バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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悪意という名の善意を

 さて、これで僕の、空凪剣の長い回想……屋上で姫路が明久に告白して、そして再び屋上で僕に問いを投げかけるまでの長い回想が終わった。

 では問題だ。ここまでに僕が嘘を吐いた場面はあっただろうか?

 

「……いや、無いな。貴様の勘違いだ」

「そうですか? そうですか……」

 

 僕の返答を受けた姫路は心なしか残念そうな、そんな顔をしている。

 

「用事はそれだけか? なら帰らせてもらうぞ。

 電池もカップ麺も切らしているのは本当だからな」

「本当だったんですかアレ。でもまだお話は終わってません。

 コンビニは24時間開いているんだからまだまだ時間はありますよね?」

「残念ながら、時間はあるな」

「それは良かったです。では少し私の話を聞いてください」

 

 一体何を話す気なのやら。

 一応言っておくが、僕は姫路を騙しはしたが嘘は一切言っていない。

 あくまでも僕の主観なので何か言い間違えた可能性までは否定できないがな。

 

「あの日……私は悲しかった。これまでの人生の中で一番悲しい日だったと言っても過言ではないでしょう。

 何故だか、分かりますか?」

「……さぁな」

「真面目に答えて下さい……なんて事を言うつもりはありませんよ。そうやって相槌を打ってくれるだけで、いえ、黙って聞いてくれてるだけでも十分です。

 悲しかった理由、それは吉井くんに振られたから……だけではありませんでした」

「…………」

「もう1つの理由、それはあなたに裏切られた事。より正確には、私がそう思った事です。

 おかしいですよね? 長い事片思いしていた吉井くんに振られた事と同等、いえ、それ以上にそちらの方がショックだったんです」

「……そうか」

「どうしてか、分かりますか? 私はあなたを信頼しているんです。

 いつも何か企んでて、いつも他人を見下して、そしていつも楽しそうに胡散臭い笑顔を浮かべている。

 そんなあなたを、私は信頼しているんです。決して理不尽に人を傷付けるような事はしないって」

「ククッ、それは光栄だな。だがきっと気のせいだろう」

「……だからこそ、私はとても悲しかった。あなたに裏切られたと感じたから。

 ですが、私は今でも信頼しているんです。

 だから、私は考えました。あなたが何故あんな事をしたのかを」

「ほぅ、では聞かせてもらおうか。貴様の推理を」

 

 

 

 

 

 前提として、彼は理不尽に人を傷付ける事はしない。

 だから必ず理由がある。あの日の行動には、必ず理由があるはずなんです。

 

「私が吉井くんに告白するように焚きつけた理由……気付いてみればとても単純です。

 そんなもの、私に告白させる為に決まってます」

「……実にシンプルだ。問題は、シンプル過ぎて貴様しか分からないという事だ」

「それは違いますよ。空凪くんだったら十分に理解できるはずです。

 ですが……これだけで納得しない事も十分分かってます。もう少しだけ細かく説明しましょう。

 

 簡潔に言ってしまうと、空凪くんは私に挑戦させたかったんです。

 何もしなかったことを、何もできなかった事を後悔させたくなかったから。

 たとえ、今この時に傷付く事になっても、後悔するよりずっと良い。

 そう思ったからこその純粋な善意。それが1つ目の答えです。

 どうでしょう? そう不自然な事ではないと思いませんか?」

 

 あの時は……そう、空凪くんに八つ当たりしてしまいましたが、焚きつけた事自体は決して悪い事じゃない。

 彼の善意は分かりにく過ぎます。これが最近流行りのツンデレという奴でしょうか?

 

「……なるほどな。そういう事であれば、たとえ告白の失敗をほぼほぼ確信していたとしても、僕なら焚きつけただろう」

「ここだけじゃなくて全部洗いざらい自白してくれますか? そうすれば早く帰れますよ?」

「まさか! こんな面白そうな推理を台無しにするなんて有り得ない。さぁ、続けてくれ」

「まったくもう……まあいいでしょう。アッサリ認められたら逆に拍子抜けですし。

 えっと……焚きつけた理由まで話しましたね? これが正しいとなると問題が出てきます。

 空凪くんはサッサと言ってくれれば良かったんです。その行動の意図を。

 事情を隠していたのは全力で告白させる為、それが終わったら後はどうとでもなったはずです。

 完璧に説明する必要まではありませんが、少しは慰めてくれても良かったでしょう」

「良かったでしょうって言われてもな……」

「建前でも良いから慰めるのが世間一般の『普通な行動』だと思います。

 しかしあなたの取った行動は真逆だった。わざわざ私を悲しませるような発言を……思い出したら少し腹が立ってきました」

「おいおい、カルシウム足りてるか?」

「栄養素が足りてる程度で防げるような相手なら私は今苦労してませんよ。

 この行動の意図も……まぁ、簡単に言うと私を怒らせる為ですね」

「またシンプル過ぎるぞ」

「より正確に言うのであれば、空凪くん以外に対して怒らせない為です。

 例えば、吉井くん、そして木下さん。

 あの2人に対してはそこまで悪感情を抱かないように、私の怒りの先を請け負った。そう考えれば辻褄が合います」

「ふぅん、急に推理のクオリティが落ちたな。

 それだと2人の為に貴様を理不尽に傷付ける事になるじゃないか。貴様の掲げた前提が崩れたぞ?」

「何を言ってるんですか。私にとっても丁度良い八つ当たりの相手ができます。

 今回の告白の件はただ間が悪かっただけで誰も悪くないんです。強いて言うのであれば私がもっと早く告白しておけば良かったくらいで」

「体の良いサンドバッグが必要。そういう事か」

「言い方はどうかと思いますが……まぁ、そういう事です。

 これもまた言い方が悪いですけど……誰かのせいにできるなら気が楽になります。少なくとも自分を責めるよりはずっと楽です」

「そらそうだな。自分を責めるなんて辛くなるだけだ」

「同意を頂けたようですね。自白と捉えても構いませんか?」

「あくまでも『そういう意見もある』と同意しただけだ。その推理が僕の意図通りだった証拠はどこにも無いだろう?」

「証拠……ですか。困りましたね……」

「お、手詰まりか? なら帰らせてもらうが」

「ま、待って下さい。もう少しだけ考える時間を下さい」

「ククク、いいだろう。せいぜい足掻いて見せろ」

 

 困りましたね……証拠までは考えてなかったです。

 ここまでの推理は間違っていないと確信しています。それなのに……いえ、だからこそ、でしょうね。

 空凪くんは私の為に悪役になろうとした。だからこそ空凪くんは認めない。

 そして私も、そんなの認められる訳がありません。

 何か……何か無かったですか? これまでに、何か……!

 

「……終わりのようだな。もう満足したか?」

「満足なんてできる訳が無いです。

 でも……降参です。証拠まではありません」

「そうか。では帰らせてもらおう。じゃあな」

「待ってください。確かに証拠はありません。

 ですが……それは『今は無い』と言うだけです」

「……ほぅ?」

「今は無いのであれば……これから探し出すまでです。

 私はまだ、諦めませんよ」

 

 

 

 

 

 無いなら探し出す、か。

 なるほど。中々良い言葉だ。

 

「具体的に、どこを探す気だ?」

「それは勿論、あなたです」

「……おかしいな、場所を訊いたはずなのに人を答えられたぞ」

「何もおかしくはありませんよ。問題になっているのはあなたの心の内がどうなっていたのかです。

 だから、あなたを見張っていれば証拠は必ず見つかるはずです」

「……なるほど。理に適っている。

 問題は的外れな推理をしているという事だが」

「そんな言葉では胡麻化されませんよ。という訳で今後のあなたを見張ります。

 良いですね?」

「拒否権は……無さそうだな。まぁ、好きにしろ」

 

 とりあえず飽きるまで放っておくか。そのうち諦めてくれるだろう。

 そうであって欲しい。

 

「で、もう帰っていいか?」

「仕方ありませんね。それでは、また明日」

「ああ。また明日」

 

 明日からは夏期講習が終わって夏休みの本番が始まるが……別件で皆で集まる事になっている。

 その為、休みだと言うのに顔を合わせる事になるな。

 

「……あ、そうだ」

「どうしました? 電池とカップ麺以外の買い物でも思い出しました?」

「そうそう、ラップも切れかけ……いや、そうじゃない。もういっこ思い出した事がある。

 貴様、屋上に到着した僕に対していきなり嘘つき呼ばわりしたな。この品行方正で清廉潔白を標榜とする僕に」

「早速嘘を吐いた空凪くんに私を責める権利は無い気がするんですけど……それがどうかしましたか?」

「その後の話で『嘘』については全然出てこなかった気がするんだが、貴様は一体何の話をしていたんだ?」

「あら? 胡麻化したんじゃなくて本当に気付いてなかったんですか?

 空凪くんの本質についてですよ」

「本質?」

「はい。試験召喚システムが判断した本質、オカルト召喚獣についてですよ。

 確か空凪くんは魔剣ダーインスレイヴが自分の本質だって言ってましたよね?」

「聞いてたのか。ああ、そう言ったな」

「それは嘘だって言ったんですよ。

 あなたの本質は、剣じゃない。鞘にあるんだって」

「鞘?」

「抜き放たれたら誰かを傷つけるまで収まらない魔剣。

 そんな魔剣を身を挺して抑え込んで、誰も傷つけさせない鞘。

 ほら、空凪くんにピッタリでしょう?」

「ピッタリかどうかは置いておいて……なるほどな。鞘というのは盲点だった」

「本当に気付いてなかったんですね。人を騙すのにこだわり過ぎて自分でも騙されてるんじゃないですか?」

「言ってくれるじゃないか。だがまぁ、やはり剣の方だろう、ほら、名前も(つるぎ)だし」

「いいえ鞘です! 分かりましたそこまで言うなら証拠探しのついでにそっちも照明して差し上げましょう!」

「……ま、好きにしろ」

 

 

 

 

 

 こうして、姫路による明久への告白から始まった騒動は一応の収束を迎えた。

 しかしまさか、あの人を疑うという事を知らなかった姫路がここまでの推理を展開するとはな。

 あの推理はある意味的外れであるが、それと同時に核心を突いている。

 姫路も完全に真相を突き止めたわけでは無かったようだ。これ以上の推理を自力で展開するのは流石に無理だろう。

 監視、ねぇ……ボロを出さないように気を付けるとするか。







「以上で屋上の攻防が終了だ。
 リメイク前は3話に分かれていたが、今回は1話で済んでビックリとの事だ」

「内容もそれなりに変わってるみたいね。姫路さんが追い詰めきれてないし」

「本当なら本人が確信してたらもう十分だから証拠なんて要らないんだけどな。
 屁理屈を言って何とか胡麻化した形だな」

「その屁理屈のせいで姫路さんがキミを監視する口実が生まれたわけだけど」

「肯定してたらそれはそれで別の理由で監視してただけだな」

「確かに。結果は変わらないのね」

「ああ。どうしてもやりたい事があるなら理由なんていくらでも付けられるという事だな。
 信念があるのであれば行動はそうブレる事は無いさ」

「……ご尤もな話ね。
 それでは、また次回お会いしましょう!」

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