と、言う訳で……
雄二をサクッと見つけ出し、学園長室に殴り込みに行く事になった。
「いや、どういう訳だよ!!」
「いや~、偶然ってあるもんだな~。
たまたま通りかかった女子更衣室の扉を蹴破ってたまたまカーテンを引っぺがしたらお前が隠れてるんだもんな!」
「ホントだよね! 奇跡ってあるんだね!
雄二が霧島さんから逃げる為に女子禁制の場所じゃなくてあえて男子禁制の場所に隠れてるだなんて夢にも思ってなかったよ!」
「下らん三文芝居は止めてサッサと用件を話せ!」
「うむ、そうだな。のんびりしてたら霧島に見つかるかもしれんし、こうやって騒いでるだけでも……」
誰かに見つかってしまうかもな。
そう言おうとした時、この女子更衣室に入ってきた女子生徒、木下姉と目が合った。
「…………」
「「「…………」」」
十秒ほど静寂が続く。
木下姉がゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き、そして……
「先生! 覗きです! とっ捕まえてください!」
「やべっ、逃げるぞお前ら!」
「了解っ!」「やれやれ」
ひとまず雄二に続いて窓から逃げる。
最後尾の僕が脱出し終えた直後、鉄人の野太い声が聞こえてきた。
「逃さんぞ! 補習室で性根を叩き直してやろう!」
「……なぁ、補習室ってそういう設備だっけ?」
「知るかよ! そんな事より捕まったら終わりだぞ!!」
「不法侵入はともかく覗きに関しては冤罪だから話せば分かってくれると思うんだがな……」
「そんな呑気な事言えんのはこの学校じゃお前だけだ」
雑談しながらも全力で足を動かす。
う~む、距離を詰められているな。
「剣! 鉄人を倒したりできないの!?」
「無茶を言うな無茶を。自宅ならともかくこんな所で倒せるわけが無いだろ」
「自宅なら倒せるのか!?」
「じゃあ自宅までおびき寄せて……」
「その途中で確実にとっ捕まるだろうな」
それ以前に教師を倒そうとするんじゃない。後で問題になるだけだから。
「しかしこのままでは時間の問題だな。
……仕方あるまい。僕が残るからお前たち2人で行ってくれ」
「うん、分かった! 達者でね!」
「……雄二、用件は明久が一応把握している。
明久がアホだったら島田にでも訊いてくれ」
「ああ、分かった。すまんな」
「気にするなら、上手いことやってくれ」
「当然だ」
雄二と明久を見送って鉄人に向き直る。
ま、なるようになるだろう。
剣の献身によりどうにか鉄人から逃げた俺たちは学園長室に向かう。
「んで? 一体何の用があったんだ?」
「うん、大変なんだよ! 姫路さんが転校しそうで、殴り込みに代表の雄二が必要なんだよ!!」
「……よし、ちょっと整理させてくれ」
後半は意味が分からないから無視するとして、前半から追っていこう。
姫路の転校となると……やはり原因はあの教室の設備だろうな。
考えられる問題点は3つ。設備と、教室そのものと、後はクラスメイト。
その中で剣だけではなく俺が必要になる要因は……教室か。
学園長への殴り込みもとい教室の改善要求を出すのにクラス代表の俺が必要だったと。
「大体把握した。行くぞ」
「うん!」
そうして学園長室の前に辿り着くと中から声が聞こえた。
無駄に分厚い扉を挟んでるんでよく聞き取れないが……婆さんの声が混ざってるっぽいので学園長は中に居るようだ。
無駄足にならなかったようで何よりだ。
「チィーッス、失礼しまーす」
「え、ちょ、雄二、いきなり!? し、失礼します」
雑に2回ほどノックした後、返事を待たずに扉を開け放つ。
中に居たのは見覚えのある老婆こと学園長。そしてもう1人。
「おやおや、こんな時に来客ですか。まさかとは思いますが、これは貴女の差し金ですか?」
確か教頭の……竹原だったな。始業式とかで無駄に話が長かったのはよく覚えてる。
「ハッ、バカ言うんじゃないよ。どうしてアタシがそんな下らない小細工しなきゃならんのさ」
「さぁどうでしょう? 学園長は隠し事がお好きなようですから」
「そんな下らない詮索をしてるヒマがあるなら仕事しな。それとも、まだいちゃもん付けようってのかい?」
「……まぁ、ひとまずは引き下がるとしましょう。続きはまたの機会に」
そう言い捨てて教頭は去って行った。
何だかキナ臭い話をしていたようだが……俺たちには関係の無い話だな。
「んで、そこのガキどもは一体何の用だい?」
さて、相手は一応はここのトップだ。少しは下手に出ておくか。
「本日は学園長に相談があって参りました」
「アタシは忙しいんだ。学校の運営に関する事ならさっきヒマそうにしてた教頭の竹原に言いな。
それと、用事があるならまずは名前を名乗りな。それが社会の礼儀ってモンだよ」
「失礼しました。私は2年Fクラス代表の坂本雄二です。
そしてこちらが……うちのクラスを、いえ、2年を代表するバカです」
「ちょっと、雄二!? どういう事!?」
「ほぅ? アンタ達が例のFクラスの代表の坂本雄二と、観察処分者の吉井明久かい」
「学園長!? 僕はまだ名前を名乗ってませんよ!?」
いや、ちゃんと名乗ったろ。バカって。
「気が変わった。いいだろう。話を聞こうじゃないか」
話を聞いてくれるのはありがたいが微妙に引っかかるな。
……まだ手がかりが少なすぎるか。普通に話を進めよう。
「ありがとうございます」
「礼を言うヒマがあるならさっさと用件を言いなウスノロ」
「……分かりました。
結論から言うと、Fクラスの設備の改善を要求しに参りました」
「ほう、そうかい。ヒマそうで羨ましいねぇ」
「現在のFクラスは窓はボロボロ、畳もボロボロ。隙間風が吹き荒れ、時折変なキノコが生えてくるような有様。
例えるのであれば、そう。まるで学園長の脳味噌のような惨状です」
「え、雄二?」
「学園長のように戦国時代からしぶとく生き延びているような妖怪ならまだしも、現代の高校生たちにとっては非常に危険な状態です。
まぁ要するに、サッサと教室を直しやがれクソババァ、という訳です」
そんな罵倒混じりの俺の言葉を学園長は黙って聞いていた。
少しは怒るかと思ったんだが、単純に気にしてないだけなのか、それとも怒れない理由があるのか……
「……なるほど、お前たちの言いたい事はよく分かった」
「えっ、それじゃあ教室を直してもらえ……」
「却下だね」
「雄二、このババァをコンクリに詰めて東京湾に流そう」
「おい落ち着け明久。環境汚染になるだろう」
「あっ、そうだった……ごめん雄二。大事な僕達の地球だもんね」
却下か……この理不尽を訴えれば学園ごと潰して姫路だけじゃなく全員を転校させる事もできそうだな。
勿論やらないがな。まだこの学校ではやるべき事があるし、一応とっかかりになる程度であって決定的ではない。
とりあえず理由を聞くとしようか。建前の理由を。
「このバカが失礼しましたババァ。理由をお聞かせ願えますか?」
「そ、そうですね。教えてくださいババァ!」
「アンタ達……本当に聞かせてもらいたいと思ってるのかい?」
なんだ、そんな事も理解できないとは。ババァの脳味噌は本当にFクラス教室並の可能性もあるな。
「まぁ教えてやる。と言うか、理由も何も設備に差を付けるのはうちの教育方針だよ!
そういう学校だって分かってて入ってるはずだ。ガタガタ抜かすんじゃないよ!」
それはあくまでも『設備』の問題であって、建物そのものに対する免罪符にはならないだろう。
そんな事も分からないアホが学園長になどなれる訳が無い。一体どういうつもりだ?
「……と、普段ならそう言って突っぱねるんだけどねぇ」
「ん?」
「アンタ達は運が良かったね。丁度今ちょっと困っててねぇ。
こっちの頼みを聞いてくれるって言うんなら、相談に乗ってやらん事も無いよ」
「…………」
初めからコレが狙いか。
態度を変えたのは俺たちの名前を聞いてからだったな。一体何を言い出す気だ?
「頼み、ですか?」
「ああそうさ。今度の清涼祭で召喚大会が開かれるのは知ってるかい?」
「……ああ、一応知っています」
「じゃ、その優勝賞品については知っているかい?」
「いえ、全く」
そうか、優勝賞品なんてあったのか。
そりゃあるか。賞品っていうエサが無いと強い奴が参加してくれないだろうからな。
一部の物好きは参加するだろうが……PRの為の重要な大会を運任せにするはずがない。
「学園長、賞品って何なんですか?」
「賞状とトロフィーを除けば優勝者に与えられる賞品は2つさね。
まず1つ、『如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケット』を2枚。
そしてもう1つが試召戦争を便利に進められるアイテム、『
何だと? 今、聞き捨てなら無い事を言わなかったか?
「え~っと……それが何の関係があるんですか?」
「話は最後まで聞きな。
問題はこのペアチケット。ちょっと良からぬ噂を聞いてね。ちょいと回収して欲しいのさ」
「回収だなんてそんな面倒な事せずとも、そもそも賞品にしなきゃ良いんじゃないですか?」
「そんな事ができたらとっくにやってるよ。
この件はウチと如月グループが結んだ契約だ。よほどの事が無い限りは撤回なんて不可能さね」
「そうなんですか……それで、その噂って言うのは?」
「……実に下らない話なんだけどねぇ。
如月グループはあるジンクスを作ろうとしてるらしいのさ。
『如月ハイランドに訪れたカップルは永遠に幸せになれる』ってね」
「おいちょっと待て学え……ババァ。そりゃまさか……」
「簡潔に言うと、今回の賞品のプレミアムペアチケットを持ってやってきたカップルを企業の力で強引にくっつけちまおうって肚らしい」
「何だと!? ふ、ふざけるな!!」
「うわっ、いきなりどうしたの雄二」
如月ハイランド……それは今朝の登校中に翔子が気にしていた遊園地の名前だ。
試召戦争の一騎打ちで負けた俺の立場上、翔子からデートに誘われたら断るのは不可能だ。
プレオープンチケットは現在激レアらしい。そんな状況でこの大会の賞品として出てきたらアイツは死に物狂いで優勝しようとしてくるだろう。
普通のペアチケットならまだ救いはあるが、このペアチケットをアイツが手にしたら……俺は破滅だ!
「えっと……雄二……?
……まいっか。それじゃあ学園長、頼みっていうのは……」
「『今回の優勝賞品の回収』それができれば教室の件は引き受けてやろうじゃないか」
「回収……って事は……」
「ああ、一応、念のため言っておくがね。優勝者から譲ってもらうってのはアウトだよ。
強引に奪い取るのも論外。そんな不正は認めないよ」
「あ、あっはっはっ、やだなぁ~。そんな事微塵も考えてませんよ!
そ、それより、確かですね? 僕達が勝てば教室と設備は改善してくれるんですね?」
「何を寝ボケた事言ってるんだい。アタシがしてやれるのは教室だけだよ。設備は自力で何とかするこったね。
個人の資金で設備を改善するのは見逃せないけど、清涼祭で得た資金で程々に改善する分には目を瞑ってやるよ。クラスの成果だからねぇ」
…………ハッ、危ない危ない。気付いたら話が進んでいた。
要するに優勝できりゃあ良いんだ。そうすりゃ万事解決だ。
「……いいだろう。その提案を受けてやっても良い」
「あ、雄二が復活した」
「随分と上から目線だね。どういうつもりだい?」
「簡単な話だ。いくつか条件を付けさせてもらうだけだ。
まずはちょっとした確認だ。
今回の大会のルールでは2対2のタッグマッチトーナメント。
そしてその時の科目はそれぞれの1戦目は化学、2戦目は古文といった具合に毎回変わる。これで合ってるか?」
「ああ。その通りさ。それがどうかしたのかい?」
「この時の科目についてだが……その指定を俺にやらせてくれ」
この提案は通るだろうか?
普通は通らないんだが、恐らくは……
「……ふむ、いいだろう。
点数の水増しとか言われてたら一蹴していたけど、そのくらいなら手を貸してやろう」
そうか……やはり通るのか。なるほどな。
「そこまでやるからには絶対に勝てるんだろうね?」
「…………」
「あれ? 雄二どうしたの?」
確実に言える事がある。
科目を指定しただけでは翔子には絶対に勝てない。
俺と明久の2人掛かりで挑んでもかなり厳しいのに向こうには恐らくAクラスの相方が居る。
下手な策を凝らしても見破られる可能性もある。
……少し、いや、かなり情けない話だが……やはりこうするのが最善手だろう。
「……俺は大会には出ない」
「ええっ!?」
「……今更どういうつもりだい?」
「安心してくれ。より確実に勝つ為に俺の代わりに別の奴に出てもらうだけだ」
「ほぅ? 誰だい?」
「うちのクラスの副代表、空凪剣だ。文句はあるか?」
「……ああ、あの時のガキかい。それなら構わないよ」
「……ありがとうございます。俺からの提案は以上です。
約束を忘れないでくださいね?」
「フッ、当然さね。アンタ達こそ、絶対に勝つんだよ?」
学園長が何を企んでいるかはまだ不明だが……最低でも翔子に勝てないと破滅するのは明らかだ。
剣、お前ならそのくらいの無茶振りはこなしてくれるよな。
「今回は解説できそうな場面がいくつかあるな~」
「リメイク前だとキミも一緒に学園長室に乗り込んでたけど、今回は原作通りのメンバーね。
人に任せるのが少しは上手くなったって事かな。筆者さんが」
「そういう事だな。
そのおかげで雄二視点にできた。原作のあのやりとりを『実は計算尽くで挑発していた』という描写を入れられたな。
なお、実際にそうだったのかどうかは知らん」
「坂本くんなら計算高く話してた可能性も十分有り得そうね」
「後は……腕輪についてだな。
原作では2つの腕輪はどちらも『白銀の腕輪』だが、本作では名前を分けている。
これは単純にややこしいからだな。ちなみに白銀が『フィールド作成』で黄金が『二重召喚』だ」
「……そう言えば、リメイク前では黄金の腕輪は今後一切出てこなかったわね……」
「明久が無茶しなきゃならん場面が皆無という原作に喧嘩売ってるような展開をしたからなぁ……
今回も活用されるかどうかは未知数だ」
「白銀は色々と大活躍してたのにね。あと白の腕輪も」
「黄金はなぁ……明久以外が使うと暴走しかねんからなぁ……使いまわしができないって結構な欠点だよな」
「そうねぇ……
それでは、次回もお楽しみに!」