バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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世界に1つだけの賞品

 試合は無事に終わった。

 このまま観客を追い出すのも勿体ないとの事なので残った時間で召喚獣体験みたいなイベントもやるらしい。僕には関係ない話だな。

 そんな中、僕と姫路、遠子さんと心葉くんの4人で文月学園側の控室に集まっていた。

 

「さて、分かっているな天野遠子よ。約束を覚えているだろうなぁ?」

「空凪くん。何でそんな悪そうな態度なんですか……」

「いや、この方が雰囲気出るかなって」

 

 姫路からのツッコミを華麗に受け流したところで再び目遠子さんに向き直る。

 

「勿論覚えているわ。心葉くん、詩を!」

「いや、そんなもん用意してませんよ」

「……なるほど。負ける気は一切無かったという事ね。流石は心葉くんだわ。

 でも負けてしまったものは仕方ない。即興で書いてちょうだい!」

「いや、僕もそんなもんは要らん。もう1つの、豪華賞品とやらだ。

 まさかとは思うがそっちも用意してないなんて事は……」

「当然用意してあるわ。瑞希ちゃん!」

「……えっ、わ、私ですか!?」

 

 遠子さんが突然姫路に声を掛ける。

 世界に1つしかない豪華賞品……なるほど。オチが読めた。

 

「瑞希ちゃん。瑞希ちゃんが焼いたアレを持ってきて!」

「……あの、遠子さん。まさか豪華賞品って……」

「そのまさかよ。とにかく持ってきて!」

「は、はぁ……分かりました。とりあえず持ってきます」

 

 姫路は浮かない顔をしながらもどこかに歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 数分と経たない内に姫路が戻ってきた。手にはバスケットを下げている。

 

「……姫路、一応訊いておくが、これは何だ?」

「……私の手作りのクッキー……です」

「……天野遠子。豪華賞品とは?」

「勿論、瑞希ちゃんが真心込めて作った手作りクッキーよ!

 たとえ試合に負けちゃったとしても、この世に1つしかない、瑞希ちゃんの大事な想いだけは受け取って欲しかったから」

「……なるほど」

 

 僕が毎回姫路のお菓子を捨てていて、そのせいでこの自称文学少女に目を付けられたという話は姫路から聞いていた。

 一口食べて捨てさせるのではなく、何としてもしっかりと食べて欲しかった……と。

 実に感動的な話だ。姫路の料理でさえ無ければ。

 

「念のため訊いておくが。貰った上で捨てるという選択肢は……」

「当然、そんな事は許されないわ」

 

 何故勝ったはずなのに罰ゲームを受ける事になるのだろうか? 解せぬ。

 

「……姫路、バスケット貸してくれ」

「えっ、本当に食べるんですか? 大丈夫なんですか?」

「ちょっと確認したくてな」

 

 姫路からバスケットを受け取って中身を確認。

 ん~……食べても人体に悪影響は無さそうだ。

 ……なんて事を言えるのは全体の大体半分くらいだろう。致死率約50%。姫路も成長したな~(遠い目)

 さて、まずは……目の前のおせっかいな先輩に現実を見てもらうとしよう。

 

「これ、食べてみてくれ」

「いいえ、これは瑞希ちゃんが君に渡した物よ。私が食べるわけには行かないわ」

「別に1コくらい良いだろ。なぁ姫路」

「え、ええ……あの、別の意味で大丈夫なんですか?」

「多分な!」

「……分かりました。遠子さん、申し訳ないんですけど食べてみてください」

「仕方ないわね……」

 

 僕が差し出した危険度が少なそうなクッキーを遠子さんが頬張る。

 特に表情を変えることなく口を動かして嚙み砕く。

 特に表情を変えることなく噛んでから嚥下する。

 そして特に表情を帰る事もなくこう言い放つ。

 

「うん。美味しいわ。流石は瑞希ちゃんね。お菓子作りも上手だなんて」

「なん……だと……?」

「あ、あの、遠子さん!? 無理してませんか!? 大丈夫ですか!?」

「え? ええ。ちょっとだけ固かったけど、それくらいよ」

 

 ま、まさか正真正銘の味覚障害の持ち主か?

 ど、どうしよう。どう説得しようか。

 僕が……僕たちが固まったその時、遠子さんの後輩の心葉くんが動いた。

 

「あの……遠子先輩。空凪くんだけでなく姫路さんも困ってるみたいですよ?

 無理やり食べさせるのは止めた方が良いんじゃ……?」

「今更何を言ってるの。瑞希ちゃんの真心を完食してもらうまで私は退かないわ!」

「……はぁ。えっと、空凪くん、僕にもクッキー分けてくれる?」

「正気か?」

「……うん。君たちの反応を見る限りではとんでもない味なんだろうなっていう想像は付くけど……これ以上遠子先輩のせいで迷惑かけるわけにもいかないよ。

 せめて一口食べてみてからじゃないと説得もできそうにないし」

「……姫路、渡しても構わないか?」

「はい。申し訳ないですけど空凪くんに全部任せます……処分に私の口も必要だったら言ってください」

「……分かった。とりあえず、コレ」

「うん。頂きます……」

 

 僕が差し出した危険度が少なそうなクッキーを心葉くんが頬張る。

 一口で文字通りの意味で苦い表情になる。

 口元を押さえるが、何とか堪えて嚥下する。

 ……良かった。僕の直感が狂って今回だけやたら美味かったというわけじゃなさそうだな。

 

「……空凪くん、君は毎回コレ食べてるの?」

「……ああ」

「……君は間違いなく勇者だよ」

「いや、お前さんの方がよっぽど勇者だよ」

「……遠子先輩。帰りましょう」

「えっ、何でよ。まだ空凪くんがクッキーを食べてないわ」

「いいから、帰りましょう」

「ちょっと、心葉くん? 離して! まだ私にはやることが……」

 

 遠子さんは、心葉くんに引きずられて帰って行った。

 一応、これで解決か。

 

「ふぅ……とんだ災難だったな」

「ご、ごめんなさい……私のせいで……」

「まぁ、今回のは事故みたいなもんだろ。あんまり気に病むな。

 それより……コレどうするか」

「ど、どうしましょう。やっぱりゴミ箱行き……ですよね?」

「……一応、いつものように一口だけ頂くよ。もしかしたら心葉くんの味覚が異常だっただけかもしれんしな」

「あ、いえ、それだったら私が食べます!」

「……じゃ、コレ」

「頂きます」

 

 比較的安全なクッキーを2回ほど割った欠片を姫路に渡す。

 やはりというべきか、すぐに死んだ魚のような目になった。

 

「……やっぱり美味しくないです」

「……そっか。まぁ、気長に頑張れ」

「そうですね……」

「いつか明久に渡せる日が来ると良いな」

「そうですね……って、何で吉井くんが!?」

「いや、何でも何も……なぁ」

「うぅ……そうですね。渡したいです。その……お世話になってますからね!」

「そうだな。そういう事に……あれ?」

「どうかしましたか?」

「いや、よく考えたら遠子さんは僕に食べさせる事にこだわってたな。明久じゃなくて」

「……そう言えばそうですね。何ででしょう?」

「……まぁ、そんな事考えてもしょうがないか。

 んじゃ、また学校で」

「えっ、帰っちゃうんですか?」

「ここに居てもやる事も無いしな」

「……それもそうですね。それじゃ、また」

「ああ」

 

 

 

 

 

 こうして、僕たちと"文学少女"との良く分からない交流が終わりを迎えた。

 彼女たちの今後については……機会があればまた語るかもしれないな。

 それじゃ、また次の章で会おう。






「以上、コラボ編『"文学少女"と悪夢を喰らう審判(ジャッジ)』終了!」

「改めて見るといやに派手なタイトルね。文学少女の方のタイトルに合わせてるのは分かるけど」

「審判とは言うまでもなく僕の事を指しているわけだが……この称号は結構迷ったとの事だ。
 勇者とか狂人とかの案もあったな。あと中二病とか」

「馬鹿は無いのね。バカテスらしく」

「井上先生がコラボにて既に莫迦を使っているからな。ちなみに愚者も原作で使用されている。どちらも読みは『フール』だ」

「ああ、そう言えばそうだったわね」

「……さて、それじゃあ本編の話に戻るとするか」

「君と姫路さんが主役って感じだったわね。何と言うか……リメイク版では新鮮だわ」

「確かにな。今回の章は純粋な加筆部分だから猶更新鮮な感じだ」

「……ところで、遠子先輩って味覚障害なんだっけ?」

「病気と言うよりは体質の問題だがな。
 奴は本を食すが、その代償として一般的な料理の味を感じ取る事ができない。
 原作でも失敗作の料理をうっかり美味しいと言ってしまった事があったはずだ」

「あ~……そう言えばそうだったわね。
 でも、味覚障害なら姫路さんの料理を完食するとかできたのかしら?」

「御空、あの姫路の料理だぞ? 味覚以前に物理的に胃袋を溶かしかねない料理だぞ?
 いくら遠子さんであっても物理的にダメージを受けたらマズいだろう」

「……それもそうね」

「……さて、"文学少女"の話の続きは今のところ書く予定は無いが……好評であればまた書くかもしれないとの事だ。
 但し、次の章とかではなくもっと後になるだろうけどな」

「今回の話を読んで"文学少女"の方の原作にも興味を持っていただければ幸いです。
 勿論、バカテス原作にも」

「原作未読勢がどれだけ居るかは分からんが……読んでいないのであれば買って読んでみて欲しい。
 原作の売り上げに貢献できれば二次創作者としても嬉しい限りだ」

「どっちも完結して久しい作品だから売り上げも何も無いと思うけど……」

「……とにかく! 人気上昇に貢献できれば嬉しい限りだ!」


「では、また次回お会いしましょう!」

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