「と、言う訳だ。
試召戦争は中止。期末テストを頑張ってくれ」
クラスの連中に向けて学園長室での連絡を雄二が淡々と語る。
しかしながら『勉強しろ』と言うだけで素直に頷いてくれるような連中ならそもそも苦労してない訳で……
『何だと!? ふざけんな!!』
『Aクラスのディスプレイでエロ動……美術品を観るっていう俺たちの夢はどうなるんだ!!』
そんな夢があったのか。空しい夢だな。オイ。
まぁ、雄二もそんな不満が噴出するのは当然理解している。奴の上手い所はここからだ。
「まぁ落ち着け。お前たちは振り分け試験の頃と比べて格段に成長している。
何たって、教室は放棄したとはいえAクラスに勝ったんだからな!」
『そ、そう言えばそうだった!!』
『確かにそうだ! 俺達は成長している!!』
「……あの、空凪くん」
「どうした姫路」
「私たちがAクラスに勝ったのは主に吉井くんと空凪くんのおかげだと思うんですけど……」
「それプラス、5対5の戦いにまで持って行った雄二と、あとFクラスにも関わらずAクラスの久保相手に引き分けまで持って行ったお前の手柄だな」
「いや、そんな事は無いですよ。勝てなかったわけですし。
って、そうじゃなくて、決して皆さんが成長したわけではないのでは……?」
「愚問だな」
勿論、そんな事に気付くような連中ではない。そうだったら苦労してない。
「お前たちだってAクラスの装備と比べてあまりにも! 不当に! 貧弱な装備な奴も居るだろう。
だから今がチャンスだ! あの墓穴に片足突っ込んだババァ長に自分の目が腐っていたという事を教えてやろうぜ!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉ!!!!!」」」」」
そんな感じで試召戦争は諦めて期末テストに集中する事となった。
明久と姉の件を考えると好都合だな。
「さてと、俺に用事があったのか? 翔子に呼ばれる直前に何か言ってたが」
「ああ。明久が更に200点ほど減点を喰らったから勉強会を開いてほしいそうだ」
「お前なぁ……こうなるって分かっててやってるよな?」
「まぁな。明久が珍しくやる気を出しているんだ。
Fクラス1伸び代があると言っても過言では無い明久を鍛えるのはクラスの副代表として当然の事だろう?」
「やるならやるでほうれんそうをしっかり……まぁ、今更か。
そういう事なら丁度俺の家が空いてる。そこで勉強会だ。良いな?」
「……女子を家に連れ込んだとなると霧島に何と言われるか……」
「ちょっと電話してくる。お前は他の奴に連絡してくれ」
「りょ」
さてと、勉強会のメンバーに声をかけるとしよう。
……そうだ。あいつも呼んでおくか。きっと喜ぶだろう。
という訳で放課後。昨日のメンバーに加えて女子2名と男子1名が集合した。
「まさか伊織まで一緒に来るとはね。ウチはてっきりいつもの男子4人と秀吉だけかと思ってたわ」
「オレも予想外だったよ。ありがとな副代表」
「フッ、気にするな。貴様はFクラスの中では最も向上心がある奴だと前から思っていたからな」
「ちょっと待つのじゃ島田よ。さっきさり気なくワシを女扱いしておらんかったか?」
「え? そうだったかしら?」
「…………録音ならある」
「土屋くん? どうしてただの日常会話まで録音してるんですか……?」
ただの移動風景だというのに実に賑やかだな。
追加で呼んだというのは伊織の事だ。打倒Aクラスに向けて少しでも戦力は多いに越したことは無い。
どの程度の成長が見込めるかは未知数だが……本人はやる気はあるみたいだし、合宿では同室だった仲だ。今更馴染めないという事もあるまい。
「そう言えば雄二」
「どうした明久」
「僕が雄二の家に行くのって何気に初めてな気がするんだけど……何か理由があったの?」
「……お前と康太には昨日も話した事だが、うちはお袋が少々特殊でな。
お前の姉と同様にできれば見せたくなかったんだ……」
「そ、そっか。姉さん並みなら仕方ない。
あれ? でも何で今日は大丈夫なの?」
「今日は丁度お袋の学生時代の友人と温泉旅行に出かけてる。
ついでに、親父も仕事で居ないから俺一人だ」
「勉強会には都合が良いって事だね。運が良いね!」
「ああ」
雑談しながら歩いていたらすぐに雄二の家へと辿り着いた。
「よし、んじゃあ遠慮なく上がってくれ」
「では遠慮なく……ん?」
「どうした剣?」
「……いや。何でも無い。お邪魔します」
雄二の家の玄関で見つけたもの。それは女性用の靴。
革靴等ではなく旅行に適していそうな歩きやすい感じの靴だ。
これを見つけた事と、その意味を雄二に伝えようかと思ったが、止めた。
だって……
「お、お袋ぉっ!? 何故ここに居やがる!!!」
雄二がそれに気付くのが数秒早くなるだけだったから。
「………………」プチプチプチプチ……
雄二の後に続いて部屋に入ると一心不乱にプチプチを潰している女性の姿が目に入った。
なるほど。アレが雄二の母親……
「は、ハハハ……ど、どうやらどっかの精神病院から抜け出したバカが不法侵入して……」
「あら? ついさっき雄二を送り出したと思ったのに、もうこんな時間?」
「お袋ぉぉおおお!!!」
なるほど。彼女は精神病院の患者でかつ雄二のお袋……え? 混ぜるな? 仕方ないな。
「あら雄二お帰りなさい」
「お帰りじゃねぇよ! 何で家に居やがるんだ!! 今日は旅行じゃなかったのかよ!!!」
「ああ、アレね。お母さんったら日付を間違えちゃってたみたいなのよ。
7月と10月って似てるから困るわよね」
「形どころか文字数すら合ってねぇ! ボケるにはまだ早いだろうが!!」
「あらいやだ雄二ったら。そうやってお母さんを天然ボケ女子大生扱いして」
「テメェの黄金期はもうとっくに終わってんだよ! 図々しい台詞をサラッと吐くんじゃない!!」
「あら? お客さんかしら。雄二のお友達?」
「話をきけぇぇえええ!!!!」
確かに強烈な人のようだ。玲さんとはまた別方向に。
さて、とりあえず……
「そうだお客だ。分かったら茶の一杯でも出してもてなすがいい」
「テメェは話をややこしくするんじゃねぇよ!!」
怒られた。解せぬ。
雄二の母親にはちゃんと挨拶した後、雄二の部屋へと上がらせてもらった。
「へ~、意外と綺麗なんだね」
「代表って意外と几帳面なんだな。何となくだけど散らかってるイメージがあった」
「そうじゃのぅ。下手すると姉上の部屋より……ゴホン、何でも無いのじゃ」
「……まあな」
確かに意外と綺麗だ。流石は元神童……優等生という訳か。
……いや待て、元優等生ではあるが悪鬼羅刹でもある雄二だ。綺麗なのは別の理由があると考えた方がしっくり来る。
「……なるほど。霧島が毎晩掃除してるのか」
「…………雄二、詳しく」
「おい待て康太。まずは話をさせてくれ。スタンガンをしまえ!」
「実際問題どうなんだ? 霧島であれば部屋の掃除を買って出るくらいはしそうだが」
「テメェの推測は半分正解だ。翔子に部屋を出入りする口実を与えない為に綺麗にしてる」
「なるほど」
霧島の影響という意味では合っていたらしい。
まぁそれはさておき、この部屋に関して物申したい事がある。
「この部屋は……勉強会には狭すぎるな」
「やっぱりそう思うか。俺もそう思っていた」
「居間が使えればこの人数でも何とかなりそうね。坂本、ダメなの?」
「お袋が居る空間でまともに勉強なんざできる訳が無い。ツッコミの嵐になるぞ」
「確かに。アレだけ強烈な人だとなぁ……」
「ふむ……仕方ない。別の場所に移動するか?」
「そう都合の良い場所があるか? 普段集まってる明久の家は今は論外だし」
そこだよなぁ……良い場所があれば良いんだけど。
「康太も秀吉も家には家族が居るか?」
「…………ああ」
「そうじゃな。突然集まるとなると姉上に迷惑をかけてしまうのじゃ」
「伊織は?」
「この時間帯は母さんしか居ないから使う事はできると思うけど、あんま広い家じゃないんで8人も詰め込むのはちょっとな」
「姫路」
「男子を連れ込むのはお父さんが良い顔をしないと思います……」
「ウチは葉月が居るから騒がしくなっちゃうかも。勿論ちゃんと説明すれば邪魔しないでくれるだろうけど、8人で勉強してる側で1人だけ別室で大人しくさせるのも可哀そうだし……」
島田に至っては呼ぶ前に説明してくれた。
う~む、まともな場所が無いな。市民図書館にでも行った方がマシか?
「……あの」
「どうした姫路」
「空凪くんの家はどうなんですか?」
「うん?」
姫路に言われて、考える。
うちの両親は明久と同様に海外に居る。家では光と2人暮らしだ。
そしてその光も勉強会を嫌とは言うまい。FクラスとAクラスの試召戦争が控えていたら流石に距離を置きたがるだろうが、しばらくはそんな心配も要らない。
つまり……最高の環境ではないか。
「試召戦争があったから完全に盲点だった。でかしたぞ姫路」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、僕の家に直行だ。着いてくるが良い!」
という訳で僕の家まで辿り着いた。
「なんつーか、思ったより普通の家だな」
「副代表の事だから何かこう……凄い奇抜な感じの家を想像してた」
「…………トラップの類も無さそうだ」
「ムッツリーニは一体何を想定しておるのじゃ……」
「皆、騙されちゃいけないよ。剣の事だから油断した所で何かぶつけてくるに違いない!」
「……お前たちは僕を一体何だと思っているんだ?」
皆の期待に添えなかったようで申し訳ないがごくごく普通の一軒家である。
僕も隠し部屋が無いかメジャー片手に探ってみた時期があるが、残念ながらそんな物は無かった。
「ただいま~……靴が無い。光はまだ帰ってきていないようだ。
家の案内は……必要ないな? そこにあるトイレの場所さえ分かれば十分だろう」
「ああ、そこなのか。サンキュ」
光が帰ってくるまでは確実に居間を独占できる。これ以上の環境はそうそう無いだろう。
これでようやく勉強会が開ける。
「それじゃあサッサと始めるとしようか。
諸君、気合は十分か?」
「「「「「「おう/(コクリ)/うむ/ああ/はい/ええ」」」」」」
……? 気のせいか? 何か1名分の声が足りなかった気がする。
「……なぁ明久。どう思う?」
「え? えっと……まぁまぁじゃないかな」
「……諸君、明久に地獄を見せる準備はできているな?」
「「「「「「当然だ!/(グッ!)/無論じゃよ!/おう!/が、頑張ります!/腕が鳴るわね!」」」」」」
「皆さっきより元気が良くない!?」
「今回は坂本くんのお母さん登場回かしらね」
「原作をよく読み返すと明久が雄二の家に行くのは初ではないんだが……本作では面倒だったんで初めてという事にしておいた。
『雄二のお母さんに会った事無いけど……』みたいな話を切り出すのは違和感があるんで」
「……その微改変が今後に響かないと良いけど」
「ま、大丈夫だろ。むしろ響いた方が予測不能になって面白そうだし」
「……そうね。それが筆者さんの小説だったわね」
「ああ。まぁ、今回はほぼ影響ないだろうけどな」
「では、次回もお楽しみに!」