いよいよ明久の姉こと玲さんとのご対面である。
玄関まで入ってきているのですぐにリビングのドアが開かれ……
『アキくん、ちょっと荷物が多いのでドアを開けてくれませんか?』
「あ、うん! 分かったよ」
……何か若干予想と違ったけどドアが開かれた。
両手には食材が大量に入ったスーパーのレジ袋が下げられている。確かにドアを開けるのは大変そうだな。
「お客様ですね? 申し訳ありませんが先に荷物を置かせてください」
「あ、どうぞどうぞ。お構いなく」
玲さんがキッチンの方に向かう。
冷蔵庫を開閉する音が何度か聞こえた後、リビングに戻ってきた。
「ようこそいらっしゃいました。狭い家ですがゆっくりしていって下さいね」
何だかとてもまともな人に見えるな。明久が散々警告したような人には見えない。
しかし油断してはいけない。本当に危険なのは分かりやすい危険ではなく分かりにくい危険なのだから。
「お邪魔してます。
初めまして。僕は空凪剣と申します。あなたが吉井玲さんですね? 弟さんにはいつもお世話になっております」
「まぁ、これはご丁寧に。私は吉井玲と……もう御存知でしたか。皆さんこんな出来の悪い弟と仲良くして下さってありがとうございます」
ほら、まともそうな外見に唖然としてないでお前らも自己紹介しとけ。
そんなアイコンタクトを受け取った雄二たちが順番に自己紹介を行う。
「あ、お、お邪魔してます。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」
「…………土屋康太」
「ワシは木下秀吉じゃ。よしなに」
「……なるほど。あなたら例の木下秀吉くんですか」
「う、うむ。ワシはこんな外見じゃからよく間違えられるのじゃが……」
「アキくんから聞いていますよ。男の子だそうですね?」
「し、信じてくれるのじゃな!? 正真正銘初対面で信じてくれたのは主様だけじゃ……!」
秀吉のそんな発言を聞いてふと考える。自分はどうだったかな……と。
最初の時は……胡散臭い目で見てた気がするな。視点移動の癖が男子のパターンと近似してたからまぁ男だろうと判断したが。
「ええ。勿論信じますよ。
だって、うちのバカで不細工で甲斐性なしの弟に女の子の友達などできるはずもありませんから」
その確信の仕方はどうなのだろうか?
明久にだって女子の友達は結構居るんだけどな。勿論言わないけど。
「ところで皆さん、お夕食を一緒にいかがですか?
大したおもてなしはできませんが……」
玲さんがそんな事を言い出した。
夕食にはちょっとが早くないか? いや、丁寧に料理するならギリギリ適正時刻か?
まぁ、玲さんの目的が明久の学校生活について訊き出す事なのであれば料理の準備中に色々訊き出せるし、食事中は気が緩むので秘匿すべき情報をポロっと漏らしやすい。
これを計算してやっているのだとしたら……侮れないな。
だが、こちらも玲さんとは話したいと思っていたんだ。上等じゃないか。誘いを受けるとしよう。
「ありがたくご厚意に甘えさせていただきます」
「そうだな。俺もありがたく頂かせてもらう」
「…………ご馳走になる」
「ではワシもご相伴させてもらおうかの」
全員参加のようだな。
「あ、それじゃあ僕が作るよ。何かリクエストはある?」
「んじゃ俺も手伝おう。この人数を一人で作るのは面倒だろ」
「…………ご馳走になる以上、協力はする」
「ありがと。それじゃあ手伝ってもらおうかな。
秀吉と剣は……」
「うぅむ、料理はあまり得意ではないからのぅ……お主らに任せるのじゃ」
「同じく。上手い奴に任せる」
「おっけ~。じゃあパパっと作っちゃうね」
「のんびりで良いぞ。そこまで腹減ってないから」
「……確かに。じゃあじっくり作らせてもらうよ」
明久の料理を食べるのは久しぶりだな。少し楽しみだ。
……そう言えば、料理と言えば先ほど玲さんが大量に食料を買い込んでいたな。
秀吉が来る事は……把握していたはずだが追加で3人来る事までは予測していなかったはずだ。
何か意図があったのか……悩まずに直接聞いてみるか。
「え~っと……玲さんとお呼びしても良いですか?」
「ええ。構いませんよ」
「では玲さん。食料をかなりの量買い込んでいたようですが……もしかして僕たちが来る事を予測していたんですか?」
「いいえ、そんな事はありませんよ」
「ふむ、では何故……ああいえ、何でも無いです」
更に追及しようとすると心なしか不機嫌そうな顔になった気がした。
話したくない理由があるのであれば無理に追及する事はあるまい。
「とりあえず運が良かったですね。大量に買い込んだ事が今役に立っている」
「そうですね。これも日頃の行いが良いからでしょう」
「なるほど確かに、僕の日頃の行いが良いからですね」
「いえいえ、私の日頃の行いが良いからです」
「いやいや、僕の……」
「いえいえ、私の……」
「……剣よ、何を張り合っておるのじゃ」
予想通りに秀吉が止めてくれた。良かった。止めてくれなかったら永遠に続いていたから。
「そうそう、木下くんには伺っておきたい事があるのです。この写真について」
「むぅ……」
玲さんが取り出したのは例の写真。
明久と木下姉が一緒にジェットコースターに乗っている写真だ。
「これに映っているのは貴方だと聞いているのですが……本当ですか?」
「うむ。勿論じゃよ」
勿論違う。そういう意味では嘘は言ってないな。
「そうなのですか? この写真では貴方は女装しているように見えますが……」
「ペアチケット……この時に使ったプレミアムペアチケットは男女のカップルが指定されておったのじゃ。
しかし明久に女子の友達なぞ居らぬ。ワシも……当時は付き合っていた女子は居なかったからのぅ。
捨ててしまうのも勿体ないので仕方なくワシが女装したという訳じゃ」
これも嘘ではない……と言いたい所だが、チケット自体は男女でなくとも普通に使えたらしい。
男女で来なかった場合にはそれはそれで別の方向性で宣伝に活かす計画だったとか何とか。
「ふむ…………」
玲さんは写真に映った木下姉と秀吉をじっくりと見比べている。
この姉弟に決定的な外見の差……例えば黒子があるとか……は無かったはずだ。
疑われているようだが、証拠は出ないだろう。
「……まあいいでしょう。
それはそうと、うちの愚弟の学園生活はどんな感じでしょうか?」
「姉として弟が心配だと。そういう事ですか?」
「そういう事です。主に学業や異性関係などを教えて頂ければ幸いです」
台詞だけ聞けば至ってまともな保護者に聞こえるな。
さて、どういう風に持って行こうか。
「玲さんとの直接対決が始まったわね」
「写真に関しては完璧に対策をしておいた。
秀吉の演技力もあってベストな誤魔化しができたはずだが……流石に警戒されているな。
……ちなみに、ここに件の写真がある」
「見せて見せて~。
う~ん、完全に恋する女の子の顔……って程じゃないけど顔を赤くしてるのが丸見えね」
「原作の秀吉なら割とありそうな表情だが、本作の秀吉は至ってノーマルな男子なのでそれなりに無理があるな。
まぁ、アレだ。そういう演技をしていたという事にしておこう」
「……秀吉くんならできそうね」
「ああ。秀吉だからな」
「では、次回もお楽しみに!」