見知らぬ女子に喧嘩を売られてから1週間も経たないうちに交流試合が始まった。
「……正直あんたの事を甘く見てた。ここまで手が早いとはな」
「ふふん、"文学少女"たるこの私を甘く見ない事ね」
「それ関係あるのか?」
「当然でしょう! 今の私は瑞希ちゃんの為に戦う騎士なのよ!
この程度の事、造作もないわ」
……変なマンガでも読んだんだろうか? 演劇部の部長以外でこんな中二病が居るなんてな。
お互い部長だし相性は良かったりするのかもしれない。
さて、状況を説明するとしよう。
現在僕たちは土曜日だというのに文月学園の校庭に居る。今日の為だけに設置された特設ステージの前にな。
ここに居るのは出場選手たちと観客たち。
今回の件は単なる決闘ではなく交流試合という体を取っている。文月学園の宣伝と、あと『他校性が召喚獣を起動する』みたいな実験も兼ねているとか何とか。
それ故か1対1の決闘を1回やって終わりとは行かず、お互いの学校から3人ずつ選出して戦う事になった。
「……僕が漠然とイメージしていた決闘とは結構違う気がするんだが……お互いの賭けについては学校単位の勝利を見るという事で良いのか?」
「ええ。そうしましょう。条件は忘れてないでしょうね?」
「僕たちが負けたら明久と別れる。勝ったら世界に1つだけの豪華賞品を進呈。だな」
「空凪くん、詩の事を忘れてるわ」
「要らん」
さて、状況説明を続けよう。
なるべく長時間戦闘させてなるべく長く宣伝&実験したいという文月学園の意向を受けていくつか特殊ルールが設けられている。
まず、3対3ではあるが1対1が3回というわけではない。また、3対3で同時に戦うわけでもない。
1対1を行った後、勝った方はそのまま残り続けて次の相手と戦う。勝ち残り制の戦いだ。戦闘回数は最長5回となるな。いきなり3タテすれば3回で済むが。
続けて、科目は1回毎に変わる。5教科が1回ずつだ。
使用科目は古文・現文とかではなく国語や数学という大雑把なくくりだ。該当する科目の中から一番良い科目が自動的に選ばれる。
聖条学園の皆さんはほぼセンター試験通りの科目から5つほど選択してもらってから試験を受けて頂いている。5時間もわざわざ大変だったろうに……
……おっと、忘れる所だった。1試合毎に科目を変えるという事はHPが全回復する事を意味する。それだと強い1人が3タテとかいう事態になりやすい為、点数に関しても特殊ルールが設けられる。
具体的には、HP……点数の減少割合に応じて他も科目も減っていく。例えば国語で3割減らされたら他の全科目も3割減らされる。連戦すればするほど不利になるという当たり前の事が反映されるわけだな。
最後に、腕輪の使用は禁止だ。姫路の熱線みたいなのを使われてしまうと当たれば即死だし、外してもコストで結構な点数を消費するため短期決戦となってしまう。
それに、召喚獣に慣れていない聖条学園の皆さんが腕輪の使いすぎでうっかり自爆とかしたら空しい事になる。決闘的な意味でも宣伝的な意味でも。そこを平等にする為にも腕輪は封印だ。
「……そろそろ時間か。では、次はステージの上で会うとしよう」
「臨むところよ。コテンパンにしてやるんだから!」
さて、せいぜい楽しませてくれよ。文学少女さん。
あ~、空が青いな~。雨だったら中止になってくれたかもしれないのに。
どうも、井上心葉です、何で僕はこんな所に居るんだろうか。
「心葉くん、全然緊張してないみたいね。流石は
「……遠子先輩。どうして僕まで参加する事になったんでしょうか?」
いかにも中二病な空凪くんと人の話を聞かないうちの部長が勝手に決闘する分にはまだ良い。いや決して良くはないけど。
でもそれに僕まで巻き込まれるのは納得いかない。
「もぅ、聞いてなかったの? 文月学園の意向でなるべく派手にやりたいから人数を増やしてって……」
「それは聞いてましたよ! だからって何で僕なんですか!?」
「部活動の一環よ♪」
「召喚獣呼び出して戦うなんてどこの世界の文芸部の話ですか!」
「この世界のよ」
……はぁ、もういいや、遠子先輩の暴走は今に始まった事じゃない。
一番面倒な試験を受ける作業はもう終わったんだし貴重な経験だと思っておこう。そう考えなきゃやってらんない。
……でも先輩。それでも気になる事があるんです。
「100歩譲って文芸部の活動だとしましょう。
でも、どうして
「なっ、何よ井上っ! あたしが居ちゃ悪いの!?」
彼女はクラスメイトの琴吹ななせさん。うちの学校の図書委員だ。
しかし、文芸部ではない。
……もう一度言うが、文芸部ではない。そもそも文芸部は遠子先輩と僕の2人だけの部活である。
文芸部だけだと指定された3人に届いていないのは分かる。けど何でよりにもよって琴吹さんが?
「べ、べべ別に井上なんかの為に貴重な土曜日を潰して参加したんじゃないんだからねっ!
いつもお世話になってる遠子先輩に頼まれたから仕方なく、仕方なく出るだけなんだから。か、勘違いしないでよねっ!」
「ああ、うん。勘違いはしないけど……何だか、琴吹さんと少しだけ仲良くなれそうな気がしてきたよ」
「えっ、そ、それってどういう……」
琴吹さんには悪いけど、この騒がしい先輩に振り回されているのが僕だけじゃないって思ったら少しだけ元気が出てきた。
いっつも気が立ってて僕に強い言葉をぶつけてくる琴吹さん。正直苦手だったけどちょっとだけ仲間意識を感じたよ。
「ふ、ふん! あ、あたしと遠子先輩の足を引っ張らないでよね!」
「うん。やるだけやってみるよ」
召喚獣での戦闘かぁ……テストはいつも通りに解けたと思うけど上限なしのテストだからイマイチよく分からない。
実は1000点台がゴロゴロ居るのが普通だったらどうしよう。
……なるようになるしかないか。はぁ……
「原作とは微妙にルールが変わってるのね」
「原作ではいきなり保健体育とか出ていたが……短期間で実技科目まで試験を受けさせるのはどう考えても負担が大きすぎる。
5科目だって多いのに」
「……原作ではちゃんと全科目の試験は受けてた……はずよね」
「得意科目は高い点数を、苦手科目は低い点数をちゃんと取っていたからそのはずだ。
実は聖条学園での定期テストを反映させただけという説も……いや、厳し過ぎるな。一般のテストを文月式に換算できる訳が無い」
「でしょうね。巻き込まれた井上くんと琴吹さんは堪ったもんじゃなかったもんじゃなかったでしょうね」
「……これは原作……公式コラボだけじゃなくてバカテス原作でも思った事だが、原作者の皆さんは試験時間の事を甘く見過ぎてはいないか?
普通の50分テストとかでも1日に2~3科目受けるだけで結構疲れる。
ただのテストならのんびりじっくり解けるし、時間が余れば休めるが……文月式は無制限だからそんなヒマは全く無い」
「……いつ受けたのかしらね。聖条学園の皆さん」
「学校をサボったとも思えないし……放課後わざわざ受けに行ったんだろうか? ホントお疲れ様」
「所詮はラノベだからそこら辺を厳密に突き詰めすぎるのもどうかとは思うけど……うちの筆者さんってその辺こだわるもんねぇ」
「リアルに置き換えた時の矛盾を必要以上に追及する事は空しい事だと分かってはいるはずだが……筆者が背負っている業だな」
「では、明日もお楽しみに!」