GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL 作:フォレス・ノースウッド
なんで二人かと言えば随時描写していくので今は多くを語らず。
しかしうえしゃまボイスの邪神……確かにええな(コラ
上田麗奈の関西弁めっちゃいいぞ!!!(りえりーボイス
首都東京二十三区内にあり、《QUEENS of MUSIC》の特設ステージとなっている大型コンサートホールからほど近い場所にそびえ立つ、真上からは正六角形となる六角柱が特徴的な超高層ビル。
頂上付近に備え付けられたロゴには英語で《ディーンハイムコーポレーション》と銘打たれている。
様々な事情に手を出している影響で〝世界有数の何をやっているのか分からない企業〟のお題が掲げられたら必ず上がる程に世界的に名の知れた大企業の本社は、この日本にて置かれていた。
そんな大企業の本山たる巨塔の上層階になる社長用オフィスに腰掛け、夕陽を眺める金髪碧眼で〝外見〟は二十代半ばほどの女性。
彼女こそこの大企業を仕切る《キャロル・マールス・ディーンハイム》その人。
コーヒーを服して夕焼けを眺める眼差しは、お世辞にも穏やかと言えず。
〝キャロル―――世界を織るんだ〟
むしろ怨嗟の炎すら燃え上がらせて、忌々しく見つめてさえいた。
「レイア、もう一杯」
「御意」
当人も自覚したのか深呼吸してコーヒーを飲み干して険しい表情を少しながら和らがせたキャロルは、秘書官らしき中性的でスレンダー、黄色のメッシュが走る黒髪で右目が隠れている女性にお代わりを催促する。
「社長(マスター)、次は派手にラテアートを施しましょうか?」
「変に色気づくな、派手好きめ……」
レイアと呼ばれた秘書は手慣れた様子で新しく淹れたコーヒーを泡立て、魔方陣らしき紋様を器用に描いてキャロルに手渡す。
「その器用さには一応感心しておくぞ」
「ありがたきお言葉」
この女性社長特有らしい不愛想な賛辞に、秘書は胸に手を当て一礼した。
「私にもおかわりをお願いします」
「かしこまりました、〝プロフェッサー・ナスターシャ〟」
実はもう一人、この社長室にいる。
修道女(シスター)が着衣するものに似た衣服に、脚が悪いのか電動車椅子に座し、片目は失明したのか黒い眼帯に覆われ、幾つもの立体モニターとコンソールを前にして何やら数値やら波形やら、そしてマリア・カデンツァヴナ・イヴのライブ中継映像を眺めている、孫がいてもおかしくない程には齢を重ねた女性のフルネームは――ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。
レイアから教授(プロフェッサー)と敬称された通り、聖遺物関連の科学者である。
「もう十杯目だぞ偏食癖め、日頃〝マリア〟がぼやくのももっともだ」
キャロルは、ナスターシャが何度も飲む代物に対し苦言を呈した。
何しろ彼女がティーカップで嗜んでいるのは醤油と鶏ガラエキスをたっぷりを通り越して過剰に放り込まれた、常人の舌では濃過ぎて吐きかねないレベルの中華スープを、もうじき両手の指の数を越す勢いで飲み干してはおかわりを繰り返しており、キャロルが呆れて揶揄するのも無理ない。
「待たされている時ほど、体感時間は長く感じるものです」
ナスターシャは全く気にしない様子でスープを啜っていると、社長用のデスクから通信音が響いた。
『ガリィで~す、社長(マスター)もオババ教授(プロフェッサー)も聞き耳立ててますか~? 爆睡中の大食い怪獣がやっ~と反応しましたぜ~♪』
「ようやくですか、随分と待ちくたびれましたよ」
待ちかねたと、ナスターシャの口角に笑みができたのを見つめるキャロルは、再び目線を窓越しの風景へ移して数刻、瞳を閉じ、彼女自身が〝創造〟した部下の一人であるガリィが見せてくれた〝戦闘記録〟を反芻。
特に草凪朱音――かつて〝守護神ガメラ〟だった彼女のを重点的に見直しており。
(ああも〝錬金術〟を感覚的に扱われると、腹立たしいな……まったく)
放電現象(プラズマ)を自由自在に操る朱音の姿から、心中にて独りごちて瞳を閉じる。
キャロルの瞼の裏に、他の誰かの〝視界〟が映し出されており、その主はどうやら密かにこのビルから抜け出そうとしていた。
「レイア」
「御意」
《QUEENS of MUSIC》の舞台裏では、マリア・カデンツァヴナ・イヴと並んでこのイベントの主役(しゅえん)の一人である風鳴翼が、ライブ衣装の上にジャケットを羽織った状態で屋外用椅子に、粛々と目を閉じ自分が歌う出番に備えて集中力を高めて座している。
翼の傍らに立つ彼女のマネージャー兼、本業は特機二課所属のエージェントな青年、緒川慎次はと言えば――。
「状況は分かりました」
事情を知らぬ周囲に悟られぬ様にソプラノボイスを小声で、耳に付けている通信機越しに仮説本部にいる弦十郎と連絡を取り合っていた。
「このことは翼さんには?」
「〝ご内密に〟だ、ノイズが出しゃばっていると聞けば、今日のステージをほっぽりだしかねんからな」
「了解しました」
司令部との通信を切って、眼鏡に手をかけた直後。
「司令(おじさま)は私のことで何と? 緒川さん」
「翼さん!?」
振り返るといつの間にか座って精神統一していた筈の翼が眼前にいて、身長差もありジト目で緒川の長身を見上げていた。
「あと、〝マネージャーモード〟から切り替えようとしていましたよね?」
外しかけた眼鏡に指差されて図星を突かれて苦笑する緒川は、無意識にその行為をやりかけていた手を背に回り込ませた。
ほんの数分前に遡って、翼の旨の内へ――。
晴れ舞台に備えて黙想(瞑想の域にまで深く意識を潜らせてしまうと、却って迫る本番を迎えるのに難儀するので)している私はと言うと。
(〝孤独に歩め、悪を成さず、求めるところは少なく、林の中の象の様に〟……)
朱音のお勧めで見た〇〇年代に公開されたサイバーパンクSFアニメ劇中でも引用された仏陀のお言葉を心中で何度も繰り返し口にし、心穏やかに集中力を高めているのだが……自分は先日の〝大失態〟を大いに引きずっている、何度か眉間に皴ができそうな危ない瞬間が訪れもしたが、どうにか表に出さず傍目から悟られまいと死守している。
その〝大失態〟の件は、私の口からは説明したくない……現状自分の中で〝一生の不覚〟の頂点に立つ特級の呪物だ。
どの道、あと数日すれば夜のゴールデンタイムでテレビとネット配信同時放送で世界に晒されることが確定しているので、私がわざわざ説明する必要もない。
〝どうやら開花したようですね、私の隠れた才能が♪〟
どうして緒川さんが持ってきたオファーを承諾してしまったのか?
ああ……過去に戻って何の問題もなく過去の自分と会って話せる術があるなら、盛大に調子こいていたその時の自分を思いっきり叱ってやりたいくらいだ。
いかんな……先日の〝初バラエティ〟でのやらかしの残響で揺れる心を落ち着かせるつもりが、盛大に真逆の方向へ疾走していたと自覚し、依然に朱音と立花と小日向の四人で遊びに出かけた際に、初めてのクレーンゲームで目にした瞬間に運命を感じて、見事入手できた狼っ子の人形を手に取り。
「〝真面目が過ぎるぞ翼〟……」
腹話術擬きの裏声で私は装者としても歌手としても、そして一人の人間としても生涯の友だった今は亡き天羽奏(かなで)が生前、何かと大舞台を前に緊張し過ぎたり思い詰め過ぎな私の性分を案じて発した言葉を自ら口にして、自身を嗜めて深呼吸した。
こういう時、むしろ率先してプレッシャーをも力に変えて楽しんでいた奏や、力み過ぎずに水のせせらぎの如く自然体でいられる朱音が羨ましい。
とは言え、愛らしい狼っ子の容姿(みてくれ)を刻み直して目を閉じ、瞼の裏に歌女の友な二人の笑顔を思い浮かべると一転して乱れそうになった心中の波風がなだらかになっていくを感じ取って目を開ける。
すると目線の先には、私に背を向けて耳に手を当てている緒川さんの後ろ姿が瞳に映った。
〝Stop touching your ear(耳に手を当てるな)〟
〝Sorry!?(なに!?)〟
〝Put your hand down(手を下ろすんだ)!!〟
ふと以前に、弦十郎おじさま流の鍛錬と海外デビューに備えた英語の特訓も兼ねて見た某殺しのライセンスを持つ七番目の英国諜報員の活躍を描いた映画シリーズの一作の一場面を思い出す。
その時主人公と同僚のスパイは、世界規模のテロ組織との繋がりがある爆弾製造犯(日本語吹き替えでは『ただの下っ端』)を生け捕りにして手がかりを得ようと張り込んでいたのだが、同僚が通信の際耳に手を当てた仕草で向こうに気取られる失態を起こして逃亡を許してしまい、主人公が追いかける(最終的に頭に血が昇って大使館内で下っ端を射殺して爆発になったオチには、初見時の私の口は空いた口が塞がらなかった、当然おかんむりな上司には『爆弾作ってる悪人を消せば世界のためになる』と悪びれず言い訳する有様)――と言う流れ。
緒川さんも丁度、通信機を忍ばした耳に手を当てると言うミスをやらかしている。幸い周囲の人気は舞台上に比べればまばらで、私以外に通信中の彼の行為に気が付いている者はいない。
とは言え、太閤秀吉の天下の時代から諜報の世界に身を置く家の末裔の一人であり、自身も優秀な諜報員でもある筈の緒川さんの初歩的過失(ケアレスミス)は看過できなかったので、その場から立って彼に近づいて。
「自分の癖ぐらい把握し矯正しておかないと、足元を掬われますよ」
背後を取る形で苦言を呈するに至ったわけ。
改めて説明すると、緒川さんは〝アーティスト風鳴翼〟のマネージャー業務中は伊達眼鏡をかけている。彼なりに数ある〝顔〟を使い分ける為のルーティンと言えるだろう。
だが時々、私のマネージメント中にも拘わらずその眼鏡を無意識に取り外してしまう癖がある。
そういう時は大抵……特異災害の発生と言った特機二課が対処に追われるだけの非常事態が起きている〝報せ〟となっていた。
「大方、おじさまは私が有事への対処を優先しライブを取りやめると踏んで口止めを命じたのでしょう?」
「はい、仰る通りです……」
もう誤魔化しは利かぬと判断したのか、緒川さんはあっさりと白状する。
確かに朱音の表現(いいかた)を借りれば〝抜き身の刀〟だった少し前の自分ならば、本番直前でもライブを放り出しておっとり刀で〝戦場(いくさば)〟にはせ参じていただろう。
「ですがご心配は杞憂です」
だが今は違う――と断言できる。
「我が友たちが思い出させてくれましたから、風鳴翼が歌う舞台は――〝戦火(せんじょう)〟――だけではないのだと」
朱音たちのお陰で抜き身な己の殻を打ち破って這い上がる過程で見出すことができた境地(しんねん)を改めて緒川さんと自身へ語り掛けたところで。
「翼さん!お時間そろそろです!スタンバイお願いしま~す!」
「はい!今いきます!」
なんとも丁度いい頃合いか、スタッフの一人から本番目前の報せを受けてジャケットを脱いで緒川さんに手渡し、着衣している衣装を露わにする。
「頑張って下さい」
「はい、行って参ります」
緒川さんからの笑顔も受け取って、私はレイピアに見立てた専用マイクを手に取り、舞台(ステージ)へと向かっていく。
今宵の演芸(ライブ)より数日前、私はある新曲を発表していた。
以前、私は特異災害の犠牲者への哀悼の意を込めて歌う朱音の姿から、脳裏に〝嵐と大火に見舞われる古都(きょうと)の中を進む満身創痍のガメラ〟が思い浮かぶと言う不可思議な現象に見舞われたことがある。
そのイメージと、私が奏と死に別れてから今日までの二年間を下に、今回初めて作詞作業に携わった渾身の一曲を、これより多くのファンたちの前で、改めて披露するとしよう。
それにしても―――。
〝邪魔するわよ、今日はお招き頂いてありがとう、せいぜい私の足を引っ張らないでちょうだい〟
数刻前、楽屋にてセッティング中の際、マリア・カデンツァヴナ・イヴが押し掛ける体で訪問してきた。
〝続きはステージで、楽しみにしているわ〟
傍からは不敵な笑みの威風堂々で尊大で高飛車な物腰だったのだが、私の直感が正しければ彼女は……やはり〝可愛いタイプ〟だ。
今日の舞台(ステージ)で、少しでも気心を知り合えたらいいなと、心の底より願う私でもあった。
「さっすが歌姫マリア!生歌の迫力は段違い!!」
「まだデビューして数か月なのに、この板に付いた貫禄具合はナイスです」
ライブ会場の一角に設けられたいわゆる〝関係者枠〟で招待された観客のみが利用を許された特別席に、朱音と響の学友たち――小日向未来、安藤創世、寺島詩織、板場弓美らがおり、運営スタッフから支給されたペンライトを手に観覧し、今宵の祭典を満喫している一方で――。
「ビッキーたちからまだ連絡が来ないの?」
「あ、待って」
スマホで時間を確認し、まだ来ていない響と朱音のことを未来が案じていると、丁度画面に新着メッセージが来たと報せが入る。
「朱音から、『私は別件でもう少し遅れるが、響たちはあと約一時間で会場入りできる、もう少しだけ待ってほしい』だって」
と、朱音が送ってきたメッセージを未来は読み上げた。
「せっかく風鳴さんから招待してくれたのに……」
「アニメの主人公な設定持ちの二人じゃ、無理ないかもね」
未来以外の三人も、ルナアタックの折にて朱音と響が密かに特異災害から人々を守る装者(ヒーロー)であることを知っているので、その一環で遅れている事実に各々もどかしさを感じている中、会場内の明かり一時的に暗くなり、次なる曲のイントロが響き始める。
幻想的なシンセサイザーから一転、尺八とエレキギターをメインとした和の趣を帯びる前奏とともに、翼がスポットライトを浴びながら舞台上に悠然と躍り出る。
「これって出たばかりの新曲――」
「――《神話》……」
観客たちの歓声が轟く中、未来が曲名を呟いた直後。
『子どもの頃は感じていた~~~目に見えないその―――パワァァァーー~~を! みんな確かに信じてい~た~~大きな意志のち~~からがある~~!!』
翼の胸の歌から発する力強くも繊細さを併せ持った芯の通る歌声は、瞬く間に未来たちも含めた観衆の心を掴み、メロディに合わせて振るうペンライトの光点たちが会場全体を覆いつくしていった。
場所はディーンハイム・コーポレーション本社ビル屋上、そこはドーム状に張り巡らせる形で光学迷彩が施されており、その偽装を隠れ蓑に垂直離着陸機型の輸送機が一機停泊していた。
機内の薄暗い一室では、立体モニターに投影された《QUEENS OF MUSIC》の中継映像が流れ、三人の少女たちが眺めている。
『君を好きになって~~今、思い出した~ことは~~♪』
うち二人の首元には、それぞれピンクとグリーンで彩られた正規のシンフォギアシステムの待機形態(ペンダント)が下げられており。
二人の内、一方は黒髪ストレートの髪質で前髪を切り揃えたツインテール、もう一方は×型の髪留めを付けた癖のある淡い金髪のショート。
そして三人目は、先の武装列車と岩国基地にて本物の《ソロモンの杖》を用いてノイズを解き放った張本人たる黒髪紅眼で緑がかった黒い勾玉を下げるあの少女その人だ。
三者三様の見た目だが、三人とも共通して日本人系の面影がある。
『あの~~暗い森の~中で、僕たちは泣いて~いたね~~♪』
「やっぱね」
画面越しに《神話》を歌う翼の歌声を聞く勾玉の少女の口から、先程と変わって関西弁風のイントネーションで声が出る。
おまけに声質まで、愛らしくも色っぽく透明感が増したものと様変わりしていた。
「真矢(まや)ちゃんどうしたデスか?」
「切ちゃん、今は〝彩矢(さや)〟ちゃんだよ」
二つの名前で呼ばれた勾玉の少女は、二人に深紅の瞳を向けた。
『涙~~千切れた~~ぼくらの~愛~~空に~宇宙にあり続~ける~~~♪』
「この歌の歌詞、表(マスメディア)では自分の経験を反映したと言うてるけど、裏モチーフがあるんや」
「裏モチーフって?」
「〝ガメラ〟」
その名を、まるで長年の旧友に宛がった様なトーンで呼んで口元を綻ばせる少女――〝彩矢〟。
「これは風鳴翼はんなりのガメラへのリスペクトがたっぷり籠った歌なんよ、解像度も高うようできとる」
「彩矢ちゃん、何だか嬉しそうデ~ス……」
「そうやね、久々の再会が待ってるからな~~〝真矢〟の方は大分複雑な気分やけど」
彼女は窓の外の夕焼けを見つめて、待つ。
その相手は言うまでも無く、自身を同じ〝怪獣〟の記憶と魂を持つかつての〝宿敵〟への想いを馳せていた〝彩矢〟だったが。
「感慨に耽るのもほどほどにしなさいっての……もう」
「あ、真矢ちゃんに戻った」
文字通り人格(ひと)が変わった勾玉の少女は、懐から本物の《ソロモンの杖》の待機形態(カード)を取り出し。
「〝プランB〟の準備をしてくるわ、調と切歌もいつでも変身できるよう準備してて」
「早くないデスか? マリアとのコラボソングもまだデス」
「〝両翼揃ったツヴァイウイング〟とファンたちならできたでしょうけど……あの〝貪食〟を叩き起こすには、全然足りなさそうだから」
おそらく二重人格者と思わしき勾玉の少女は、仲間であろう〝調〟と〝切歌〟を残して部屋を後にする。
少女――今は真矢と呼ぶべき彼女は機外に出て、黄昏時に入ろうとしている暁色と紺色に区分けされた空を見上げ、西の方へと深紅の瞳を向け直す。
「止めてみなさい……またアコギなことをやろうとしてる〝私〟たちを……朱音」
今頃関係者枠(コネチケ)による特等席から翼たちの生歌を他の観客たちと一緒に熱く入り込んでいるであろう未来たちに、自分も響たちも会場入りまでもう少し時間がかかることをSNSアプリのメッセージで送った私は、まだ二課所属ヘリの中でも可能な方法で自分もライブを鑑賞していた。
どんな方法かと言うと、動画サイトの公式ライブ中継を配信しているスマホとリンクしたVRゴーグルを点けている形で、これはチケットの抽選に残念ながら外れてしまったファンたちへの運営からのサービスだ。会場内に多数点在するカメラが捉えるライブ映像をリアルタイムで、しかも三六〇度VR動画で疑似的に会場内にいる感覚で拝むことができるのだ。
しかもマルチアングル機能付きで、こちらでスマホを操作すれは色んな場所・角度(カメラアングル)で堪能することも可能。
ちなみに専用ゴーグルの出どころはどこからか?と言うと、特異災害の撮影に使われる二課のカメラドローン用のを操縦士にダメ元で貸してほしいと頼んでみたら、幸いにも快く了承してくれた。勿論、司令の弦さんからの許可も貰った上で。
職権濫用と言われればそうだけど、これでも命がけの公務に勤しむ身なので、そこは大目に見てほしい。
『涙~千切れた~僕らの~愛~~空に宇宙にあり続ける~~~涙溢れて~止まらな~いよ~~~胸に心に~~君がいるよ~~~♪』
「………」
で、ヘリの中でゴーグル越しに間近で新曲の《神話》を生き生きとエネルギッシュに、熱くも切なく思いっきり歌い上げている翼を見て、聞く私の心境にはこそばゆさがあった。
手で頬を触ると、指よりも体温が上がっているのを感じ取る。
この歌、翼が初めて自ら作詞にも携わった(正確には、特撮及びアニメ界隈でも名の知れた作詞家《藤林靖子》との共同制作ではあるものの)記念すべき一曲であり、メディアでのインタビューでも語られている通り、亡き片翼(パートナー)の奏さんへの想いと、喪失による悲しみと苦しみに暮れる日々から這い上がってきた今日までの自身の在り様もテーマではあるんだけど……。
『涙~千切れた~~僕らの愛~~~空に宇宙に~生き続~ける~~~♪』
自分で言うのも何だけど、この歌の詩はこの私――草凪朱音とガメラ――の両方も盛り込まれている。
『涙~再び~~出会える時~~愛する!勇気を――取り戻す!』
草凪朱音(いまのじぶん)はともかく、前世(ガメラ)としての自分のことは大まかな説明をしたくらいなのに、まるで実際にガメラとしての戦いをこの目で見てきて、時に心通わせた浅黄の意志(おもい)が、時空を超えて翼の心(むねのうた)に宿ったのか?と勘繰りたくなるくらい真に迫った出来を前に、改めて聞いている私は脱帽し、圧倒されていた。
『久遠の神話の――ままぁぁぁぁぁ~~~~♪』
舞台上を疾走しながら、締めの詩をビブラートたっぷりに歌い放つ翼。
自分が今上空のヘリの中じゃなかったら、感極まって一介の歌い手として〝血〟が昂る余り、衝動(いきおい)に任せて自分も歌い出してしまっていたかもしれない。
とは言え場所はどこであれどうであれ、今はあくまでファンの一人としてライブ鑑賞中なので、どうにか自制はできた。
気づけば〝名作〟の域の映画を銀幕(スクリーン)で目の当たりにした瞬間と同じ感慨に浸っていた証である、心地いい感受性(こころ)の震えと温もりを自覚し、胸に手を当てて息をそっと吐く。
VRとは言え動画でこれなのだから、実際に会場にいたらどうなっていたことか……気がつけばもう片方の手は無意識に勾玉(ギア)を、精神交感が強まった時の浅黄の様に握りしめていた。
「おっと、そろそろだな」
次はいよいよ翼とマリアのデュエットコラボである。
巨大モニターに〝MARIA × TSUBASA〟のロゴが大々的に投影され、翼が立つ舞台上の一部に円形の穴が開き、そこからせり上がる形で、白銀のドレスを纏うマリアが舞台上に躍り出てきた。
『見せてもらうわよ!戦場に舞い踊る――貴方の歌捌きをッ!!』
一種の挑戦状とも言うべきマリアの不敵な言葉を端に、会場内に二人のデュエットソング――《不死鳥のフランメ》の前奏が流れ出し、スポットライトは壇上に立ってその手にレイピア状のマイクを携える歌姫たちを照らし出す中、両者の競奏(きょうそう)の幕が上がろうとしていた矢先、ヘリの機内に緊急警報(エマージェンシー)が鳴り響く。
「ノイズの出現地点はッ!?」
素早くVRゴーグルを外した私は二課本部と通信を繋ぎ、即座に意識を切り替える。
己の心中には、自分と同じく人の身に転生しているであろう〝柳星張〟との〝再会〟が迫っている予感が過っていた。
つづく。
使用曲:神話/爆数スランプ
当初は平成ガメラの名曲を使う予定は無かったのですが、G一話を見返してみると、青いドレスを着たマリアさん→関係者枠席で観覧してる未来たちの会話→不死鳥のフランメと、マリアさんにめっちゃ負担がかかる構成(プログラム)になってることに気づき、翼さんにソロで一曲歌ってもらおうかと思い立ってどれ歌ってもらおうかと思案していたら、『神話』にしよう!!ってことになりました。
緒川さんとのやり取りも『不承不承ながら了承しましょう』と原作とそんな変える気は無かったのですが、第一部での翼さんの成長も踏まえて描いていくと、自然と変わっていきましたね。
翼さんが歌う場所は戦場のみに非ずなのです。
そんな翼さんが見ていた映画は無論007、後に海外デビューする際の拠点はロンドンだったから、ブリティッシュ英語の勉強と弦十郎式特訓を兼ねて原作でもあのシリーズ見てたとしてもおかしくないなと思ったので。
しかしお陰で不死鳥のフランメ~~うろたえるな!!~~黒いガングニールまでの下りが次回に繰り越し。
まとめて描くのもありなんですが、一連のオリ場面の後だとなんか消化試合みたいな感じになっちゃうな~~と危惧して。
マリアさんにかかるプレッシャーが色んな意味で強くなってる( ̄▽ ̄;)
このラストからプロローグに繋がります。