バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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03 兄と姉が出会っていた頃に

 ある日の帰り道、私は急いでいた。

 

「今日はスーパーのタイムセールがあるっていうのに、どうしてこういう日に限って授業が長引くかなぁ!

 仕方ない、ショートカット使うか」

 

 壁をぶった切って一直線に進めば時短ができる! 完璧なアイディアだ。

 ……というのは冗談だ。流石に露断(刀)も無しにそんな事はできない。路地裏を使った至って普通なショートカットを試みる。

 あんまり治安が良くない場所なんでちょっと面倒なんだけど……背に腹は代えられない。

 

 

 路地裏に入ると不良っぽい連中が屯してるのが見えた。しかし迂回する暇など無い。気にせず隣を突っ切る。

 私が不良とすれ違った瞬間、ぶつかってもない不良が大きく仰け反った。

 

「うぉおお! 肩が複雑骨折しちまったぜ!!」

「おい嬢ちゃん、このオトシマエどう付けてくれるんや!」

「知るか」

 

 雑な当たり屋を無視して突っ切ろうとするけど前方からゾロゾロと不良が湧いて出てきた。

 物理的に塞がれてしまうと流石の私でも突破は不可能だ。敵を倒さない限りは。

 

「ヘッヘッヘッ、いずれメジャーリーグの天辺を獲っていたはずのオレ様の右肩の代償は大きいぜ……!」

「複雑骨折した割には元気そうね」

「うるせぇ! そんじゃあまずは何をしてもらうか……」

 

 私、急いでるんだけどな。

 この私の時間を奪うという行為は万死に値する。サッサと殺ってしまうとしようか。いやまぁ殺しはしないけど。

 とりあえず肋骨を2~3本ずつへし折って四肢の関節をはずしておこうか。そう考えて一歩踏み出した所で聞き覚えのある声が響いた。

 

「お前たち、そこで何をしている!!」

 

 聞き覚えのある野太い声。これは補習担当の西村先生の声だ!

 くっ、どうしてこんな所に。あの先生に見られると過剰防衛がバレる。肋骨をへし折るのは我慢するしか……あれ?

 声のした方に視線を向けるとあの筋骨隆々の大男なんて居なかった。しかしその代わりにある人物が居た。

 

「……秀吉くん、何やってるの?」

「…………えっ」

 

 秀吉くん……と言うか木下さんは呆けた顔をしている。

 にしても声真似が上手いわね。いつもやってるだけの事はあるわ。

 

「ちょっ、空凪よ。ここは冷静にツッコミを入れる場面ではなく隙を突いて逃げる場面であろう!」

「あ~……一応助けようとしてくれたのね」

 

 完全に余計なお世話だけど……と心の中でつけ足しておく。

 

「オウオウ、こっちもカワイイ娘じゃねぇか。トモダチの責任は取ってもらうぜぇ!」

「くっ、寄るでない! それにワシは男じゃ!」

「はっはっはっ、ジョーダンキツイぜ。お前みてぇな男が居る訳が無ぇだろ!」

「……そんな事より! ワシが警察を呼ぶ前にさっさと失せるのじゃ!」

 

 木下さん、こんな時でも男子として、私を助けるように振る舞うのね。

 あらあら、震えちゃってるじゃない。無理しなくて良いのに。

 

「サツを呼ぶ前にって事はまだ呼んでないって事だな。じゃあ呼べないようにしてやるぜぇ!」

「だ、誰か助けムギュッ」

「助けなんて呼ばせねぇよバーカ!」

 

 ……ホント、バカね。

 もういいわ。他人が襲われてるのを見守る趣味は無いし、西村先生も居ないなら遠慮する必要は皆無だから。

 手近な不良の肋骨を適当にへし折らせてもらう!

 

「セイッ!」

「げぶぁっ!! な、何だ!?」

「次っ!」

「ぎゃふぁっ!!」

「まだまだ!!」

「ふげはっ!!」

「な、何だこの女!! に、逃げろ!!」

 

 私からの攻撃を受けた不良たちはその場で崩れ落ちてピクピクと痙攣している。

 半数近くを仕留めた時点で残りの連中は一目散に逃げ出した。

 そしてポケットから携帯を取り出して時刻を確認……タイムセールにはギリギリ間に合う……けど木下さんを放置するわけにもいかないか。

 

「きの……秀吉くん。大丈夫?」

「う、うむ……大丈夫じゃよ。

 もしかして、余計なお世話じゃったか?」

「まぁ、そうね。正直言って邪魔だったわ」

「うぐっ、すまぬ……」

「謝る事は無いわ。今回はちょっと状況が特殊だっただけで、誰かを助けたいっていう願い自体はきっと正しいから」

 

 行動した事自体は良い事だと思う。あの十人くらいの不良を見て助けに入る判断を下し、その上で機転を利かせられる人間はそうそう居ないでしょう。

 秀吉くんが本当に男で、私がか弱い女子だったら冗談抜きで恋に落ちてたかもね。どっちも違うから有り得ない話だけど。

 ……そんな話はさておき、その心構えと行動力は素晴らしいけど、内容はいただけない。実際には失敗した挙句に危険な目に遭ってるんだから。

 

「……ねぇ、木下さん」

「む? 何じゃ?」

「こんな目に遭ってまでまだソレ続けるの? そろそろ潮時なんじゃない?」

「…………? 何の話じゃ?」

 

 男装を止めろと遠まわしに告げてみたんだけど……どうやら伝わらなかったらしい。

 こうなったらハッキリと言ってやるしか無いか。

 そう思って口を開きかけたその時、よく耳になじんだ声が届いてきた。

 

『お~い秀吉~! 何処に居る~?』

 

 その声は兄さんの声だった。

 ……あれ? 兄さんも『秀吉くん』の事を知っているのかしら?

 

「剣の声じゃな。ワシはここじゃよ!」

 

 秀吉くんが叫んで数秒後、兄さんが姿を現わす。

 

「やっと見つけた。少し目を離した隙に僕を放置するとは、貴様はどこで道草を貪っていたんだ」

「別に貪ってはいないのじゃがのぅ。一応人助け……のような事をしておったのじゃよ」

「人助け……ん? そこに居るのは光じゃないか。コイツに助けが必要だったのか?」

「いや、全く必要無かったのぅ」

 

 ……どうやらかなり仲が良いらしい。しかしそれはおかしい。

 『秀吉くん』がこの世に存在している時間は演劇部の活動時間だけのはずだ。そして最近はずっと私が居た。

 兄さんはいつの間に仲良くなれたと言うのだろうか?

 

「……ま、こんな路地裏に入って無事だったなら何よりだ。貴様の姉が探していたぞ」

「姉上が? ワシを?」

 

 …………うん?

 

「お~い木下姉! 見つかったぞ~!」

 

 …………あ、あれ?

 

「こんな所に居たのね。探したわよ秀吉!」

「わざわざどうしたのじゃ?」

「演劇部の更衣室に財布を忘れていったでしょ? あの個性的な部長さんから届けるように頼まれたのよ」

「そうじゃったか。わざわざ探さずとも家で渡してくれれば良かったように思うのじゃが……」

「貴様、鍵も忘れていったそうじゃないか。家に帰ってまた学校に引き返して、その時に入れ違いになったら面倒だろ。

 メチャクチャ注意深く貴様の事を探していたから僕が心配になって声をかけるレベルだったぞ」

「なんとそこまで……姉上、感謝するのじゃ」

「べ、別にそこまでしっかり探してた訳じゃないわよ。見つかれば良いなってくらいで」

 

 …………お、おかしい。

 『秀吉くん』と『木下さん』が同時に存在している。有り得ない。矛盾している。

 

「ふむぅ……ところで姉上は剣と知り合いじゃったのか?」

「ついさっきそこで会ったばかりよ」

「僕が貴様と間違えて声をかけた。顔を合わせたら視点移動の癖が違ったんで別人だとすぐに分かったな」

「何でそんなものが見えてるのよあなたは」

 

 お、落ち着け空凪光。こういう時はKOOLになるのよ!

 発想を逆転させてチェス盤をひっくり返す。簡単な事よ!!

 

「んで、秀吉を探してるって事だったから手伝ってやったまでだ。

 と言うかほんの数分前まで一緒に居たわけだしな」

「丁度入れ違いだったようじゃな。ワシはそこの空凪……光じゃったな。彼女が路地裏に入っていくのを見て心配になって様子を見に行ったのじゃよ。

 結果は……ご覧の通りじゃな」

「ククッ、こいつに勝てる人間は鉄人くらい……いや、鉄人は人外だから人間じゃないか。こいつに勝てる人間など居ない!」

「鉄人って西村先生の事だっけ? 確かに人間離れした外見だけど人外扱いはどうなの……?」

 

 2人が同時に存在しているという事実は私の知っている知識と矛盾している。

 つまりどちらかが誤りである。

 前者が正しい事は、目の前の現実が証明している。つまり間違っていたのは私の方。

 ……なるほど、私が立てた前提が誤っていたって事ね。秀吉くんは木下さんの男装姿なんかではなくただの男の娘である、と。

 あ、あはははは、あははははははははは…………

 

「さて……ん? どうした光。さっきから黙り込んで」

「ごめんなさい、ちょっと急用ができたから先に帰るわ。それじゃ!!」

 

 

「……どうしたんだあいつは。

 そう言えば秀吉、うちの妹と知り合いだったんだな」

「うむ、やはりお主の妹じゃったか。珍しい苗字じゃったから恐らくそうだとは思っておったが。

 数日前から演劇部の仕事を手伝ってもらっとるのじゃよ」

「奴が部活だと? ホントかそれ?」

「何故だか正式な部員にはなっておらんのぅ」

「……空凪さん、まさか本当に秀吉の事が好きなんじゃないの?」

「う~む……そういう雰囲気では無かった気がするのぅ。温かく見守っているようなそんな視線を感じたのじゃ」

「ふむ……気にはなるが……本人が居ない場所で議論してもしょうがない。とりあえずこんな薄暗い場所からはおさらばするとしようか」

「そうじゃな」「それもそうね」






「秀吉くんの声帯模写が……役に立ってなかったわね」

「リメイク前は秀吉が普通に叫んでいたが、良く考えたら秀吉ならこんくらいの機転は利かせられるよなと。
 原作の過去編でもやってたし」

「確かにやってたわね……」

「今回の秀吉の一番のミスは襲う側と襲われる側を誤認したという事だな」

「光さんは襲う側なのね……」

「ああ。光だからな。
 ちなみにだが、肋骨をへし折られた不良の悲鳴は想像で書いている、と言うか捏造している。。呼吸すら苦しくなりそうなんでまともに発音できるかはかなり怪しい」

「……って言うか、死なないでしょうね? 不良。
 殺人者が出るのはちょっとどうかと思うんですけど」

「折れた肋骨が肺やその他臓器を貫通すれば出血多量で普通に死ぬと思うが……あくまでも軽く折ってるだけだから大丈夫だろう。きっと。
 ほら、漫画とかでも『アバラが2~3本折れちまった!』って表現良く見るし」

「本当に良く見る表現かしらそれ……?」

「……具体的にどこで見たか考えると意外と挙げられないもんだな。単なる筆者の経験値不足かもしれんが」


「では、明日もお楽しみに!」
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