バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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11 暴走

 休憩時間を貰ったオレがのんびりとうろついていた時の出来事だった。

 

「あの~、すいません!」

「ん?」

 

 声のした方向に視線を向けると小さな……小学生くらいの女の子が居た。

 どっかで見た事がある気がするが……気のせいか?

 

「どうしたんだ、チビッ子」

「むぅ~、チビッ子じゃありません!

 葉月(はづき)には葉月という名前がちゃんとあるのです!」

 

 葉月……旧暦の8月の事だっけか。

 誕生日が8月だったとかそういう安直な理由で付けられた可能性が無きにしも非ずだな。

 オレの伊織よりは書きやすそうだ。良い名前だな。

 

「で、葉月。何の用だ?」

「はいっ! 葉月はバカなお兄ちゃんを探しているのです!」

「……まさかオレがそうだと?」

「え? 違います! お兄ちゃんはバカなお兄ちゃんじゃありません!」

 

 どうも要領を得ないな。小学生に理路整然とした受け答えを要求するのも酷な話かもしれないけどさ。

 

「ちょっと整理しよう。そのバカなお兄ちゃんってのはバカだったら誰でも良いわけじゃなくて誰か特定の人なのか?」

「勿論です!」

「……一応訊いておくが、その人の名前って分かるか?」

「う~ん、ごめんなさい。名前は分からないです」

 

 そりゃそうだ。知ってたら先にそっちを言ってるはずだ。

 

「……その人の特徴は? バカである事以外で」

「え~っと……すっごくバカなお兄ちゃんでしたよ!」

 

 何故だろう、その言葉を聞いてある1人の人物の姿が脳裏をよぎった。

 一応会うだけ会わせてみるか。

 

「オレに心当たりがある。違う人かもしれないが、行ってみるか?」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 折角の休憩時間だったけど……まぁいいか。こんな小っちゃい子を放置して何かあったら後味悪いし。

 

 

 

 

 と言う訳でパッとAクラス教室まで戻ってきた。

 

「ふわ~、大きくて綺麗な教室です!

 キレーなお姉さん達が沢山居ます!」

「うちの学校で最も金かけてる教室だからな」

 

 単位面積当たりとか人1人当たりで考えたら学園長室とかの方が金がかかってるかもしれないが、部屋単位なら2-Aと3-Aが間違いなくトップだろう。

 よくもまあこんな教室を借りられたもんだ。代表同士、副代表同士での交流があったからこそだな。

 

「とりあえず入ろう。吉井が居ると良いんだが」

 

 教室に入ると今の当番の女子が出迎えた。

 

「お帰りなさいませ~、ってアレ? 君って確かちょっと前に休憩時間に入ってた人だよネ?

 まだ早いと思うけど、どうかしたの?」

「まぁちょっと野暮用が。君は確か……工藤さんだったっけ?」

「へぇ、ボクの名前を知ってるんだ。もしかしてボクのファン?」

「一騎打ちの選抜メンバーくらいは覚えてるさ」

 

 たとえ副代表に一方的にやられて全く活躍しなかった相手でもな。

 

「……キミ、何か失礼な事考えなかった?」

「……そう言えばメイド服似合ってるなー。美人さんが着ると違うなー」

「露骨に話題を逸らしたネ。美人って言われて悪い気はしないけど。

 でも、このメイド服はボク的にはちょっと不満があるんだよ」

「不満? フツーのメイド服に見えるけど、メイド服自体が嫌とか?」

「いや、そうじゃなくって、これって結構スカート長いじゃん」

「……そうだな」

 

 本来の定義としてはメイド服っていうのは家政婦用の作業着だ。多分。

 だから素肌を保護する為に長袖にロングスカートなんだろう。多分。

 

「うん。だから得意のパンチラが披露できないんだよ!」

「……は?」

「だから、パンチラ。あ、せっかくだから見せてあげようか? 頑張ればこれでもできるし」

「何言ってるんだお前!?」

「アッハッハッ、そうだよね。それが普通の反応だよね~」

 

 凄くビックリした。

 そう言えば何か一騎打ちの時も妙な事を口走ってた気がする。

 変人が集まってるのはFクラスだけかと思ってたけどAクラスも結構イロモノが多いな。

 

「いや~、普通の反応をしてくれる人が居て助かったよ~。

 キミの所の副代表とか完全に無反応だったもん」

「……うちの副代表は本当に人間なんだろうか?」

「……さぁ?」

 

 人間じゃなかったらそれはそれで一体何者なんだという話になるが……いくら考えても結論が出る訳が無いので置いておこう。

 それより今は……

 

「吉井の奴は居るか?」

「吉井くん? 確か出かけてなかったと思うけど、どうかしたの?」

「奴にお客さんだ。ほれ」

「はいです! バカなお兄ちゃんは居ますか!」

「……キミ、この手がかりだけで吉井くんだって当たりを付けたの?」

「いや、『すっごくバカなお兄ちゃん』と言われてな。

 とりあえず確認だけしてみようかなと」

「……何でだろう、当たってる気がするよ。

 とにかく呼んでみよっか。吉井く~ん!」

 

 工藤さんが呼びかけて少し待つと奥の方から吉井がやってきた。

 お目当ての人物だったら良いんだが。

 

「どうしたの工藤さん」

「キミにお客さんだよ。この子に見覚えある?」

「え? う~~~~~~~ん………………

 特に見覚えは無いよ。小学生の友達なんて居ないし」

 

 アレ? 当てが外れたか。

 そうなるとできる事は無いか。コレ以上のバカをオレは知らない。

 ……と思っていたが、葉月ちゃんの方は違ったようだ。

 

「えっ、そんな……見覚えが無いなんてヒドいです!」

「……だそうだが吉井?」

「いや、そんな事言われても本当に見覚えが……」

「バカなお兄ちゃんのバカぁ!! バカなお兄ちゃんに会いたくて、葉月、一生懸命『バカなお兄ちゃんはどこですか?』って聞いて回ってたのに!!」

 

 ゲシュタルト崩壊しそうだな。一体何回バカって言ったんだ?

 

「よ、吉井くん、女の子を泣かせちゃダメだよ。

 この子はキミの事を知ってるみたいだけど、何か分からないの?」

「そう言われても……むしろ僕の方が泣きそうなんだけど」

「バカなお兄ちゃん、葉月と結婚の約束までしたのに!!」

 

 そんな発言を聞いて『ん?』と思うのと、どこからか湧いてきた2つの人影が吉井を挟んだのはほぼ同時だった。

 

「瑞希っ!」

「美波ちゃんっ!」

「「殺るわよ!!」」

「げふぁっ!!」

 

 突然現れた2人はうちのクラスの女子2名は何かこう吉井を痛めつけているようだ。

 小学生と結婚しようとする犯罪者への対応としてはそこそこ妥当な気もするが……オレの感覚では小学生の方が妄言を吐いてるだけな気がする。

 

「ちょ、ちょっと2人とも!? どこから現れたの!?」

「瑞希っ! そのまま首を真後ろに捻って! ウチは膝を逆方向に曲げるっ!」

「わっ、分かりました!」

「おいおい待て待て分かるな! ちょっとは落ち着け!」

「そ、そうだよっ! 僕も結婚の約束なんてした覚えは……」

「ふぇぇぇん! ヒドいです! ファーストキスもあげたのにっ!!」

「伊織、包丁を1ダース持ってきて! それだけあれば足りるはずだから!」

「いや持ってこねぇよ!? どうしたお前ら!!」

「吉井くん、悪いことをするのはこのお口ですか?」

「ひびゅ、ひょっひょひゃっへ(ちょっと待って)! ほへはいははらははひをひひへ(お願いだから話を聞いて)!!」

 

 いかん、放置したら吉井を殺しかねない。

 しかし、こんな恐ろしい状態の2人を相手に割って入る勇気はオレには無い。

 当然だが工藤さんにも無い。2人をまとめて一喝できる奴が居れば良いんだが、そんな奴が居たらとっくに出てきてくれてるだろう。

 

 万事休すか。

 そう思ったその時、開けっ放しだった扉から凄い勢いで何者かが入ってきた。

 そして吉井を遠くに蹴り飛ばし、島田さんの襟首を掴んで姫路さんに投げつけ、更に2人に対して首トンを仕掛けて仲良く気絶させた。

 

「……このバカ供が。何があったかは知らんが僕に無駄な力を使わせるんじゃない」

 

 無駄にカッコよく入ってきて一瞬で騒ぎを収めたのは……言うまでもなく、我らが副代表だった。






「この時の宮霧伊織はまだ知らなかった。
 後で振り返ってみると実は工藤が一番の常識人だったという事に……」

「冗談抜きでそう言えちゃうっていうのがね……」

「……さて、今回の話の解説に移ろう。
 原作でもあった葉月ちゃん初登場イベントだ。まぁ正確には過去編の方が早いが」

「発売されている単行本の順番では初ね」

「そうだな。原作では雄二が、リメイク前では僕が連れてきたが、今回は伊織に任せた。
 理由は2つ。まず1つは常識人枠でかつ仲裁には力不足なキャラの視点が欲しかった」

「……自称ただの凡人にアレを止めるのは無理があるわね。
 ついでに、光さんと坂本くんも席を外してるから厳しいわね」

「そしてもう1つは……アレだ」

「アレね。ヒロイン関係の」

「初期条件はそんな感じにいじって順当に進めてみた。
 途中で工藤が出てきたりしたが……とりあえず誰でも良いから接客してる女子を出しておきたかったようだ。
 折角のメイド喫茶だからな。伊織の雑談相手としても上手く嵌ってくれたようだ」

「……そう言えば優子さんはまだメイド服姿で出てないわね。他は大体出たはずだけど」

「あいつの出番は後半だな。
 さて、葉月ちゃん登場イベントを順当に進めるとうちのクラスの女子コンビが暴走する。
 明らかにFクラスの連中に悪い影響を受けているな。親御さんはサッサと転校させた方が良い」

「引き止めようとしてるキミが言う台詞ではないよね。断じて」

「本編と後書きでは立ち位置は違うからな。
 この辺からこの2人による明久への暴力描写が増え、それが2人がアンチされる流行が出来上がるのに繋がるわけだが……うちの筆者はあえて原作通りの流れにしたようだ」

「悪い所だけを否定しちゃったらもうそのキャラじゃ無くなっちゃうもんね」

「いや、もっと勝手な理由だ。
 ここで2人に対する僕の好感度を下げておかないと明久の女子攻略ルートがこの2人のどちらかにほぼ固定になる」

「またギャルゲーみたいな事言い出した!」

「僕の性格が『鬱陶しい駆け引きなんて面倒だ。付き合うならサッサと付き合っちまえ』という感じなので原作のように1年近く引っ張るような展開にはまずならない。
 だからここで僕の好感度を下げておかないと別のヒロインが介入する余裕も無く固定化される」

「……吉井くんと付き合う人がキミの好感度で変わってくるって、何だか凄まじい状況ね……」

「僕みたいな異物が介入しないとあの2人から外れないってだけの話だ。
 仮にも原作メインヒロインとサブヒロイン。好感度はお互いに結構高い状態からのスタートだからな。
 ……ちなみにだが、うちの筆者はツイッターで『まるでギャルゲーの攻略チャートを立てている気分だ』とかつぶやきながら本作の構想を練っていたようだ。
 今なら本作を題材にしたギャルゲーっぽいものが本当に作れるかもな」

「作る気は……無さそうね」

「当然だな」


「では、次回もお楽しみに!」
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