康太の鼻血で汚染された部屋では落ち着いて勉強もできやしないという真っ当な理由により別室へと移動する事となった。
なお、康太はダウンしたので医務室へと搬送された。無理矢理起こしてもまた血で部屋を汚すだけだから仕方ない。
しかしあの血は一体誰が掃除するんだろうか? 結構落ちにくそうだから心配だ。
もしこの邸宅が10年後くらいにミステリーの舞台になったら無駄に血液反応を発して探偵だけでなく犯人も混乱させそうだな。
「明久、勉強は順調か?」
「……え? ……うん……多分」
気力が尽きかけているようだ。霧島よりも3点リーダーが多い。
そもそも明久に訊いたのが間違いだったか。
「雄二、明久の調子はどうなんだ?」
「途中まではそれなりに順調だったのは把握しているが、途中で翔子がトチ狂ったせいでそっから先は把握してない」
「……まぁ、順調だったとしておこうか」
少なくとも途中までは順調だったのは間違いなさそうだ。今後も何とかなると信じておこう。
明久の事は置いておいて他の奴はどうだったろうか?
「伊織。無事か?」
「……んぁ? ああ……こんなペースで勉強する事なんてそうそう無いからメチャクチャ疲れてるけど……まだ頑張れる……!」
「……辛くなったら無理せず休め……なんて優しい言葉をかけてやるよりも追い込んでやるべきか。
死ぬ気で喰らいつけ。来年の振り分け試験でのFクラスからの脱出の為にな」
「ああ! ……実のところFクラスからの脱出だけならもう十分な気もするけどな」
「現時点での学力に胡坐をかいていたら振り分け試験の頃には転落してそうだな」
「……副代表、そういうネガティブな発破じゃなくてポジティブな発破をくれないもんかね……?」
「そうだな……高いクラスに入るに越したことは無いだろ? 現状EクラスレベルならDクラスを目指せば良い」
「そうそう、そういうヤツ。頑張ってみるよ」
伊織は貴重な常識人だから来年も同じクラスに居たいものだが……流石に無理だろうな。
今の時間を大事にするとしよう。
「……着いた。ここが新しい部屋」
霧島の案内により新しい部屋に着いた。さっきの部屋と同じくらいの広さだ。
こんな部屋があといくつかあるんだろうな。流石は金持ちの邸宅だ。
「んじゃ始めるか。さて何するかな……」
暫くの間それぞれが思い思いに勉強して時間が経過した。
そして丁度12時頃、霧島がスッと立ち上がった。
「……そろそろ、お昼の時間」
「おっしゃメシだぁ! やっと休める!!」
「伊織くん、よっぽど休みたかったんだネ……」
「ククッ、はしゃぐ余裕があるならまだまだ追い込みが足りなかったか」
「勘弁してくれ。寿命を削る勢いで追い詰めるのは吉井だけで十分だ。
教室の設備よりも命の方が大事だし」
「極論に聞こえるけど本当に正論なのよね……アキの様子を見ると本当に寿命を削ってる気がするし」
「……ああ、呼んだ美波……? あぁ、綺麗な川が見えるよ……おじいちゃ……」
「ちょっ、吉井くん!? 大丈夫なの!?」
「吉井くん!? それ渡っちゃダメな川ですよ!? しっかりしてください!!」
「明久よ! 今から休憩じゃからな!? しっかりせい!!」
明久以外は意外と余裕がある事が分かるな。
まぁ、人生が決まる受験じゃあるまいしギリギリまで追い詰める奴はそうそう居ないか。
「翔子、昼は用意してあるっつってたな。御馳走になるぞ」
「……うん。腕によりをかけて作った」
「へ~、そりゃ楽しみだ。霧島家お抱えの専属料理人とか居そうだしな」
「代表、食費とかは要らないの? 料理人の料理をタダで食べるっていうのは気が引けるんだけど……」
「…………大丈夫。ただ、美味しかったらちゃんと美味しかったって言って欲しい。それが料理人への最大の報酬だから」
「それじゃあ美味しくなかったら? それもちゃんと言った方が良い?」
「……うん。料理人の成長に繋がるから」
「分かった。んじゃあ素直に感想を言うとしよう」
と言う訳で食堂に移動だ。
立派な扉を開け放つと貴族のパーティー会場みたいな光景が広がってきた。
何と言うか……メッチャ豪華な食卓である。
「……好きな所に座って欲しい。雄二は私の隣」
「へいへい」
それぞれが思い思いの場所に座る。席が1つだけ空いてしまったが……康太は無事だろうか?
「……翔子、ちょっと疑問があるんだが?」
「……何?」
「俺の所に置いてある料理だけちょっと歪じゃないか? 何か微妙に焦げてる所もあるし」
「…………雄二の気のせい。いいから食べて」
「くっ、断固拒否する! どうせお前の事だから俺だけ特別扱いで妙な薬でも仕込んで……」
ふむ……さっきまでの会話と今の態度から大体想像はつくが……助け船を出してやるべきか。
少し悩んでいたら僕が行動する前に伊織が口を開いた。
「おい代表」
「ん? 何だ宮霧」
「間違ってたら申し訳ないんだが……それって霧島さんの手作りなんじゃないか?」
「…………は?」
「単純にオレらの所に並んでる物と作った人が違う気がする。よっぽどヒドい薬品をかけないとここまで見た目に違いが出ない。
だから別の人が……霧島さんが作ったと思ったんだけど……どうなんだい?」
「…………(こくり)」
「えっ……マジか翔子」
ははっ、やっちまったな雄二。少しは霧島を信頼してやれという話だ。
「念のため訊くが、妙なものは入って……」
「……何も入ってない。雄二への愛情以外は」
「うぐっ! す、すまんかった」
「……それじゃ、食べて。私の純情しか入ってない料理を」
「俺が悪かったから! 追い詰めるのは止めてくれぇ!」
霧島の表情が心なしか柔らかい気がする。あいつ雄二をからかって遊んでやがるな。
いいぞー。もっとやれー。
「さて、それじゃあ頂きます。
……なるほど。美味いな」
「本当に美味しいですね。どうやったらこんなに上手に作れるんでしょう……?」
「姫路、人には得手不得手がある。背伸びはしない方が良い」
「うぅぅ……一人でも美味しい料理を……せめて人が倒れない料理を作りたいです」
そんな感じで雄二も含めて『美味しい』以外の感想は殆ど出なかったようだ。
流石は霧島家の料理人。一流だな。
「勉強会その2ね」
「物語をサッサと進めたいけどこれだけの人数が居る事を考えると黙ってるのも不自然という。
木下姉とか1台詞しか出てないし」
「吉井くん視点だったら結構出てきそうね」
「明久視点やると苦しみながら勉強してるだけだからなぁ……
面倒なんで出番が薄い奴は諦めたらしい」
「そこでどうして諦めちゃうかなぁ!」
「だって駄作者だし」
「……まあいいわ。薄い人が居る反面、宮霧くんの出番が何気に多い気がするわね」
「苛烈過ぎる僕と違って中途半端な力強さが使いやすいらしい。
常識人枠だからツッコミ役に最適だし」
「流石はご都合主義から生まれたオリキャラね……いや、人の事はあんまり言えないけどさ」
「僕たちが言うとブーメランになりかねんなぁ」
「では、次回もお楽しみに!」