学園長との話し合いの結果、夏期講習に参加している人を強制的に駆り出して教室をお化け屋敷へと改装する事になった。
さて、ここで1つ疑問がある。授業をサボる事に命を懸けられるようなFクラスと違って他の生徒たちは勉強をしに夏期講習に参加しに来ている。
そんな連中がこんな茶番に手を貸してくれるのだろうか、と。
『おーい、暗幕足りないぞ! 倉庫にあったっけー?』
『他の階の黒カーテン引っぺがそう!』
『仕切り用のベニヤ板もどっかからパク……持ってきてくれー!』
……何か、皆メッチャノリノリでやってる。
「剣、どうした? そんなボサッとして」
「ああ雄二、Aクラスの連中とかもノリノリだなって思ってさ」
「Aクラスは確かに優等生だが、勉強そのものを娯楽以上に楽しむ奴はそう居ない。
遊ぶ事が課題だって言われたら喜んでやるさ」
「ふむ、それもそうか」
「あと、Aクラスの首脳陣がノリノリだからそれに合わせているというのもありそうだ」
「首脳陣……霧島に光、あと工藤も好きそうだな」
「そんな感じだ。BクラスとCクラスは代表も副代表も来てないっぽいんでAクラスの発言力が相対的に高くなっている。だから猶更だ」
根本も御空も来てないのか。根本はまだしも御空は喜んで参加しそうだな。
今夜にでも電話してみるか。
「なるほどな。DクラスやEクラスは……」
「Eクラスは知らんがDクラスの平賀はこういう時に口出しするタイプじゃないだろう」
「確かに。Dクラスの副代表は……」
「あっちでノリノリで作業してるぞ」
『こういう所で活躍して出番を増やして存在感を植え付けていくのよ!
ファイトー!』
『『『おー!!』』』
「ご覧通りの有様だからわざわざ和を乱すバカはそう居ない。
仮に不満のある奴が居たとしても少数派だから封殺されるわけだな」
「なるほど、そんなもんか」
2年生はノリノリ、教師陣も当然止める理由が無い。
もしこのお祭り騒ぎに水を差すバカが居るとすればそれは……
「「うるせぇんだよお前ら!!」」
……そう、彼らのような……坊主とモヒカンのような3年生の生徒だ。
大した理由も無いのにただの八つ当たりで妨害してくる正真正銘のバカである。
「……さてと、僕も作業に戻るか。ベニヤ板をパク……お借りしてきて……」
「って待てや! 俺たちを無視するんじゃねぇ!!」
「あ、丁度良い所に先輩方が。暗幕用のカーテンとベニヤ板を3年の教室からパクってきてくれ」
「何で俺たちが雑用やらされなきゃならねぇんだよ!!」
「え? だって羨ましいんだろ? 夏期講習中に遊んでる僕たちが」
「そんなんじゃねぇよ! テメェらがうるさくて勉強に集中できないって言ってんだよ!!」
「……? だったら猶更勉強なんて要らないだろ。
別の階の騒ぎが聞こえたならその耳だけで食っていける」
「はぁ? どういう意味だ」
「だって、旧校舎ならまだしも新校舎は試召戦争とかいうお祭り騒ぎを前提にした造りになってる。
よほどの才能が無ければ教室で勉強中に他の階の雑音を聞き取る事は不可能だ」
特別耳が良かった以外の理由を考えるとしたら……
1、常夏は超能力者。
2、常夏はこの教室を盗聴している。
3、常夏は勉強をサボって教室の外をうろついていた。
う~ん、悩むな。3番が一番現実的だけど『勉強に集中できない』といちゃもん付けてきた常夏が勉強をサボっていた訳が無いものな!
「なぁ、どう思う雄二?」
「教室の中で幻聴を聞いて、それを俺たちの騒ぎと勘違いしていた可能性も有り得そうだな。医者を呼んでやろう」
「おおなるほど!」
「ふざけんなよテメェら!! 何がなるほどだ!!
俺たち3年はテメェらと違って受験勉強しなきゃならねぇからな! 息抜きも重要なんだよ!!」
わ~、サボった事を開き直った。
まぁ、適度な休憩が大事だというのは間違った意見では無いだろう。学校行事に対して僕たちに文句を言う行為が筋違いなのは変わらないが。
でもまぁ、丁度良い。先輩方が息抜きしたいと言うならその望みを叶えてやるとしよう。
「だったら貴様らもやるか? 肝試し」
「はぁ?」
「息抜きしたいなら素直にそう言えば良いんだよ。学園長も嫌とは言うまいさ。
……いや待て、これって学園のPRも兼ねてるから積極的に取り組めば内申点とかもプラスされるんじゃないか?」
「お、おお……どういうつもりだテメェ、急に俺たちに味方するような事を言って」
「いや、単に思った事を口にしただけだ。本当に内申点がプラスされるかは分からんし」
一応こいつらに肝試しの準備を押し付けられないかなという意図はあるが……今の内申点の話は本当に思いついただけである。
さて、こいつらはどうするのだろうか?
「悪くはねぇ。だが、テメェらと仲良く遊ぶ気は無いな」
「それこそ簡単な話だ。チーム分けすれば良い。
肝試しには『脅かす役』と『怯える役』の2種類が必要だからな」
「なるほどな。当然テメェらは『怯える役』だよなぁ?」
「愚問だな。怯えてわーきゃー言ってるだけで内申点を取れるほど甘くはないだろう。
先輩方に快く譲るとしよう。
雄二、ルール説明の紙とかってあるか?」
「ん? ああ。まだ確定じゃないけどな」
「構わん。貸してくれ」
「丁度3枚ある。センパイがたにも配ってやってくれ」
雄二に渡されたのはA4サイズの紙3枚。手書きではなく印字されている。Aクラスのパソコンとプリンターを使ったんだろうな。
文月学園納涼肝試し大会ルール
驚かす側を『妖怪サイド』、驚かされる側を『人間サイド』とする。
・基本ルール
・共通
・設備を壊してはならない。
・チェックポイント以外の場所で召喚獣バトルを行ってはならない
(召喚は自由。なお、教室には常に召喚フィールドが展開している)
・戦死した場合、補習は免除するが、科目を問わず召喚獣を出す事を禁止する。
・人間サイド
・全4箇所のチェックポイントを突破する事で勝利になる。
・基本的に2人組のペアで行動すること。但し、1人になっても失格ではない。
・教室へ突入後、ペアの内どちらかが悲鳴を上げたら両者とも失格になる。
但し、チェックポイントで戦闘中の場合は失格にはならない。
その教室のチェックポイント突破後も失格にはならない。
(なお、失格になった生徒はチェックポイントの挑戦権を失う)
(『悲鳴』はマイクの音量で判定する。一定以上の大きさの声で失格とする)
(召喚時のコマンド発声はセーフとする)
・戦死者、失格者による教室への突入は原則として不可能とする。
・教室への突入時にはカメラとマイクを携帯すること。
(不正の防止、及び脱落者や待機者の楽しみの為)
故意に違反した場合は失格だが、故障や妖怪サイドからの妨害等のやむを得ない理由があれば不問とする。
・妖怪サイド
・全てのチェックポイントを突破される前に人間サイドの人数が2人未満になったら勝利になる。
・各チェックポイントに代表者2名を配置する。(クラス代表でなくても良い)
・チェックポイントに辿り着けないような構造を用意するのは禁止する。
もしそのような構造になっている事が確認されたらそのチェックポイントは突破された扱いになる。
・相手の体に直接ダメージを与える行為は禁止とする。
・チェックポイントについて。
・妖怪サイドの代表者2名と、人間サイドのペア2名が召喚獣バトルを行う。
代表者を撃破したらチェックポイント突破となる。
・規程の円の中から召喚者、又は召喚獣が出てしまった場合は戦死扱いとする。
(召喚フィールド自体は教室全体に広がっているので、広さを生かして延々と逃げ回る戦法を防止する為)
・人間サイドは2名でのみ挑戦できる。
1名だけ、又は3名以上で挑戦した場合、勝利しても突破とは認めない。
(あくまでも戦闘開始時の話。ペアの片割れが戦死による脱落する事は問題ない)
・人間サイドは、戦闘中、戦死等何らかの理由で2名の内片方が脱落した場合でも、戦闘中の人員の補充は認めない。
・代表者は原則として入れ替えは禁止、補充試験も禁止。
ただし、病気や怪我などやむおえない理由があった場合も入れ替えを認める。
……意外としっかり作られててちょっとビックリした。なるほど。
「チェックポイントで召喚獣バトルだと? そんなの必要なのか?」
「それはババァ……学園長からの指示だ。システムを使う以上は召喚獣同士の戦いを絡めろってな」
「そういう事ならしゃぁねぇか。テキトーにはしゃぐだけかと思ってたが、意外と厳密な勝負になってるんだな」
「そんくらいやらないとババァ長がうるせぇからな」
「ババァ長……? まあいい。勝敗がハッキリするなら賭けをしねぇか?」
「賭けねぇ……じゃ、二学期の体育祭の準備は負けた方の仕事ってのでどうだ?」
「あのFクラス代表にしてや随分と生ぬるいじゃねぇか」
「だってなぁ……これはクラス単位の勝負だろ? 『勝った方が負けた方の言う事を何でも……』みたいなベタな事を言われても困る」
クラスの勝負だからと言って個人的な賭けをしていけないという事は勿論無い。Aクラス戦もそんな感じだったし。
だが、適していない事は間違いないだろう。クラス単位の勝負ならクラス単位の賞品を賭けるべきだ。
「むぅ……一理あるな」
「どうしても個人的な勝負がしたいなら、チェックポイントで待ってれば良い。運が良ければお望みの相手と戦えるだろ」
「まぁいいか。おい空凪、逃げるんじゃねぇぞ!
テメェには清涼祭での借りを返さなきゃなんねぇからな!」
「面倒だな……気が向いたら相手してやるよ」
何はともあれ……これにて3年生に準備を押し付ける事に成功した。
明日までのんびり休むとしよう。
「以上、肝試し前日が終了だな」
「どういう訳か長かった気がするわ……」
「最近何故か1話の分量が多い気がするな。
さて、次回はいよいよ肝試し……ではなく直前の準備だな。
ペア分けとかも多分ここで明かされる」
「ペア分けねぇ……そこまで意外なペアは出てこない気がするけど」
「それはどうかな?」
「え、何? 何か変わるの?」
「それは次回を見れば分かるさ」
「う~ん……そうねぇ。
では、次回もお楽しみに!」