矢だった。

 

「お~い、What's Up Doc(どったのせんせー)?」

「もうほんとみんながみんな食生活偏り過ぎなのばかりで……もうバランス悪いったらありゃしないのよぉぉぉぉッーーーー!!」

 

 メランコリックに沈み気味な様子から一転して、天に向かって仰ぐ様な叫びを上げる真矢、仮にも怪獣だった前世よりも、ある意味で怪獣らしい咆哮だった。

 背後を見ると、私への警戒心と背に腹は代えられぬ空腹の狭間で葛藤して険しく睨んでいたザババコンビは、申し訳なさそうに粛々と頭を下げている。

 どうやら当人たちなりに、自覚も罪悪感も持っているらしい。

 

「へ~~どれだけ君の周りは偏重してるのかな?」

 

 真矢の料理の腕前の高さをこの舌で直に味わった記憶も思い出せている身としては、そんな彼女でさえここまで悪戦苦闘させる周囲の食生活が俄然気になった。

 

「あんたの名推理通り切歌は肉好きだけど野菜は食べたがらないし!調も自分が食べる時は野菜ばかりで全然肉は食べてくれないし!マムに比べたらまだマシなのよ!!」

 

 マム――プロフェッサー・ナスターシャのことか。

 

「ああ見えてマムもお肉好物と言うかお肉ばっかしか食べないし!調味料は適量ナニソレオイシイノ?レベルでドバ~~と使うし!!想像できる!?醤油の一升瓶の中身がものの数分で人の腹の中へと消えてく様をッ!糖質も塩分も過多ッ!」

 

 それは……ある意味で壮絶にホラーな光景だった。

 前に度を越したドカ食いのリビドーに取りつかれたOLの暴食生活を描いたグルメコメディの皮を被ったホラー漫画を読んだことがあるんだけど、その時と全く同質の悪寒(リアクション)が背筋にゾ~と走ってきた。

 

「ウェルもウェルでお菓子ばっかな癖にクレームだけはちくちくねちねち一丁前だし!」

 

 正直痩せっぱちな身体だな~と取り押さえた時に思わずにはいられなかったけど、それで仮にも〝英雄〟を目指しているとか……フッ、笑わせる。

 

「彩矢は手伝ってくれないのか?」

「はっきり言ってね……彩矢に料理のセンスはからからのからっきしよ!」

「卵焼きをひっくり返そうとしたら壁にストラ~イクとか?」

「そんなの序の口!」

 

 真矢からのの証言が正しければ――。

 

 ミートボールをレンジで温めるのに十分以上かける。

 二合分のお米からおにぎりを作ろうとしたら、なぜか米の量が指先ちょっとぐらいまでに減ってしかも焦げ焦げ。

 ウインナーを焼こうとしたら……フライパンから火柱が建った。

 

 ――こっちの予想より百倍以上激やばな死屍累々の光景ができていたと想像がついた、これでは〝おさんどん〟担当の戦力には端から数えられないだろう。

 翼とどっこいどっこいのポンコツメシマズスキルだこと……。

 

 

「こっちの苦労を汲んで毎回ありがたく味わってくれるのはマリアぐらいなのよッ!!」

「ふ~ん、ほんとに献立に苦労してるんだな~~」

「だから感情の籠ってない声で労っても嬉しくないってのッ!」

「Oops(おっと)……こりゃ失敬」

 

 いけないいけない、笑いのツボに来る真矢のツッコミスキルを見たいが余り故意にボケてしまった。

 ここまで日頃の鬱憤を叫んでたのではそれだけカロリーも消耗して真矢たちのお腹も減りかけそうなので……。

 

「なら苦心の日々を踏まえて、今回は真矢の分も込みで私一人で腕によりをかけるとするのも手だが、どうかな?」

「あんたに貸しを作るのは癪だけど………今日はありがたくご厚意は受け取っておくわ、彩矢もその提案に大歓迎と言ってるし」

 

 よし、そうと決まったところで、そろそろ予約先のレンタルキッチンから最寄りのスーパーに着く頃だけど……と、脳内に記憶しておいた地図と周りの風景を照らし合わせていると。

 

「っ………」

「どうしたのよ急に息を呑んで黙り込んで―――ってあれ響と、あいつって……」

 

 私たちの目線の先は、市内のとなる喫茶店の窓際の席、その一角に………立花家の父子が、遠間から見ても穏やかからは全く程遠く、仄暗さが過ぎる陰湿が空気が発せられており。

 

「――――」

 

 響の実父であることに変わりがない彼の唇を読んで汲み取った言葉を脳裏で流れた瞬間、自分の逆鱗が触れられたのを私は自覚した。

 

つづく。 

 




スピンオフの調めしでの描写含めて、マムの偏食具合は大分深刻で軽くホラーの域ですよね(コラ
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