GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL   作:フォレス・ノースウッド

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最新話です、きつかった……やっぱりOTONのク〇親ムーブ書くのきつかったです。

どうしても私自身も朱音もこのムーブに割って入って物申さないと気が済まないレベルでした。

うちのイリス転生体比良坂彩矢のイメージCVの上田麗奈(うえしゃま)の関西弁ボイスを脳内再生して気を紛らわさないとやっていられなかったです。


#14 - 隔たり

 リディアン現校舎からも、二課所属装者をおびき寄せる罠になる筈だった浜崎病院からもさほど離れていない一角のビルの一階と二階にて経営されている喫茶店。

 店内の窓際の四人席の一つからは、晴天に恵まれた休日に似つかわしくない重々しさと湿度が発せられていた。

 片側に腰掛けているのは響、親友の未来からは〝太陽〟と称される程、友人たちには屈託とは無縁そうに見える普段の快活さは完全に鳴りを潜めてしまい、双眸は曇り切って影が深く差し込んでいる。

 

「ちょっと前、ノイズが頻繁に出てた時期があっただろ?」

 

 そんな娘から発する沈黙(うったえ)などまるで歯牙にもかけない有様で、向かいに座ってこの喫茶店のメニューの一つなサンドイッチのセットを頬張っているのは、二年前に蒸発して以来それっきりだった実父の守崎洸。

 

「その頃に流れたニュースの映像に映ってた女の子が響によく似ててな、それ以来お前のことが気になってたんだが……まさかあんなばったり会えるとは父さん思いもしなかったよ」

「それで……〝話〟って……」

 

 俯く響の、テーブルの盤上で隠された膝の上の握り拳が強まった。

 咀嚼音が混じった父親面をする相手の声がどうしようもなく鳥肌を齎すのは気のせいだと一蹴することもできず、響は胸の奥が詰まった様な感覚にも見舞われる中――。

 

「もう一度……やり直すことはできないかな~~と」

「やり……直す?」

 

 余りに軽薄さが匂い過ぎる相手の発したこの言葉に、響は自分の耳を疑ってしまい、一瞬金縛りにでも遭ったかの如くの感覚に襲われた中、オウム返しをした。

 

「いや~勝手なのは父さんだって分かってる……でもあの環境でやっていくなんて……俺にはとても耐えられなかったんだ……でも今なら、またみんなで一緒に――」

「無理だよ……そんなの……」

 

 今の響の脳裏には、仮にも実の父親が〝耐えられなかった〟と逃げた凄惨な環境の渦中で、残された母と祖母とともにずっと耐え忍んできた日々が、否が応でも勝手に再生されてしまう。

 

「一番一緒にいてほしい時に、勝手にいなくなったのは……お父さんの方でしょ?」

 

 それこそはっきり言えば彼の態度と言葉は〝なにをいまさら〟と表する以外に他ならず、膝の上の両手の震えが止まらずにいる響の双眸(ひとみ)は、相手の姿を直視することを拒絶してしまう。

 もし今自身の目が捉えてしまったら、記憶(おもいで)の中の〝お父さん〟の姿が塗り潰されてしまいそうな恐れに響は苛まれていた。

 

「あはは~そっか~~やっぱりダメか……なんとかなると思ったんだけどな……あれから結構時間が経っているし」

 

 もうこの場の空気に耐えるだけの我慢の限界が来ていた響は、返す言葉も無くその場から立ち去ろうとするが――。

 

「待ってくれ響!」

 

 自分の名を発して呼び止める〝父親〟の声に一度立ち止まって、振り返った先に響が目の当たりにしたのは……。

 

「実は、持ち合わせが心もとなくてな……」

 

 自分で注文した喫茶店の料理の代金が載ったレシートをぶら下げて、実の娘の響にたかろうとする情けないにも程があり過ぎる〝父〟の醜態だった。

 

「っ!」

 

 ここまで響の心を土足で踏み荒らすこの男の狼藉三昧を前に、我を忘れそうになりかけた響の―――腕を手に取って引き留めて我に返らせたのは。

 

「朱音ちゃん……」

「ちょっと待ってて、君が手を煩わせはしないから」

 

 朱音は響が座っていた座席に腰掛け、テーブルの端に置かれているアンケート用紙の一枚とペンを手に取り、紙面に何かを書き出す。

 突然来訪してきた級友兼戦友の意図が分からず響は立ちすくみ、洸の方も同様な気持ちらしく頭の横に疑問符を浮かばせている中、朱音は用紙をすっーと机上で押して頭を下げる。

 

〝今から私が響の姉の振りをした上で行うことを、まず先にお詫びを申し上げます〟

 

 響が紙面に書かれていた内容を心中読み終えた刹那――。

 

「今さらどの面下げて響にたかってんだ穀潰親父(ごくつぶおやじ)ッ!」

 

 一転して朱音はその場から電光石火の勢いと速さで洸の胸倉を鷲掴んで立ち上がり、その翡翠の瞳が発する眼光で睨みつけ、歌唱で鍛え上げた喉からともすれば戦闘時以上にドスを利かせた声音で糾弾し始めた。

 

「いいか! あんたが今せびった仮にも我が子な響はな! 家族がバラバラになったのは自分の一生懸命のせいだって……自分を罰しながら過ごしてきたんだぞ!今でもずっとなッ!」

 

 胸倉の布地から洸の下顎に掴み直した朱音の左腕は、片手だけで痩躯でも成人男性な相手の足を浮かす程に軽々と持ち上げ、右の握り拳を振り上げる。

 

「なのに何がまた一緒だ!?時間経ってるからだ!? 易々とほざきやがって!だったら響たちがずっと耐えて耐えて耐え続けてきた分をこの拳で味あわせてやろうか!ええッ! 〝なんとかなる〟なんてヘリウムより軽い口叩くんなら、一発ぐらいは泣き言吠えずに耐えきって見せろ穀盗人(ごくぬすと)ッ!」

 

 当然ながら、周囲のお客たちも店員たちも、そして響も込みで、店内で突如発生した修羅場を前に虚をつかれている。

 人並み以上の鋭利な美貌を持つ朱音から発する怒れる威圧さを前に、呼吸が止まりかけそうになるほど息を呑んで我が目を疑って衝撃を受けるがまま圧倒されていた。

 これだけ怒号が飛んでいるのも拘らず、机上に置かれているお水と守崎洸が注文した飲食物への被害は全く及んでいない。

 

「っ……」

 

 響も例外ではなく、先程まで彼女の心中で渦巻いていた父への愛憎が複雑怪奇に絡まり合っていた激情の熱が、一気に冷え切り、前もって自分たちにメモで謝意を示した上で肉親の振りをして憤怒を見せつける朱音からきつく問い詰められる父――の図を前に、発せる言葉が見つからずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 さすがにそろそろ矛の収め時か………。

 私から足も浮いて持ち上げられた状態で一連の罵倒の数々を受けられたことで、蒸発してからこの約二年ですっかり板に付いてしまった軽薄な薄笑い具合はすっかり鳴りを潜め、青ざめ切った顔から今にも恥も外聞もなく泣きわめきそうな表情でおののき、パニックになっている彼のやせ細った身体を、そっと客席(ソファー)に下ろし直し。

 

「せっかくの休日にお騒がせしてすみません、今のはどうぞ忘れて下さい」

 

 周囲の他のお客様と店員の皆様方にも深々とお辞儀して詫び入れ、私も腰掛けた私は守崎氏が注文した料理(サンドイッチセット)のレシートを手に。

 

「お代は私が払っておくから、響は外の空気を吸いながら心の整理をするといい」

「うん……じゃあお言葉に甘えて……」

 

 私からの提案を聞き入れた響は、父親の様子を何度も一瞥しながら店を後にし、その後ろ姿を見る私の口からはため息が零れた。

 今日響がこの前思わぬ再会をした父親と会う予定があったこと自体は、今朝がたに未来からのメールで存じてはいた。

 おそらく今日の立花親子の〝話し合い〟の場を取り持ったのも未来だろう。

 たまたまその場を見た当初の私は、深入りせずそのまま食材を調達してレンタルキッチンで真矢たちに料理を振る舞う気でいた………家族の極めてプライベートな問題へ無暗に踏み込むほど、野次馬根性は持っていないつもりだ。

 けど店の窓(ガラス)越しでも垣間見えてしまった事態を前に、とても傍観者として看過することもできなかったので、自分でも不躾だと重々承知で、他人の家庭の問題に割って入ったのである。

 理由は………まず守崎氏の風体(だらしなさ)。

 碌に手入れされていないボサボサな髪。

 無精ひげが生え放題の口周り。

 ちょっとコンビニへ軽く買い物する時と、なんら変わらないラフな服装。

 緊張で張りつめている娘の穏やかとは遠い複雑な心中などまるで眼中にない調子で、勝手に一人だけ注文して食事にありつく。

 何日も前からこうして対面する予定は組まれていた………筈だと言うのに、これだけでも久方ぶりに肉親と対面する場に相応しくない……はとっくに通り越して論外中の論外なのに、読心術で窺ったこの男の口から出た無神経極まる言葉の数々はなんだ?

 よく失言で他人の機嫌を損ねてしまう行為を〝地雷を踏む〟と呼び、それより上位……いやむしろ下位(ワースト)な表現を挙げるなら〝地雷原で踊る〟とはよく言うが、守崎氏が響の古傷が疼く心を何度も足蹴にした先の発言たちまで行くと……もはや〝地雷原に絨毯爆撃〟の域の戦犯行為だ。

 しかも信じがたいことに、挙句自分が頼んだ分の食費を高校生の娘にたかるなんて体たらく………実際持ち合わせが心もとない生活を送っているのは事実であること踏まえてもやはり〝穀潰し〟と揶揄する他ない。

 これらの娘に対する酷薄な所業の数々を見てしまった私は、自分でも不躾なのは承知の上で家族の振りをしてまで、この父親にきつめにヤキを入れる報復(アベンジ)を行ったわけ。さっきの怒号はほぼ演技だし、拳は振り上げても本気で殴る気は無かった、そんなことして一番傷つくのは他ならぬ響と、今宵の親子同士の会談をセットしてくれた未来だ。

 一方で守崎氏に発した怒り自体は本物である……響たちの心情を思う程彼の行為が許し難い代物なのも事実なので腹立たしく、もどかしい。

 

「あの……」

「なに?」

「い、いえ……」

 

 やっと放心(ショック)状態から我に返った守崎氏が、また人の神経を逆撫でさせる軽薄な笑みを見せてきて、不機嫌の濃度が増した私の眉間が彼を睨みつけて黙らせた。

 窓に写った自分を見れば、これはまた酷い顰面(しかめっつら)だったので、少しでも和らげようと両手で頬を軽くマッサージして解す……を挟みつつも、故意に足と腕を組みなおし。

 

「響にも言ったけど代金は私が払うから、ツケにもしなくていい、どうせ返すアテなんて無いんだし」

「その……」

「〝言い訳〟しか出ない今のアンタの口を聞く耳は無い」

 

 ――父に辛く当たる娘の振りをする演技は継続させる。

 皮肉を差し引いても、今の守崎氏の口から出る〝言霊(ことば)〟は彼自身を貶める呪詛となるものばかりだ……本人には申し訳ないが、これくらい一切の発言を認めぬ荒療治でも使わないと、地の底より奈落へ落ちるばかりの彼の尊厳をどうにか守る術が、今のところ他に見つからない。

 

「だからせめてそのサンドイッチは残さず食え、調理してくれた店員たちへの敬意は忘れずにな、気まずさで味がしないとか言われても知らん、とにかく自分が頼んだ分くらい食い切れ」

「はい……」

 

 先日対面した時に想像していた以上の守崎氏の落ちぶれ具合に、私は再度溜息を零しつつ、向こうが食べ終わるまでの間に気分を少し紛らわそうと窓の外の風景に目を移す。

 あらら………この窓越しに出羽亀していたと思われる調と切歌の二人と目があった瞬間、蛇に睨まれた蛙ばりの戦慄さを見せてきた、これは自分でも無理ないなと自覚してるので受け入れよう。

 問題は真矢……いや今表に出てる人格は彩矢の方か……あの私へ向けるキラキラと眩くもうっとりとした眼差し……あれにぴったりな言葉を選ぶとするなら――〝推し〟。

 どうやら柳星張の片割れな彩矢にとって私は〝推す〟対象らしい……もし彼女の正体があの記憶(ビジョン)の断片……〝レギオン相手に自分(ガメラ)と共闘する〟個体の転生体だとしたら、一応の理解はできるけど、かつての宿敵と同一個体……つまりギャオスどもの同族からそんな目を向けられ慣れてない私は、守崎氏以上に対応に困らせられる予感が過りつつも……店内の奥の席から一連の模様をこっそり見守っていた〝調整役〟のフォローの為、スマホで彼女宛のメールを私は打つ。

 

〝~~♪〟

 

 程なく店内の奥側からメールの着信音と、人間の背中が驚きでビクっとなった時の音が鳴り、座席に座り潜んでた未来がひょっこり顔を出してこっちにバツの悪そうな顔を見せてきた。

 はっきり言って完全にストーカー以外の何物でもない行為だったが、そうしてしまうのも無理はない事情も踏まえ、私は未来には笑顔で軽く手を振って応じた時……〝性根が腐り切った〟と表現するしかない下卑た目線を感じ取る。

 同時に勾玉が〝マナ〟の異変を嗅ぎ取り微熱を発した為、気のせいではないと分かった。

 未来と守崎氏に悟られぬ様に表向き〝ポーカーフェイス〟で、直感のまま周囲をそれとなく見渡すと――。

 

(ガリィか……)

 

 テーブル上のコップの中の氷に、ほんの一瞬だったが確かにオートスコアラーの一人で、

エルフナインの様な純真な子からもはっきり〝性根が腐ってる〟と表されたガリィ・トゥーマーンで間違いなかった。

 となると……奴の主人たるキャロル・マールス・ディーンハイムの差し金であるのもまた間違いないだろう。

 今の不可思議な現象も、先の勾玉の反応と《錬金術》の存在と現代社会からは〝魔法〟扱いされるであろうその技術を踏まえれば、ある程度は種と仕掛けを窺うことはできる。

 ただ分からないのは、キャロルの意図。

 外にいるナスターシャ教授が進める計画を狂わせてるのは事実な真矢たちを監視……ましてや私たち二課の動向を探る……と言うのも、なんだか違う気がするのだ。

 現状自分の勘ではぼんやりとした違和感しか読み取れないが………やはりキャロルは、単純に〝世界を救う為〟の慈善事業で《武装組織フィーネ》に支援しているわけではないのは、確かなようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ~~義憤を迸っている朱音はんも凛々とお美しゅうて素敵やわ~~……あ、あかん、一応今はしばらく大人しく引っ込んでるつもりやったのに、うっかり真矢を押しのけて表に出てしもうた。

 でもまあええか……今の入れ替わりはあくまで不可抗力によるもんで故意にやったわけやないし、さっきまで調と切歌を窘めるのに苦労してたんやし、うちの善意で休ませちゃろう―――としてるのに文句言わんといてくれる? 何が不満やねんと、胸(こころ)の奥からクレーム吹っ掛けてくる真矢のことはいっぺん無視することにしてと~~。

 それに~~念願の朱音はんの手料理を食することができるこのチャンス、五感で直に目一杯味あわへんと損やからな~~オホホ。

 

「彩矢ちゃん、どうしてそんなに嬉しそうなんデス?」

「二人こそなんでそんな真冬の八甲田山で迷子にでもなったような震え方しとんの?」

「天は私たちを見放した!――」

「――からなのデース!」

 

 一応二人の悪寒の理由は見当ついてる。

 朱音はんの――子どもが虐げられている――事態に対する憤りと言うガメラらしい至極全うな理由で迸る憤怒の迫力(すごみ)を目の当たりにして、傍観者の第三者の立場からでも圧倒されているからなのは、うちもよお分かっちょんやけど。

 

「正直……お腹一杯になっても勝てる気がしない……」

「デスデ~ス」

 

 あらま~~さっきまでは空腹でもやる気はあった戦意がすっかり喪失しとるわ~~ザババのユニゾンと絶唱機能を使えば十分勝機はある筈なんやけど………でも《シンフォギア・システム》同士の戦闘は結局〝胸の歌〟から迸る気合いが高いもん勝ちなとこあるから酷な話でもあるか、ケータリングで腹一杯でブーストかかったマリアでも防人はんとNINJAの迫力を前にして戦う前から〝無理よ、マム〟と折れかけてたそうやし。

 

「その割には食欲はてんで減っとらんね」

「しょ、しょうがないのデス! 腹が減っては戦にならないのデ~ス!」

「お腹と背中がくっついてる今じゃ、背に腹は変えられないんだもん、切ちゃんの言う通り仕方なく向こうの提案を受け入れてるだけだからっ!」

 

 そんでも二人の腹の虫さんは元気に鳴いとるまま朱音はんの手料理をたんまり味わう気は未だ満々で、圧倒的に勝る食欲から必死に言い繕う様は中々滑稽やね。

 うちもこの絶好の機会を逃す気は全然あらへんけど、こればかりは真矢からいくら元は自分の独断行為から端を発した事態である事実込みの文句を垂られても、譲る気はありまへん。

 

「えっ………君たちって……」

「おやこれはど~も立花響さん」

 

 おっと、朱音はんの先の憤怒(げきおこ)の理由な〝虐げられる子ども〟の当人はんが店から出てきて、うちらのこと気づいた目線を送ってきよったので。

 

「うちらのことはフナちゃん伝いに御存知と思いますが改めまして、うちはイリスこと柳星張転生体の比良坂彩矢どす~今色々あってうちらは朱音はんと休戦中なんでそこんとこよろしゅう~」

「こ、これはわざわざどうも……立花響です、さ、さや……」

「ちゃん付けでも構いまへんです~」

 

 響はんに深々とお辞儀をしての自己紹介に加え、向こうの好きな様に呼んでもオーケーなことを伝えておき。

 

「ちっちっち、敵対し合ってても礼儀あり――やで」

 

 うちの方針になにか言いたげで不服気味のザババコンビに、立てた人差し指を扇状に振って釘を刺しておいちょく。

 

「休戦って……朱音ちゃんとなにが?」

「だから詳しく話すと長くなるんで中略して〝色々〟ってことで今は休戦中~~からの朱音はんのご馳走を頂く予定だったんよ」

「それじゃ……ごめっ」

「ちょい待ち」

 

 経緯はどうあれ自分のせいで水を差したと思い詰めたらしくて、自分らにお詫びを発しそうになった響はんのお口をうちの人差し指で押し込んだ。

 

「これはこっちの事情、あんたが謝る道理なんてあらへんで」

 

 どうにも〝こっちの次元(せかいせん)〟の響はんってなんでもかんでも自分ごとかつ自分に非があると思い込みがちの内罰癖が過ぎがち――と、派手好きな性分にしては淡々と事務的に書かれてたレイアが調べ取り纏めてくれていた経歴書(レポート)を読んでた時点から匂うてたけど、案の定ってやつやな。

 喩えるなら……〝理想の人間像〟の敷居を高く設け過ぎて、オーバーヒート寸前なのに頑なに善人の真似事に固執してる人工知能はんと言うか……そんな〝生き方〟って人間との繋がりを断ち切ろうとしてた頃の前世の朱音(ガメラ)はん以上に、窮屈過ぎやない?

 ほんまもんの神様(ガメラ)ですら摩耗して迷走して危うくぽっきり折れてパンクする寸前にまで追い込まれる罠(ドツボ)に落ちてまうんやから、身体ん中に聖遺物(ガングニール)の欠片の欠片(シンフォギア)が入っとるの除けば結局一介の人間でしかないその身には、荷が重過ぎやと思うんやけど。

 ある意味、かつて真矢とルームシェアしてた方の――まだ分かりやすい荒み方と言うかやさぐれ具合をしてたあっちの響はん――よりも、遥かに闇が深そうやな……。

 

「ともかく響はんも一緒に朱音はんのご飯にありつかへん?今うちらの間にある因縁は一時でも忘れて~」

 

 ———とまで言って、うちは響はんの曇り顔から自分(うち)の発言の盲点にぶち当たってしもうたことに気がつき、冷や汗がこめかみに流れた。

 つまり一緒にご飯を食べ終えた後は争い合うってことやん……いくら場数を積んでも武器(アームドギア)を実体化できへんくらい心象風景(せんざいいしき)レベルで〝闘争〟を拒否してる上に、さっきの肉親との修羅場のダメージが抜けきってへん響はんにはえらく惨い話やった。

 

「なんなら………響はんのスタイルに合わせるのもうちはオーケーやで」

「私の……スタイルって?」

「そりゃもうあんたの流儀(スタイル)って言うたら〝話し合い〟やで」

 

 うちが勝手に話進めてまた不本意そうな視線を後ろから投げかけてくるザババコンビ以上に、響はんはどうにも釈然としない顔つきをこっちに訴えてきよる。

 

「私は別に……戦いたくて〝話し合おう〟ってわけじゃ……」

「悪いけど、そこばかりは〝見解の相違〟ってやつやね」

 

 こればかりはうちとしてはどうしても譲られへん〝領域〟になるんで、この際敢えてはっきりさせちょくことにした。

 

「〝話し合い〟で事を収めるってことは、どっちかか或いはどっちとも何かを〝諦めて〟やらへんと上手く片を付けられへんやない? せやからうちの見解(かんがえ)では〝話し合う〟のも〝戦い〟の一つやと思うんよ、暴力まで振るって流血沙汰にならんようお互い努力してる分、まだずぅ~とマシやけどな」

 

 これはあくまでうち個人は〝そう思ってる〟ってるのを強調した上で、響はんの〝対話(はなしあい)〟を重んずる姿勢にうちの持論を表明する。

 もっ~とはっきり言わせてもらうんなら〝言葉〟は響はんが思うてる……心象風景(こころのそこ)から信じた~い程の万能なツールでもあらへんで、妄信は禁物やよ、危ない危ない。

 この厄介さは現代まで現存してる世界中の言語の皆さんだけやない、超先史文明の古代人たちが使うていた《統一言語》も例外なく。

 

「気ぃつけへんとアカンで、人は言葉でも傷つけるし壊してまうし、最悪自分も相手も殺してまう諸刃の剣どころか――〝魔剣〟やで」

「――その考え方は私も大いに同意できるところではあるが……」

「朱音ちゃん? えっ……未来まで!?」

「あはは……」

 

 おっと、いつの間にやら朱音はんが響はんの幼馴染で、ちょっと気まずそうに笑うてる小日向未来はんを伴って、うちらの会話に割って入ってきた。

 例の響はんの親父さんは……今日は丁重にお引き取りを願ったようやね。

 

「余り私の〝友達〟を困らせないでもらえるかな? 比良坂彩矢……」

 

 腕を組みつつその麗しい翡翠の瞳をジト目にしてうちに苦言を呈してくる朱音はんの佇まいもまた拝みたくなるお美しさやけど、うっとりと見て酔ってはいられへん。

 

「困らせようなんて、うちは響はんの姿勢を見習って〝相互理解〟に努めてただけや」

「それだけなら、私も是非見習いたいとは思っているが……」

「ほんまそれだけやって~………」

 

 むしろ一番〝立花響〟と言う人間をめっちゃ困らせとるんは他ならぬ彼女当人(じぶんじしん)――と言いかけそうになり、前述の自分の発言をうっかり棚上げせえへんよう自重して口の奥に引っ込ませた。

 

「未来……どうして?」

「ごめん響、自分でも野暮って分かってたんだけどやっぱり心配になって、さっき近くを通ってみたの……」

 

 これは〝う~そ~やがな〟やね、うちも分かっとるで、心配が過ぎてずっと前からあの喫茶店の奥で隠れて張り込んでたことは、面倒を増やしたくあらへんから実際に口にはせえへんけども。

 

「それで、お二人にもこれからのお食事会に呼ぶ気なん?」

「当然だ、お腹を空かして困ってる相手にはできるだけ誰であろうと振る舞うのが私の主義――」

 

〝~~~♪〟

 

 朱音はんがご自身の信念の一つを申し上げようとしたその時、なんとまあ無遠慮にもスマホから騒々しく……〝特異災害発生警報〟の雑音(ノイズ)が轟いてきよった……。

 

つづく。

 

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