「明久の、学業や異性関係ですか」
「ええそうです。是非とも教えて頂きたいのです」
保護者としては極めて真っ当。しかしどこか裏を感じる発言だ。
適度に誤魔化しつつ、嘘はなるべく使わないで明久を誉める。とりあえずはそんな流れで進めるとしよう。
「まず異性関係についてですが……あ、念のため確認しますが明久が実は女子という事は無いですよね?」
台所の方から『何言ってんの剣ぃっ!?』という声が響いてきた気がするがきっと気のせいだろう。
「ええ。間違いなく男の子です。そうそう、昨日撮ったアキ君のお風呂の写真があるのですが、見ますか?」
「……いえ、結構です」
台所の方から『何言ってんの姉さん!?』という声が以下略。
「では、明久の異性は女子という事でOKと。で、明久と女子の関係についてでしたね。
そもそもうちのクラスは女子が2人しか居ないですからね。しかも女子との接触を自称風紀委員が鋭く目を光らせている。
教室内では保護者が心配するような浮いた話は全く聞こえてきませんよ」
「その口ぶりだと教室外では何かあるように聞こえますよ?」
「御明察。と言っても、別の人だとそういう話があるってだけで明久が関わる話はやっぱり無いですけどね」
うちの愚妹と秀吉の話である。サッサと噂を広めたいのだが何故かなかなか上手く行っていない。
せめて身内の中だけでも早いとこ既成事実化させたいんだけどな。
「異性関係の心配は特に無し……と。
アキ君が巧妙に隠しているという可能性は……」
「いや、ご家族の方には悪いですけど……アレですよ? そんな『隠す』なんて事が思いつける知能がある訳が無いでしょう」
「……それもそうですね」
明久が誰かと付き合って隠しているだなんて事がある訳が無い。
もしそんな事があったら……そうだな。姫路に土下座しながら愛の告白でもしてやろう。
……そう言えば、以前は明久と木下姉をくっつけようかと画策していたが木下姉の方には既に彼氏が居るらしいんだよな。割と良い雰囲気っぽかったのにな。
でも、姫路はチャンスだな。島田も……あいつの感情がLOVEなのかは知らんが頑張れ。
「分かりました。では、学業についてはどうでしょうか?」
「……壊滅的なのは語るまでもない共通認識だと思われますが?」
「それは分かっています。私が知りたいのはアキ君がどれだけ成長しているか、あるいは退化しているかです」
そういう質問は当然出るよな。
コレに関しては結構悩んだんだ。どういう流れに持って行くか。
「……成長、ですか。ええ。面白い事にあいつは成長してるんですよ」
「えっ、本当ですか? あのアキ君が?」
「ええ。保護者である貴女としては一人暮らしなんて不安だったでしょうけど安心して下さい。
奴は十分にやっていけてますよ」
「……そう、ですか」
さて、貴様はどう出るんだ?
明久の成長は喜ばしい事だ。それを聞いた貴様はどういう反応をする?
「……御存知だったら教えて頂きたいのですが……具体的には、何点ほど向上したのでしょうか?」
「言っても意味無いと思いますけど? 文月式の試験は独特だから経験者でもない人が点数を聞いたところで……」
「それでも教えて頂きたいのです。参考にはなりますから」
そうかそうか。まぁ知りたいよな。
「……まぁ、良いでしょう。
実技科目込みでの合計点の上昇は……ざっと300点といった所でしょう」
「そうか、言うのかあいつ」
「え? どうしたの雄二」
「いや、何でも無い。次はどのタバスコを入れれば良いんだ?」
「どのタバスコも入れないからね!? 料理で遊ばないで!!」
姉さんと剣の話に聞き耳を立てながらも僕たちは料理を進めている。
雄二もムッツリーニも手慣れているけどたまにさっきみたいに変な事をやらかそうとする。
姫路さんみたいに正真正銘の危険物を作ろうとしないだけの自重はしてるみたいだけど料理で遊ぶのは止めて欲しい。
「しっかし、お前の姉は最初こそまともに見えたが……何つうか強かだな」
「したタカ? 鳥の仲間?」
「手強い奴って意味だ。尋問する為の時間をさり気なく確保した上で限られた時間で必要な情報を効率よく引き出そうとしてやがる。
正直あんまり話したくない相手だ」
「へ~。雄二がそう言うなんて珍しいね」
雄二は持ち前の悪知恵でどんな相手でも口先だけで丸めこんでしまえるような印象がある。
対して剣は突拍子もない詭弁で相手のペースを崩すのが得意なイメージがある。こういう穏やかな会話だったら雄二の方が強そうなのに。
「お前の生活態度とかを隠さなくて良いんならいくらでも話せるがな。弱点抱えたまま話すのはかなり面倒くさい」
「ハハハ……ごめん」
「あの姉を追い出すのは諦めてこのまま監視してもらってた方が健やかな高校生活を送れるんじゃないか?」
「ちょっ、勘弁してよ! あの姉さんとずっと暮らすなんて胃に穴があき過ぎて胃がいくつあっても足りないよ!!」
『アキくん、今の暴言は減点30点です!』
「し、しまった!」
うっかり大声を出してしまった。そりゃ向こうからの声が届くんだからこっちからも聞こえるよね。
「お前がそこまで姉を嫌う理由がイマイチピンと来ないんだが、一体全体何をやらかしたんだ?」
「え~っと……あんまり言いたくないんだけどなぁ……
そうだね、一昨日姉さんが帰ってきた時は何故かバスローブ姿で外に立ってたよ」
「………………は? ああ、そういう事か。何かの服の上から羽織ってたんだな? きっと寒かったんだな。いやでも今は夏……」
「ううん、流石に下着くらいは着けてたと信じたいけど、外から見える範囲ではバスローブ以外は身に着けてなかったよ」
「……お前の姉、正気か?」
「だよね!? やっぱりおかしいよね!!」
「…………明久」
「え? 何ムッツリーニ。あ、そっちの下拵え終わった?」
「…………写真は撮っていないのか」
「そこ!? 何で姉さんの写真をわざわざ撮影しなきゃならないのさ!!」
『アキくん。もっと姉さんを大事にしなさい。減点10点です!』
「また!?」
「写真なんて要らないっていうのは一応暴言になるか。その内容がバスローブ姿じゃなければ、だが」
「むしろ弟がそんな写真持ってたら嫌だよね? 僕がおかしい訳じゃないよね……?」
「……お前も家族で苦労してるんだな」
「『も』? 雄二も姉さんが居るの?」
「いや、俺は一人っ子だ。うちは……お袋がちょっとアレでな」
「お母さんか……僕の姉さんみたいな感じなの?」
「…………雄二、写真を」
「撮らねぇからな!? そもそも明久の姉とは似ても似つかねぇよ!」
「…………残念」
「家族と言えばムッツリーニはどんな感じなの? やっぱりムッツリーニにそっくりな感じなのかな?」
「…………兄が二人、妹が一人居る。皆、至って普通の兄妹だ」
「ムッツリーニにとっての普通か……」
「盗聴盗撮が基本技能なムッツリスケベか。そんなのがあと3人も居るのか」
「…………そんな特徴は無い」
「う~ん、まぁ今度機会があったら紹介してよ」
「…………機会があったら。
…………それより、下拵えが終わった」
「お、ありがと。よ~し、それじゃあやっちゃうよ!」
もう間もなく料理完成だ。
そう言えば、姉さんに料理を作ってあげるのは結構久しぶりだなぁ。喜んでくれるといいけど。
「玲さんとの対決後半とその頃の台所の話だな」
「坂本くんも言った事だけど……言うのね。点数」
「ああ。リメイク前では何故か愚かにも無警戒に言っていた言葉だ。
あの時の僕は一体全体何がしたかったんだろうな……
今回の話を書くにあたって読み返していた筆者も混乱していたぞ」
「そりゃ相当ね……」
「あの時は割と無理矢理に逐次投稿してたからなぁ……いろいろとおかしくてもスルーしてた所が多い。
現在の章別ストック方式の投稿はその辺の反省点を活かしているな」
「リメイク前、ホント後悔が多いわね……そうじゃなかったらリメイクなんてやらないでしょうけど」
「そらそうだな」
「……ところで、吉井くんと優子さんが一応付き合い始めてるのってキミはまだ知らないんだったわね」
「……ああ。本編の僕は一体何を言ってやがるんだろうな」
「姫路さんに土下座で告白しないとね」
「……ふっ、甘いな。僕は『いつ』告白するとは言ってない。
よって、理屈の上では10年後とか100年後でも問題ない!!」
「どっかの中間管理職みたいな台詞ね……
まぁ、自由なタイミングでやれば良いんじゃない?」
「…………そうだな。ハハハハ……」
「では、次回もお楽しみに!」