2人の策士編 プロローグ
オレ……宮霧伊織に友達は居ない。
理由は、単純に人付き合い面倒くさいからだ。
オレは自分が1人でも生きていける……なんて無茶な考えは流石に持っていない。
それでも面倒臭い。だから付き合いは必要な分だけだ。必要な分だけは程々に頑張っているつもりだ。
そんなオレは昼休みはいつも屋上でのんびりしている。雨の日とか、あるいは逆に凄く照りつけてる日は別の場所で時間を潰すけど、今日は丁度いい曇り空だ。
この屋上は殆ど誰も来ない。人気の無さのおかげで告白スポットとして知られるくらいにはな。
……そのせいでたま~に告白の声が聞こえたりするが、オレはいつも屋上の出入り口の更に上の部分で寝そべっているから向こうから気付かれる事は無い。告白が成功したら内心舌打ちし、逆に失敗したら心の中でザマァと言ってやるだけだ。
今日はまだ誰も来ないな。チャイムが鳴るまでのんびりと昼寝するとしよう。
そんな事を考えていた矢先、扉が開く音がした。
誰だろうかと顔を出す、なんて事はしない。誰かが来たというのは鬱陶しいけど、誰が来たかなんて重要じゃないからだ。
「うううぅぅぅ~~~……」
女子の声だな。聞き覚えがある声だ。
告白の為に男子を呼び出して、待っている最中だろうか?
「ううぁぁああ、うぅぅう~~…………」
……よっぽどテンパっているのか、それともまた別の理由でもあるのか。
どうでもいいけどうるさい。
「ああぁぁ~~、うぅぅ~、うぁあああ~~!!」
「うるせぇよ! いい加減にしやがれ!!」
我慢しきれなくて怒鳴りつけてしまったが後悔はしていない。
……が、立ち上がってその姿を確認してから後悔した。
「……何だ、島田さんか」
「い、伊織!? ど、どうして、いつから居たの!?」
「……どーでもいいだろ。うるさくしないなら何も言わないから放っといてくれ」
「待って! お願い、ウチの話を聞いてほしいの」
「ムシの良い話だな。合宿の時は散々人の話を聞かなかったクセに」
「うっ、それは……その……ごめんなさい」
島田さんが謝った。どうやら悪いことをした自覚はあるらしい。
だが、だからと言ってはいそうですかと許すつもりは無い。
「あんたの話を聞くつもりつもりは無い。
……完全に聞き流すから、独り言を喋りたかったら自由に喋ればいい」
「それって……ありがとう、伊織」
「…………」
許した訳じゃないさ。でも、話とやらを聞くだけでも暇つぶしにはなるし、面倒そうだった本当に聞き流してしまえばいい。
はてさて、一体どんな話をするのやら。
ウチが瑞希と話せたのは試召戦争が終わった日の夕方頃だった。
あの合宿での試召戦争が盗撮犯達への報復だというのは教師達にも分かってたらしい。ウチもCクラスの皆と一緒に西村先生からの説教を受けていて、解放されてすぐに部屋に戻ったら瑞希が居た。
「あ、美波ちゃん、戻ったんですね」
「瑞希っ!! どうしてアキ達の味方をしたの!? 一体何があったの!?」
「……私がやるべきだと思った事をしたまでです」
「答えになってない!」
「そうですね。では、順を追って説明していこうと思います」
結論から言うと、瑞希の話は『アキが盗撮を行うのは現実的ではない』という事だった。
「以上になります。と言っても、半分以上は空凪くんからの受け売りなんですけどね」
「アキは盗撮犯じゃない……? じゃあ一体誰が?」
「そこまでは私にも分かりません。でも、吉井くんではない。そう思ったから私はあちら側に立ちました」
「それじゃあ、本当はやっぱりアキが犯人かもしれないじゃない。もしそうだったらどうするの?」
「その時は……そうですね、その時は改めてオシオキします♪
でも、ちゃんと事実を確認してからです。今回の件が冤罪だったのかどうか、私には分かりませんけど……少なくともロクに調べもせずに行動してしまった事だけは事実です。
同じ事をしてしまわないように、慎重に調べます」
「…………そっか」
瑞希の話を聞いているうちに何となく分かった。どうやら間違えているのは自分の方らしい、と。
アキ達が盗撮犯なのかそうでないのか、それは結局分かってない。けど、分かってないからこそウチの行動は間違いだったんだ。
「それで、美波ちゃんはどうしたいんですか?
真犯人を突き止めたいですか? それとも……」
「ウチは……謝らないと。アキに、アキ達に」
「……そうですか。それが良いと思います。
許してもらえるかは分かりませんが、まずはそこからですね。
何かあれば私に相談して下さい。一緒に頑張りましょう」
ここまでが、合宿4日目の話か。
そんな事があったんだな。結構じゃないか。
「で、その話が何だって言うんだ?」
「……アキに、謝れてないの」
「……合宿が終わってから1週間近くあったよな? お前さんは一体全体何をやっていたんだ?」
「違うのよ! ウチなりに頑張ったのよ! だけど……」
「あ、アキ!」
「み、美波……? どうしたの? 何か凄く怖い顔してるけど……」
「あの、その、えっと、その……」
「…………?」
『会長! 吉井が女子と話している現場を目撃した! 至急応援を求む!!』
『良かろう、判決、死刑!!』
「えっ、ちょっと、待って!? 今のは決して話してたとは言えないような……」
『仮にそうだったとして……女子の半径1kmに入っていただけで万死に値する!!』
「いや、それ無理じゃ、うわぁあああ!!!」
「……って事があったのよ。
何度か頑張ってはみたけど、毎回毎回何かしらに邪魔されて……」
「謝罪くらいサラッと言えんのか」
「言えたらこんなに悩んでないわよ!!」
「じゃあ……邪魔が入らなそうな場所、例えばこの屋上にでも呼びつけるとか……」
「そんな告白みたいな事できるわけないじゃない!!」
面倒くせぇ……やっぱり放っときゃ良かったかな。
でもまぁ、顔見知りが1回やらかしたくらいで見捨てるほどオレは合理主義者でも冷徹でもない。
謝る意志があるって言うなら少しくらいは手を貸してやりたいというのが心情だ。
もう少しだけ付き合ってみるか。
「……姫路さんの真似をするのはどうだろうか?」
「瑞希の? どういう事?」
「姫路さんは俺たちが絶体絶命の状況で駆けつけて助けてくれた。
ちょっと乱暴な言い方をすると恩を売る事ですんなりと謝罪を成功させた訳だ。
あそこまで絶体絶命な状況はそうそう無いだろうけど、吉井とかが困ってる時にさり気なく手伝ってやったりすれば多少はやりやすくなるはずだ」
「恩を売る……なるほど。そういう手もあるのね」
「ああ。悩みは解決したか?
それならまた昼寝したいんでサッサとどっか行ってくれ」
「え、あの、伊織っ!」
「……まだ何か?」
「その……ありがとう、それから、色々とごめんなさい」
「謝るんならまず吉井に謝るんだな。アンタの被害を一番受けたのはアイツだ」
「……それもそうね。ありがとう、じゃあね!」
そうして島田さんは去って行った。
……しかし、提案した俺が言うのもどうかとは思うが、果たして恩を売る事が可能なんだろうか?
須川たちを刺激しないようにするなら近づかない事こそが吉井が最も望む事になりそうだ。
大丈夫かなぁ……
……というのが数日前の昼の話だ。
「坂本、よく聞け。俺たちBクラスはお前たちFクラスに試召戦争を申し込む!」
島田さんにとってはある意味都合が良い話だな。
オレとしてはクソ面倒くさいだけだけど。
「以上、宮霧伊織の視点での話だ」
「謝罪の意志があるのは良い事ね。
リメイク前だと島田さんの真意はそこそこ隠されてたっけ」
「そうだな。今回はリメイクという事で島田側の視点の補強を試みている。
しかし、本人視点だと独りよがりになりそうなんで宮霧でワンクッション置いてある」
「それじゃあ今後は懸命に謝罪しようとする島田さんとそれを暖かく見守る宮霧くんの話になるのかしらねー」
「貴様が言うかそれ、穏やかな展開をぶち壊しにした貴様が」
「あっはっはっ、ナンノコトカナー」
「……まあいい。貴様も意図してやったわけでもないだろうしな」
「そうそう、私は悪くない!
では、次回もお楽しみに」