バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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12 或る晴れた日の悲劇

 Fクラスの全員が登校してきた所で早速Bクラスに宣戦布告……と言いたい所だが、残念ながらルール上不可能だ。

 試召戦争が終結した後は最低でも1日間の『補充期間』が設けられる。

 これは読んで字の如く、試召戦争で消耗した点数を補充する為の期間だ。

 本当に大規模な戦争だと1日を越えた期間の補充期間が設けられる事があるらしいが……今回は関係の無い話だな。

 補充期間中は他クラスから戦争を仕掛けられる事は無いが、逆に仕掛ける事も不可能だ。大人しく明日まで待とう。

 

 で、その間何をするか。

 僕はもう早朝に補充試験を済ませてしまった。僕自身がやる事は無い。

 となると……

 

「お~い明久」

「え、何?」

「貴様、補充試験を受ける必要は無いのか?」

「うん。昨日は結局ダメージを受けなかったからね」

 

 観察処分者である明久の操作技術はやはり群を抜いている。

 いや、僕も一応は観察処分者なんだが、操作経験を積む為に強引に観察処分を受けた事が半ばバレているようで明久ほどの操作経験を得る事はできていない。

 そんなわけで、明久はほぼノーダメージだったようだ。誤差の範囲の消耗であれば補充試験を受ける必要は無いだろう。逆に下がる可能性もあるし。

 

「という事は今はヒマだな?」

「そういう事になるけど……」

「じゃあちょっとやってほしい事があるんだ」

 

 雄二に語った、いや、語らなかった作戦に必要なピースは集めておく。

 明久なら、条件さえ揃えてやればほぼ確実に勝てるようになる。僕はそう確信している。

 

  …………

 

「え~、何でそんな面倒な事を……」

「貴様、勝ちたいんだろう?

 姫路にまともな教室を用意してやりたいんだろう?」

「えっ、なななななナンノコトカナー」

「肯定と見なしておこう。

 なら、雄二に頼りっ切りになるんじゃなくて自分でできる事を進めろ。

 安心しろ。お前なら……Aクラスにすら勝てる」

「……はぁ、そこまで言われちゃ断れないね。

 分かった。やってみるよ」

 

 明久はバカだが、決して不誠実な人間ではない。

 やる気を出した所で普段は空回りしているが……それが噛み合った時どうなるか。

 ……まぁ、じっくり見せてもらおうか。

 

「それじゃ、まずは1回……」

「吉井! 大変なの! 逃げて!!」

「……どうした島田」

「今日の、一時間目の監督! その……船越先生……だって」

 

 …………あっ。

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて昼休み。

 ここに至るまでに明久が何かエラい目に遭ってた気がするけどきっと気のせいだろう。きっと。

 

「いやいやいやいや、気のせいで流さないで!!

 大変だったんだから!! 主に僕の貞操が!!!!」

「まぁ……お疲れ」

 

 明久は何とかして近所のお兄さん(39歳独身)を生贄……じゃなくて、紹介してあげて凌いだようだ。

 恋のキューピッドって奴か。流石は明久だな!!

 

「そんじゃ、飯にするか」

「フゥ、そうだね。今日は贅沢に文月印のパン粉を頂く事にするよ」

 

 ……頭大丈夫かなこいつ。

 パン粉って事は……一応パンを切り刻んだ粉だから主食に……ならねぇよ。

 

「まぁ、今日はいいか。おーい皆、行くぞ~」

 

 声を掛けると雄二や秀吉、康太といったいつもの連中が集まってきた。

 

「あ、食堂? ウチも一緒に行っていい?」

「別に構わんぞ。なぁ?」

「ああ。別に構わんな」

「うむ」

「…………(コクリ)」

 

 同意が得られたようなので島田も合流。

 後は姫路も入れれば昨日のメンバーに……ん? そう言えば昼飯と姫路と言えば何かあったような……

 

「あ、あの~」

「あれ、姫路さん? 姫路さんも食堂行く?」

「そうなんですけど、そうじゃなくて……その……」

「ああそうだ、思い出した。弁当か」

「は、はい! 皆さんの分も全員分作ってきたので、ご迷惑じゃなければ……」

 

 ……おかしいな、さっきから嫌な予感が止まらない。

 姫路の弁当に反応しているのか? しかし、何なんだこれは?

 

「んじゃ、屋上にでも行くか。こんなむさ苦しい教室で食ってたら美味いもんもマズくなるからな」

「それもそうだね。雄二にしては分かってるね」

「…………」

 

 この空気の中で特に理由もなく反対するのは無理があるか。

 じっくりと確認させてもらうとしよう。この悪寒の正体を。

 

 

 

 

 

 全員で屋上に移動する。僕達以外は誰も居ないようだ。

 幸いな事に今日は程々に晴れていた。日差しが強すぎず弱すぎず、絶好のピクニック日和だな。

 

「あ、シートも持ってきてあるんですよ」

 

 姫路が手慣れた動作でビニールシートを広げる。わざわざ用意しているのか。家族とよくピクニックに行っているのかもしれない。

 

「それじゃあ……あんまり自信は無いんですけど……」

 

 姫路が弁当箱、と言うか重箱の蓋を開けた。

 そしてその瞬間、ゾクリと悪寒が膨れ上がった。

 やはり弁当に何かがあるっ!

 ……しかし、弁当の見た目に異常は見あたらない。唐揚げにエビフライといった至ってまともな料理が並んでいる。

 真っ黒に焦げているわけでも、逆に生っぽいわけでもなさそうだ。一体何が……

 

「…………(ヒョイッ)」

「あっ、おいちょっと待てっ!」

「そうだよムッツリーニ! ずるいぞ!」

 

 動きの素早い康太がエビフライをつまみ上げる。

 そして、僕達が制止する暇も無く……

 

「…………(パクッ)」

 

バタン ガタガタガタガタ

 

 ……口にしたと思ったら顔面から倒れ、小刻みに震えだした。

 コレは……姫路の料理が原因と見て良いんだよな? そうなんだよな?

 

「つ、土屋くん!? どうしたんですか?」

「…………(ムクリ)」

 

 あ、生き返った。

 

「…………(グッ!)」

 

 そして、姫路に親指をグッと立てた。

 

「あっ、お口に合いましたか? 良かったです♪」

 

 しかしその顔は土気色に染まり、瞳の焦点は合っていない。両足は震えており、まるで生まれたての子山羊のようだ。

 おい康太、美味しかったと主張するつもりか? 無理があるぞ?

 

(……秀吉、判定は?)

(むぅ、どう見ても演技には見えぬのぅ)

(だ、だよねぇ。一体何がどうなってるの?)

(ワシに訊かれても分からぬ)

(恐らくは姫路の料理がクソ不味かったという事だろうな。

 いや、不味いってだけで済むのか、あれ)

(えっと……結局ウチらは何をどうすれば良いの!?)

 

「あれ? 皆さんどうかしましたか?」

「あ~、いや、何でもないよ! ハハハ……」

「そうですか? それじゃあどんどん食べてください。まだまだ沢山ありますから」

 

(……ほら明久。あの笑顔を前にお弁当を残すなんて事ができるのか?)

(そう言うなら雄二が行ってよ!! 僕は死にたくは無いよ!!)

(……ワシが行こう)

(なっ、正気かい秀吉!?)

(うむ。ワシはこう見えて姉上から『鉄の胃袋』とか呼ばれておってな。ジャガイモの芽くらいならば平気なのじゃ)

(それは凄いけど……流石に無茶だよ!!)

(いや、あの、瑞希に正直に言った方が良いんじゃないの? ちょっと味見してみて、美味しくなかったって……)

(島田さん……男には、退けない時があるんだよ!!)

 

 ……こうしていても埒が明かないな。仕方あるまい。

 ひとまず箸を手に取って弁当箱の前に突き出す。

 そして適当な具材を摘もうとしてみるが……

 

ゾクッ

 

 悪寒が更に膨れ上がった。

 他の具材でも試してみたがどれも同じような反応が返ってくる。

 これは……全滅のようだな。

 

「あの……どうしたんですか?」

「……ふぅ。姫路、これ一体何を入れた?」

「えっと……全部だと色々入れてますけど……」

「おっとスマン。訊き方が悪かったな。

 じゃあ例えば……この卵焼き、何が入ってる?」

「それですか! それは勿論卵と……あと隠し味が少々入ってます♪」

 

 間違いなくその『隠し味』とやらが悪寒の正体だろう。

 卵アレルギーなら卵は猛毒だが……康太がそうだという話は聞いたことも無いからな。

 

「……その『隠し味』とやらの内容を聞く事は可能だろうか?」

「う~ん、隠し味を言っちゃったら隠し味にならないんですけど……」

「……スマンな。実は体質上の問題で食えない食材があるんだ。

 申し訳ないんだが、詳細にお願いしたい」

「アレルギーって事ですか? アレルギーになるようなものは隠し味には入れてないですけど……」

「スマン、実は宗教上の問題なんだ」

「えっ、宗教ですか……でも、宗教にひっかかるような隠し味じゃないですよ?」

 

 サッサと言ってくれよ!! こっちは角が立たないようにやんわりと訊ねてるのに!!

 いや待て。ここまでの情報だけでも類推する事は可能だ。

 アレルギーになるようなものではないと即答した。つまり、メジャーな乳製品や魚介系、ソバの類では無いだろう。

 果物も結構アレルギーは多い。その類も全部除外して構わないだろう。

 宗教上で食えないものでもない。主に肉類が該当しそうだな。

 アルコールの類も禁止されている宗教はあったはずだ。って、そもそも未成年の食い物に酒を入れるなっていう話だが。

 ……くそっ、宗教はそんなに詳しくないからな。あまり絞り込めない。

 

(何か凄い熾烈な戦いが……)

(瑞希……一体何入れたの? 真っ当な食材は大体除外されちゃうんじゃないの!?)

(康太よ、お主はアレを食べたんじゃろう? 何か分からなかったかのぅ?)

(…………(フルフル))

(……おい剣)

(何だ?)

(先入観を捨てろ。真っ当な食材ではないかもしれん。

 あと、巧妙に隠されているものだから無色透明に近い液体。それに近いものを探れ)

(……なるほど)

 

 コレが料理だと思い込んでるから答えに辿り着けないんだな。

 もっと別の劇毒物、バイオテロ兵器か何かだと仮定して推理しよう。

 僕が相手を毒殺しようとするならどんな物を使う?

 より用意し易く、殺傷能力の高いもの……

 毒薬……薬品? 劇薬、化学……

 …………よし。

 

「あの……どうかしましたか?」

「スマン、ちょっと長考してた。

 この弁当なんだが……『塩化ナトリウム』は入っているか?」

 

 塩化ナトリウムとは……なんの事は無い。ただの食塩の事だ。

 HCl(塩化水素)NaOH(水酸化ナトリウム)の水溶液を混ぜ合わせて中和させるとできる物体だな。中和の実験としては一番メジャーで、中学校くらいでやるんじゃないだろうか?

 成績優秀な姫路ならその程度の知識はある。だから意味は問題なく通じるだろう。

 

「え、塩化ナトリウムですか……それはちょっと入ってないですね」

「……何?」

 

 塩入ってないのかよ!? 一体どうやって味付けしてるんだ……?

 いやいや、そうじゃなくてだな。『塩化ナトリウム』とかいう化学用語を普通にスルーしたなコイツ。

 まあ問題ない。この質問のメインは妙な質問へのハードルを下げる事だ。例えばこんな感じに……

 

「まさかとは思うが、塩化水素水溶液が入っていないよな」

 

 流石に無いだろうと思いつつも冗談めかして言ってみる。

 流石に失礼だったろうか? いや、劇物繋がりで質問が続けられるし、怒った姫路が隠し味の内容を言ってくれるかも……

 

「えっ、凄いです! どうして食べてもいないのに分かったんですか?」

「…………ちょっとタイム」

 

 一旦後ろを向いて皆と小声で話す。

 

(ねえ剣……さっきからどうしたの? 『えんかなとりうむ』とか『えんかすいそすいようえき』とか……)

(ウチもちょっとよく分からなかったわ。何かの薬品っぽいのは分かったけど)

(島田は帰国子女だから仕方ないか。

 記号で表すなら『NaCl』と『HCl』だ)

(…………えっ!? それじゃあ、瑞希がお弁当に入れてるのって……)

(ワシには分からぬのじゃが……)

(…………(コクコク))

(お前ら……ちょっとは勉強しろ。

 それぞれ『塩』と『塩酸』だ)

(…………えっ? さ、酸……? 炭酸とかならまだしも、塩酸? あの、化学で使う?)

(……そうらしいな)

 

 え~っと……どうしたもんかなコレ。

 やんわりと訊き出してみたら文字通りの劇物がでてきたんだが。

 …………まぁ、いいか。なるようになれ。

 

「……姫路」

「はい? 何ですか?」

「昨日も言った事だが……貴様、味見はしてきたか」

「あ、えっと、その……

 ……に一番に食べてもらいたくて」

 

 何かモゴモゴ言ってて聞き取れなかったが、明久に一番に食べてもらいたかったとかそんな所だろうな。

 全く、愚かな……本当に愚かな事だな。

 

「……じゃあ今からでも遅くは無い。

 味見をしてくれ。と言うかしろ」

「えっ、今からですか? それって味見と言うかただの食事なんじゃ……」

「ならただの食事でも構わん。食ってみてくれ」

「う~ん……分かりました。そこまで言うのなら……」

「待った! えっと……コレにしてくれ」

 

 箸を出してみて比較的悪寒の薄かったものを薦める。あくまでもマシ程度だが。

 

「コレですか? これはちょっと失敗しちゃったもの……よく考えたら丁度良いですね。

 それじゃあ……」

 

パクッ バタン ガタガタガタガタ

 

 何か、すっごくデジャブを感じる光景だ。

 って言うか塩酸だけでこんなになるわけないよな。絶対他にも何か入ってるだろ。

 

「な、ななな何ですかこれ!? も、もしかして誰かのイタズラですか!?」

「う~む、可能性は0ではないが……お前の素の実力だと思うぞ?」

「そんなっ、嘘です! これはちょっと失敗しちゃったものだから美味しくないだけです!

 例えば他の……これとか……」

「あ、おい待て!!」

 

 先ほどは『比較的マシ』な物を『ほんの一欠片』だったからすぐに会話できた。

 しかし、『一番ヤバそう』な物を『丸ごと』なんて食べたら……

 

パクッ …………バタン

 

 今度は痙攣すらせずに目を見開いたまま屋上の床に倒れた。

 

「ってヤバい! 吐かせるぞ!! えっと……どうすりゃいいんだっけ?」

「…………水を飲ませろ。その後気道を確保しつつ舌の奥の方を押せ。そうすれば吐かせられるはずだ」

「おお、流石は保体のスペシャリスト。えっと……雄二! 水を用意してきてくれ!」

「ああ。量はどのくらい必要だ?」

「…………ペットボトル1本程度で十分だ」

「待って! それだったら僕のソルトウォーターが使える?」

「…………飲める程度の濃度なら問題ないだろう」

「他に何かできる事は無いかのぅ?」

「…………特には無い」

「救命行動ではないがあるぞ。代わりの食料の調達だ。

 姫路が起きても胃が空っぽだと可哀想だからな。

 ってわけで雄二、誰か連れて全員分頼む」

「無駄に気配りが効くな。分かった。秀吉、明久、行くぞ!」

「うむ!」

「うん! あっと、ソルトウォーターはコレだよ」

「サンキュ。じゃあ島田、吐かせる役、頼めるか?」

「えっ、ウチが?」

「ああ。救命の為とはいえ男子に口の奥に指を突っ込まれて吐かせられるなんて姫路も嫌だろうからな。女子にやってもらった方がまだマシだ。

 無理なようなら僕か康太……いや、康太は女子に触るのすら無理か。僕がやる。どうする?」

「……分かったわ。やってみる」

 

 

 

 ……その後、奮闘の甲斐あって何とか姫路は助かった。

 たかが弁当でこんな事になるとはなぁ……コレに関しては今後何らかの対策を考えた方が良いかもしれん。

 幸いな事に姫路は自分の弁当を不味いと感じていたようだ。味覚障害があるなら対策のハードルが跳ね上がるが、そうでないなら、本人に改善の意志があるならどうにでもなるはずだ。

 ……まぁ、今は試召戦争で忙しいからな。いつか機会があればどうにかするとしよう。







「リメイク前ではチュートリアルも兼ねて僕がダウンしてた場面だったな」

「あの時はAクラスの皆が来てたっけ。
 ……情報共有が遅れるわね」

「それが吉と出るか凶と出るか……それは神のみぞ知る」

「……あいかわらず筆者さんは何も考えずに書いてるのね」

「それがうちの駄作者の持ち味だからな!!」

「ではでは、次回もお楽しみに~」
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