という訳で昼休み、いつものメンバーから女子を抜いたメンバーで打合せ開始だ。
……あっ、そう言えば伊織は呼んでないな。まあ、わざわざ巻き込むほど親しくはないか。
「姉を追い出したいか……気持ちは分かるが、俺は一体何をすれば良いんだ?」
「そこはホラ、雄二の悪知恵で何とか姉さんを言いくるめて欲しいなと」
「随分とフワッとしてやがるな」
「何をするにも情報は重要だ。明久の姉とやらの顔を拝んでおいても……そう言えば姉の名前は何て言うんだ? 予め知っておきたい」
「あ、うん。姉さんの名前は
「玲さんね。その玲さんと言葉を交わす事で得られる情報は多いだろう。
悪知恵で言いくるめるにしても、他の対応を取るにしてもだ」
なお、『この姉だったら家に居たほうが良いな』と判断される可能性もある。
その場合は明久と敵対する事になるが……まぁ、構わん。
「…………俺は何故呼ばれた?」
「情報が大事だって言っただろ? 写真でも録音でも、お前が感じた全てを記録しておいてくれればありがたい」
「…………報酬は?」
「明久の家の聖典の類を全て無期限に貸し出し」
「ちょっと!?」
「…………交渉成立」
「いやいや待って待って! どうして勝手に決めちゃうの!?」
「その類のブツは男子高校生としては健全かもしれんが……玲さんだったら減点対象にするんじゃないか?
康太の所に避難させておいた方が無難だ。まさにWin-Winな取引だろう?」
「うぐっ……う~ん……確かにそうかもしれない」
玲さんとやらがこれくらい簡単に言いくるめられる奴なら大助かりなんだが……相手を低い方に見積もるのは危険か。
「で、ワシの役割は……」
「うん、主にコレの口裏合わせだよ」
明久が懐から取り出したのは例の写真。
木下(姉)と明久が一緒に例のジェットコースターに乗っている写真だ。
「あの日如月ハイランドに姉上と一緒に来ていたのは知っておったが……結構楽しんでいたのじゃな」
「まあね。あの時はただの人数合わせで呼ばれてたけど、結構楽しかったよ」
「呼ばれた? てっきりペアチケットを勝ち取った明久が姉上を誘ったのかと思ったのじゃが……どういう事じゃ?」
「えっと……言わなきゃダメかな?」
「役割を演じる以上はなるべく細部まで詰めた方がボロは出にくくなるのじゃ。空想のシナリオを描くよりも実際にあった事に寄せた方がずっと簡単じゃよ」
「むむ、流石は演劇部のホープ。分かった。なるべく正確に説明してみるよ」
……事情説明中……
「な、なるほどのぅ……まさか剣と姉上が付き合っておったとは」
「いや、その話僕も初耳なんだが」
まさか明久がそんなアホな勘違いをして木下姉にチケットを渡していたとは。
単純なバカであるが故に普段は読みやすいんだが、バカであるが故にたまにとんでもない事をやらかすな。
「そういう訳で、僕はあくまでも人数合わせの為に木下さん……優子さんから誘われたんだよ」
「人数合わせ……それならば筋書きも上手い事作れそうじゃのぅ」
「貴様が運良く手に入れたペアチケットを使って明久を誘った……という筋書きならイケるか?」
「そんな感じじゃな。入手経路まで考えておいた方が良いかの?」
「そこまでは追及されんと思うが……その時は僕から受け取った事にしておけ。僕自身は興味が無かったが、他の危険なクラスメイトに渡すのも憚られる。
一番無害そうな秀吉に渡したという体で行こう」
「ならついでに明久の持ってたはずのチケットは翔子に渡したという事にしておけばいいか。それなら辻褄も合う」
「うむ、筋は通っておるのぅ。その状況じゃったら明久を誘ってもおかしくはないのじゃ」
大体筋書きはまとまったようだ。デートの内容を訊かれた場合でも適当なアトラクションの感想を言えば問題無かろう。
「じゃ、続きは放課後か。まずは目の前の問題を乗り切ろう。
次の話はその後だな」
「え? 次って?」
「あのなぁ、いくら減点が少なく済んでも減点以上の成績向上は必須だ。
明日は貴様の学力向上に関する対策を練る必要がある」
「……あの、一体何をする気?」
「そうだなぁ……無難に勉強会とか? ま、その話は明日で良い」
「は、ハハハ……明日なんて来なければ良いのに……」
そんな明久の要望などおかまいなしに時は進む。
昼休みが終わって、午後の授業も終わって、
そして、放課後になった。
「明久の家は久しぶりじゃのぅ」
「…………俺もしばらく来ていなかった。セキリュティがしっかりしているからカメラを仕掛けにくい」
「僕は直近で何度か来たな。主にゲームの為に」
「俺も結構来るな。ゲームやる時は大体明久の家だからな」
来訪回数はどうやら雄二がトップらしい。決して意外ではないな。
「皆、覚悟しておいてね。姉さんはとんでもなく常識の無い人だから」
「貴様にだけは言われたくない事だと思うが……いや、だからこそ更にヤバい人なのか」
「何だか妙な納得のされ方をした気がするけど……とにかくそういう事だよ」
そんな雑談をする内に玄関まで辿り着く。
「それじゃ、開けるよ」
明久が鍵を取り出して開錠。
ドアノブを回して扉を開く。
RPGの魔王の城に入る時のような『ギギギ……』というような効果音が……特に鳴る事は無く、開けた途端にボウガンの矢が飛んでくるとかも無かった。
なんだ、ただの家だな。
「明久の姉とやらも大した事は無いな」
「え、何が?」
……まぁ、効果音とかは冗談だが、それ以前に人の気配がしない。
「もしかして、貴様の姉は出かけているんじゃないか?
よく見たら靴も無いし」
「あれ? ホントだ。姉さん、帰ったよ~!」
明久の呼びかけにも反応無し。やはり出かけているようだな。
「ま、居ないなら帰ってくるまで待つだけだ。お邪魔しま~す」
「あ、ちょっと」
明久の家は何度か入った事がある。間取りも概ね把握している。
さて、まずはリビングの扉を開いて……
部屋に干されている女性用の下着……ブラジャーが目に飛び込んで来た。
「……どうコメントすれば良いんだこれ?」
「どうしたのじゃ剣よ。むぅ?」
「っっ! …………くっ、こんな所に……ブービートラップだと……!」
「おい康太しっかりしろ。ただの部屋干しされてる下着だ」
「はぁ……姉さんはどうしてこう……」
女性用下着を部屋干しする。これ自体は問題ないだろう。外に干したら変態に目を付けられそうだし。
問題は、共有スペースであるリビングに干してあるという事。女性しか住んでいないなら分からんでもないが、弟と2人暮らしの家でやる事では決して無いだろう。
「とりあえず明久。ソレを処分してくれ。具体的には康太の視線の届かない所に移動させてくれ」
「……うん。そうするよ」
明久が下着を片づけ、全員がリビングの椅子に座った所で話を再開する。
「さて、待っている間はヒマだな。玲さんが来るまでは勉強会をやっておこうか」
「それもそうだな。さて、何から始めるか……」
「え、勉強会は確定なの?」
「当たり前だろ。何度も同じ説明をさせないでくれ」
「ワシとしても期末に向けて勉強はしておきたかったのじゃ。この機会に便乗させてもらうとしようかのぅ」
「…………保健体育なら任せろ」
「いや、お前は他の科目頑張れよ」
「…………善処する」
今は学校帰りなので当然ノートの類も持ってきている。
Fクラスの副代表としてクラスメイトの成績向上は重要課題だ。始めるとしよう。
「ぅぅ……姉さんに早く帰って来て欲しいと思ったのは初めてだよ」
そんな明久の願いが天に通じたのだろうか?
明久の呟きの直後に、玄関の方から物音がした。
『……あら? 姉さんが買い物に行っている間に帰っていたのですね。
……おや? お客さんですか?』
帰ってきたようだ。明久の姉、吉井玲さんが。
「ついに玲さんの登場ね。台詞だけだけど」
「ああ。貴様より若干胸が大きい玲さんだ」
「それ今言う事!? 確かにそうだけど!!」
「……さて、今回の話は概ね原作に沿った形だな。
姫路と島田には待機してもらったが」
「原作でも吉井くんが最初から正直に打ち明けてればそうなってたのかしらね?」
「どうだろうなぁ……
『不純な交友なんかじゃないです! 私たちは真剣に明久くんの事が好きなんです!』みたいな態度で着いてきた可能性の方が高そうだ」
「わぁ言いそう。姫路さんの真似が微妙に上手いのは流石はキミと言うべきなのか」
「……まぁそんな感じで着いてきて、同じように減点を喰らいそうだな。
明久に人並の説明力と危機感値能力があれば、そしてヒロインコンビに人並に話を聞く能力があれば、何とか回避できたかもな」
「微妙にハードルが低いような……いや、あの3人には結構大変なのは分かるけど」
「……まぁ、3人以前に姉が異常なんだけどな」
「それ言っちゃったらおしまいだと思うわよ……
では、次回もお楽しみに!」