風呂に入った後はやっぱり男女に分かれて宿泊部屋へと移動する。
まずは僕たち男子部屋の様子から語っていくとしようか。
「合宿の時と同じでやたらとトランプ持ち込んでるのな……」
「世界に広く親しまれている道具なだけあって使い道の幅は広い。
ババ抜きも七並べも大富豪もブラックジャックもできる。
トランプタワーもできるしいざという時は武器になる」
「そっか……いやちょい待ち。トランプが武器になるのは少年マンガの中だけだ!」
「ククッ、そうだな。カードゲームで死人が出るのは漫画の中だけだ」
「え、武器ってそっち? 闇のゲーム的な? 物理的に投げるとかじゃなくて?」
伊織はツッコミ役として優秀だなぁ。明久だと逆にボケ返される事があるし、秀吉だとここまでの勢いは無い。
雄二からは呆れられるし、無口な康太は言わずもがなだ。
「さて、合宿の時みたいに麻雀もできるぞ。何する?」
「散々勉強した後で面倒な確率計算をさせんなよ。もっと何も考えずにできるゲームにしろよ」
「んじゃあババ抜きでもするか。それなりに頭カラッポにしてプレイできる」
「明久にババが渡った時点で動かなくなりそうだが……とりあえずやってみっか」
そんな感じで男子部屋の方は至って平和に時間が過ぎていった。
……かなり後から知った事だが、比較的平和じゃなかったのは女子部屋の方である。
いやまぁ、殴り合いどころか枕投げすら発生しない、外見上は至って平和な光景だったらしいんだが……ある人物の内心は平和とは真逆だったようだ。
その人物とは……木下優子の事である。
「さぁキリキリ吐いてもらうよ光!」
アタシ達女子の宿泊部屋では光と愚弟に関する尋問が始まっていた
光自身が隠そうとするわけじゃないので尋問と言うよりは質問大会……? そんな感じだったけど。
「いつから付き合ってるの?」
「2週間くらい前かしらね」
「秀吉くんの事、どんな所が好きになったの?」
「そうねぇ……あえて誤解を招く言い方をすると男らしい所かしら?」
「秀吉くんが? 本人には悪いけど男らしさとは対極に位置する人だと思うんだけど……」
「だからこそ、男らしい『行動』が際立ったのよ」
「なるほど、ギャップ萌えってヤツだネ?」
「そうなのかしらねぇ……」
……質問大会と言うより愛子がメチャクチャ一方的に質問しまくってる。
普段から無口な代表はまだしも、姫路さんも島田さんも質問しようとしているのだけど……愛子の勢いに押されて言い出せない感じね。
愛子が根ほり葉ほり質問してるから基本的な事は訊く必要も無いし、一通り喋らせた後で漏れてる気になる所を尋ねるのが正しい楽しみ方かもしれない。
「いつから好きだったの?」
「……1年くらい前かしら」
「そんな昔から!? 全然気づかなかったよ」
「……そりゃそうでしょうね」
アタシは勿論理解している。あくまでも演技で付き合っている事を。
でも、光自身がわざわざ1年前の話を持ち出すって事はその時点から好意を持っていたっていう自覚はあるのかしらね?
「どっちから告白したの?」
「……もちろん、秀吉くんからよ」
「どう告白されたの?」
「…………」
「ねぇねぇ、教えてよ!」
光も秀吉もある程度の物語の流れは作ってると思うけど、流石に具体的な台詞までは考えていない……と思う。
助け舟を出すべきかしら? そう思ったがその前に光が対処した。
「……愛子。自分の告白の参考にしたいからと言って私が贈られた言葉を聞き出そうとするのは良くないと思うわ」
「へ?」
「あなたが土屋くんの事をそれなりに想ってるのは何となく分かってる。告白したかったら自力で考えなさい」
「いや、ちょ、え、何でそうなるの!?」
自身への追及を躱しつつ矛先を愛子へと移し替える上手い斬り返しだ。
愛子と土屋くんの関係は恋愛なのかというと疑問があるけど……この場ではハッタリでも十分だろう。
重要なのは嘘でもいいから会話の流れを誘導する事。アタシも便乗して流れを補強しておこうかしらね。
「愛子と土屋くんが? へぇ~、そうだったのね」
「優子まで何言ってるのさ! ボクはムッツリーニくんの事なんて何とも思ってないから!」
愛子、彼をそのあだ名で呼んでいるのはあなたを除けば吉井くんだけよ?
私でも違和感を覚えて気付けた事だ。光も当然のように気付いて追及する。
「そのあだ名で呼んでる時点で少なくとも『保健体育のスペシャリスト』としての土屋くんには興味津々じゃないのよ」
「そ、そう! あくまでも保健体育のライバルとして気になってるだけだよ!」
「ふ~ん……そういう事にしておくわね」
「そういう事も何もただの事実だヨ……」
どういう意味であれ『意識している』というのは恋愛的な意味に繋がると思う。少なくともきっかけにはなるだろう。
その上で信頼関係を築ける事さえできればそれはもう恋愛関係になる。アタシと吉井くんみたいに。
「そ、そうだ! 優子はどうなの? 誰か気になる人は居ないの?」
「ここでアタシに振るの? ん~、気になる人ねぇ……」
アタシと吉井くんとの関係は内緒にしてある。理由は2つだ。
1つは言いふらす意味が無いから。
非常に癪な事だけどアタシ宛にラブレターの類が届く事はほぼ皆無だし、吉井くんも『僕に告白してくる女子なんて木下さん以外に居る訳無いじゃないか!』と言っていた。だからわざわざ言いふらす必要が無い。
2つ目は言いふらした時のデメリットが大きすぎるから。
他クラスの事なんで詳しくは把握してないけど、Fクラスにはカップルを目の敵にする黒づくめの集団が居るらしい。吉井くんも謂れの無い冤罪で追い掛け回された事が何度かあるらしい。
隠す理由は主にそういうものだ。だから、この場に居るメンバーに言う事にそこまで問題は無い。
しかし、今はマズい。ここで『吉井くんと付き合い始めました、テヘッ☆』等と言おうものなら愛子からの質問責めに遭う。
「……今現在、気になっている人は居ないわ」
「な~んだ。つまんないの」
一応嘘は言っていない。付き合っている人は居るけど気になる人は居ないから。
「代表……は訊くまでもないか。
それじゃあ島田さん! ……美波って呼んでいいカナ? さん付けするのもアレだし、苗字呼び捨てっていうのも中途半端だし」
「呼び方は構わないけど……気になる人が聞きたいって事で良いのよね?
それ、答えなきゃダメかしら……?」
「モチロン! って言いたい所だけど、言いたくないなら仕方ないネ。
でも、気になる人自体は居るって事だネ?」
「うぅ……ええ。そうよ。誰なのかは訊かないで!」
「上手く行ったら誰なのか聞かせてネ。
それじゃあ姫路さん……」
「私も瑞希で良いですよ愛子ちゃん。
そうですね……私は居ます。気になる人」
「お~。そこまで言うからにはちゃんと教えてくれるんだネ?」
「ちょっと恥ずかしいですけど……頑張ります。ここに居る皆さんに伝えられないようだと本人に伝えるなんて夢のまた夢ですから」
姫路さんの好きな人、か。
上位5本指に入るその学力、男子だけでなく女子からも注目されるその容姿、才色兼備と呼ぶに相応しい姫路さんは学校の有名人であり、秀吉と同様に告白とかもされているはずだ。
そんな彼女が誰とも付き合ってないのは意中の人が居るからなのね。
姫路さんなら男子を落とすなんて簡単そうな気がするけど……一体誰なのかしら?
「それで、一体誰なのカナ?」
「私が好きな人……それは……吉井明久くんです」
ヨシイアキヒサ……? 聞いたことがある名前ね。
……ちょっと待ちなさい。吉井明久くん?
「姫路さん、悪いんだけどもう一回言ってもらえる?」
「え? い、良いですけど……すーはー……吉井明久くんです!」
「…………そ、そう……」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。
吉井明久……その名前は紛れもなく今アタシが付き合っている男子その人のものだった。
「? どうかしましたか?」
「う、ううん……何でもないわ……」
アタシは……即座に言うべきだったんだろうか? 吉井くんと付き合っている事を。
愛子が姫路さんに尋ねる。いつから好きなのか、どんな所が好きなのかと。
姫路さんが少し顔を赤らめながら答える。それぞれの質問を。
そんな姫路さんの様子を見て、理解してしまった。彼女は本当に吉井くんの事が好きなんだと。
アタシは、吉井くんの事を好きであるという自信なんて無い。ただ、最も信頼できる男子だったという事だけだ。
こんなにも吉井くんの事を想っている人が身近に居るのなら……
……アタシは、話がこじれない内に吉井くんと分かれるべきなのかもしれない。
…………試験が、期末試験が終わったら。吉井くんと話してみよう。アタシが、どうするべきなのかを。
「優子? どうしたのさっきから。何か大人しいけど……」
「……ううん、何でもないわ。
えっと……今日はちょっと早起きしたから眠くなっちゃったのかも。悪いけど、今日はもう……」
「あっ、もうこんな時間だネ。ボク達もそろそろ寝ようか。明日も午前中は勉強でしょ?」
「愛子の言う通りね。眠れない人が居たら私に言いなさい。優しく気絶させてあげるから」
「光!? 何する気なの!?」
……今日は、もう何も考える気力が湧かない。
今は……寝かせてもらいましょう。
「以上! 女子部屋のコイバナ回だ!」
「わ~、シリアス回だ~」
「前半はともかく後半の話の内容自体はリメイク前とほぼ変わってないんだが……木下姉の恋愛関係の差異のせいで木下姉の内心の葛藤が更に過酷になっている。
あいつ、今回の期末は成績落とすかもな」
「いや、優子さんなら無心になろうとして勉強に没頭するかも……」
「……あり得る話だな。よし、木下姉の点数設定を原作より盛る方針で行こう」
「アレ? 私の不用意な発言でAクラス攻略がハードモードになった……?」
「ハハッ、1人の点数が増えた所でそこまで影響は無いだろ。多分な!」
「ホントかなぁ……
それでは、次回もお楽しみに!」