『吉井、保健室に行ってきなさい』
「何故!?」
現在、4コマ目の授業中。
先生から放たれる似たようなニュアンスの言葉はさっきので丁度10回目だ。
『何故も何も、君がそんなに真面目にノートを取っているのは明らかにおかしいだろう!』
「そんな事は……あれ? 確かにそうですね」
『納得したね? では誰か保健室に……』
「いやいや、僕は大丈夫ですから!」
クラスの雰囲気を大事にするという意味では明久には是非とも保健室送りになってほしい。
微妙な表情で明久を眺めている雄二や、自分の席で瞑想している秀吉なんかは可愛い方だ。
康太は普段は希薄な気配が丸わかりだし、島田は怯えた表情でビクビクしてるし、姫路に至っては手を組んで神に祈ってる。
……よく考えたらここまで気を配ってる僕も影響受けてるな。できれば何とかしたい。
なお、伊織はいつも通りだ。流石はFクラス1まともな男だな。
……昼休み……
「明久、てめぇは一体何がしたいんだ」
「何って……真面目に勉強してるだけだよ!」
「それが有り得ねぇっつってんだよ! サッサと吐きやがれ!!」
「そうよアキ! 大人しく白状しなさい!!」
「美波まで!? いや、僕はただ本当に……」
雄二と島田が明久を詰問している。
直接問いかけるのは連中に任せて僕は僕で考えるとしようか。
そもそも登校が早かった理由というのが『姉が家に帰ってきているから』だったな。
明久の異変の原因としての関連性を切り捨てるのはあまりにも愚かだろう。
姉と居たくないから早く登校した。
では、姉と居たくないから勉強を頑張っている。これは成り立つだろうか?
……十分成り立つな。姉という言葉を保護者という言葉に置き換えればなお分かりやすい。
「お前ら、そんなもんにしておけ。
明久が勉強を頑張りたいと思っているのは恐らく事実だ」
「んな事は俺だって分かってる。問題はその理由だ!」
「……明久。姉が居なくなる条件は成績の向上だろう?」
「ええっ!? ど、どうしてそれを!?」
「やはりか」
一人暮らしをさせるのが不安であれば止めさせる。
大丈夫そう……成績や生活態度が安定しているなら続けさせる。至って真っ当な理屈だ。
「え、何? 姉ってどういう事?」
「明久の奴、今家に姉が帰ってきているらしい」
「つ、剣!? 何で言っちゃうの!?」
「むしろ何故言わない」
明久が理由も無くそぐわない行動をしているのが問題なのであってちゃんと理由があれば皆納得するんだよ。
だからサッサと吐いてくれ。
「うぅぅ……じ、実は剣の言う通り、姉さんが帰ってきてるんだよ。
しかも、成績が良くならないとそのまま居座るって」
「アキってお姉さんと仲悪いの?」
「いや、う~ん、悪いわけじゃないんだけど……とにかく苦手なんだよ」
「姉が苦手……か。まぁ、気持ちは分からんでもないな」
「剣が? 光さんとは仲良さそうなのに」
「……まぁ、色々あったからなぁ。今でこそ顔を合わせたら殴り合いをするくらいには仲が良いが、昔はそうでもなかったよ」
「空凪、それは仲が良いって言わない」
「え? そうか?」
「剣もFクラスだからな……まあそういう事なら分かった。頑張れよ明久」
雄二が珍しく明久を励ましている。少し気色悪い。
「雄二……まさか偽物?」
「本物に決まってんだろうが!」
なるほど。偽物なら納得……え、違う?
「動機はともあれやる気があるのは結構な事だ。この機会に明久の学力を底上げするというのはアリだな」
「にしてもアキのお姉さんねぇ……どんな人なの?」
「あ~えっと……何というか……とっても個性的な人だよ!」
「だから、どう個性的なのか訊いてるのよ」
「え~、それは……その……」
「むぅ、ハッキリしないわね。ならいっそのこと直接会って……」
「それだけは勘弁して! あの姉さんの事を知られるくらいなら僕はそこの窓から飛び降りる!!」
「そこまでなの!?」
ここは3階だったな。明久にとっては一般人が跳び箱を飛ぶ程度の危険性だろう。
しかしながら字面だけならインパクト抜群だ。その姉とやらはよほどの相手なのだろう。
「その辺にしておけ島田。本人が言いたくない事を無理に暴く事はあるまい」
「う~ん……すっきりしないけど……確かにそうね。誰だって言いたくない事はあるでしょうし」
「そういうコトだ。ただ……明久、貴様が自力で成績の向上など可能なのか?」
「も、勿論だよ! こうしてちゃんとノートも取ってるし」
「なるほど。じゃあそのノートは読み返せる代物か?」
「当然だよ! えっと……あれ、これ何て読むの?」
「知るか」
勉強の為にノートを取る。それ自体は結構な事だ。
しかし普段やってない事をまともにこなせる訳が無い。無駄とまでは言わないが……効果は薄いだろう。
「うぅん……とりあえず、何とか自力で頑張ってみるよ。姉さんの事で誰かを頼りたくも無いし」
「……そうか。なら止めはしないさ。
ただ、もし僕たちの手が必要だったら遠慮なく相談しろ。僕たちが貴様を上手い事踊らせてやる」
「そこは協力するとかじゃないんだね……
分かった。いざと言う時は頼らせてもらうよ」
「ああ」
……そして翌朝……
「タスケテクダサイ」
「たった1日で何があった」」
「授業を真面目に受けてるだけで騒がれる吉井くんって……」
「授業中に病気っぽい生徒を心配する構図だ。何の問題も無い」
「病気扱いは流石に酷いのでは……?」
「……ところで筆者には1つ疑問がある。
授業中にノートを取る事に意味はあるのだろうか、と」
「あ~……コメントし辛い疑問ね」
「授業なんて殆どは教科書読み上げるだけだからな。
筆者の学生時代のノートの扱いなんて8割は計算用メモ用紙程度だったぞ」
「それはそれで極端な気がするけど」
「教科書を眺めながら授業中にモン〇ンやってたのとかは良い思い出だな~」
「いや、授業中にゲームはいかんでしょ」
「ちなみにクラスメイトと協力プレイしてた。
その最中に挙手して黒板に問いの答えを書いて戻ったりとかいうネタ行為も良い思い出だ」
「……結構奇抜な学生生活を送ってたのね。筆者さんって」
「だって、本作のリメイク前を書いてた時期だぞ? まともじゃないに決まってる」
「そう言えばそうだったわね。いや、だからといってまともじゃないっていうのはどうかと思うけど」
「まぁそういう訳で、筆者はノートをまともに取った記憶が無い。
そしてノートを取るノウハウも無い。
だからこそ同じように慣れてない明久もまともなノートは書けまいと判断した訳だな」
「なるほどねぇ。
それでは、次回もお楽しみに!