というわけで1時間が経過し、開戦だ。
場所はAクラスの教室。広いからな。
「それではこれより、Aクラス対Fクラスの試召戦争を始めます!」
司会はAクラス担任であり学年主任でもある高橋先生。
彼女はあらゆる科目のフィールドを作成できるからな。今回の5対5の一騎打ちのルールでは必須と言える存在だろう。
「これより第1回戦を始めます。科目選択権はFクラスにあります。
互いの代表者は前に出てきてください!」
「それじゃ、アタシから」
Aクラスから歩み出てきたのは木下姉だ。
理系文系問わず安定した点数を取っていたはずだ。科目選択権が無い以上、妥当な判断だな。
で、対するこっちは……
「剣、行けるか?」
「選択権を使ってしまって構わないのか?」
「ああ。お前ならランダムでも運が良ければ勝てるが……運が悪けりゃ負けるって事だ。
確実に勝ってクラスを勢いづけてくれ」
「……いいだろう」
確かに雄二の言う通りだな。確実に勝てるならそちらの方が当然良い。
残りの選択権は康太と雄二が使うのか? 他の奴に使ってもらう仕込みも一応していおいたんだが……無駄になったか。
「じゃ、僕が出ます。
選択科目は……」
「ちょっと待って。勝負を始める前に……秀吉出してくれない?」
「ん? 別に構わんぞ。秀吉~」
秀吉は今回戦う5名の中には入っていない。
が、FクラスもAクラスも全員が観戦しているので当然その辺に居る。
「姉上、どうしたのじゃ?」
「うん、ちょっと訊きたい事があってね。
アンタ、Cクラスの小山さんって知ってる?」
「はて……誰じゃったか」
「そっかそっか……すいません、ちょっと席を外します。
秀吉。ちょっと廊下に来なさい」
「む? 何じゃ?」
木下姉が秀吉を連れて廊下の方へ去って行った。
この瞬間に勝負を仕掛ければ不戦勝になるだろうか? いや、止めておこう。
『姉上、勝負は……む? どうしたのじゃ? 突然腕を掴んで』
『アンタねぇ……どうして私がCクラスの人達を豚呼ばわりした事になってるのかしら?
おかしいわよねぇ? Cクラスの人達とは戦争の時に初めて会ったはずなのに』
『はっはっはっ、それはじゃな、姉上の本性をワシなりに……あ、ちが、姉上!? その関節はそっちには曲がらぬっ!!』
ガキッ ボキッ グシャッ
……謎の不吉な音が響いた後、木下姉が笑顔で教室に帰ってきた。
「……木下姉、秀吉はどうした?」
「あの子は急用ができたから帰るってさ♪ 待たせたわね。それじゃあ始めましょっか」
誰か適当な奴に秀吉を保健室まで運搬するように指示を出そうとしたが、雄二が既に動いているようだ。
秀吉の事は気になるが……仕方ない。サッサと終わらせよう。
「それじゃ、選択科目は……」
「ちょっと待って!!」
言おうとしたらまた止められた。今度は……明久か。
「……何だ明久」
「えっと、その……木下さん! 流石に酷くない!?」
「はぁ?」
「秀吉が何をしたのかは分からないし、木下さんが今何をしたのかもちょっとよく分かってないけど……そこまでする事は無いじゃないか!」
「……はぁ、これだからFクラスは。言いたいことはそれだけ? だったら早く引っ込みなさい。邪魔だから」
「っっ! そんな言い方する事無いじゃないか!」
吉井明久という人間は基本的にはただのバカだ。
しかし、それは同時に真っ直ぐであるという事だ。こうやって仲間がバカにされた時の明久は最強……は言いすぎだが、とても強い。
幸いまだ僕は科目を選択していない。だからこういう選択もアリだろう。
「じゃ、明久。バトンタッチだ」
「へっ?」
「譲れないモノがある。貫き通したいモノがある。
ならば剣を取れ。戦い、争い、勝ち抜いてみせろ。
……雄二、構わんな?」
「思いっきり構うんだが……はぁ、まあいいか。
勝算はあるんだな?」
「当然だ。なぁ明久」
「え、いや、その、あると言いますか無いと言いますか……」
「うるさいやれ」
「横暴だ!!」
というわけで明久にバトンタッチだ。
何、今のアイツなら木下姉如き楽勝だろう。
「あなた……吉井くんだったわね。
バカの代名詞とも言われてる観察処分者の」
「そ、それがどうしたって言うんだ!」
「私もバカにされたものね……まあいいわ。わざわざ科目選択権を浪費してくれるんだもの。
それじゃ、何の科目を使うの? 結果は同じだと思うけど」
「…………高橋先生、家庭科でお願いします!」
「分かりました、承認します」
家庭科は実技科目の一つであり、総合科目の点数には影響しない。
だからAクラスであっても点数が高いとは限らない。むしろ切り捨てて5教科に集中してるから低くなってる可能性もある。
「それじゃ、サッサと終わらせましょう。
[フィールド:家庭科]
Aクラス 木下優子 246点
あくまでも可能性があるだけだ。低いとは限らない。
流石は木下姉だな。実技でもしっかりと点を取っている。5教科よりは低い気がするが。
「どうしたの? アテが外れたかしら?
アタシは実技科目だからって手を抜いたりしないわよ?」
「う~ん、まぁ、ちょっと驚いてるよ。だって……」
ここで3秒ルールにより明久の召喚獣も現れた。
そこにはこう書いてあった。
[フィールド:家庭科]
Fクラス 吉井明久 168点
「意外と勝てそうだって思うから」
「……確かにFクラスにしては高いけど、アタシよりは下じゃない。
それで勝とうだなんて、やっぱりFクラスね」
残念ながら、僕の目には明久の勝利しか見えないな。だって、1.5倍だぞ? あの明久が。
そんなもん1分でひっくり返るよ。
というわけで2人は放っておいて僕は雄二に解説するとしよう。
「おい剣、一体どんなヤバい薬を盛ったんだ?」
「安心しろ。決してドーピングではない。
点を取る為の基礎を詰めただけだ」
「基礎?」
「ああ。あいつ、家庭科に関しては知識量は人一倍あるはずなんだよ。
昔は家族相手に料理や洗濯をしてたらしいからな」
なお、今は一人暮らしで自堕落な生活を送っている為逆に鈍っていると思われる。
普通は一人暮らしするとスキルは上がるはずなんだが……まぁ、明久だからな。
「しかし、進級時の家庭科の点数は人並みだった。何故か分かるか?」
「……実際の家事と、ペーパーテストで求められる知識は違うから、とかか?」
「それもある。そっちは明久が168点
答えは2つ、どちらも非常にシンプルだ。
まず1つ、あいつはテストが苦手なんだ」
「……単純に点数が低いっていう意味ではないよな? どういう意味だ」
「成績上位の連中はテストを効率よくこなす。分からない問題はサッサと切り捨てて飛ばすとか、そういった小細工はそれ単体では効果が薄くても集まれば結構な差になる。
テストに慣れさせてそういった技術を肌で感じさせる事でそこそこの成績アップは見込める」
「もう1つの理由は?」
「栄養失調だ。あんな食生活でまともに生きて居られるのが異常なんだ。
そこを改善してやるだけでも頭の回転は数倍に跳ね上がってもおかしくはない」
数倍は言いすぎだが……集中力が持続しやすくなったり体力がついたりといった理由でも成績向上は間違い無い事だ。
「要するに僕がやった事は明久がヒマしてる時に家庭科の補充試験を受けさせまくる事と、バランスの取れた栄養食を恵んでやった事だ。
な? 基礎的な事だろ?」
「確かに基礎だな……
実技なんで総合科目に反映されないのが残念だ」
「ああ、ホントそれな」
今回は基礎的な知識はしっかり持っていた科目だからこうやって上げる事ができたが、これ以外の科目はそうはいかないだろう。
多少点を上げるのが精一杯だと思われる。
「お前が前に言ってた『勝てる』ってのはコレの事か」
「ああ。しかも実技科目なら上位の連中もそこまで重要視していない。
明久なら2倍の点数があっても普通に勝てる。たかが1.5倍なら……楽勝だ」
僕のその台詞と共に決着が着いたようだ。
[フィールド:家庭科]
Aクラス 木下優子 246点 → Dead
Fクラス 吉井明久 168点
「そ、そんな……こんな事って!!」
「これで、僕の勝ちだ!」
驚いた事に明久は一切傷を負っていないようだ。流石だな。
「んじゃ明久、命令権を使うんだろう? 内容は分かりきってるからサッサと使ってしまえ」
「そうだね。木下さん!」
「な、何? アタシに何させようっての?」
何でも命令できる権利かぁ……流石に犯罪紛いの行為は無理だろうな。
だが今は関係ないか。明久の命令はそういう類のものじゃないから。
「秀吉に、謝ってほしい!」
「……えっ、それだけ?」
「うん、それだけだよ。できるよね?」
「いや、でもアレは秀吉が……」
何かゴネてるな。口を挟んでみよう。
「オイオイ、木下優子さんよォ。まさか約束を踏み倒そうだなんて思ってないよなァ? 天下のAクラスサマがよォ!」
「あーもううるさいっ! 分かったわよ! 謝れば良いんでしょ!!」
「納得してもらえたようで何よりだ。精算は戦争が終わってからでいいだろう。あいつ今は保健室に居るし」
「……分かったわ。はぁ……」
こんな感じで、第1回戦はFクラスの勝利で終わった。
あと2勝だな。
「ふぅ……何とか勝てたよ」
「いや、結構楽勝に見えたが」
「いやいや、一杯一杯だったよ。
……ところでさ」
「どうした?」
「そもそも優子さんは何で秀吉に怒ってたんだろう? 何か知ってる?」
「……そう言えばお前知らなかったな。えっとだな……」
明久に秀吉の所業を教えてやるとする。
命令したのは僕達なんで責任の半分くらいは僕達にあるんだが……まぁ、今は気にしないでおこう。
説明を聞いている明久は段々と顔を青ざめさせていった。
「えっ、えっと……あ、あれ? 木下さんの行動が妥当に思えてきた」
「そう思うんならそうなんだろ。お前の中では」
「ちょっと待って! えっと、それじゃあ、僕がした事は……」
「じっくり考えててくれ。僕は2回戦に行ってくるから」
「この辺はリメイク前の大きな不満点の1つだ。
フラグ立てを優先するあまりかなり強引な展開にしてたんでな」
「要するに、吉井くんが優子さんに勝つ展開にしたかったのよね」
「ああ。ただ、当時の明久は特に覚醒もしていない。高得点を取るのが不可能な以上、低い得点で勝たなきゃならない。
その上で、その勝ちの理由に合理的な説明が必要だ。
だからこそ、当時は『秀吉が本当に殺されかけた』という名目をかなり強引に作ったわけだ」
「そんな事もあったわねぇ……」
「その結果、6倍近くの点数を持つ木下優子を圧倒するとかいう展開になっていたな。
今回のリメイク版では、家庭科の科目を使う事で点数を底上げ、更に、勝たなければならない理由を穏当なものに差し替えた。レベルを変えただけで実は内容自体は変わってないが」
「では、次回もお楽しみに!」