期末テスト編 プロローグ
人は、理解できない現実に直面した時、実に様々な反応をする。
それはこの僕とて例外ではなかった。
最初に『ソレ』を見た時。僕がまず疑ったのは夢を見ているという事だった。
頬を抓る。痛い。こめかみをグリグリしてみる。やっぱり痛い。
目の錯覚も疑ったが、いくら瞬きしても、いくら目をこすってもその目が映し出す光景は変わらない。
続けて、『ソレ』が偽物であるという仮説を立てた。
あれほど完璧に偽物を演じられる奴の心当たりは一人しか居ない。僕はすかさず携帯を取り出した。
電話帳から番号を検索し、ボタンを押す。数コール後に声が届いた。
『もしもし。こんな朝っぱらからどうしたのじゃ?』
「いや、何でも無い。邪魔したな」
『え? 一体』ブツッ
偽物……でもないか。
他の可能性としてついに自分の脳みそがイカれたというものに思い至った。
しかし、『ソレ』以外のものは正常に認識できている。やはり違うな。
……考えていても埒が明かない。直接ぶつかってみるとしよう。
そして僕は『ソレ』に……『早朝にも関わらず元気に登校している明久らしき人物』へと声を掛けた。
「おい貴様!」
「え、僕? あ、剣。どうしたの?」
「……貴様、本物か?」
「え? あの、どういう意味……?」
視点移動の癖は間違いなく明久のものなんだが……やはりまだ信用できん。
古来より、偽物か否かを判断する方法は1つしかない。それは『質問する』という事だ。
「……貴様が明久であるならば、この質問に答えられるはずだ」
「いや、あの、どうしたの突然?」
「さぁ答えるが良い……ローマの独裁者だったユリウスカエサルが暗殺される際、腹心であったはずの裏切り者であるブルータスに告げた言葉は何だ?」
「え~っと……確か……
『フハハハハ、よく来たな! もし私の味方になるなら世界の半分をお前にやろう!』
……だった気がするよ!」
「良かった。本物か」
「当たってた? 良かった~」
「いや、あり得ないくらい外れてるが」
「え?」
適当な問題を出して答えられるようであれば偽物。珍回答であれば本物だと断定して良いだろう。
と言うか、暗殺しに来た裏切り者を世界の半分で懐柔しようとするって一体何なんだよ。
「何だか唐突にバカにされたような気が……」
「そんな事よりどうした? 熱があるようには見えんが」
「……あの、剣? 僕がここに居る事に何か問題でもあるの?」
……バカな。明久にしては頭の回転が速い。やはり偽物……?
いやいや、そんなハズは無い。とりあえず質問に答えるとしよう。
「問題もなにも……いつも遅刻ギリギリの貴様がこんな時間に登校しているのは明らかにおかしいだろう」
「そ、ソンナコトナイヨ」
「ふむ……早朝の学校に用事がある」
「? どうしたの唐突に」
「違うか。では逆に家に長時間居たくなかった」
「ギクッ! な、ななな何を言ってるのかな剣ったら。そそそそんな事ある訳なななないじゃないか!!!」
どうやら当たりのようだ。
やたら早い登校の原因は分かった。ではその原因の原因は?
「N〇Kの集金が来る事を事前に掴んだ」
「?」
「……良く分からんけどとにかく嫌な客が来る」
「さっきから何を……?」
「外ではない……? 中……ああ、身内か」
「なななな何の事かな!? ねねね姉さんが来てるなんてそそそんな事は有り得ないよ!!」
なるほど、姉が帰ってきてるのか。
明久の姉……どんな人だっけか。
何か女尊男卑な家庭だって話を前に聞いたような気がするが……姉の事がよっぽど苦手なんかね。
「そうか。姉と一緒にいたくなくて早く登校してるんだな」
「なっ!? ど、どうして僕のトップシークレットを剣が知ってるの!?」
「最上級の秘密ならもっと頑張って隠せ。
家庭内の問題となるとあんまり介入できなそうだが……まぁ、僕に何かできるなら遠慮なく言ってくれ」
「う、うん……ありがと。とりあえずは大丈夫だよ。とりあえずは……」
僕に頼る事が選択肢にある時点で何かしらの問題が発生しているっぽいな。
まぁ、さっきも言ったように家庭内の問題だ。あまり出しゃばらないでおくとしようか。
今は……のんびりと登校するとしよう。クラスメイトとの登校なんて久しぶりだからな。
「ああそうだ明久。あの話知ってるか?」
「うん!」
「……そうか」
「玲さん編の始まりね」
「明久の奴。2章連続で『うん!』って返しやがって……あの話ができないじゃないか!」
「一体何の話をする気なのよ……」
「実は秀吉と光が恋愛(偽装)をし始めたという噂を日常会話を通じてそれとなく流そうとしたんだが……
筆者が明久の台詞を書く直前にドラクエの会話を思い出してネタ化しやがった」
「……ああ、ドラクエのネタだったのこれ」
「……さて、貴様が言ったように玲さん編の始まりだ。
リメイク前では適当な追及しかしていなかったが、今回は短い問答でキッチリ真相まで辿り着いた。
この変化がどう響いてくるかは……不明だな」
「筆者さんは一体何を書こうとしてるのかしらね……」
「何も考えてないだけだ。いつもの事だな」
「では、次回もお楽しみに!」