……放課後……
試召戦争の為に必要な事務手続き等は昼休み中に片付けたので、いつも通りに帰宅を行う。
……と、思っていたが校門の前に何やら見覚えのある人影が。
「やっほ~。元気?」
「おかげ様でな。何をしているんだ御空。
道端のアリの観察でもしていたのか?」
「何でわざわざこんな所でそんな無駄な事をしなくちゃならないのよ」
「…………夏休みの自由研究を先んじてやっている、とか」
「小学生じゃあるまいし……あれ、無いよね? 自由研究なんて」
「……そうか、貴様は今年度からの転入組だから知らないのか。夏休みの宿題の内容を……」
「待って、何その深刻そうな顔。一体何をやらされるの!?」
「……そんな事より、一体何をしていたんだ?」
「『そんな事』で済まさないで欲しいんだけど……まあいいわ。根本くんにでも聞くから」
チッ、もう少しからかってやろうかと思ったんだがな。こういう切り替えの早さは流石は御空と言うべきか。
ここで精神的な負担をかける事で試召戦争で優位に立とうという僕の無駄な作戦が台無しになってしまった。仕方ないから普通に話そう。
「で?」
「ああ、うん。キミがどうしてるかな~って。
学校内で接触しようとすると下手すると作戦を盗み聞きしちゃいそうだからこうして放課後まで待ってみたわ」
「放課後まで僕と雄二が話してたらどうする気だったんだ」
「その時は適当に挨拶してサヨナラね。
それで、どう? Bクラスに勝てそう?」
「ああ、もう楽勝だな。秒で終わる」
「そんな台詞が真実になるのはキミ達が開幕で自殺した場合だけだと思うわ。
ま、悲観してるようじゃなくて安心したわ。戦意喪失したFクラスと戦うとか弱い者イジメでしかないもの」
「言えてるな。と言うか、普通に考えたら戦意なんて関係無く弱い者イジメなんだがな……」
「普通じゃない筆頭のキミが言う台詞ではないわね。
一体何でキミみたいなのがFクラスに居るのって話よ」
「面白そうだったからな。それだけだ」
「……ふぅ、こんな事になるんなら私もFクラスに入りたかったわ」
「ハハッ、残念だったな」
「今更クラスを変えられるわけもないし、Bクラスとして、精一杯挑ませてもらうわ。
首を洗って待っていなさい」
「え~、洗うの面倒い。服が濡れそうだし」
「物理的に洗わなくてもいいから!!」
マイペース過ぎる空凪くんの帰宅を見送りながら考える。
果たして、今のクラスとFクラスのどちらが楽しかったのか、と。
私がBクラスを選んだのはAクラスに勝てるクラスがそれくらいしか無いと思っていたからだ。
ところが蓋を開けてみればFクラスはAクラスに勝ってしまった。その後の教室の防衛の事まで考えて教室自体は放棄したもののAクラスとの勝負に勝った事は揺るぎ無い事実だ。
ただ……
Fクラスの勝ち筋を分析するとやはり高得点持ちの一点突破が目立つ。Fクラスなんだからそれしかないというのは理解できるけど、私がやりたい事とはちょっとズレている気がする。
それに……きっと、空凪くんとは仲良くするよりも殴り合っていた方が楽しい。そんな気がする。
今度の戦争ではきっと直接戦える機会があるでしょう。全力で、楽しませてもらいましょうか。
「あ、坂本く~ん」
しばらく待っていたらもう1人のお目当ての人物である坂本くんがやってきた。
呼び止めた私に対して露骨に嫌そうな顔を浮かべられた。まったくもう、こんな美少女が話しかけてあげてるんだから少しくらいは喜べば良いのに。
「何か用か御空」
「Fクラスの代表サマが腑抜けてないかの確認がしたくてね。
どう? 戦争には勝てそう?」
「ああ余裕だ。秒で終わる」
「……それ、空凪くんも言ってたわよ。流行ってるの?」
「アイツとも話したのか。作戦を訊き出そうとしても無駄だぞ?」
「いやいや、そんなつまんない事しないって」
空凪くんといい坂本くんといい私の事を一体何だと思ってるんだろうか?
私は卑怯な事なんて一切しない! ……なんて甘い事を言う気は無いけど搦め手専門のFクラスに比べたらかなり正統派寄りの人間のつもりだ。
……まぁ、作戦を漏らしてくれたらいいなとか思ってたのは事実なんだけどね。
「アイツと話したのであれば俺が言いたいことは大体言ってくれたはずだ。
用が無いってんなら帰らせてもらうぞ」
「あ、ちょっと待って。1コだけ!
……夏休みの宿題って、自由研究あるの?」
「…………は?」
御空からの謎の質問には『そんなモンは無い』と答えて校門を出た。
しかし一体何だってあんな質問を……夏休みの宿題の予習でもする気か? いやでも自由研究……? 普通に考えたらうちの学校にそんな面倒な代物が無い事くらい分かりそうだが。
まあそれはいい。どうでもいい。そんな事よりも重要な事がある。
さっきから、誰かに後をつけられている。
心当たりはいくつかあるが、大本命はBクラスの連中か。
クラス代表である俺にだけ何か仕掛ける気か、あるいはクラス全員に手を回しているのか……いや、流石に人手が足りないだろう。
ただ、俺に何かする余裕があるなら副代表にも手を回す余裕くらいはあるはずだ。
そこまで考えた俺は携帯を取り出す。
「もしもし」
『あ、もしもし? オレだよオレ! 実はさっきセグウェイで人を轢いちゃってさ。
示談金として631万……』
「何で受けた側がオレオレ詐欺をかましてやがるんだ!」
『いや、実は丁度電話しようと思っててさ。話す内容考えてたらそっちから電話が来たんで使ってみた』
なるほど、電話するつもりだったならオレオレ詐欺も納得……できる訳が無ぇだろバカヤロウ。
ツッコミ所が多すぎる会話はひとまず置いておくとしよう。キリが無い。
「お前も電話しようとしてただと? と言うことは……」
『相談内容は言うまでも無さそうだな。文月公園で落ち合おう』
「分かった。すぐ行く」
電話を切った俺は駆け足で集合場所に向かった。
後ろの方から響く足音を聞きながら。
「と言う訳で僕と雄二の帰宅風景だ」
「空凪くん、やっぱり自由研究なんて無かったじゃないのよ!」
「僕はあるとは一言も言ってないんだが……」
「まぁそうなんだけどさ……」
「……今回は語れる場所はあんまり無さそうだな。
尾行者についてはノーコメントしかできないし」
「そうねぇ……
それでは、次回もお楽しみに!」