小山が撤退していく。
あの姫路の暴れっぷりを見たら妥当な判断だな。
姫路が参戦したという情報が広まればCクラスの男子も参戦してくるだろうが、そんな時間を与える気は無い。
「それじゃ、行こっか」
「ええ。行きましょう」
後は僕達の仕事だ。サクッと討ち取ってやるさ。
一体どうなっているの!?
逃走して手近な部屋に駆け込んだ私は頭の中で何度も同じ言葉を繰り返していた。
盗撮犯にあれだけ敵愾心を抱いていた姫路さんがまさか裏切るだなんて。
裏切る……と言うか、これは試召戦争なんだからFクラスの姫路さんはFクラスに味方するのが本来の流れではあるけども、それでも私たちに協力か、悪くても黙認くらいはしてくれるだろうと思っていた。
そして結果は……ご覧の有様だ。
全滅ではないけれど結構な人数をやられた。今この部屋に居るのは私含めても10人ちょいだけだ。
「……とにかく、姫路さんを倒すには戦力が足りない。
傍観してる男子達を何とか動かして……」
「失礼するわ」
ノックも無しに扉を開けて入ってきたのは、Aクラス副代表の空凪光、そして木下優子の2名だった。
こんな時に一体何かしら?
「ずっと静観してたAクラスが一体何の用なの? 私は忙しいんだけど」
「色々と言いたい事はあるんだけどね、あなたはバカなの?」
「はぁ!?」
「ああごめん、返答は要らないわ、本物のバカは自分がバカであると認識してないから」
「どういう意味よ! 私がそうだって言いたいの!?」
「いいえ、バカじゃないなら否が、本物のバカでも否という返事が帰ってくる。だから返答に意味が無い。
理解できる? おバカさん」
「サッサと用件を言いなさい!」
何なのかしら。まさか本当にバカにする為だけに来たのかしら?
もしそうならサッサと出ていって欲しい。
「……まあいいでしょう。Aクラス代表の代理人として、あなたに質問させて貰うわ。
あなた達、クラス間協定を破ったわね?」
「っ!!」
「無謀にもAクラスに殴り込んできたあなた達の教室のグレードを下げないっていう温情措置の代わりに敗戦時と同様の3ヶ月間の宣戦布告の禁止を設けたはずよ?
まさか忘れた……なんて寝言を言う気じゃないでしょうね?」
「…………」
正直言うと、忘れていた。
教室目当てで試召戦争をする気はほぼ無かったし、やるにしても学期末の時期にするつもりだった。
その頃には3ヶ月は過ぎている……はずだった。
「っ、だけどっ、これは盗撮犯達に制裁を加える為の戦いよ!
それに、挑んだのはAクラスではなくFクラス。あなた達には何の迷惑も……」
「そういう問題じゃない。どんな理由があれど無断でやるのは有り得ない。ちゃんと理由があるなら堂々と弁明すれば良かったのよ。
そして、迷惑なら十分被ってるわ。代表たち……霧島さんと坂本くんが一緒に勉強してた。そんな時間を奪われたんだから」
「たったそれだけでしょう!? その程度の事で盗撮を許せるはずが……」
「そもそもだけどさぁ……戦争で報復ってどうなの?
補習室送りが辛うじて制裁になるとして、戦争が早期に決着したら短時間しか送れない。補習義務を負うのは『戦争が終わるまで』だから。
そして、その性質上代表である坂本くんは補習義務を一切負わない。随分と安っぽい制裁ね。
勝った後の教室のランクダウンも制裁に入れる? 関係ない人が大勢巻き込まれるわね。随分と身勝手な正義だこと」
「だったらどうしろって言うのよ!!
こうでもしないと教師達が止めてくる。私にはこの手しか無かった!」
「いや、もう一個あるでしょ。何もしないっていう選択肢が」
「それこそ有り得ないわ!! 盗撮犯達が何の罰も受けずに安穏としてるなんて!!」
「あいつらが盗撮犯だと誰が決めた?」
「……えっ?」
光さんが詰め寄ってくる。
その瞳は真っ直ぐとこちらの目を射抜いてきた。
「あいつらが犯人ではない、そうは考えなかったのか?」
「あいつらじゃなかったら誰だって言うのよ!!」
「それを教えてやる義務は無い。
まぁ確かに? あいつらが想像も付かない手口でこちらを出し抜いた可能性は否定しない。
だけど……少なくとも空凪剣が犯人ではない事は確信できる」
「どうしてよ? 弟……あれ、兄? きょ、兄弟だからとでも言いたいの!?」
「もっと、単純な話だよ!」
目の前の女子が、サッと自分の顔を拭った。
現れたのは、化粧が少し落ちた顔と、片方だけ色の違う真っ赤な瞳……
「ま、まさかあなたっ!!」
「秀吉! やれ!!」
「うむ、
木下さん……いや、Fクラスの木下秀吉の口から白銀の腕輪の起動ワードが放たれた。
コレの効果は、召喚フィールドの作成……となると、マズいっ!!
「さぁ、Fクラス副代表、空凪剣が貴様に勝負を挑む!
さっきまで光さんだと思っていた人物が勝負を宣言した。
[フィールド:古文]
Fクラス 空凪剣 400点
「そんな……まさか入れ替わっていたなんて!」
「一応言っておくが、僕はAクラスとは名乗らなかったぞ? 代表の代理だとは言ったが」
「ワシも同様じゃな。なるべく喋るなと姉上から頼まれておった」
「くっ、近衛兵っ!!」
「無駄だ。地震でも起これば顔がぶつかりそうなこの至近距離でバトンタッチを行うのは不可能だ。
距離を稼ごうにも部屋面積は限られている。
それとも、窓から出るか? ここは3階だ。軽い怪我で済めばいいな」
「くぅぅぅっっ!!!」
「これで、チェックメイトだ」
この数秒後、Fクラスは戦争に勝利した。
「以上、これにて戦争終了っと」
「清涼祭の時の話がリメイク前と微妙に変わってるんで僕と光の入れ替わりはこれが初になるな。
流石に木下姉弟ほどそっくりではないが、Aクラスの女子たちから化粧品をかき集めて色々と誤魔化し、特徴的なオッドアイをカラーコンタクトで隠せば騙すくらいはできる」
「普段のキミは眼帯とかいう有り得ないくらい目立つものを着けてるもんね。同一人物だとは思わないかな」
「相手が偽物だという発想がそもそも浮かばなければ入れ替わりは容易い。
そして入れ替わりに成功すれば、逃走を許さない確殺の距離まで近づくのは簡単だな」
「確殺距離に辿り着けてもフィールド張るのが大変だけどね。普通は」
「そこでもう1人の変装者の出番だな。
まぁ、フィールド張るだけなら他クラスが出張っても大丈夫な気がしないでもないが……ややグレーなんで安全策を取った」
「明らかにFクラスに味方するフィールドの張り方だもんねぇ……」
「後で面倒な事になっても嫌だからなぁ……」
「では、次回もお楽しみに!」