バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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姉弟の物語の結末

「まったくもう、アキくんはしょうがないですね。いえ、アレクサンドロス大王くんと呼んだ方が良いですか?」

「あ、あれはちょっと間違えちゃっただけで問題自体はちゃんと解けてたんだよ!」

「センター試験本番でも同じ言い訳をするつもりですか? そんな事をしても点数は変わりませんよ?」

「うぐっ……ごめんなさい……」

 

 返ってきた答案用紙は特に細工したりせずに姉さんに提出した。

 僕が何をやりたかったのか、そして僕がどう間違えたのか、姉さんはきちんと理解してくれて……その上で、紛う事無き正論でお説教されていた。

 

「これさえ無ければ、手放しに褒められたのですけどね」

「それに関しては本当にごめんなさい……

 で、でも姉さん! 他の科目はちゃんと頑張ったんだよ!」

「それくらい分かっています。

 こんな大失態をしたアキくんを褒めてしまうと調子に乗ってしまいそうで心配ですが……それとこれとは分けて考えるべきでしょうね」

 

 僕のテスト結果は以下の通りだ。

 

現国 75点

古文 51点

日本史 199点

世界史 0点(参考点数185点)

数学1A 68点

数学2B 62点

物理 59点

化学 80点

英語 75点

英語W 79点

 

保健体育 91点

美術 15点

家庭科 178点

情報 50点

 

総合科目 748点

実技込みの合計点 1082点

 

 以上だ。

 美術が地味に前回(25点)よりも下がっちゃったけど、それ以外は全体的に凄く上がった。

 目標点数が1072点だったのでかなりギリギリだったけど目標の達成自体はできたんだよ。

 

「まさか得意科目を丸々1つ落としたにも関わらず目標達成してしまうとは。少し目標値が低すぎたでしょうか?」

「勘弁してよ。本当にギリギリだったんだから」

「ギリギリだったのはアキくんがアレクサンドロス大王くんだったからでしょう」

「それはそうだけど……でも、これで僕はまた一人暮らしでも大丈夫だよね? 姉さんは帰るんだよね?」

「アキくん。姉さんを邪魔者扱いするような発言は減点20ですよ?」

「ええええっっ!? こんなに頑張ったのに!!」

「冗談です♪ 流石に結果が出た後にそんな後出しはしませんよ。

 これでもう心配する事は無いと言えば嘘になりますが……約束は約束です。一人暮らしを認めましょう」

 

 やった……ついに僕はやり遂げたんだ!!

 今日は久しぶりにゆっくりと眠れそうだ。あっはっはっはっはっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……そして翌日……

 

 テスト返却も終わってもう夏休みだ! いっぱい遊ぼう!

 って言いたい所なんだけど……どういう訳かFクラスには夏期講習が義務付けられている。

 でもアレだ。きっと僕の聞き間違いで、夏休みは今日からに違いない!

 という訳で二度寝しよう。お休み~……

 

「アキくん。今日は夏期講習があるのでしょう? 起きて下さい?」

「むにゃむにゃ……あと5時間……」

「アキくん……ちゃんと起きないと……ものすごいチュウをしてしまいますよ?」

「殺気っ!!」

 

 猛烈な悪寒を感じた僕はベッドから飛び起きた。超反応をした僕の身体を褒めてやりたい。

 ……いや、そんな事よりも重要な事がある。

 

「……姉さん、だよね?」

「はい。それ以外の誰かに見えますか?」

「……アメリカに帰ったんじゃなかったの?」

「その予定だったのですが……通りすがりの親切な方から権利を受け取りまして」

「けん、り? どういう意味?」

「いいですかアキくん、権利というのはある物事を自分の意志によって自由に行ったり……」

「そういう説明を求めている訳じゃないよ! 権利の内容を教えてっていう意味だよ!」

「え~っと確か……私を追い出せた際には部屋を1室ほど借りる権利……とおっしゃっていました」

「…………姉さん。もしかしてその親切な人って白髪で眼帯の中二病みたいな奴じゃなかった?」

「アキくんにしては察しが良いですね。その通りです」

 

 

 

 

 

  ……遡る事数時間、文月駅にて……

 

 アキくんは私が課した課題を見事に突破しました。

 アレクサンドロス大王くんはちょっと……いえ、かなり残念ではありましたが、それでもなお目標点に到達した事は素直に感心しました。

 色々と気になる点が無くはないです。しかしアキくんは一人暮らしでも大丈夫だと証明してみせました。

 約束に従って私はアメリカに帰る。それが私のするべき事です。

 ですが……

 

「……はぁ……」

 

 どうして溜息が出てしまうのでしょう。

 アキくんの成長が喜ばしい事だという結論は出ているはずです。しかし何故かその答えを何度も疑ってしまう。

 何かの病気でしょうか? 帰ったら一度診ていただかないと。

 

「おい」

 

 駅に入ろうとする所で声が聞こえました。聞き覚えがある気がしますがきっと気のせいでしょう。

 

「……おい貴様だ。吉井玲」

「おや? 私でしたか。あなたは……空凪剣くんですね?」

「ほぅ? 覚えていてくれたようで何よりだ」

 

 彼は外見も名前も奇抜なのでかなり印象に残っています。その外見の大きな特徴の1つであった黒い眼帯は外しているようですが、その下に隠されていたオッドアイはむしろ目立っています。

 ……そうだ、彼には訊きたいことがありました。何故こんな所に居るのかは分かりませんが、この機会に聞かせてもらいましょう。

 

「一つ質問があります。あなたは……アキくんの点数に関して嘘を言ったのですか?」

「いいや? 最初にアンタと話した時点では奴の成長は約300点だった。

 日本史世界史、あと家庭科がそれぞれ大体プラス100点。合計300点だ」

「……本当ですか?」

「疑うとは心外だな。奴の150点の成長……いや、アレクサンドロス大王の事を考えると300点くらい成長したのか。

 それに関しては紛れもなく奴の努力の成果だ」

「……そうですか」

「不満そうだな。無理もないか」

「何を言っているのですか? アキくんの成長は喜ばしい事です。不満など有り得ません」

「自覚が無いのか? 鏡を見て自分を客観視する事をお勧めするぞ」

「……何を仰っているのでしょう?」

「アンタは頭の良いタイプのバカだな。

 そういう事であれば一つ一つ整理していこうじゃないか」

 

 私が初めて彼と会ったあの日とは全然違う表情で、全然違う口調で、語りかけてきます。

 頭の良いバカとはどういう意味でしょうか? 明らかに矛盾しているというのに。

 

「まず前提として、貴様は明久の事が好きだな? いわゆる Like か Love かは今は置いておくが」

「愚問ですね。私がアキくんを Love の意味で愛していないわけが無いでしょう?」

「……わざわざボカしたんだが……まあいいや。

 これは一般論として、好きな奴と一緒に居たいと思う事は極めて自然だろう」

「そうかもしれませんね。しかしそれはあくまでも一般論です」

「そうだな。だが、そうかもしれないという推理の方向性の目安にはなる。

 結論を言ってしまうと貴様は明久と一緒に暮らしたいのにできなくなったから不満なんだろうというのが僕の推理なんだが……この結論だけで納得するならこんな話はそもそも要らんな。

 という訳で僕は2つの証拠を提示させてもらう」

「証拠、ですか?」

「ああ。僕が気になっていたのは、最初に会った時に抱えていた大量の食材だ。呼びつけた秀吉が来るのは想定内としてもおまけで3人も付いてくるのは完全に想定外だっただろう。

 にも関わらず都合良く食材を……僕たち全員に振る舞ってもまだ余る量の食材を買い込んでいた事には意味があるはずだ。日頃の行いなんていう曖昧なもののおかげでは無いだろう」

 

 まさかそんな些細な事を覚えていたとは。確かにあの大量の食材には意味がありました。

 その意味まで気付かれているという事でしょうか?

 

「大量に用意した理由、勿論大量に消費する予定があったからに違いない」

「っ!」

「そしてそんな予定は自明の理だ。単純に期末テスト後も貴様が居座る前提で長期間用の食材を用意したに違いない!」

「…………空凪くん」

「どうした?」

「理由があったのは認めますが、そういう理由ではないです」

「…………そ、そうか。

 じゃあアレだ。短期間で大量消費する予定だった……いやでも捨てる事に……ゴミ箱……

 ああ、そっちか。失敗する前提で大量に買い込んだのか!」

「……そういう事です。ですが、それが今の話とどう関係するのですか?」

「失敗前提という事は明久に料理させるわけではない。ならば消去法で貴様が料理する為のものだ。

 そして同じく失敗前提という事は貴様は料理が得意ではない。

 にも関わらず料理を断行した理由は……明久に食わせる為としか想えない。

 弟思いな典型的な姉の行動だな。明久に対する愛情が深い事が伺える証拠となる」

「アキくんへの想いは既に私が認めた事ですよ?」

「……口頭だけじゃなくて証拠がある事でより強固になったとしておこう!」

 

 今の推理は即興で組み立てたようですね。最初の推理自体は的外れでしたが、その粘り強さは驚嘆します。

 

「気を取り直して2つ目だ。

 貴様が課した減点200点の事だ」

「200点? ああ、あの事ですね。それに何か問題がありましたか?」

「問題もなにも、どう考えても理由がこじつけだろう。

 それに、タイミングも問題だ。僕と話した翌日朝の話だからな」

「……何を仰りたいのでしょう?」

「僕は貴様に言ったな。実技科目込みで300点ほど成長している……と。

 そのすぐ後に200点の減点を課せられたらそりゃ結び付けて考えるさ」

「どういう意味でしょうか?」

「貴様が忠実に明久をジャッジする機械だったならそんな事はしない。ただただ成長を喜んで、念のため期末テスト終わりまでのんびり監視すれば済む話だ。

 しかし貴様はわざわざハードルを上げた。達成できるかできないかのギリギリのラインまで追い込んで、そして成長を促す為に」

「……確かにその通りです。せっかくの機会なのだから成長を促せるように追い込みました。

 しかしそもそもの話は『私がアキくんと一緒に暮らせないから不満を抱いている』という話でしたよね? 何の関係性があるのでしょう?」

「貴様が最終的に課した減点は450点。約3ヵ月で300点増やして、そのまま成長すると仮定してもプラス1ヵ月で400点くらいの成長が目安となる。『頑張れば届くが微妙に届かない』くらいの点数設定と言っていいだろう。

 ……まぁ、何故か明久は世界史を丸々落としたにも関わらず達成できていたが……アレは奇跡だったと思う」

「…………そうですね」

「……とにかくだ、最終的な減点が『ギリギリ達成できないくらい』というのがミソだ。

 減点自体は貴様のさじ加減一つで概ね自由に調整できる数値である以上、ここに貴様の私情が入ってなかったという主張は苦しいぞ?」

「そうでしょうか? あの200点以外は至って真っ当に減点を……」

「暴言にいちいち反応してた時点でほぼ自由に調整……じゃなくて減点できてるだろうが。

 違うと言うのであれば……無意識にやっていたという事だろうな」

「…………」

「以上が、僕から提示させてもらう証拠だ。反論は……ありそうだな」

「当然です。1つ目は結局関係ありませんでしたし、2つ目も証拠と言うには弱すぎます。減点が450点になった別の理由はいくらでも挙げられますから」

「ククッ、かもな。だがしかし、僕が確信に至るには十分過ぎる証拠だ。

 だから……コイツを渡しに来た」

「これは……鍵?」

 

 空凪くんから投げ渡されたのはどこかの鍵です。

 どこかで見たことがあるような……いえ、これは我が家の鍵と酷似しています。

 

「これは一体?」

「明久とはある約束を交わしていてな。

 貴様を追い出す事に成功した暁には部屋を貸してくれ……と。

 本来は漫画とかを置かせてもらいたかったんだが……人間を置いても文句はあるまい」

「私を置く気ですか? しかしアキくんとの約束で一人暮らしを認めると……」

「それがどうした。確かに奴は一人暮らしするのに十分な学力を持つ事を証明した。だが、何が何でも一人暮らししなければならないわけではないだろう。

 奴に貴様を追い出す権利はあっても、僕の権利を妨害する権利は無い。

 結局のところ……貴様がどうしたいんだという事だ。明久と一緒に暮らしたいのか、そうじゃないのか」

 

 彼の理屈はいくつか強引な所がありますが……なるほど。結局は私がどうしたいのかという事ですか。

 そんなもの、最初から決まっています。

 

「この鍵はありがたく受け取っておきましょう」

「そうか。こんな所で待ち伏せしていた事が無駄にならずに済んだようで何よりだ」

「……最後に1つだけ、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「この鍵はどうしたのですか? 部屋一つの為にアキくんがわざわざ鍵を複製するとは思えないのですが」

「ああ、明久の鍵の写真を取らせてもらって自分で複製した。使えるかのテストすらしてないんで開く保証は無い」

「…………それはまた何とも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で無事に鍵を開くことに成功した姉さんは今こうしてアキくんの部屋に居るのです」

「剣ぃぃぃぃぃぃいいい!!!! あの中二病野郎がぁ!!」

「アキくんは確かに一人暮らしに足る実力を見せてくれました。

 しかし、姉さんはアキくんと一緒に居たいのです。ダメ……でしょうか?」

「ダメ」

「そうですか。では勝手に居座らせてもらいます。

 何せ家族が一緒に居る事に理由など必要ないですから」

「今の質問意味あった!?」

「そんな事よりも夏期講習があるのでしょう? 急がないと遅刻してしまいますよ?」

「あっはっはっはっ……そうだね……夏期講習にイカナイト……」

「アキくん、朝食は……」

「いや、いいよ。急がないといけないからね!」

「やる気満々ですね。姉さんは嬉しいです」

「うん!」

 

 鞄に包丁と、ついでに教科書やノートを入れて家を飛び出す。

 今の僕は殺る気に満ち溢れている。いざ出発!!

 

 

 

 

 

 

 ……その後、明久がどういう目に遭ったのかは……あえて語るまでも無かろう。






「以上! 期末テスト編終了!!」

「最後だけやたら長かったな……筆者曰く切りどころが無かったそうだ。
 結構難産だったようだな。玲さんを問い詰める証拠も乏しかったし」

「殆ど証拠になってなかったわね……1つ目に関してはアッサリと論破されてたし」

「いやいや、アレはすぐに切り替えてたから問題ないだろう。
 僕が納得できる証拠があれば十分だったし」

「そんな客観的じゃない代物は証拠と呼んで良いのかしら……?」

「……さぁ?」

「ところでさ、結局キミの目的は一体全体何だったの?
 不純異性交遊に関する不都合な情報は玲さんに隠してたのに、最後には玲さんを引き留めて」

「僕の目的は一貫して明久の成績向上だ。
 致命的な減点に繋がる情報は隠蔽して減点量の微調整を玲さんに丸投げ。
 そして玲さんが居座ってくれれば明久の生活環境の改善に繋がる。それだけだ」

「……思ったよりシンプルにまとまるわね」

「今回は手の込んだ事はしてないからな。所詮は他人事だから細かい部分は丸投げする方針で進めてた」

「吉井くんに味方してるようにも玲さんに味方してるようにも見えるややこしい事してるはずなのに……」

「中立……いや、僕は僕自身の味方だったというだけの話だな」

「なるほど」

「あとまぁ……凄く単純な理由として、明久の普段の生活態度を見せたら即座に落第点を喰らうだろうという判断でもある。こう収めるのが自然な形になるな」

「それでは、また次回お会いしましょう!」

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