GAMERA/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~第二楽章-LUNAFALL   作:フォレス・ノースウッド

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なんだかんだ月一で更新できている現在。
ムラがあり過ぎた前作と比べたら、大分執筆の適合係数は安定しています。

コツを聞かれたら、あくまで趣味でやってるんだから『上手く書こうと思うな、物語を紡げるだけで太鼓判』『やる気は始めれば自ずとついてくる』と念頭に置いて、時間ができたらとりあえず書いてみる、日毎に調子が違うのは当たり前なので、その日は数百字、またある日は数千字でも書けたなら『ほんの少しでも書き進められたんだからそれでよし!』の精神で書いてます。
それに実際一晩寝かすとアイデアがパッと浮かぶんですよね。


#5 - 夢の守り人たち ◆

「っ……甘く見ないでもらおうか!」

 

 依然として《QUEENS OF MUSIC》会場内は、突如出現したノイズたちに占拠させられたまま、己が歯痒い心情が入り混じった吐息が明瞭に聞こえる程の沈黙が流れ続けている。

 

「その程度の脅しで、私が鞘走るのを躊躇うとでも!?」

 

 ステージ上では、そのノイズたちを突き従えているかの如く不敵に立ち振る舞うマリア・カデンツァヴナ・イヴからの挑発に屈しまいと私は負けん気を乗せて反論するも、逆を言えば現状これが精一杯だった。

 先に彼女から突かれた通り、今ここで私が天羽々斬(シンフォギア)を纏いて特異災害を排除しようにも、観客の方々には眼前のノイズの毒牙から逃れられる術はない。

 いかに装者(わたしたち)が前線で存分に剣を振るえてこられたのは、多くの裏方の人々の涙ぐましい努力の賜物であったと、改めて思い知らされ……〝独り〟で戦っていたと思い込んでいたかつての自分を恥じたくなりそうだが、今はそんな暇(よゆう)など無い。

 

『翼ちゃん、このノイズたちは《ソロモンの杖》の操作下にあるのはほぼ間違いないわ』

 

 念のため耳に着けていた通信機から、司令室にいる櫻井女史からの説明に耳を傾ける。

 今日にて《ソロモンの杖》を《米国聖遺物研究組織F.I.S》に譲渡する為、一度山口の岩国基地に移送、朱音たちは護衛任務の為、自ら直々に招待したこのライブに遅れることは存じていたが、かの完全聖遺物が奪われてしまったとは……そこから間を置かずに、制御されたノイズによる会場のハイジャック、関連性があると疑わない方が土台無理な話だ。

 そして今確実に言えることは、〝杖〟を奪ったテロ組織の構成員の一人が、このマリア・カデンツァヴナ・イヴであると言うこと。

 

「MS.翼のそういうところ、嫌いじゃないわ」

 

 その彼女から、先の私の発言に関する返しが来る。

 

「貴方の様に誰もが誰かの為に力を尽くせるのなら、世界はもう少しまともだったかもしれないわね……」

 

 私の瞳(まなこ)は、何か曰くありげな言葉を発した彼女の透明感のある双眸からもの悲しさが、声からは助けを求めて訴えているかのような震えを、感じ取った気がしたのだが………。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ……お前は――」

「そうね、そろそろ頃合いかしら」

 

 それは私の錯覚だと切り捨てるとばかりに、彼女の表情(かおつき)は再び不敵で傲岸不遜なものとなり、夜天を見上げた。

 どうやら、このライブ会場をハイジャックした目的(りゆう)を直々に表明する気らしい。

 彼女の背後にいる同朋(メンバー)たちの管理下にあるらしい、全世界同時生中継されているこの状況下にて。

 

「私たちはノイズを使役する力を以てして、地球上に存在する国家全てに要求するッ!」

 

 全世界を敵に回して牙を向ける〝宣戦布告〟、ここまでは私でもある程度想像はついていた。

 しかし、マリア・カデンツァヴナ・イヴがレイピアを模したマイクを上空に放り投げたと同時に首元の衣装の一部をはぎ取ったことで露わになった代物を前に、私は自分の目を疑う。

 

(ギアペンダントだとッ!?)

 

 姿形は紛れもなく、《シンフォギア・システム》の待機形態。

 しかも色はかつての我が片翼(パートナー)が担っていたのと同じ柑子色であり。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl~~♪」

「まさか、そんな……」

 

 〝ガングニール〟……確かに彼女の口から、その単語が混じった〝聖詠(かし)〟が歌われた刹那、ペンダントを起点にマリア・カデンツァヴナ・イヴの全身が閃光に覆われ、眼前の眩しさを前に我が瞼は咄嗟に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「〝アウフヴァッヘン波形〟を感知!」

「特定を急ぐんだ」

 

 特機二課仮説本部司令室では、ノイズにハイジャックされたライブの中継動画が立体(ホログラム)モニターに投影されている中、藤尭らオペレーターたちがマリアを覆う光(エネルギー)の正体を探っている。

 

「照合できたわ、この波形パターンはやっぱり……」

「《ガングニール》か……」

 

 サブのホログラムモニターに表示された聖遺物の指紋とも言える〝波形〟が表示される。

 その形状は、かつて天羽奏が纏い、現在は響の体内に存在している筈のシンフォギアの一つ《第三号聖遺物――ガングニール》のものと寸分違わぬまでに瓜二つの同一であった。

 モニター全体を覆う輝きが収まると、そこにはギアアーマーを纏うマリアの姿が露わとなる。

 端的に言い表すならば――漆黒。

 ところどころ柑子色が差し込まれていながらも、彼女の肌の色とは真逆に夜空よりも深く濃い黒がメインの配色であり、まるで白黒映画時代のハリウッド映画に登場する吸血鬼が着衣していそうな巨大なマントを羽織っている。

 一方でインナースーツとアーマーの形状は、まさしく〝シンフォギア〟そのものであり、

マリアの全身からは〝フォニックゲイン〟のエネルギーが観測されていた。

 

『私は、私たちは――』

 

 一度上空へ放り投げられ、重力に従い落ちてきたレイピア状のマイクをキャッチしたマリアは〝世界〟へ、高らかに宣言する。

 

『――〝武装組織フィーネ〟――終わりの名を継ぐ者だッ!!』

 

 なぜ彼女がシンフォギアを、それも天羽奏の忘れ形見と同一の《ガングニール》を纏っているのか?

 かつて櫻井了子の肉体に憑依し、その魂を同化させていた《ルナアタック》の主犯にして超先史文明の終焉の巫女の名を発したのか?

 朱音が接触した自らを《錬金術師》と称した少女と、彼女を狙う人造人間(オートスコアラー)と言う存在らとの関連は?

 一同の数瞬の沈黙に混じる疑念が過る中、通信音が響く。

 

「《内調》から緊急通信です!」

「八紘兄貴か、繋げ」

 

 宙に投影された通信画面(ホログラム)に、《内閣情報調査室》の長にして弦十郎の兄でもある風鳴八紘の、眉間の険しさが増した表情が映し出される。

 

『弦、今回の難事と関連性の高い情報がある、先刻《F.I.S》で――』

 

 マリアとノイズが会場を占拠する少し前、アメリカの聖遺物研究機関《F.I.S》の本国研究施設が何者かに襲撃を受け、施設内の研究解析データはバックアップも含めて全て消失、かの組織が所有していた聖遺物も持ち去られてしまったとのこと。

 

『我ら《武装組織フィーネ》は、各国政府に要求する!』

 

 八紘からの説明を弦たちが聞いている傍ら、ギアアーマーを纏ったマリアが口上を再開。

 

『そうだな……さしあたってはまず国土の割譲を求めようか、もしも二十四時間以内に要求が果たされなければ、各国の首都機能はノイズによって蹂躙されるだろう』

『何を世迷言を!?』

 

 彼女の口から出た〝領土〟そのものを身代金として要求するマリアに、それを聞いた者たちの心情を翼が代表する形で言い放った。

 

『気前の良い返事を期待している』

『どこまでが本気だ……マリア・カデンツァヴナ・イヴ』

『私が王道を敷き、私たちが住まう楽土となるのだ、素晴らしいと思わないか?』

 

 明らかに常軌を逸した要求を本気で実現させる気だと言わんばかりに、マリアは傲岸不遜にして大胆不敵な態度を崩さない。

 

「しゃらくさいわね……〝アイドル大統領〟とでも崇め奉ればいいのかしら?」

 

 自分たちの組織を〝終わりの名〟を称したマリアに対し、かつてその〝終焉の巫女〟と文字通りの一心同体の身であった了子は、ホログラムのコンソールを高速で操作する手を緩めぬままマリアの〝国土割譲(ようきゅう)〟を皮肉たっぷりに揶揄した。

 

「了子くん、先の八紘兄貴からの情報で思い出せたことは?」

「ダメね……《F.I.S》が〝ご先祖様〟の隠れ蓑の一つだった疑惑が高まったぐらいよ……」

 

 十二年前の《第一号聖遺物――天羽々斬》の起動実験中、翼の歌声をトリガーに先祖(フィーネ)に肉体も意識も諸共乗っ取られてから、《ルナアタック》後に彼女の魂が去って朱音とクリスの歌声で呼び覚まされた現在の了子には、フィーネに深く関連する記憶がごっそり抜け落ちている。

 弦十郎はライブのハイジャックを含め、かつての旧友(フィーネ)と同じ名のテロ組織の仕業と思われる一連の蛮行に対し、それが刺激となって了子の失われた欠片(きおく)が幾ばくか蘇り、かの組織の手がかりとなる情報を手にできる可能性を期待したが、やはりそう易々と封が解けてはくれなかった。

 

「でもこの状況(シチュエーション)、みんな覚えが無いかしら?」

「覚え、ですか?」

 

 ―――が、画面に映る二つの〝会場(ステージ)〟を比較、解析している了子から切り出された問いに対し。

 

『《PROJECT:N》か……』

 

 八紘が先んじて解答を口にし、了子は正解だと黙して頷き返し。

 

「翼ちゃん、聞くだけでいいから聞いてちょうだい――」

 

 二年前のツヴァイウイングのラストライブの時と同様、ノイズに占拠されたライブ会場の渦中にいる翼に、了子は通信を送る。

 了子のデスク上に表示された幾つかの立体モニターの内、朱音と人造人間(オートスコアラー)の戦闘を中継する画面の向こうにて、山下埠頭に〝超放電(プラズマ)現象〟の爆発が起きていた。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 相手(マリア)に悟られぬ様に翼はしばし黙して、了子からの情報を耳に付けた通信機越しに受け取っていたが、自分の手を握るレイピア状のマイクの柄を握る力を強めた。

 

「何を意図しての騙りか知らぬが……」

「私が〝騙り〟だと?」

「そうだ!」

 

 翼も、マリアが全世界の現存する国家全てに突き付けた要求は到底実現不可能なものと認識している。

 二十四時間以内に国土の割譲を実際に行うのは愚か、甘んじて応じる国など存在しない……よしんばそれを可能とする国家があるとすればそれは絶対的な独裁政権下、当然その様な体制で国を牛耳る独裁者がはいそうですかと要求を受け入れるわけがない。

 その上マリアが割譲しろと求める領土が地球上のどこで、どれ程の規模なのかすら説明もしない一方的な脅迫……実際にテロを実行、もしくは画策している輩(テロリスト)たちが聞いても〝バカげている〟と鼻で笑うか呆れてものが言えなくなってもおかしくない程に、無茶苦茶が過ぎて現実的から程遠い蛮行だった。

 

「ガングニールは貴様の様なテロリストに纏える代物ではないと覚えろ!」

 

 ならばこの要求はほぼブラフ、マリアの言葉の裏には真の目的があると了子からの説明で確信が強まった翼は、敢えて強気な態度を崩さずに自身の本音を交えて揺さぶりをかける。

 

「確かめてみたら?私の言葉が騙りか、貴方の歌で」

 

 しかし相手もそう簡単に馬脚を晒すほど柔な性質ではなく、依然として全世界への中継が続き、ノイズを前に成す術の無い観客たちの前で《シンフォギア》を纏って実力行使してみせろ――とマリアは挑発し返し、翼は口を固く結んで呻きが零れた。

 今《天羽々斬》を自身の歌で目覚めさせ、ギアを纏えば、長年徹底して秘匿されてきた風鳴翼が〝シンフォギアの担い手〟である事実が明るみとなる。

 そうなれば確実に一大スキャンダルとなって世界を震撼させると同時に、翼の歌手生命が断たれてしまうのは明白だろう。

 ただここで翼かギアを起動させて、犠牲になるのが〝歌女(かしゅ)〟としての自分だけならば………躊躇わず彼女は聖永を歌っていたのだが、その〝犠牲〟が自分だけに留まらぬと分かっている。

 もし自分がここでマリアとその背後にいるテロリストたちへの義憤に駆られるまま、防人としての歌を歌ってしまえば……波紋は自分一人に留まらず、叔父(しれい)ら二課の人たち、立花響に雪音クリス、そして朱音と奏にまで〝代償〟を支払わせてしまうことになる。

 この上さらに最悪な事態は、二課がこのテロリストたちを前に後手に回った挙句、今は表向き〝隠居〟しているが、いついかなる時も、この瞬間にも表舞台に立ち戻る機会を虎視眈々を窺い狙う〝鎌倉〟にみすみす口実を与えてしまう可能性すらあった。

 翼と弦十郎らと血縁のある祖父(かいぶつ)の介入を許してしまえば、事態は一層混迷を極めるは確定されてしまう。

 

「っ………」

 

 綱渡りを強いられる立場であると自覚し直しつつ、相手の挑発に乗るまいと自身を御しつつも、弱腰だとも思われぬ様に翼は眼光を突き返し、次なる〝時間稼ぎ〟の手を切り出そうとする直前――。

 

「なら、会場の観客(オーディエンス)を解放する!! ノイズに一切手出しはさせない!」

 

(なんだとッ!?)

 

 なんとマリアは、会場内にいる数万人規模の人質を全て解放すると言う宣言を下した。

 

「速やかにお引き取り願おうか!」

 

 自らのアドバンテージを手放すマリアの翼たちからすれば理解に苦しむ行為に対し。

 

「何が狙いだ?」

 

 思わず意図を問う翼に対し、マリアは不敵な笑みを崩さずに返す中、程なくライブスタッフの振りをして会場に潜入していた二課のエージェントたちの誘導の下、観客の避難が進められていく最中――。

 

『何の真似です?こちらのアドバンテージをみすみす放棄するなど、筋書きには無かった筈ですが?』

 

 マリアの耳に接着されているギアアーマーの一部(ヘッドセット)から、彼女の行為を咎めるナスターシャの声が響き、マリアは翼に背を向け。

 

「このステージの主役は私よ、人質なんて趣味じゃないわ」

 

 翼に聞き漏れぬ様小声で受け答えるマリア。

 

『っ――』

『〝血に穢れることを恐れないで〟――とでも言いたいんでしょ? マム』

『真矢……』

 

 マリアの独断にナスターシャ苦言を呈そうとしたタイミングで、別の場所で隠れ潜む裏方役の真矢が通信に割って入った。

 

『確かに私たちは世界の救済の為なら血塗れになる覚悟で事を起こした、でもこいつらのやり口はその決心すら嘲笑う雑音よ……ノイズを使った犠牲は無いに越したことはないし、それに―――』

 

 真矢の発言に一瞬の間が開き。

 

『――それにやね、あちらの自称防人の歌女はんには搦め手より正面から喧嘩吹っ掛けた方が効果的やと思うんよ』

 

 声が彩矢のものに代わって、彼女らの提言が追加された。

 

『うっ………分かりました、マリア、作戦目的をはき違えない範囲で続けておやりなさい』

 

 真矢と彩矢のフォローにも一理あると判断したのか、ナスターシャはマリアの独断を半ば了承する意志を示し。

 

「ありがとう……マム、そして真矢と彩矢」

 

 小声のままマリアは、通信相手らに応じ返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、内閣府本庁内の内調の執務室では、現内閣情報官の風鳴八紘がデスクに腰掛けたまま机上にて投影されるモニター越しにライブ会場の状況の推移を見守っている。

 

「みすみす人質を手放すとは……だが――」

 

 常軌を逸した要求――国土割譲を突き付けた次はあっさりと会場内の観客を解放するマリア・カデンツァヴナ・イヴの行為の数々は傍からは理解に苦しむものだったが――。

 

(――もし櫻井博士の推測通り、これが《PROJECT:N》の再演だとすれば……)

 

 ウェル博士と共にソロモンの杖を強奪した共犯者と、《F.I.S》の施設を襲撃した犯人、そして自らを〝武装組織フィーネ〟を称してライブ会場を占拠し宣戦布告を行ったマリア、その全てが同一の〝組織(テロリスト)〟による犯行だと仮定し、了子の推理と照らし合わせれば、一応の辻褄は合う。

 マリアの背後にいる組織は、《PROJECT:N》――二年前の《ネフシュタンの杖》起動実験とほぼ同様の状況を作り出すことで生じたフォニックゲインで、眠れる聖遺物を覚醒させようとしている。

 まずは翼とマリアの協奏と、両者の共演で盛り上がった観客の熱量による相乗効果で起動させようとしたが至らず、いわゆる〝プランB〟―――全世界にライブ配信されている状況下で劇場型犯罪を演出し、シンフォギア装者同士を戦わせる方針へと移行させた。

 敢えて人質を解放し、会場の外へと退避させた上でノイズとともにけしかければ、世界全体から衆目を集める現況でも翼はシンフォギアを用いて応戦せざるを得ない。なまじ枷となる人質がいない分、翼も現場に急行中の他の装者も全力で戦える分聖遺物の起動させる確率は高くなる。

 

「ぐっ……」

 

 冷静に現況を分析、推察する八紘の口の中に、苦々しさが広がっていく。

 

(早まるな……翼よ)

 

 机上に肘を置いた両手を握りしめる力が強まり、まるで祈願する体となる……否、八紘は現に願わずにはいられなかった。

 今翼が自らを装者だと全世界に表明すれば、彼の娘がせっかく見出した〝夢〟が潰えてしまう。

 

「頼む……〝ガメラ〟」

 

 瞑目する八紘の口から、我が子たる翼とは歌で縁を深め合う友である少女の、前世(かつて)の名が呟かれた。

 

 

 

 

 

 

「未来さんたちも今の内に避難して下さい」

 

 二課エージェントの迅速かつ丁寧な避難誘導で人気がまばらとなっていく会場の様を関係者枠用の席から見下ろしていた未来たちのところにも、緒川が入室して避難する様求めてきた。

 

「緒川さん! 中継を止めることはできないんですか!?」

 

 未来の手に持つスマートフォンの画面には、依然と続くライブ配信された会場内が映し続けている。

 

「会場の機能は配信含めて何者かが別の場所から掌握、操作されています、急ぎ中断させる様二課も尽力していますが、もう少し……」

「そんな……」

 

 詳細な理由までは分からずとも未来は、天羽奏がかつて纏い、今は響(しんゆう)が担う《ガングニール》と同一のシンフォギアを着衣しテロを敢行するマリア・カデンツァヴナ・イヴが、翼にもギアを使わせようと目論んでいると察している。

 

〝みんなも知っているとおり、今海の向こうから歌ってみないかってオファーが来てて………迷ってた……ずっと自分が、何の為に歌いたいのか、分からずにいたんだけど、でも、でも今は、もっとたくさんの人に自分の歌を聞いてほしい、届けたいって思ってる、たとえ言葉は通じなくても、歌で伝えられるものがあるなら………世界中の人に、私の歌を聞いてもらいたい………送り届けたい!〟

 

 このまま世界中からさらし者の状態で翼もギアを使って戦おうとすれば、以前のライブで語った彼女自身が見つけた〝夢〟が消え失せてしまうこともなまじ理解できてしまうがゆえに、このまま翼だけを残して逃げるのは気が引け、未来の良心を疼かせる。

 

「でも未来(ヒナ)、私たちがここに残っててもどうしようもないよ」

「立花さんたちも今こっちに向かっているんですし」

「それにこういう時、アニメじゃ〝ヒーロー〟ってのは遅れてやってくるけど、良い時に絶対間に合って来るもんよ」

「………うん」

 

 確かにシンフォギア関連の事情を存していることを除けば一介の民間人でしかない自分たちが居てもどうしようもない。

 

「行きましょう、経路はこっちです」

 

 客席から出ようとその場から創世たちとともに踏み出す未来は、ふと振り返って夜空を見上げる―――と。

 

「流れ……星?」

 

《ルナアタック》により地上からでも分かる程の深手を負った月の光が照らす上空に、流星らしき物体が一つ、駆け抜けている。

 

(あれは……もしかして)

 

 瞬きを忘れかけるくらいに〝星(ひかり)〟へと注目する未来は、確信を得た。

 あの流星の正体が、危機に瀕する翼に舞い降りようとしている〝希望〟なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客の避難は完了し、ライブ会場に残されたのは観客席を屯するノイズたちと、舞台上に立つ翼とマリアのみとなった。

 会場内はすっかり先程までの熱気と歓声の面影は無く殺風景な静寂が流れ、秋から冬へと至ろうとする季節の境目特有の寂しげな風が鳴いている。

 吹かれる風の音色のせいか、どこか真夜中を荒野を連想させる様となった会場を見渡すマリアの口から――。

 

「〝帰る場所〟があると言うのは、羨ましいものだな……」

 

 と言う言葉が零れたのを、翼の聴覚は逃さなかった。

 

(まただ……)

 

 翼はマリアから、一見傲岸不遜かつ大胆不敵な様相の隙間から垣間見える〝違和感〟をまた覚えた。

 その違和感の正体に、現状の翼では上手く表現するのは困難なのだが……やはりどこか〝助け〟を乞う印象を感じ取らざるを得ない。

 

「マリア……お前は、一体……」

「観客は全て退去した、もう被害が出ることはない!」

 

 しかしまたマリアの顔つきからかの〝違和感〟は再び封じ込められ、挑発的な笑みを翼に向けてきた。

 

「それでも尚私と戦えないと言うのであれば―――それは貴方の保身の為」

 

 レイピア状のマイクで指差してくるマリアの問いに否と返せば、嘘となってしまう。

 事実翼がギアを起動させない理由の一つに、人質となっているに等しい〝歌手生命〟がある、保身と揶揄されても肯定せざるを得ない。

 

「違うかしら?」

 

 今まで微動だにしなかったノイズたちが、マリアの主張に同調するかの様に動き出し、ゆったりと、しかし確実に翼を取り囲み、ギアを呼び起こす聖永を歌わせようと近寄ってくる。

 翼の歌手生命が断たれた後でも、自分たちが観客の代わりとなって彼女の〝歌〟を聞いてやると言わんばかりに。

 

「その程度の覚悟しか持たぬなら、戦場(いくさば)に咲く抜き身の貴方を――引きずり出すまでッ!」

 

 刺剣(マイク)を構えたマリアは翼に狙いを定め、肉薄する。

 ギアアーマーで強化された人体(マリア)から繰り出す刺突の連撃、一刺しでも生身にまともに貰えば致命打は確実。

 幸いにも翼は長年鍛え上げてきた剣術で、刀剣の扱いに関しては二課所属の装者の中でも群を抜いている。

 舞を踊る様を思わす体裁きでマリアの刺突を紙一重で躱し、脚に狙いを定めたマリアの刺突をその場で跳び、マイクを踏み台に後方へ半円を描いて宙返りしながら自身の手が持つマイクを投槍に、マリアめがけ投擲。

 槍(マイク)はあっさりとマリアの籠手に覆われた裏拳で弾かれるもその一瞬を逃すまいと、カメラの目から逃れるべく舞台裏へと全力疾走する翼。

 

「逃がさんッ!」

 

 一方黙って見送るマリアでもなく、彼女もマイクを槍に、翼にめがけ放り投げた。

 速力を維持させたまま翼は、迫る槍をハードルを跳び越える様にジャンプして躱すも。

 

(しまっ――)

 

 着地の際、片足のヒールが折れ、バランスが崩れた。

 

「貴方はまだ、戦場(ステージ)から抜けることは許されない」

 

 翼の額から焦燥の冷や汗が滴る中、背後から嗤うマリアが迫り、翼の腹部を蹴り上げる。

 加減こそ抑えられていたが、直撃を受けた翼の身体は虚空へと放り出されていった―――その時、全世界に中継されている証明たる、会場内の大型モニターが突然消灯する。

 

(中継がッ!?)

 

 全世界同時中継が途絶えた理由が分からず内心にて動揺するマリアに対し。

 

「Imyuteus~amenohabakiri~tron~♪(羽撃きは鋭く、風切るが如く)」

 

 宙を漂流する翼から《天羽々斬》の聖詠が唱えられ、同時に上空から先程未来が目にした〝流星〟が急降下してきた。

 ライブ会場は一転、《天羽々斬》の目覚めと舞い降りた流星による強烈な閃光に埋め尽くされ。

 

《玄翁轟雷――サンダーストロークタイタン》

 

 輝きの中心から、全方位に迸る雷撃が放たれ、会場内のカメラ及び音響設備を全て破壊尽くし、世界へライブ中継する手段の一切が断たされた最中。

 

『『マサニ今宵~~イマ世界ハ~~一ツニナル~~届キタマエ~叶エタマエ~さあ――始まろう~~♪』』

 

 先程マリアも歌っていた筈の《不死鳥のフランメ》の詩が、伴奏をバックに奏でられる〝歌声〟たちが激しい雷鳴をも上回る声量で響き渡り。

 

《双刃ノ炎雷》

 

 柑子色の炎と水色の稲妻で構成された高エネルギーの竜巻が〝光〟の中心から解き放たれ、マリアに迫る。

 

『マリア、下がって!』

 

 通信機越しの真矢からの警告を聞き、咄嗟にマリアは後方へ飛びのいた。

 彼女が立っていた地点が空間歪曲を起こし、サイを連想させる角と体躯が特徴的な体長およそ15メートル程の大型四脚タイプがマリアの〝盾〟となるも、一秒も竜巻の猛攻に耐え切れず爆発。

 

『燃えなさい~~♪』

『人に~~♪』

『『運命(さだめ)などない~~♪』』

『飛びなさい~~♪』

『過去を~~♪』

『『引き千切って~~♪』』

 

 漆黒の《ガングニール》のアーマーを構成するマントを翻し、爆風から身を守ったマリアの聴覚含めて会場全体に《不死鳥のフランメ》の音色が轟き続ける。

 

「………」

 

 意を決した表情を見せるマリアの両腕の籠手が射出され、合体・変形し彼女の身の丈を超える〝裂槍〟となって柄を掴み取り構える。

 

『行きなさい~~♪』

『アツく~~♪』

『『――羽撃き合い~~♪』』

 

 マリアの双眸が見据える爆炎から、二つの人影がこちらへと歩いてくる。

 その正体は――。

 

「あれが……《天羽々斬》―――《ガメラ》」

 

 既に各々のシンフォギアを起動させ〝変身〟し、アームドギアの切っ先をマリアに向け。

 

『『響き伝う~~奏で伝う~~絆ッ♪』』

 

 凛々しくも高らかに、互いの歌声をシンクロさせて協奏する翼と、草凪朱音が炎を背に立っていた。

 対峙する装者同士、ここからが決戦だ。

 

つづく。

 




※今回の使用曲『不死鳥のフランメ』:朱音&翼ver

おかしいな……武装組織フィーネの首魁として堂々と振る舞うマリアさんの回の筈だったんですけど、焦点が翼の『夢』の方へどんどん移っていきました(苦笑

マリアさんが宣戦布告と無茶苦茶な政治的要求する裏で二課に情報を提供する役は原作同様斯波田事務次官か前作で先に登場させた八紘パパさん(中の人の山路和弘さんは推しなので)か迷った。
事務次官は外務省だけど、八紘パパさんが長官を務める内調は内閣官房所属と部署が違うんですよね。
でも八紘パパさんの方にしたことで、娘の『夢』がテロリストの蛮行で奪われかける事態を前に憂う父の姿を描けたのは僥倖です。

風鳴の外道爺こと訃堂の名を出したのも、原作でもAXZで本格登場する以前から表舞台に再登板する機会は常に窺ってたと思うんですよね。
奴視点から見るとGの時点でも実体は『テロリストもどき』な武装組織フィーネに後手に回り、GXではキャロル一味に新宿壊滅するわ、AXZではアメリカから反応弾をプレゼントされかけるわで、二課及びSONGには『てめえらには当てにならん!!』と行きついてXVに繋がったのも確かですし。

未来が『流れ星』と呟くのは無印3話でビッキーが同じ台詞を呟いたのが元。
未来にとってビッキーは太陽、ビッキーにとって未来は日だまり――の親友(?)同士な強い絆を持ち、それに敬意を払うからこそ、アレな表現ですがbotみたいに『響……』と呟くだけの子にしはしたくないもので。

ちなみに、サイ型のノイズは本作オリジナルです。
サイが盾(ガード)になる――もうお分かりですよね(オイ
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