「それでは最終戦を始めます。各代表は前に出てきてください」
いよいよ最終戦だ。事前の協定通りにクラス代表同士の一騎打ちとなる。
「雄二、行ってこい」
「言われるまでもない」
「あと、負けても最悪引き分けとかヌルい事考えてたらぶん殴ってやるぞ」
「安心しろ。全力で勝ちに行く!」
「そうか……なら、頼んだぞ代表」
「ああ!」
雄二が前に出る。
そして霧島も前に出てくる。
お互いに気合は十分のようだな。
「最終戦の科目選択権はFクラスにあります。何にしますか?」
「……数学の、1でお願いします」
「っ」
「1、ですか? 1Aではなく?」
「はい、1でお願いします」
……なるほどな。そうするのか。
いくら雄二でも確実に勝てる戦法は思いつかなかったか。仕方あるまい。
じっくりと見守るとしようか。
前にどっかで話したっけか。数学には4種類の科目があるって。
うちの学校で通常行われているのは数学1Aと2Bのみだが、センター試験では数学1と数学2の科目が存在する。
だからこそ、数学1に絞った科目を指定して補充試験を受ける事も可能だ。
そして、絞った分だけ問題の種類も絞られ、点数は伸びる。
まぁ、そんな理屈は当然翔子にも適用されるわけだが……恐らくはその恩恵は受けられない。
「では、承認します」
「
「……
[フィールド:数学1]
Fクラス 坂本雄二 281点
Aクラス 霧島翔子 385点(1A)
予想通り、だな。翔子のような優等生がわざわざ数学1単体みたいな無駄科目を受けるわけがない。
だから翔子の点数は0点……となってくれたら一瞬で決着が着いたんだが、流石にそんなルールにはなっていない。
こういうマイナー科目の場合は上位互換の科目(今回は数学1A)の点数がそのまま反映される。
結果、こっちは数学1という簡単な科目で、翔子は数学1Aというやや難しい科目での点数になり、優位に立つ事が可能だ。
……と言っても、点数では負けてるんだがな。
「……凄い。下位科目とはいえAクラス上位並の点数」
「それでもお前の方が高いみたいだけどな。
だが、明久ですら1.5倍をひっくり返したんだ。やってやる!」
「……手加減はしない。来なさい」
「ああ。行くぞ!!」
翔子の召喚獣は立派な鎧に刀。但し、下半身はスカートだし、兜は着けていない。盤石というわけではないな。
それに対して俺は学ランにメリケンサックとかいう舐め腐った装備だ。装備を決定している試験召喚システムには後で文句を言ってやりたい。
リーチは短いし、防御力は貧弱。フットワークが軽いというのが唯一の利点か。
作戦はこうだ。翔子の攻撃を回避し、顔面にパンチを叩き込む!
……何だかちょっと罪悪感が湧いてくる絵面だが、相手は召喚獣だ。お互いに観察処分者でもないのでフィードバックも無い。遠慮なく殴りつけてやろう。
真っ直ぐ行って殴りつける。
カウンターで刀が振るわれる。ただ、動作そのものはそこまで速いわけじゃない。難なくバックステップで避ける。
刀が振るわれた直後の隙を突いて、殴る!
[フィールド:数学1]
Fクラス 坂本雄二 281点
Aクラス 霧島翔子 385点 → 305点
「チィッ、後ろに跳んで衝撃を殺されたか」
「……雄二、この子の顔を殴るのはどうかと思う」
「うるせぇ! 俺だってちょっとは思ってたけど仕方ねぇだろ!
嫌なら鎧を脱がせてくれ! 胴体を殴れるから!!」
「……こんな所で脱げだなんて、雄二は大胆」
「違ぇよ!! うぉっと」
俺がツッコミを入れてる間に召喚獣による攻撃を受けた。コイツ……見た目に似合わないダーティーな真似をっ!
気を取り直して再び攻勢に出る。さっきと同じ事を繰り返せば理論上は勝てるはずだ。
どんどん行くぞ!
Aクラス 霧島翔子 305点 → 238点
Aクラス 霧島翔子 238点 → 261点
Aクラス 霧島翔子 261点 → 215点
Aクラス 霧島翔子 215点 → 178点
Aクラス 霧島翔子 178点 → 150点
Aクラス 霧島翔子 150点 → 132点
Aクラス 霧島翔子 132点 → 127点
あれ? おかしいな。段々とダメージが減ってる?
「……大体掴めた。ここからは私の番」
翔子が刀を振るう。俺は先ほどまでと同じような動作で回避する。
しかし……
Fクラス 坂本雄二 281点 → 200点
「何だと!?」
「その動きはもう覚えた。回避なんてさせない」
翔子の刀が生き物みたいにぬるりと動いて的確に俺の召喚獣にダメージを与えた。
翔子の点数が減っていたから致命傷にならずに済んだが……
「…………」
「うぉっと、くそっ!」
考え込んでる暇は無いようだ。刀による攻撃なんてガードしようとしても真っ二つにされるだけなので回避に徹する。
しかし……どう動いてもどこかしらに当たってダメージを喰らってしまう。
Fクラス 坂本雄二 200点 → 185点 → 161点 → 141点 → 118点
せっかく削ったのにあっという間に逆転されてしまった。
くそっ、どうする? このままだと、負ける!
「ああもう、何やってるのさ雄二!」
「うるせぇ明久! 文句言うなら代わって……いや、何でもない」
この点数状況なら交代してもアイツなら普通に撃破しそうだな。癪だがそれが事実だ。
あいつなら、明久と、あと剣ならこの状況でも勝てるだろうな。きっと無傷で。
そんな芸当は俺にはできない。どうやっても。
……だったら俺らしくやるだけだ。
どうせ回避しても攻撃を喰らうんだ。だったら……殺ってやる。
再び召喚獣を突進させる。最初の場面の焼き直しのように。
翔子はこちらの回避に合わせて的確に刀を振るってくるだろう。クリーンヒットしたら俺の召喚獣は多分昇天するんで回避は必要だ。
さっきまでの大きな回避じゃ意味が無い。だから紙一重の回避を目指す。
召喚経験の乏しい俺にとってそんな動作はかなり厳しい。成功率は50%未満……ですら盛りすぎか。
だが、やるしかない。勝つ為に!
「うぉぉぉぉおおお!!!!」
「っっ!?」
果たして、結果は?
……そうか、俺の拳は召喚獣には届いたようだ。だが……
[フィールド:数学1]
Fクラス 坂本雄二 118点 → Dead
Aクラス 霧島翔子 127点 → 18点
勝利には、届かなかったようだな。
「そこまで! 最終戦はAクラスの勝利です。
ここまでの戦績は2勝2敗1分、総合結果は引き分けです。
この後どうするかは、互いのクラスの代表者が話し合ってください」
さて、どうするか。ちょっと疲れたな。
とりあえず……剣に丸投げしておこう。こういう時の為の副代表だからな。
「『数学1Aから数学1にしたくらいで点数が跳ね上がるわけ無いだろ』というツッコミは勘弁してくれ。
筆者もその辺は適当だそうだ」
「有利になるのは間違い無いと思うけど、その程度がどれだけなのかは謎ねぇ」
「そう言えば、この話を書いている途中で思いついてしまった事があるようだ」
「……一応訊いておくわ。何?」
「……実技科目の『情報』で挑めば楽勝だったんじゃないか……と」
「……あっ」
「霧島が機械音痴というのは公式設定だ。情報の点数が比較的低くても不自然ではない。
まぁ、それでも霧島だからペーパーテストに必要な知識は持っていてもおかしくはないがな。
数学で挑むよりは勝算があったんじゃないだろうか……と」
「……で、言い訳はどうするの?」
「まず、単純に雄二も苦手だった可能性だ。
情報の授業内容はよく知らないが、2進数の演算とかならまだしも用語の暗記とか雄二は比較的苦手なんじゃないかという気がする」
「確かに、あの坂本くんなら暗記よりも計算の方が得意でしょうね」
「ああ。だからこそ数学1を選んだわけだしな。
問題の解き方を一通り把握できていれば後は演算能力の勝負になる。
雄二にとっての急成長の方法は暗記ではなくそっちだろうと判断した。
……そういう事にしておこう」
「そういう事にしておきましょっか」
「どちらの方が勝算があるのかは意見が割れそうだな。
原作では情報の科目は影も形も無いんで類推は不可能だな」
「では、次回もお楽しみに!」