「…………客の入りがおかしい」
「何だと?」
康太の呟きを受けて店の様子を確認する。
……店の様子はさっきまでと変わらない気がする。
「なるほど、確かに少々おかしいな」
「え、どういう事? 僕には変わらないように見えるけど……」
「明久、それが異常なんだ。
ここは飲食店企画なんだぞ? 朝の時間帯よりも昼の時間帯の方が客の数は多いに決まってる。
んで、光? 実際の入客数の記録はどうなってる?」
「ん~、微妙。
ほぼ変わんないけど……ギリギリ増えてると言えなくもないかな? ってくらい」
「判断に迷うレベルの微妙な量か……」
となると何らかの異常事態なのは間違いなさそうだな。調査が必要だろう。
そう考えて出かけようとする。が、その直前で来客があった。
「はろ~、AクラスかFクラスの代表って居る? 居なかったら副代表でもいいけど」
開かれた扉の先に居たのは見覚えのある女子生徒、Bクラスの御空が居た。
良く分からんが客としてやってきたからにはそれ相応の対応をさせてもらおう。
「お帰りなさいませお嬢様。お出口はあちらになります」
「ちょっと!? いきなり追い返そうとしないで!!」
「ハハッ、冗談だ。
で、何の用だ? その軽い口調から察するに副代表として来たわけでは無さそうだが」
「ん~、半分正解ね。
一応今回はBクラスの副代表としてここに来てるわ。けど、今回の話は下手に出る必要が無い案件だから」
「ほぅ、で?」
「簡潔に言うと……うちのクラスの企画に居座ってるうるさいクレーマーを何とかしてほしいって所ね」
「……何で僕が……と言うか僕達がそんな事しなくちゃならないんだ?」
「ただのクレーマーなら自力で解決してるけど、そいつらが流してる悪評ってのがうちじゃなくてこの店の悪評なのよ」
「…………なるほど」
こっちで騒いでいた坊主とモヒカン……確か夏川と常村と呼ばれていたな。直接騒ぐのは諦めて外側から評判を落とす作戦に出てきたか。
って言うかあいつら同じ名字の別人じゃなければ召喚大会の反対側のブロックの優勝候補だよな? どんだけヒマなんだよ。
……まぁ、あいつらの時間の使い方に文句を言っても仕方あるまい。客が増えない原因も分かった事だしサッサと潰すとしよう。
「確かに僕達が協力する……と言うよりむしろそっちに協力してもらう案件のようだな。
情報提供に感謝する。まずは現場に向かってみるとしよう」
「ええ。貸し1つよ」
「……まぁいいだろう」
それより、流石に僕1人では少々心許ないな。真っ直ぐ行ってぶん殴るだけなら簡単だが……他所の店でそんな騒ぎを起こすわけにもいかんし。
「……雄二、明久」
「話は聞かせてもらった。行くとするか」
「えっ、僕も?」
「ああ。クレーマーの面を拝んでおいて損は無いからな」
「そ、そうかな……? まいっか。行こう!」
「そう言えば、Bクラスの企画って何だっけ?」
「おい明久、競合店の事はちゃんと予習しておけ。
Bクラスはイロモノが多い中あえて普通な雰囲気を売りにした喫茶店だ」
今回の清涼祭では喫茶店関係の企画が僕達を含めて5つ存在している。
Eクラスが部活のユニフォームで接客する部活動喫茶、
Dクラスが着ぐるみで接客する着ぐるみ喫茶、
Cクラスがチャイナ服とかで接客する中華喫茶、
Bクラスがさっき言ったように普通の喫茶、
そしてAクラスは説明するまでもなく執事&メイド喫茶だ。
……そんなバカなと思う偏りっぷりだが事実だ。運営は一体何をしていたんだろうか?
「私たちとしては別に普通さを売りにしたつもりじゃなくて接客なんて制服とエプロンで十分っていう判断からこうしただけなんだけどね……」
「つまりは商品の品質を売りにしているという事だな。なるほど」
「そういう訳でも無いんだけど……」
まぁとにかくそんな感じの店に到着した。
「う~ん、今は居ないみたいね。ちょっと奥の方で待ちましょうか」
「そんなに頻繁に来るのか?」
「ええ。鬱陶しい事にね」
御空に案内されて店の奥の方へと移動する。
……そう言えば根本の姿が見えんな。まあいいか。
そして待つ事数分、見覚えのあるクレーマーがやってきた。
「来たわね」
「確かにすぐやってきたな。どんだけ暇なんだあいつら」
クレーマーたちは教室の真ん中に近い席に座ると大声で文句を言い始めた。
『いやぁ、2-Aの喫茶店は最悪だったよなぁ!』
『ああ、そうだな! ケーキはジャリジャリしてたし店員の態度も最悪でよぉ!』
「……って感じ」
「ここだけじゃなくて学校中でやってたらそりゃ客足も遠のくわな」
「落ち着いてコメントしてる場合じゃないよ! 急いで止めないと……」
「お前も落ち着け明久。ただぶん殴っても解決にはならん。
雄二、何か手はあるか?」
「そうだな……御空だったな。ちょっと用意して欲しいものがある」
「何かしら?」
「ここの店の制服……ってのは普通にこの学園の制服か。
女子用の制服を1着貸してくれ」
女子用の制服だと? そうか……そういう事か。
「……お前、霧島に追い詰められて病んでしまったんだな。
何て言うか……済まない、そんなになるまで気付いてやれなくて」
「おいコラ、変な性癖に目覚めたわけじゃねぇよ! 明久じゃあるまいし!」
「ちょっと雄二!? どういう意味!?」
「変態的な要求をそんな堂々とするとは思えないけど……意図を聞かせてくれないかしら?
流石にポンと渡すわけにはいかないわ」
「ああ、安心しろ。明久に着せるだけだ」
「……ゴメン雄二、僕には雄二の性癖に付き合えるような趣味は無いんだ」
「……本当に済まない雄二。まさかここまで病んでいたとは……」
「ちっげぇよ!! 最後まで話を聞きやがれ!!
って言うか剣! お前分かっててボケてるよな!!」
ハッ、何を当たり前の事を。
「で、結局何をどうするの?」
「まず、明久が制服を着るだろ?」
「う~ん……その時点でちょっと気になる所はあるけどスルーしておくわ。で?」
「で、明久があのクレーマーどもに適当にぶつかる」
「ふむふむ、で?」
「で、明久が『キャー、痴漢ー!』とか叫ぶ」
「……なるほど、犯罪者に仕立て上げて合法的に追い出すと」
「ああ。単純に追い出せるだけでなく相手の評判を下げる事もできる。
変態がいくらクレームを付けた所で信憑性は薄くなるからな」
単純に潰すだけではまた別の所で繰り返すだけのもぐら叩きになる。
だからこそひと工夫凝らす必要があるわけだな。
「素晴らしい作戦じゃないか。早速やるとしよう」
「ちょっと待って! 結果は素晴らしいのかもしれないけど納得できない事があるよ。
どうして僕がわざわざ女装しないといけないのさ!!」
「決まっているだろう。面白そ……本物の女子をあんな変態たちに近付けるわけにはいかないだろ?」
「雄二、今絶対『面白そう』って言いかけたよね!?」
「そんなどうでもいい事を気にするな明久。雄二の本音がどうであれ建前の方の理由も重要だ。
御空、貴様のクラスから女子を貸し出してくれ……なんて言っても無理だろう?」
「あのクレーマー達は少なくとも今現在の評価は変態ではないと思うんだけど……あんなのに近づいて当たり屋をやるっていうのはちょっと危険なのは確かね。
痴漢されるフリさせるだけでもちょっと可哀想だし、私自身が身を挺して……っていうほどの話でもないし」
「っていうわけで明久、やれ」
「いやいやいやいや、僕以外の選択肢は無いの!? 例えば僕達のクラスの女子を連れてきて……
……いや、ダメか。危険な目には遭わせられない」
「そういうコトだ。観念しろ明久」
「うぅぅぅ……分かったよ」
明久はがっくりとうなだれている。
女装の1つや2つ大した事無いだろうに。おおげさだな。
……え? だったら僕がやれ? やだよ。色々面倒だから。
「よし。そんじゃ剣、秀吉を呼んできてくれ。本格的に女装させるのに必要だ」
「安心しろ。貴様が女子制服を要求した辺りから既にメールを飛ばしてある」
「ちょ、ちょっと待って!? そんな本格的にやらなくても良いんじゃないの!?」
「……お前、単に女子制服着ただけで殴り込みする気だったのか? そんなの女装男子だって一発でバレた上に顔バレするぞ」
「…………完璧な変装を要求するよ!!」
こうして、超速攻で明久の女装は完了した。
「というわけでクレーマー撃退イベントは次回に持ち越しだ。
そこまで進めてしまうと結構な文字数になってしまうからな」
「原作だと確か葉月ちゃんが『クレーマーがAクラスに居る』情報を教えてくれたのよね。
……あの霧島さんの店でFクラスの悪評を垂れ流すとか、下手するとコンクリ詰めにされそうな気がするんだけど」
「全くだな。当時の霧島は雄二以外に対しては相当手ぬるかったようだな。
コンクリ詰めは言いすぎにしても何らかの対応策を打ち出しそうなものだが」
「……まぁ、今回は関係の無い話ね。FクラスとAクラスの合同企画だし」
「それはそうだな」
「では、次回もお楽しみに!」