吉井くんが携帯を見て立ち去ったすぐ後に、空凪くんが屋上の出入口の上から飛び降りてきました。
私が来てからは誰も屋上を出入りしていなかったはずなので……ずっと隠れて聞いていたみたいですね。
「盗み聞きだなんて趣味が悪いですよ」
「そんなの今更だろう」
「……それもそうですね」
確かにその通り。彼がこういう性格なのは今更です。
むしろ焚きつけておいて何もしなかったら偽物を疑います。
「……私は、運命を感じていたんです」
彼は何も言わない。いつも通りの表情でこちらを眺めています。
「私が吉井くんと出会ったのは小学生の頃。その時から、もしかすると好きだったのかもしれない」
「でも中学校では離れ離れになって、そしてまたこの学校で再会できました」
「振り分け試験の時、熱を出してしまった私を、テストを投げ出してまで吉井くんが助けてくれて……その時にやっと気付けたんです。彼の事が好きだ、と」
「私は、運命を感じていた。でも、それは幻想に過ぎなかったんですね」
大好きだった。明久くんの事が大好きだった。
でもその恋は呆気なく終わってしまった。それはとても悲しい事です。
だけど……それ以上に、私には気になっている事があるんです。
「空凪くん、1つだけ、質問があります」
「ほぅ? 言ってみるが良い」
いつも通りの飄々とした態度の空凪くん。
さっきまでの明久くんとの会話は聞いていたはずなのに、それでも全く態度を変えないその姿は……まるで……
「あなたは……知っていましたよね? こうなる事を」
「……ふむ」
「吉井くんと木下さんが付き合い始めたのは2ヵ月も前らしいです。
他の人ならまだしも、あなたが気付けない筈がない!」
「……かもな」
「どうしてなんですか!? どうして止めてくれなかったんですか!?
止めてくれていればこんな気持ちになる事は無かった!! それなのにあなたは逆に焚きつけるような事をした!!
一体何がしたいんですかあなたは!!」
「何がしたいか……か。
おいおい、質問が1つだけとか言っておきながら3つ目じゃないか?」
「胡麻化さないで下さい! 答えて……下さいよ……」
「フッ、ならば教えてやろう。
理由は至極単純。お前が明久に告白したらどうなるか、興味があっただけだ」
「たった……それだけ……ですか?」
彼が嘘を吐いているか、そうでないか。私は超能力者じゃないから断定する事なんてできません。
でも……何となくですけど彼は本当の事を言っている気がしました。
「そんな分かり切った事を知る為に、わざわざこんな事をしたんですか……?」
「違うと言ったら納得するとでも言うのか? 紛れもない真実だよ」
「…………」
その通り。こんな質問に意味なんて無い。そんな事は分かってます。でも訊かずにはいられなかった。
ははっ、おかしいですね。明久くんに振られた事よりも、あなたに裏切られた事の方が苦しく感じてる。
何で。どうして私はこんなにも苦しんでいるんでしょう。
「……この後はちょっと予定が詰まってる。じゃあな」
「…………」
私に背を向けて立ち去る彼に対して、私は何も言えなかった。
私の中ではよく分からない感情がぐるぐると回っていて、とても苦しくて、それどころじゃなかったから。
屋上の扉が勢いよく閉まる音がした直後、私はその場で崩れ落ちて、すすり泣いていた。
それからどれだけが経っただろう? 数分だったのかもしれないし、数時間だったのかもしれません。
ようやく感情の渦が収まって、疲れ果てた私の口からは、半ば無意識に一言だけ、言葉が洩れました。
「……どうして?」
自分でも、どういう意味なのか分からなかったその言葉の意味を知るのは、もう少しだけ後の事でした。
「以上で屋上の回想は終了だな。
さて、嘘はあっただろうか?」
「私の口からは何とも言えないわね……ネタバレになりそうだし」
「う~む、やはり突っ込んだコメントはしにくいな。
いや、する必要もそもそも無いんだが」
「……この辺は後書きコーナーは手抜き……とは違うけど力を抜いていきましょうか」
「そーだな」
「では、次回もお楽しみに!」