「……こんなものか。少し休んでくる」
眼帯を元に戻しながら告げる。
低い点数なりに頑張ってアシストしてきたが、流石に疲れてきた。うっかり戦死しないうちに撤退させてもらおう。
「え、もう? ウチらが来てからまだ10分くらいしか経ってないわよ?」
「おいおい、貴様らが来るまで僕はずっと戦ってたんだぞ?」
「でも、眼帯外したのってついさっきの事よね?」
「僕には30分フルに戦わなければならないというルールでもあるのか?
切り札というものは切らない事にだって意味はある。
さて、代わりの部隊長は……島田、貴様でいいな?」
「え、あの、ウチで良いの?」
「前回戦争に手を貸さなかった愚か者よりもしっかりと反省しているらしい貴様の方が100倍は信用……いや、1億倍でも届かないくらい信用している」
「そんなに!? そこまで言われると逆に怖いんだけど……」
なに、大した事じゃないさ。島田の信用が高い……というのも多少はあるが、それよりももっと重要な要素があるというだけの話だ。
「美波ちゃん、空凪くんは他の人達の信用が完全にゼロだって言いたいんだと思いますよ」
「え? ……な、なるほど。確かに1億倍どころか1兆倍でも届かないわね。
いや待って、他の人達が0だとしても瑞希はどうなの?」
「……貴様より高いのは確かなんだが、単純に適性の問題だ。貴様の方が大声で指揮できそうなんでな。
……ああ、言っておくが、前のBクラス戦の時みたいに誤情報に騙されて戦線放棄したらブチのめすからそのつもりで」
「肝に命じておくわ」
という訳で拠点まで戻ってきた。
「ただいま~」
「ご苦労。問題無かったか?」
「御空の点数が少々予想外だった点を除けば問題無し。
ただ、予定通りに
「できれば温存して欲しかったが無理だったか。分かった。ゆっくりと休んでいてくれ」
「ああ。戦争が終わるか明日に持ち越されるまでは起こしてくれるなよ」
敵も味方もほぼ完全に騙されてくれたと思うが、今日の僕が集中状態を使った時間は既に30分を越えている。
これ以上はいつ意識が飛んでもおかしくない状態だ。
今日はサッサと自分から意識を落とすとしよう。
「それじゃ、お休みなさい……」
空き教室の隅っこで、僕はそっと目を閉じた。
「ここまでは概ね予定通り、か」
「そうなの? 御空さんの点数とか凄く予想外だったけど……」
「アレを除けば予定通りだ」
俺の独り言に対して明久が疑問を呈した。確かにアレは予想外だし予定外だった。
一応、御空が只者じゃないって事は俺も何となくは察していた。翔子以上だとは思わなかったが。
あんな姫路並のクラス詐欺が居るとはな。これで操作技術が明久並だったらチートも良い所だが、幸いな事にそんな事は無くむしろ転校組なだけあってやや下手な部類のようだ。あいつの腕輪はともかく普通の攻撃は剣が全回避してたし。
「まぁ、御空の点数もかなり削ることができたし、こちらは姫路も島田も絶好調らしい。
数学1Aの1点突破でBクラスを教室まで押し返せるだろう」
「そうだね。姫路さん……はいつも通りな感じだけど美波は凄く張りきってたね。何があったのかな?」
「俺に思い当たるのは合宿での汚名返上くらいか? でも島田っぽくない発想……ああ、そういう事か」
「どうしたのさ」
「いや、何でもない」
そう言えば島田を出すように勧めてきたのは宮霧だったな。あいつの入れ知恵か。
……あの2人、仲良かったのか? まあいいか。
「う~ん、でも雄二、姫路さんと美波で突破できるって話だけど、大丈夫なの?」
「どういう意味だ?」
「だってほら、科目が変わったら御空さんも参戦してくると思うよ。数学があれだけ取れてたら他の科目でも400点越えが沢山あってもおかしくないし。
それに、美波の苦手科目に変えられちゃったら戦力にならないんじゃない。姫路さんならそんな心配ないけど」
「明久にしてはよく考えるじゃねぇか。だが心配は要らない。
何故なら、今回の戦いにおいて俺たちは『攻撃側』ではなく『防衛側』だからだ」
「…………?? どういうコト?」
「いつも戦争を吹っかけていた俺達だが、今回は吹っかけられた側だ。
そして、攻撃側にはいくつかの義務がある」
試召戦争はこの学校においてほぼ最優先の行事であり、通常の授業を潰されて行われる。
だから、戦争の決着を付けずに延々と延々と長引かせれば一切授業を受けずに1年間過ごすという事も理論上は可能だ。
そして、クラスの代表者同士が談合してそんな状態にしようとした事が実際に過去にあったらしい。
それを見た学園側は大慌てでルールを追加。戦闘行為が一定時間行われなかった場合、戦争を吹っかけた側『攻撃側』に警告が入り、それでも戦闘が行われなければ攻撃側の敗北で決着となる。
それでも談合の戦闘でペナルティを回避しようとしたらしいが、複数の教師が『談合だ』と判断した場合には戦闘行為としてはカウントされないというルールも追加された。
それでも頑張って実際の戦闘っぽく演じようと試みたらしいが、そんな方法で授業をサボろうとするような奴の点数なぞたかが知れている。些細な操作ミスで戦死者が出てしまい、戦死者には『戦争が終わるまでの補習義務』が課せられた。
そんな戦死者の数が一定数を越えた後、そのうちの補習に嫌気が差した誰かから戦争の時間(補習の時間)ではない空き時間に教師陣に全て暴露。最終的には談合したクラスの奴らは激しくお灸を据えられて休日も登校して潰れた授業の補填をさせられたそうだ。(補習で補填できた生徒は除く)
「……雄二、長いよ。3行で」
「要するに攻撃側は消極的な手は使えないって事だ。
俺たちは自分の有利なフィールドに引き篭もって相手が攻めてくるのを待てば良い。
階段からのルートも階段戦法で塞いであるから奴らは正面突破するしかない」
尤も、盤石だと思っていたこの作戦も御空のせいで欠陥が発生した。
補充試験を戦争中に受ける事は当然可能。と言うか、剣みたいな例外を除けばそっちの方がメインだ。
あんまり消極的過ぎると御空が点数を補充してまた前線に出てくる。対策を練らなければならないな。
「いじょ、今回の話はここまでだな」
「…………やってくれたわね。ホント」
「騙される方が悪い。何のために僕が眼帯などという分かりやすいアイテムを身につけていると思っているんだ」
「ハンドサインと同じで騙すためだと」
「一応、僕が集中状態に入る為のルーティーンは用意してある。
右目を、ギュッと閉じてから、開く。それだけだ。
眼帯はむしろそれを隠す為のアイテムだな」
「一応ただの飾りではないのね。眼帯」
「ああ」
「……さてと、後半は独自ルールの解説だったわね」
「こんなルールを作成した理由は……雄二のモノローグの通りだな。
談合で授業を永遠に休みにできてしまう」
「ルール上それが本当に可能っていうのがね……」
「『いのちだいじに』を最優先にして明久並に操作の上手い奴ら同士の戦いであれば談合なんてしなくてもマジで戦争が永続する可能性まで有り得る。
いやまぁ、来年度まで持ち越される事は無いだろうが」
「それだけ続いたら十分過ぎるでしょうが」
「そうだな。しかしまぁ、それだと流石に色々とヤバいから戦争期間に関しては何かしらの制限がかかっていても不思議ではないな」
「では、次回もお楽しみに!」