バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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02 クラスメイトと下克上と

 教室でぼんやりとしていたらガラガラという扉が開かれる音が聞こえた。

 

「一番乗り……ではなかったか。

 随分と早いな。おはよう」

「ああ、雄二か。おはよう」

 

 入ってきた奴の名は坂本(さかもと)雄二(ゆうじ)。去年からの知り合いだ。

 こいつの学力を考えたらもうちょい上のクラスも狙えたはずだが、わざとここに来たんだろうな。僕と同様に。

 

「ところで、代表は貴様か?」

「ああ。その通りだ。

 一応訊いておくが、お前はFクラスだよな? 別クラスが何となく見学に来たわけじゃないだろうな?」

「安心しろ。バッチリFクラスだ。兵隊としてこき使われてやるから感謝しろ」

「ああ。宜しく頼むぜ」

 

 各クラスには『代表』という概念が存在する。

 基本的な役割は普通の学校の『クラス委員長』とかと何ら変わりは無いが、ある行事では重要な役割を担う。

 その為、代表は各クラスの成績トップが担当する。うちの学校は1学年300人で、クラスは6つに分かれているから……雄二の学年順位は251位という事だな。

 しかしまぁよくできたものだ。ジャスト251位を狙うというのは簡単な事ではない。

 僕も準備期間を与えられれば不可能ではないかもしれないが、それ以前にやりたくない。面倒だから。

 

「それじゃ、他の連中を待つとするか」

「そうだな」

 

 

 

 のんびりと待っていると50個の席の殆どが埋まった。

 空席は、2つ。

 試験を途中退席して0点になった2名の姿はまだ見あたらない。

 そろそろ始業時刻だが……どうしたんだろうな? 遅刻か?

 

 

 

 始業時刻を過ぎた。担任の教師が来るかと思ったが、まだ来ない。

 またぼんやりとしていたら不意に扉が開き、見知ったバカが現れた。完全に遅刻だな。

 

「テヘッ、ちょっと遅れちゃいました♪」

「早く座れこのウジ虫野郎」

「ヒドっ!! 誰だそんな事言うのは……って、雄二? 何してるの?」

「何か先生が来ないんで代わりに教壇に上がってみた」

「代わり? 何でまた」

「フッ、俺がこのクラスの代表だからな」

「あ~、なるほど」

 

 そんなやりとりをした後、遅刻してきたバカこと吉井(よしい)明久(あきひさ)は空いてる席に着いた。

 空いてる席と言っても選択肢は2個しか無いが。

 ……ヒマだからちょっと話してみるか。

 

「よう明久。遅刻は珍しいな」

「え、剣? 剣もFクラスなの?」

「ああ。うちの代表様が面白そうな事を企んでるんでな。

 僕も一枚噛ませてもらおうと思ってな」

「へ~。頑張ってね」

「……恐らく、お前も頑張る事になると思うぞ」

「へ?」

 

 コイツは雄二の為にわざわざ苦労を背負うような殊勝な奴ではないが……別の理由から結局は全力で頑張る事になるだろう。

 

「あ、先生が来た。大人しくするとしよう」

「う、うん……」

 

 

 

 新クラス恒例のイベント。それは自己紹介だ。

 まずは担任の教師、覇気の無いオジサンこと福原先生だ。

 

「えー、おはようございます。私がこのクラスの担任の……福原(ふくはら)(しん)です。宜しくお願いします」

 

 名前の前に間があったのは自分の名前をド忘れした……というわけではなく、黒板に自分の名前を書こうとして止めたからだ。

 何故止めたかって? このクラスにはチョークすら支給されてないからさ!

 ……いや、流石にこれはおかしいだろう。授業に致命的な支障が出るぞ。単純に補充されてないだけだと信じて後で事務室か職員室から取ってこよう。

 

「それでは、自己紹介でも始めましょう。廊下側の一番前からお願いします」

 

 こうして自己紹介が始まったが、50人もの生徒の名前を記憶する気は全く無いのでテキトーに気になった部分だけ聞き取る事にする。

 

 

木下(きのした)秀吉(ひでよし)じゃ。演劇部に所属しておる。

 今年一年宜しく頼むぞい」

 

 どっかの天下人みたいな名前の男子生徒は僕の去年からの友人の1人だ。

 独特の喋り方、そしてその外見は大きな個性となっている。

 いや、猿っぽいとか、ハゲ鼠っぽいとかいう話じゃない。結論を言うと、パッと見女子に見えるんだ。

 いわゆる、『男の娘』というヤツだな。本人は常日頃から男だと名乗っているが、正しく性別を把握している奴はあまり多くなさそうだ。

 余談だが、木下優子(ゆうこ)という名の双子の姉が居る。二卵性双生児にも関わらず外見は非常に似ており、その事も性別誤認に拍車を掛けているのだろう。

 

 

「…………土屋(つちや)康太(こうた)

 

 名前だけ名乗って座った影の薄いあいつも秀吉と同じく去年からの友人の1人だ。

 彼の2つ名はさる筋では非常に有名なのだが……まぁ、本人が名乗ってないので今は置いておくとしよう。

 

 しっかし、さっきから男子しか居ないな。成績が悪い奴には男子しか居ないのか?

 ……実際どうなんだろうな。世界全体、あるいは国ごとや地域毎にどんな傾向があるのかとか調べたらそれはそれで面白い事になりそうだ。

 

 なんて事を考えていたら女子の声が聞こえてきた。

 

島田(しまだ)美波(みなみ)です。海外育ちで、日本語の会話はできるけど読み書きは苦手です」

 

 島田か。友人と言えるほど深い関係性は無いな。せいぜい顔見知りと言った所か。

 教室内を見回すと女子は帰国子女の彼女だけらしい。国語が不自由な彼女なら点数が著しく低いのは当然の事なので、普通にFクラスレベルの学力の女子は少なくとも本学年には存在しないようだ。

 

「あ、でも、英語も苦手です。英語圏内じゃなくてドイツ育ちだったので。

 あと、趣味は吉井明久を殴る事です♪」

 

 何か物騒な事を言い出した。島田よ、その発言は色々と誤解を生むぞ?

 島田美波という人物は決して他者をいたぶって愉しむ変態ではないし、明久が嫌いというわけでもなくむしろ好いている。

 

「はろはろ~♪」

「や、やぁ……島田さん」

「吉井、今年も宜しくね!」

 

 好いているはずなのだが……何かちょっと捻れた愛情表現しかできないらしい。

 なお、その『好き』が『Like』なのか『Love』なのかは……僕が決める事ではないか。

 

 

「……コホン、え~、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでください♪」

 

『『『ダァァリィィィン!!!』』』

 

「……失礼、忘れてください。とにかく宜しくお願いします」

 

 このクラスの奴ら、意外とノリが良いな。だからどうしたという話だが。

 さて、そろそろ僕の番のようだな。

 

「空凪剣だ。1年間宜しくな」

 

 以上だ。何? それだけかだと?

 フン、名前さえ分かれば十分だろう。

 そそくさと座布団に座り、次の人にバトンを渡す。

 ……が、その前に足音が聞こえた。

 

ガラガラッ

 

「す、すいません……遅れました……」

 

 扉の向こう側に立っていたのはある女子生徒。

 体調不良により途中退席を余儀なくされ、強制的にFクラス入りになってしまった優等生。

 姫路(ひめじ)瑞希(みずき)がそこに居た。

 

「おや、ちょうど良かった。今は自己紹介をしている所なので姫路さんもお願いします」

「は、はいっ。姫路瑞希といいます。宜しくお願いします」

「あのっ! 質問させて下さい!」

「はい? 何でしょうか?」

「どうしてここに居るんですか!?」

 

 姫路に質問したのは……えっと……須川か、横溝か、そんな感じの名前の奴だ。

 その内容は受け取り方次第では極めて失礼だが、質問を受けた姫路は特に誤解する事なく普通に答えた。

 

「えっと、試験中に熱を出してしまいまして、途中退席で0点扱いに……」

 

 ちょっと前にも似たような事を思ったがホント理不尽なルールだよな。

 せめて回答した分くらいは採点してやりゃいいのに。

 彼女は試験順位1桁の常連だ。実力の半分も出せていなくてもFクラスくらいは普通に回避できる。

 

『そう言えば俺も熱の問題が出たせいでFクラスに……』

『ああ、アレは難しかったな』

『実は俺は弟が事故に遭ったって聞いて実力を出し切れなくて……』

『黙れ一人っ子』

『前の晩、彼女が寝かせてくれなく……』

 「「「「「異端者だ! 殺せぇ!!!」」」」」

『スイマセン嘘です! チョーシこきました!!』

 

 ……どうやらこのクラスは予想以上にアホの集まりらしい。

 学力が最低だからと言ってここまで常識の無い連中が集まる事もなかろうに。

 ……まぁ、いいや。

 連中が何か騒いでいる間にササッと姫路の所まで近づいて耳打ちする。

 

「お~い姫路、こっちだ」

「え?」

「お前さんは最後だったから1つを除いて席は埋まってる。今のところお前の席はこっちだ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 どういうわけか僕の近くの席は最後まで残っていたので、姫路と、ついでに明久の席は僕のすぐ側だ。

 まぁ、あくまでも暫定の席なんでしばらくしたら席替えとかするかもしれんけどな。

 その後で気が向いたら座席表でも作っておくか。Aクラスに行った妹ならパソコンとプリンターくらい余裕で借りられるだろうし。

 

「ところで姫路、体調はもう大丈夫なのか? 試験を途中退席って相当だと思うが」

「は、はい。もう大丈夫です」

 

 大丈夫だったら遅刻なんてしないと思うんだが。

 姫路自身と会話した事は全く無いが、噂では真面目な優等生らしい。他人に心配をかけまいと無理をするくらいは普通にするだろう。

 少し気を配っておいてやるか。うちの貴重な戦力だしな。

 

「ま、無理はするなよ」

「そうだね。病み上がりなら気をつけないと」

「えっ、よ、吉井くん!? いつからそこに居たんですか!?」

「え? 最初から居たけど……」

 

 何か姫っちが過剰に反応してる気がする。

 ……ああ、なるほど。そういう事か。

 

「いや、ホント済まない。明久が変態で。驚かせてしまったな」

「剣っ!? どういう意味!?」

「おい違うぞ剣。流石の明久でも見た目だけじゃ変態だとは分からん。

 こういうべきだ。済まないな姫路。明久がブサイクで」

「雄二まで便乗しないで!? って言うか何の恨みがあるの!?」

 

 近くの席に座っていた雄二まで便乗してきた。いいぞーもっとやれー。

 

「恨み? 何を言っている。友人の汚点を謝るのは常識だろう?」

「安心しろ。1割は冗談だ」

「そんな常識は知らないよ!! そして剣!! 残りの9割は一体何なの!?」

 

 細かい事を気にする奴だな。言った僕ですら残り9割については気にしていないというのに。

 やれやれだな。

 

「ぶ、ブサイクだなんて、そんな事無いですよ!

 むしろ、その……か、カッコいいですよ!」

 

 まぁ、正直な所、見た目はそこそこ整っている。

 バカな言動とか、アホな言動とか、あとバカな言動とかのせいで完全に台無し……あれ? 全部同じ?

 

「そうだな……確かに、俺の知っている奴でも明久に興味を持っているような奴が居た気がするしな」

「えっ!? それって誰「誰ですか!?」

 

 姫路の台詞が明久の台詞を食っているが、質問内容は同じなので大した問題ではなさそうだな。

 

「ん~、確か、久保……

 …………利光だったかな」

 

 ……うん。そこそこ有名人だから僕の脳内辞書にもしっかりと登録されている。

 久保(くぼ)利光(としみつ)

 姫路と同じく順位1桁常連の優等生。

 但し、1位を取った事は無かったはずだ。いやまぁ、1位に君臨している生徒が圧倒的という話であって彼自身の問題ではないが。

 そして……彼は男だ。

 大事な事なのでもう一度言うが、男だ。

 

「…………」

「おい明久。声を殺してさめざめと泣くな。そんなに嬉しかったか?」

「違うよ!!」

「フッ、安心しろ。世界は広いんだ。お前に興味を持つ女子がもしかしたら居る可能性が無きにしも非ずと言える可能性は0ではない。

 ほら、宝くじの1等を10年くらい連続でピンポイントで引き当てる事に比べたら1000倍は楽勝だ。そう気を落とすな」

「あ、ありがと剣……って、それってほぼ望み薄だよね!? ほぼって言うかもう完全に望み無いよね!?」

 

 チッ、バレたか。

 明久にしては鋭いな。

 

 と、そんな風に騒いでいたせいか先生から注意が入った。

 

「はいそこ静かにして下さいね」

「あ、はい。すいませ

 

バキィッ パラパラパラパラ……

 

 福原先生が軽く叩いた教卓が塵と化した。

 どんだけ老朽化してたんだよ。って言うか今の今までよく教卓としての形を保ってたな。

 ……実は福原先生が鉄人を凌ぐ程の怪力なのだろうか? いやまさか。

 

「替えを持ってきますので暫くお待ち下さい」

「……あの、手伝いましょうか?」

「助かります。では付いてきて下さい」

 

 Fクラスの酷さを考えると新品の教卓が用意されるとは思えないが……せめて長持ちしそうなのを見繕っておこう。

 

 

  ……数分後……

 

 

「……なあ雄二」

「どうした剣」

「……倉庫に入ったらボロい教卓が100個近く並んでいた光景を見た僕はどうしたらいいと思う?」

「笑えばいいんじゃないか?」

「はっはっはっ……

 いや、ヒドすぎるだろ!! Fクラスへの嫌がらせにどんだけ金かけてるんだよ!!」

 

 ボロの教卓は普通の教卓に比べたら単価は安いだろうが……すぐに壊れる事を見越して大量に用意してあるので新品を大事に使った方が安い可能性は十分にある。

 あと、絶妙にくたびれた教卓を探すのも大変だろう。その手間を人件費として金に換算すれば更に金がかかる。

 そこまでやるか? わざわざ。

 

「まぁ、安心しろ。お前が出かけている間に明久と『試召戦争(ししょうせんそう)』について話してた所だ」

「ほぅ? 早速動くのか。だが、いきなり過ぎないか?」

「どうやら俺が想定していたよりも状況は有利みたいでな。初日から始められる」

「そうか。お前がそう判断したならそれに従うとしよう」

 

 

 

 そして自己紹介が続き、最後に雄二の番になった。

 

「坂本君。あなたで最後です。自己紹介をお願いします」

「ああ」

 

 雄二はゆっくりと立ち上がり、教室の前まで進む。

 そして、全員の注目を集めるように教卓をバンと叩く。

 良かった。今回は壊れなかったようだ。

 

「さて、俺がこのFクラスの代表を任された坂本雄二だ。

 俺の事は坂本でも代表でも好きなように呼んでくれ」

 

 ふむ、好きなようにか。それなら……

 

「赤ゴリラ?」

「はっ倒すぞ」

「じゃあダーリン!」

「ブチのめすぞ!」

 

 好きなようにって言ったのに。雄二の嘘つき。

 

「まぁ、呼び方の問題は置いておこう。俺は代表として諸君らに訊きたい事がある。

 俺が仕入れた情報によれば、Aクラスは1人1人にシステムデスク、パソコン、エアコンにリクライニングシートが配備され、水は勿論、ジュースの類もドリンクバーで飲み放題。菓子類も食べ放題。

 その上、真っ正面にはウン千万するであろう巨大なプラズマディスプレイが鎮座している」

 

 そんなに設備が充実していたのか。流石に金をかけすぎじゃないのか?

 格差を煽って勉強させるのが本校のクラス分けの目的なのは十分理解しているが、何事にも限度があるだろう。

 

「さて、それに対して我がFクラスは……」

 

 雄二がゆっくりと教室を見回す。

 その視線につられるように、皆も辺りを見回す。

 

 落書きを取ったら何も残らなそうな壁。

 

 毒キノコでも生えてきそうな畳。

 

 名状し難き窓のような何か。

 

 たっぷりと時間をかけて見回した後、語りかける。

 

「……不満は無いか?」

 

 ハッ、何を当然の事を。

 言うまでもない事だが、言わせてもらうとしよう。

 

『『『大有りじゃぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!』』』

 

 これで不満を持たない奴が居たらそいつはどこのスラム育ちだという話になる。

 そんなもの、この日本には……いや、探せばあるかもしれないが、少なくともこのクラスの連中にスラム出身の生徒はまず居ないだろう。

 

「そうだろうそうだろう! 俺も代表として大いに問題意識を抱えている!!

 そこでだ。我々FクラスはAクラスに対して『試験召喚戦争(しけんしょうかんせんそう)』を挑もうと思う!!!」

 

 雄二のこの宣言から、僕達の長い1年が始まった。

 それじゃあ始めよう。楽しい楽しい下克上を!






「この辺も話の流れはほぼ全く変わってないわね。表現とかが微妙に変わってるけど。
 あと、文字を大きくしたり小さくしたりといった特殊タグも活用してみてるみたい。
 意外と機能が充実してるみたいね、このサイトって」

「色々と小細工ができそうだな。
 あんまり活用しすぎると逆に見辛くなるが」

「程々に自重して使ってほしいね。
 では、次回もお楽しみに!」
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