GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL 作:フォレス・ノースウッド
今回は只今再上映中のあの名作映画のオマージュありです。
朱音たちが《ソロモンの杖》の護送任務に出現したノイズの群れを駆逐していた時と同じくして、横浜港瑞穂埠頭(ノース・ドッグ)に停泊する潜水艦――《二課仮説本部》の司令室(ブリッジ)。
「新たな位相歪曲の反応なし、当初の定刻通り《岩国基地》に到着できそうです」
二課司令の風鳴弦十郎、情報処理のエキスパート藤尭朔也、そして聖遺物研究の第一人者にして、《ルナアタック》の首謀者にして先祖でもあった《終焉の巫女――フィーネ》とかつては肉体と魂が同化していた櫻井了子は事態の推移を見守り、ノイズと言う脅威を装者たちが乗り越えたことにほっと胸をなでおろしていた。
《ソロモンの杖》を乗せた武装列車の向かう先は、山口県にある海上自衛隊と米国海兵隊と民間が一部で共同運用している《岩国航空基地》。
一度そこへ運ばれたかの完全聖遺物は、米国本土にある《F.I.S》の研究施設まで航空輸送される手筈となっていた。
「藤尭くん、今の装者とノイズとの戦闘データをくれるかしら?」
「はい」
一方で彼らの胸の内にはある疑問点が残っており、この場を代表して了子はホログラム式キーボートを素早く演奏して解析を進める。
「どうだ了子君?」
「やっぱりね、この動き、さっきのノイズは〝人為的〟に呼び出し操作されたものよ、奴ら自身にこんな知恵を回す必要性はないもの」
ノイズの習性は至って単純、対象となる人間たちをみつけた瞬間に猪突猛進で襲うだけ、なにせ位相差障壁であらゆる障害を無効にし、触れてしまえばその時点で獲物(にんげん)を炭素分解せしめてしまう為、余計な思考回路(こざいく)は不要にして無用なのだ。
となれば、武装列車を襲撃したノイズは自然発生したものではなく、何者かが故意にバビロニアの宝物庫から呼び出した可能性が高い。
「《ソロモンの杖》以外にそんなことを可能とする手段が……」
「あるいは……念のため朱音ちゃんとあおいちゃんには忠告しておくわ、まああの子も感づいているでしょうけど」
了子は一度ご先祖に奪われた自身の人生に、再び自分の意志で生きるチャンスをくれた恩人の一人でもある朱音たちにメッセージを送信した。
列車は藤尭の計算通りかつ当初の予定通り、岩国基地に到着。
天候は先程まで大荒れであったのが嘘だと思いたくなるほど、今は一転して晴れ模様である。
「これで護送任務は完了です、ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
施設区画内では、二課を代表してあおいと在日米兵数人を伴す基地司令の将校と間で《ソロモンの杖》移送任務完了の手続きが行われていた。
「私からもお礼を申し上げますよ装者のみなさん」
ウェルは傍からは好青年な物腰で装者たちに感謝を表明する。
「あなた方の懸命さを間近で見て、改めて実感しました、皆さんが《ルナアタック》から世界を救った〝英雄〟の称号は伊達ではないとね」
「英雄? 私たちがですか~?」
相手からのお褒めの言葉に、一番はっきりと反応を示したのは喜色満面の響。
「いっや~~もう普段は全然誰も褒めてくれないんで~~~むしろじゃんじゃん褒めちぎって下さいよ~~ほらほらもっと~~あいたっ!」
さすがに浮かれ過ぎなリアクションだったが為に、朱音とクリスから同時に後頭部へ軽く戒めのチョップを受け、直撃を受けた頭(ぶぶん)をさする。
「調~子こくなこのバカ」
「そういうとこだよ響」
「うぅ~~二人とも痛いよ~~……」
呆れ気味の溜息が、朱音とクリスから、ぼやきの息が響の口からそれぞれ零れた。
「謙遜することはありませんよ」
年頃の少女であることに変わりない彼女たちのやり取りに割り込むウェル。
「世界がこんな状態だからこそ、僕たちは英雄を求めているのです、そう、誰からも信奉される―――〝偉大なる英雄〟の姿を」
「そ、それほどでも~~♪」
「っ……」
響は称賛と受け取った一方、朱音の内心は初対面の時から抱いていた違和感の度合いが強まっており、相手に気取られぬ様、翡翠の瞳は注視していた。表情に出すことができるなら、とっくにその眼(まなこ)は疑念で細められているところだ。
了子からのメッセージはモールス信号による振動(バイブ)で左腕に付けている二課支給の通信端末(スマートウォッチ)に受信、確認済みだ。
「皆さんが守ってくれた《ソロモンの杖》は、僕が必ずお役に立ててみせます」
「すみません、そのことでちょっと」
機会(チャンス)は今しかないと、朱音はポーカーフェイスで手を挙げ。
「ドクター・ウェル、貴方の言う英雄の名に恥じない仕事を全うしたいので、一応ケースの中の杖を確認させてもよろしいですか?」
「構いませんよ、念のための用心に越したことはありませんからね」
ウェルは米兵の一人に持たせていたケースを譲り受け、ロックを解除して中を開いた。
そこにか確かに、携行し易いカード状の待機形態な《ソロモンの杖》があり。
「ほらこの通り、何事もなく〝杖〟はぶじゅ!!」
無事とウェルの口が言い終える直前、杖の状態を観察していた朱音はその場から右足で彼の下顎を巻き込みんだハイキックで、ケースを盛大に蹴り上げた。
この場にいる米兵も響たちも、今起きた事態を理解するまでの僅かな合間に朱音は足払いでウェルをうつ伏せに倒しマウントを取って、俳優兼武道家にして保安官の資格も持つ祖父から伝授された逮捕術の応用で彼の腕を捻り上げて拘束、あおいも懐からデリンジャーほどのサイズな小型護身用パルスガンを取り出して銃口を相手の頭部に密着させた。
「友里さん、どうですか?」
「博士の懐には無いようね……」
あおいはもう片方の手で奇声を上げる博士の白衣をボディチェックし、朱音は一度は宙に舞った《ソロモンの杖》の待機形態をキャッチした。
「一体なにを?」
朱音とあおいの行為に呆然となる一同を代表して、基地司令が意図を問う。
「わけはこれですよ」
杖を掴む朱音の握力が強まると、超先史文明のオーパーツの筈な完全聖遺物はあっけなく亀裂が走った。
「見た目は精巧ですが、プラでできた贋作(フェイク)です、この板切れは」
「なんだと!?」
ケースに入っていた《ソロモンの杖》が真っ赤な偽物だった事実に、周囲の空気は驚愕で震撼した。
「おい、こいつはどういうことだよ!!」
特にクリスは杖を覚醒させた張本人だったがゆえに、しゃがみ込んでウェルに詰め寄る。
「《F.I.S》の仕業じゃないのは確かだな」
拘束を維持したまま、朱音は自身の推理を口にする。
「なんでさ?」
「合法的に特異災害を制御できる完全聖遺物が手に入るのに、わざわざ台無しにする手間などかける必要はない……大方向こうに搬送するまでの間にすり替えて、本物はそれを欲しがる別の組織に渡す魂胆だったろうさ」
「じゃあ、さっき襲撃してきたノイズって……」
「ドクターのアリバイ工作の為に、本物を持つ〝共犯者〟が呼び出した差し金ってところかな」
己が推論を述べる朱音はウェルの動きを封じる腕力を強め、彼の悲鳴の度合いが増した。
「う、腕の骨がぁぁぁぁ~~おおお折れるぅぅぅぅ~!!」
「人間の骨は成人で二〇六本あるんだ、英雄を目指したいのなら、せめて一本程度折れても耐える気概は見せてもらいたいね!」
呻くウェルに、朱音は敢えて不敵に微笑み、彼の発言とかの名作SFアクション映画劇中のセリフを引用(オマージュ)して返し。
「たった今《F.I.S》本部から確認が取れました、ドクター・ウェルは既にメンバーから除籍されています」
米兵の一人が〝動かぬ証拠〟を提示し。
「すみませんが、博士の拘束の準備を、彼が杖の強奪を目論んだ主犯の一人なのは確かです」
「分かりました」
あおいはパルスガンを構えたまま基地司令にウェルを重要参考人として拘束することを進言し、米兵の一人が朱音の握力に代わって彼の腕に拘束器具を取り付ける。
「さて、この三文芝居を演出した首謀者は誰だ!? お前を含めて共犯は何人いる!?」
「うひひ、そ……それは言えぬが相談です!」
先程と一変して、下卑た笑みでウェルが自らの端正な顔を歪ませた直後、基地施設範囲内の一角から、突如として爆発が轟いた。
「ま、マジかよ……」
「ああ、マジだな」
炎を中から現れ、今の爆発を引き起こした張本人は、芋虫を思わす外見をした強襲型―――の周囲から、新手のノイズが召喚される兆候たる空間歪曲現象も生じている。
「行こう!朱音ちゃん!クリスちゃん!」
「事情聴取はそちらに任せます!」
三人の装者たちは、被害の拡大を食い止めるべく、再び人為的に発生したと思わしき特異災害へ立ち向かう為、電光石火の勢いで駆け出して行った。
「世話の焼けるマッドが、お菓子ばっかしか食べてない身から出た錆だわ……」
丁度岩国基地を一望できる地点に建つ岩国市内のビルの屋上にて、その手に本物の《ソロモンの杖》を持ち、自らの姿を〝カモフラージュ〟している少女がいる。
外見から判別できる歳は響たちとほぼ同じくらい、闇夜よりも黒く深い長髪をツーサイドアップに纏め、瞳は血の色じみた深紅。
そして首元には、緑がかった黒の勾玉に似た宝玉を吊るしたペンダントがかかっていた。
少女の支配下にある強襲型の一体が、〝火球〟の直撃を受けて炭素崩壊した。
「一度は〝共闘できた仲〟だったのに、皮肉なものよね」
それを放った朱音の勇姿へ、複雑な眼差しを送る彼女の口は――。
「朱音……〝ガメラ〟」
――守護神の名を口にした。
《ソロモンの杖》護送任務が行われていたこの日、首都圏ではとあるビックイベントが開催されようとしていた。
《QUEENS of MUSIC》
世界最大規模の音楽コンサートイベントで、名だたる女性アーティストたちが集う〝夢の共演〟と言う祭典。
今年は東京で催されることとなり、都内にある国内最大のコンサートホール内は、多数のスタッフがステージの設営作業に勤しんでいる。
そんな会場内の観客席の一つに、勝手知ったる様子で、両腕を両足を組んで腰掛ける美女が一人。東欧人の血を引いていると思われる類稀な美貌、淡いピンクのロングヘアを猫の耳の如く纏め、瞳は上空の青空よりも透明感で彩られたスカイブルー。
彼女の名は――マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
今宵のコンサートライブの〝主演〟も同然な参加アーティストの一人だ。
〝~~~~♪〟
ただ者でないオーラを発して堂々とした立ち振る舞いと裏腹に、空色の双眸はどこか物憂げな雰囲気が垣間見える彼女は、鼻歌を奏でている。
その歌は、《ルナアタック》の終焉時に昏睡状態に陥った櫻井了子を覚醒させた童歌――《Apple》そのもの。
「………」
歌を中途で止めたマリアは、上着の内ポケットからある物を取り出した。
白銀の色をした、シンフォギアの待機形態(ペンダント)だった。
マリアはそれを、自身と同じ名を持つキリスト教の聖母の如く、祈る様に握りしめる。
「ミス・マリア」
しばし〝祈祷〟していたマリアを呼びかける声。
「ファラ……」
目を開けたマリアが声の主である女性の名を呼ぶ。
彼女以上に長身で、レディーススーツ姿が映え、緑のメッシュがかかったプラチナブロンドの長髪と切れ長の美貌を有したファラと呼ばれた専属マネージャーと思わしき女性は、
マリアにだけ聞こえるよう。
「《サクリストS》の強奪に成功したそうです、プロフェッサー・ナスターシャ側の準備も完了しております」
「そう……」
耳打ちで《ソロモンの杖》を奪取できた旨を報告。
「前から気になっていたのですが、なぜその〝白銀〟をお使いにならないのです?」
「〝セレナ〟を助けられなかった私に、これを纏う資格は無いのよ……」
〝よかった……マリア……姉さん……〟
「形見としてとっておくぐらいしか、私には償えない」
脳裏にて、苦い記憶を追想して白銀のギアを閉まったマリアはその場から立ち上がる。
「この話はこれでお終い、さあ、始めるとしましょう―――〝世界最後のステージ〟を」
自身に言い聞かせる様に、宣言を掲げるマリアの表情は、凛々しくもありながらどこか悲壮さも帯びていた。
武装列車に続いて岩国基地に出現した特異災害は、私と響とクリスによって駆逐され、事態は一応の収拾がついた。
飛行場内であったことを活用し、滑走路に奴らを引き付けた上で殲滅したことで、施設の損壊は可能な限り抑え、さらに幸いにも二次災害による負傷者は幾人か出たものの、ノイズの心中に遭って炭素分解された死者は出なかったそうだ。
今私はと言えば、鑑識用の手袋をはめて友里さんと一緒に被害を免れた施設内の一室に入る。補足として、ちゃんと基地責任者である司令官さんからの了解は取ってあるからね、首にかけた来訪者用名札がその証拠。響とクリスの二人は先にヘリで《QUEEN of MUSIC》のライブ会場へと行った。
で、ここはいわゆる取調室で、主に犯罪を犯した在日米兵を事情聴取する際に使われる。内装はその手の映画やドラマ劇中に出てくるのと違わず、無機質に白い室内、中央に置かれたテーブル、マジックミラーのガラス等々。
そんな取調室にて、《ソロモンの杖》強奪容疑の重要参考人として拘束されたウェルが連れ込まれ、聴取を受ける筈だったんだけど………端的に言えば、逃げられてしまった。
防弾仕様のマジックミラーは粉々に砕け散って床に散乱し、監視カメラも綺麗に〝両断〟され、ダクトは当然ながら成人男性が入って通れるだけのスペースはない。
「朱音ちゃん、これを」
私は一旦取調室近辺の廊下に出て、友里さんが腕の二課専用端末から照射された青い特殊ライトであぶり出された足跡(二四時間内にできたばかりの新しいのを)見せる。
「ドクター・ウェルのはこれですね」
米軍用の軍靴とは異なる靴底の長さと歩幅で、ウェルの足跡だと見抜いた私は、ライトを頼りに辿るも。
「どうやって逃げたのかしら……」
足跡は取調室に続き、間違いなくウェルは連れ込まれた事実を表している一方で、足跡はそこで途絶えていた。室内から廊下に出て逃げた痕跡が一切ない。
連れ込まれた時点で取調室は厳重にロックはかかっていたし、事情聴取役と見張り役の米兵も一緒にて、無論ウェルの腕は拘束具がかかっていた。そうでなくても、白衣越しでも不摂生な食生活だったのが窺えるあんな筋肉が碌についていない痩躯(やせっぱち)一人では、日頃の厳しい訓練で鍛えられた米兵の相手など無理だけど。
まあつまり、完全な密室状態でウェルは〝神隠し〟にでも遭った様に逃げ失せてしまったのだ。
私と友里さんは再び取調室に入るタイミングで。
「担当してた米兵からの証言が取れたそうよ」
「彼らはなんと?」
曰く、ウェルを連れ込んだ直後、突然頭に激痛が走る程の強烈な耳鳴りに晒され気を失ったとのこと。
とりあえず、現状得られた情報から確かなことは、ウェルの逃亡劇は本物の《ソロモンの杖》で召喚したノイズで私たちにけしかけた共犯者の手引き。
その者は〝超音波〟を操る術を持ち、米兵を失神させだけでなく、防弾ガラスと監視カメラを容易く切り裂き、ウェルごとその場から消えた。
監視カメラに映った映像を確認しようにも、超音波に晒された時点で機能はお釈迦で何も映っていなかった。
「ん?」
他にも何か手がかりが残っていないか見渡していた私の瞳は、散乱したガラスに混じって落ちているマゼンタ色がかった破片(かけら)を見つける。
腕の端末で写真を取り、手袋と一緒に渡された証拠品押収用のジッパーバックへその謎の破片を丁重に入れた。
「他に手がかりになるようなものは、無さそうね」
「全く無いよりは、まだマシではありますが」
微々たるものでも、ウェルと共犯者のバックにいる〝黒幕(そしき)〟に繋がる手がかりは、あるに越してことはない。
「そろそろ次の迎えのヘリが来る時間ね、あとのことは私がやっておくから」
「お願いします」
証拠品を友里さんに渡して取調室を出ると、丁度迎えに上がった若い米兵が私に敬礼する。名札には〝アシュレー・エヴァンス〟とあった。
「ヘリポートはこちらです」
「はい」
彼の先導でヘリポートに向かいながら、私は首にかけた勾玉(ギア)に触れる。
取調室に入った時、実はほんの微かだがマナの反応があった……と言うことは、あの超音波を用いた現象とウェルと共犯者の逃亡撃は聖遺物かそれに類する道具で行われた可能性がある。
加えて、物体を切断できるだけの出力を出せる手合いとなると。
私自身が他ならぬ〝実例〟な以上、前世は怪獣で、その記憶と能力を持ち合わせている転生者が他にもいるのはあり得ると踏んだ方がいい。
〝―――、殺してッ!!〟
そして、もしその転生者が〝奴〟だとしたら……。
「どうかなされましたか?」
「いえ、すみません」
アシュレーさんの声で、私は思考の奥底から現実に引き戻され、改めて詫び入れる。
「民間人の身で現場を見たいと言うこちらの要望を聞いてもらいまして」
いくらノイズと真っ向から戦闘、及び殲滅できる唯一の兵器たるシンフォギアの装者(つかいて)かつ特機二課所属のメンバーとは言え、嘱託社員と大差ない自分は民間協力者でしかなく、ああ言う事件現場の立ち入りなど出しゃばり過ぎと思われても無理もない行為だ。
「いえ、こちらこそ朱音さんたちの尽力が無ければ、まんまとあのマッドドクターの猿芝居に乗せられた挙句、もっと被害が出ていたでしょう、うちの司令も持ちつ持たれつと仰ってました」
自分の思った以上に、岩国基地の司令さんは柔軟な思考の持ち主だな~~とありがたみを感じていると。
「それにツヤマからは色々聞いてますよ」
聞き覚えのある名前が、相手の口から出てきた。
「ツヤマって、津山陸士長のことですか!?」
「Yes、あいつとはツヴァイウイング時代から翼さんのファンクラブ仲間でしてね」
今でも特機一課に出向している津山さんの名前が出てきたことには、驚きを隠せない。
「前に言ってましたよ、風鳴翼から笑顔を取り戻してくれた偉大なる恩人だって」
「いや~~……私はあくまできっかけを作っただけで、翼がどん底から這い上がれたのは、彼女自身の意志の賜物ですよ……」
こうも臆面も無く称賛されると、さすがに照れ臭さで気恥ずかしくなって微熱を発し出した赤味の頬を、ぼりぼりと人差し指で掻いてそっぽを向いてしまうも。
「でも津山さんの分まで、その気持ちはありがたく受け取っておきます」
謙遜し過ぎるのもあれなので、感謝の想い自体はちゃんと受け取った。
「できれば今日のライブ、自分も行きたかったんですけどね……抽選にはものの見事に玉砕してしまいまして」
「それは……ご愁傷様です」
冷や汗が額から流れそうになる。そう言う私たちと言えば《QUEENS of MUSIC》のチケットは、翼からの招待(プレゼント)って形でちゃっかり(自分と響とクリスと未来、創世たちの分も込みで)入手していた。
いわゆる〝関係者枠(コネチケ)〟の恩恵を受けてる身なので、必死に神様に当たりますようにと祈って落選してしまった同士(ファン)として、申し訳ない気分になって苦笑してしまう。
一応動画サイトから公式で生中継配信もされるが、ファンとしては誰だって推しのアーティストの生歌を肉眼(このめ)で拝みたい気持ちはよ~く分かる。
「そんな気後れしないで下さい、むしろ今日会場にこれない自分らの分まで楽しんでもらえれば」
「分かりました、この目でしかと焼き付けさせてもらいます」
そうして会話を興じている内にヘリポートに付き、丁度到着して私が来るのを待っていたヘリに搭乗した私はアシュレーさんに頭を下げ、彼も敬礼で挨拶し返した中、扉を閉めるとヘリはプロペラを回転し始めて、陽が夕方となった空へと徐々に高度を上げていく。
今ならまだ電波状態が良好なので、自前の折り畳みスマホを取り出し、動画サイトで《QUEEN of MUSIC》の中継動画を拝見する。
『この盛り上がりは皆さんに届いているでしょうか? 全世界に生中継されているトップアーティスト同士による夢の祭典――』
もうすぐライブが始まる頃か、せめて翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴのデュエット曲――《不死鳥のフランメ》が歌われる直前には会場入りしたいんだけど。
今上げた歌はこの日より前に既に楽曲自身とMVが発表され、どちらもミリオン超えの大ヒットした曲。
ただ両者のスケジュールの都合上、レコーディングは別々、MVもFIRST TAKE方式で別々に撮影したのを合成であたかも一緒に歌っているようした仕様。
それでも配信開始から一週間足らずで再生回数一億越えの快挙を果たしたのだから凄まじい。
ちなみに、翼がかの曲をレコーディングした際、マリアが歌うパートを代役で私が歌っていたのはちょっとした自慢だ。
そろそろネット環境が悪くなりそうなので、一度サイトからおさらばしてワイヤレスイヤホンを付け、スマホ内にダウンロードしてあるマリアのデビュー曲《Dark Oblivion》のMVを再生する。
私がマリアを推す理由を述べるなら………〝可愛いタイプ〟だからかな?
なんと言うか、メディアで表向き見せる顔と裏腹に、根っこは〝親しみやすい庶民派お姉さん〟キャラな感じがするのだ。
その印象と歌う姿とのギャップが、彼女に惹かれる理由の一つだったりする。
しかし、それにしても。
「最初の頃は大分強かったよね、訛り」
七月末に彗星の如くデビューしたてだった当時のマリアの歌声は東欧訛りが強く残っており、最初は英語歌詞が帰国子女の自分すら上手く聞き取れなかったのは、ご愛嬌と言うことで。
私がマリアの歌声に耳を傾ける中、夕焼けの中を飛ぶヘリは首都方面へと向かっていく。
無論、この時の私はこの後起きる〝波乱〟など、微塵も予想していなかったのは、言うまでも無いことであった。
つづく。
いかん、意識して展開の改変する気はないんだけど、朱音のキャラひとり歩きで危うくFISサイドの計画があわやご破算するとこでした。
間違いなく歴代敵組織で最弱貧乏だからなFIS(武装組織フィーネ)。
298円のカップ麺を『ご馳走』扱いする下りはなんとも言えない切なさデース。
『武装組織フィーネ』とは別ベクトルで不憫なのが米軍、原作1話だけで一体何人ノイズにほぼ効果ないと分かってる豆鉄砲撃たざるを得ず殉職者出してるんでしょう(汗
朱音が日系アメリカ人でもあるので、在日米軍士官とのやり取りが当初よりも多くなりました。
ちなみにマリアさんの持ち歌でシリーズ関連楽曲で唯一のオール英語歌詞の『Dark Oblivion』、海外の適合者からはなんと歌ってたか分からなかったらしく、東欧訛りが強くて朱音も最初は歌詞聞き取れなかったネタはそこから来てます。